最後の切符
この後長編も書くのでそれの繋ぎとして見ていってくれると嬉しいです!
終電を逃した夜だった。
駅のホームには誰もいない。風だけが古い時刻表を揺らしていた。
「まだ一本だけ、ありますよ」
振り向くと、駅員らしき老人が立っていた。しかし、その制服は今では見かけないほど古い型だった。
「どこ行きですか?」
「行き先は、乗る人によって変わります」
妙なことを言う人だと思ったが、次の瞬間、暗闇の向こうから一両だけの電車が音もなく滑り込んできた。
車内には十人ほどの乗客がいた。皆、静かに窓の外を見ている。
発車すると、窓の景色は街ではなくなった。
小学校の校庭。
初めて自転車に乗れた夕方。
祖母と歩いた商店街。
もう会えない友人と笑い合った夏祭り。
どれも、自分の記憶だった。
「これは……」
隣に座る少女が微笑んだ。
「後悔って、置いていけるんだよ」
彼女の姿はどこか懐かしかった。
思い出した。
小学生の頃、病気で亡くなった幼なじみだ。
「君だったのか」
少女は小さくうなずいた。
「前に進めない人だけが、この電車に乗るの」
電車はゆっくりと最後の駅へ滑り込む。
ホームには朝焼けが広がっていた。
「ここで降りると、過去は持っていけない。でも未来は持っていける」
少女は手を振った。
「ありがとう」
その言葉を最後に、ドアが閉まる。
気がつくと、私はいつもの駅のベンチで目を覚ましていた。
始発電車がホームへ入ってくる。
ポケットには見覚えのない古びた切符が一枚だけ残っていた。
裏には小さく、こう書かれていた。
「過去は帰る場所ではない。未来へ向かうための駅である。」
私はその切符を空へかざし、朝日に透かしてから、静かに歩き始めた。




