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『翡翠の勾玉が繋ぐもう一つの歴史』 〜65歳考古学者おばちゃんの古代倭国セカンドライフ〜  作者: カジキカジキ


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7/19

6日目 〜まだまだ、先は長そうね〜

 朝日が射しても、若葉はまだ頼りない。


 手にした勾玉は、昨日の熱を芯に纏ったまま静かに脈打っている。

 

 周囲の村との問題だけではない。


 この時代、ちょっとした気候の変化でも作物に影響がでて村は苦しむ。


 それがこの土地の日常だ。


 今日も田んぼまで見て回るけれど、畔もぬかるんで足を取られる。


 小さな虫がブンブン飛び、汗が目に入る。


 水位を調整し、土を柔らかくして雑草を抜いたおかげで、苗は……なんとか生き延びている。


 それだけでも、少しだけ希望が持てる。


 一緒に歩いてるオオミさんが、田の様子を見て静かに呟いた。


「去年は半分枯れた。子が二人、飢えて死んだ」


 その言葉に、感情より事実が重く響く。


 魏志倭人伝には「魚鳥を食す」とあるけれど、田が全滅したら木の実、根、腐った魚、虫まで煮て凌ぐしかない。


 それがここでの現実。


 私が提案した排水路は、土が崩れやすくまだ不安定だ。


「ここを深くして水を逃がす」とジェスチャーで伝えても、若い子が少し怯えた目で「……神女の呪い?」と呟く。


 技術を伝える前に、まず「信じてもらう事」が必要だと痛感する。


 雑草を抜く若い子たちの手は荒れ、爪の間は黒く、血がにじんでいる。


 稲の成長の具合から、今は5月の後半か6月くらいかしら? この後、梅雨がきて夏の日照り、台風と心配事はたくさんある。

 

「みんな、本当に頑張ってくれてる。あとは天候が味方してくれることを祈るしかないわね」


 粟畑の方は、連作の悪さをなんとなく知っているのか、適度に休耕地を空けている。


 でもその空き地は農法のためだけじゃなく、「敵が来たら守りやすくするため」の余白かもしれない。


 環濠の堀が多い理由を、改めて思い知らされる。


 鉄器の改良や、糞尿を使った堆肥の提案はまだ早い。


 外から来た私が口を出すと、すぐに反発されるか穢れ扱いされるか。


 根気強く、信頼を積み重ねるしかない。


 夕方、ミナちゃんが私を迎えにきた。


 平床の建物が立つ広場には、村の住人全員と思われる人数が集まっていた。


 あちこちで松明が焚かれ、煙が目に染みる。


 豊作祈願の宴……でも皆の顔色は、去年の不作で亡くなった人への祈りと、いつ敵が来るかわからない不安で、どこか重くのしかかっている。


 皆の服は汗と泥で汚れ、獣の脂の匂いがする。


 誰もそれを気にしない。


 気にする余裕がないから。


 オクトさんとオオミさんが、私を平床の建物へと案内する。


 私は勾玉を胸に当てて、ゆっくり言う。


「私は皆と同じだよ。神様でもなんでもない。同じ地面に座って、同じものを食べる。それでいいかな?」


 静かに頷く顔々。


 その奥に、少しだけ温かさが戻ってきた気がした。


 食事は手づかみ。


 泥だらけの指で粟の粥と干し魚を掬う。


 埃も虫もそのまま。


 気にするより食べられる事の方が重要だから、一粒の粟でも無駄にできないから。


 分かっているけれど……私は、どうしても我慢できなくなって手洗いをやってみせた。

 

 灰と川の水で手を擦って見せる。


「これで手を洗うと、病気が減るかもしれないよ」


 オクトさんは少し渋い顔をしたけど、ミナは楽しそうに真似してくれた。


 小さな一歩だけど、毎日続けていけばいつか定着するかもしれない。


 木のスプーンも作ってみせた。


 みんな興味津々で触るけど、慣れなくてこぼす。


「神女の道具?」と少し怖がる子もいたけど、笑い声も起きて少しだけ空気が和んだ。


 その後、踊りが始まった。


 オクトさんや大人たちが、低い声で歌い始める。


 古代語の旋律が、火の揺らめきに溶け込む。


 他の人たちは疲れた体でよろけながらも手をつなぎ、足を踏み鳴らす。


 笑顔の裏に、去年の悲しみと未来への不安がちらつく。


 ミナちゃんに手を引かれて、私も踊りに参加する。


 この瞬間だけは皆んなで一緒にいられる。


 私の知識は、まだほんの少ししか出せていない。


 でも、焦らず、少しずつ。


 皆を飢えや争いから守りたいという気持ちだけは、変わらない。


 神様が許してくれるかどうかなんてわからないけど……。


 せめて、私自身が諦めなければいいわよね。



 村人との関係は、少しずつ信頼を深めながら。

 生きるの厳しさも教えられます。


 次回は、オクトさんに連れて行かれた先で見たのは?


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