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『翡翠の勾玉が繋ぐもう一つの歴史』 〜65歳考古学者おばちゃんの古代倭国セカンドライフ〜  作者: カジキカジキ


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6/7

5日目 〜あらあら、大人たちが本気で私を「神女」認定しちゃったみたい〜

 朝の陽射しが少し強くなり、草の匂いが濃くなった頃。


 私はいつものように勾玉を握って目を覚ました。


 今日は温かさが少し違う。


 まるで「今日は大事な日よ」と、静かに警告しているみたい。


 周りを見ると、空気がピリッとしている。


 ミナちゃんやオオミさんが、私の近くでそわそわしている。


 そして、集落の入り口から、重い足音が近づいてきた。


 出てきたのは、若い男の子たちじゃなかった。


 体格のいい、見た目は30〜40代くらいの大人たち。5、6人。


 みんな麻布の服の上に、銅の腕輪や首飾りをたくさんつけ、腰には青銅の短剣を下げている。


 明らかに「ただの農民」じゃない。


 ……首長クラス? それとも戦士? 魏志倭人伝で言う「大人たいじん」って人たちかしら。


 でも、あの史料は中国側の視点で方角も距離もグチャグチャだし、信用しすぎるのもどうかと思うけど……。


 彼らが私の前に立つと、集落の人たちが一斉に膝をついた。


 オオミさんもミナちゃんも。


 私だけ、ぽつんと立っている。


 リーダーっぽい一番背の高い男の人が、ゆっくり前に出てきた。


 髭が濃く、目が鋭い。


 でも、どこか緊張している。


 低く、抑揚の強い声で何か言った。


 言葉はわからないけど、「かみめ……」という響きが混じっている。


 みんなが私を指差して頷く。


 私はゆっくり息を吐いて、笑顔を作った。


「あらあら、みんなおはよう。

 ……今日は、なんだか大事な話があるみたいね?」


 もちろん通じない。


 でも、ジェスチャーでなんとかなるはず。


 私は胸を叩いて「ひみこ」。


 そして勾玉を掲げて、みんなに微笑む。


 リーダーの男の人が、目を細めて私の勾玉を見つめた。


 そして、ゆっくり自分の胸の大きな勾玉(でも私のより小さい)を外して、地面に置いた。


 他の男の人たちも、次々に同じことをする。


 ……これは、敬意の表しかた? それとも、同盟の印?


 男の人たちが地面に膝をつき、額を土に近づけた。


 周りの若い子たちや女性たちが息を飲む。


 ミナちゃんが涙目で私を見上げる。


 私は思わずため息。


「もう……そんなに畏まらなくてもいいのに。私はただのおばちゃんなのに」でも、わかってる。


 この人たちは、この集落の「大人」たち。


 普段は争いや交易、守りを決めてる人たち。


 そんな彼らが、私に頭を下げてるってことは……「神女」として、ある程度認められたってことね。


 ただ、本物の階級序列がバッチリあるかはわからないわ。


 この時代の纒向は、まだ不安定な広域ネットワークの始まり段階。


 北部九州みたいに大陸直輸入品がジャンジャン来てるわけじゃないし、首長連合の均衡は、いつ崩れてもおかしくない。


 私はゆっくりしゃがんで、リーダーの男の人の肩に手を置いた。


 彼がびくっと震える。


 私は優しく首を振って、立ち上がらせた。


 そして、みんなに向かって両手を広げた。


「みんな、ありがとう。でもね、私は神様じゃないの。

 未来から来た、ただの土いじり好きのおばさんよ。

 みんなの暮らしを、少しでも良くしたいだけ」


 言葉は通じないけど、トーンと笑顔で伝える。


 リーダーの男の人がゆっくり立ち上がり、私の勾玉を指差した。


 自分の首飾りを指差して、「これ……同じ……?」みたいなジェスチャー。


 私は頷いて、勾玉を掲げて朝陽にかざした。


 翡翠がキラキラ輝く。


 男の人の目が、驚きと少しの畏怖で大きく見開かれた。


 その瞬間、掌の勾玉が……今までで一番強く温かくなった。


 まるで「ここからが本番よ」と、静かに囁いているみたい。


 私はみんなを見回して、大きく息を吸った。


「さて……これからどうしましょうかね」


 大人たちが、私を囲むように近づいてきた。


 今度は怖がってるんじゃなくて、期待と警戒の混じった目で見てる。


 私は、昨日までに見て回ったこの辺りの地図を地面に描いた。


 翡翠の勾玉を胸に押し当てながら、ゆっくり息を吐く。


 オクトさん(リーダー格の男性)をはじめとする「大人」たちが、私を取り囲むように座っている。


 今後の為にも、この集落と周辺の関係を教えてもらうのよ。


「さて……ここが、この集落ね」


 私は地図の真ん中の丸を指差す。


 みんなが頷く。


 次に、私は両手を広げてゆっくり円を描くように外側へ。


「ここから、外のムラ……他のクニやむらは?」


 オクトさんが、深く息を吸った。


 彼はゆっくり立ち上がり、私の描いた地図の外側に棒でいくつかの丸を付け始めた。


 まず、近場に3つ。


 指を2本立てて「2」、そして両手を開いて「10」……いや、もっとか。


 両手を3回開いて、指を折る。


 交易相手の集落――おそらく吉備系や伊勢系、東海系の土器が出土するような、広域交流ネットワークに繋がる近隣の首長制集落たち。


「ここは……安心? 友だち?」


 私は両手を握り合わせて「同盟」のジェスチャー。


 オクトさんが頷き、笑みを浮かべる。


 でも、その笑みは少し固い。


 不安定な均衡の上に成り立ってるからね。


 次に、彼は地図の北東の方角、かなり離れた場所に大きくて深い丸を一つ。


 両手を大きく広げて「大勢」、そして首を横に振って「危ない」。


 さらに、棒でその丸の周りに×印をいくつも付ける。


 対立可能性の高い集落……もしくは敵対勢力の領域。


 弥生後期終末の環濠集落や高地性集落の解体期に、頻発したクニグニ間の争いの痕跡を、まるで今ここで語っているよう。


「ここは……戦争? 鉄の武器?」


 私は地面に剣の形を描いてみる。


 オクトさんの目が鋭くなる。


 頷き、そして自分の胸の勾玉を指差して、私の勾玉を指差す。


「同じ……でも、違う」


 みたいなジェスチャー。


 地域間交易は盛んだが、青銅器・鉄器を巡る緊張は常に隣り合わせ――そんな首長連合の不安定な均衡が、痛いほど伝わってくる。


 私は静かに立ち上がり、みんなを見回した。


「ありがとう、オクトさん。みんな」


 言葉は通じない。


 でも、勾玉が……今までで最も熱く、強く脈打っている。


 まるで、「おばちゃん、やれる?」と聞いてるみたい。

 

 私はゆっくり深呼吸して、地面に新しい丸をいくつも描き足した。


「じゃあ……これから、みんなでこの丸を、もっと優しく繋げていきましょう。

 ただ、歴史はそう簡単に変わらないわ。

 魏志倭人伝の記述も穴だらけだし、この集落が本当に『邪馬台国』かは、まだわからないもの」


 オクトさんが、厳しい顔のまま私の肩に手を置いた。


 他の大人たちが次々に膝をついて、額を土につける。


 下戸が大人に道を譲るように、今度は大人たちが、私という「未来の証人」に、頭を垂れる。


 ……でも、これはあくまでこの集落の中での話。


 広域でどうなるかは、まだわからない。


 65歳のおばちゃんが、倭国の首長連合の一角に立った瞬間。


 地図の丸は、まだ粗末で、線も歪んでいる。


 でも、その一つ一つに、交易路、和解の可能性、優しい歴史の改変が宿っている……かもしれない。


 勾玉の熱は、もう止まらない。


 これから始まるのは、弥生終末期の広域ネットワークを少しだけ温かく再構築する旅。


 心臓が、歴史が、震えている。


 ……ああ、もう涙が止まらないわ。


 この現場は40年ぶりの、本物の「フィールドワーク」どころじゃない。


 これは、もう一つの歴史を、私の手で優しく、でも現実的に変えていくかもしれない瞬間なんだから。



 大人達とも通じ合い、村の周辺の情報収集を始めたおばちゃんですが?


 次回は、異文化交流……難しいですよね。

 


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