4日目 〜勾玉が囁くのよ……「まだ終わらないわ」って〜
朝の陽射しが集落の屋根を優しく照らす頃。
私はいつものように、掌の翡翠勾玉を眺めながら目を覚ました。
もう4日目になるのに、この緑の輝きは毎日少しずつ変わっている気がする。
昨日までは温かくなるだけだったけど、今日は……微かに、脈打っている。
「あらあら、まるで生きてるみたいじゃない」
周りを見ると、オオミさんやミナちゃん、タケくんたち若い子たちが、私の周りに輪になって座っていた。
みんな、期待の目で私を見つめている。
2日目のおばちゃんの稲ちゃん大作戦が上手くいったみたいで、朝から「神女様、次は何を教えてくださるのですか!」みたいな雰囲気よ。
私は勾玉を胸に当てて、深呼吸した。
「今日はね、みんなに大事なことを教えてあげるわ。この勾玉の……少しだけ、秘密を」
言葉は通じないけど、私はゆっくり勾玉を掲げて、みんなに見せた。
すると――
勾玉が、急に柔らかい光を放ち始めた。
若い子たちが一斉に息を飲む。
私もびっくりしたけど、掌の中で勾玉が震えて、頭の中に、優しくてどこか寂しげな女の人の声が響いた。
(……よくここまで来たわね。おばちゃん)
……え?
声は続く。
(私は、この土地を守ってきた者。卑弥呼の時代から続く、巫女の記憶の一部よ。
勾玉は、私たちの意志を繋ぐもの。あなたが握った瞬間、時が少しだけ重なったの)
「卑弥呼……?」
心臓がドキッとする。
魏志倭人伝の、あの神秘の女王。
鬼道で衆をまとめ、魏に使者を送った女性。
翡翠勾玉は、祭祀の象徴。
首飾りとして有力者が身につけ、神聖なものだったはず。
声は穏やかに続いた。
(未来から来たあなたは、知ってるわね。
この土地は、これから大きく変わる。
でも、知恵がなければ争いが続くだけ。あなたが教えてる稲作、暮らしの工夫……それが、みんなを強くする鍵よ)
私は思わず笑っちゃった。
「あらあら、じゃあ私、古代のコンサルタントに任命されたってこと? 65歳のおばちゃんが、邪馬台国の未来を手伝うなんて……人生、最後にこんな大仕事が待ってるなんて、笑えるわね」
勾玉の光が、優しく包むように。
(ありがとう。おばちゃんみたいな人が、欲しかったの)
光が収まって、勾玉はまた静かに輝くだけになった。
周りのみんなが、私を囲んで興奮している。
オオミさんが私の手を取って、何か熱く語りかけてくる。
(多分「神女様! もっと教えてください!」って感じ)
ミナちゃんは目を輝かせて、勾玉を交互に見つめている。
私はくすりと笑って、立ち上がった。
「さあ皆んな、今日は水回りの確認をして歩きましょうか! この村は何処から水を引いているのかしら? あと、池で蓮が見付けられれば嬉しいのだけれど」
私が水瓶を指さして首を傾げると、オオミさんが直ぐに理解して山の方を指差す。
「やっぱり山なのね」
けれども、直ぐに首を左右に振って「ダメ、行けない」と言うジェスチャー。
「行けないの? どうして?」
オオミさんがジェスチャーを使って一生懸命に教えてくれた内容だと……。
いつも水汲みをする水場までは、村の女達でも行けるけど、水源になる山には男でなければ行けないそうだ。
男の子達もいるけれど? と指さしてみるとフルフルと首を振るので違う男達だと言う事なのでしょう。
取り敢えず水汲みをする場所と、池があれば見せて欲しいとお願いして連れて行ってもらった。
不思議ね、纒向遺跡の灌漑と言えば農耕用と言うより物流、儀式用のものだとばかり言われていたけれど。
小規模だけど、これは田畑に水を運ぶための灌漑よね。
これもまた違う歴史だわ。
灌漑を辿っていくと、一本の川にたどり着いた。
河原に下りる足場が出来ており、常々人々が利用している事が窺える。
「ここでいつも水を汲んでいるのね?」
オオミさんが頷いて、若い男の子達が水瓶を持って水辺へ降りてゆく。
せっかくここまで来たのだから、ついでに水も汲んで帰ろうと言う事かしら。
向きとしては北へ進んだから、烏田川の可能性が高いわね。纒向遺跡の中心とは離れているけれど、利用されていなかった訳ではない。
人工の灌漑設備が目立ってたせいで見逃されていた歴史の一つ。
40年、発掘と歴史に費やしてきたけれど見えていない部分がまだまだ多いようね。
65歳のおばちゃんは、古代の陽射しの中で確かな使命を感じていた。
勾玉からいきなり使命を言い渡されたおばちゃん。
さあ、今度は何をしましょうか?
次回、村の男達が手に武器を持って現れました。
おばちゃん大丈夫かな?!




