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『翡翠の勾玉が繋ぐもう一つの歴史』 〜65歳考古学者おばちゃんの古代倭国セカンドライフ〜  作者: カジキカジキ


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480日目 〜金色の野に降り立つ〜

 盛夏も過ぎ、穏やかな秋の気配が漂い始めた頃。


 田んぼの稲は黄金色の穂をたっぷり垂らし、今年は豊作だと村中が笑顔でざわついている。


 「あらあら、みんな楽しそうに何してるの?」


 共同調理場の前に集まったオオミさんや他の女性たちに声をかけると、「神女、今年はお腹を空かせずに冬を越せそうよ」と明るい声が返ってきた。


 男たちが頑張ってくれたおかげで、肉の干物もたっぷり。


 手洗いが定着し、乾燥と塩漬けをしっかりするようになって、腐る率もぐっと減った。


 柵の中では鳥のつがいがのんびり歩き、子どもたちがミミズを見つけては餌に放り込んでいる。


 このまま台風さえ来なければ、村始まって以来の豊作になるかもしれない。


 ……それって、フラグ?


 そんな軽口を思うのは私だけだろう。


 村の人たちは自然の脅威を嫌というほど知っている。


 台風が来たら仕方ない、と諦めも早い。


 でも、ここまで来たんだもの。


 黄金に実った田んぼを、みんなで眺めたい。


 金色の野に降り立ってもいいじゃない! この村の最年長は私だけど(精神年齢は若いつもりよ)、他のオババたちも同じ気持ちのはず。


 そう! この豊作に先駆けて、作ってもらったものがあるの。


 竹を細く割って櫛のように並べた脱穀具。


 稲穂を簡単に扱き落とせる農具と、風で籾とゴミを分ける吹子ふいご


 最後に木臼で籾摺り。


 これで、みんなの手間がだいぶ楽になるはず。


 本番はこれからだけど、農具を作ってくれた隣村のオミトさんは本当に器用で、何でも形にできるすごい人だった。


「神女の説明が分かりやすいから」と言ってくれるけれど、それでも実際に作れるって凄いわよ! と褒めたら、「俺たちもやる」と若い子たちが手伝い始めた。


 こうやって技術者が増えていくと、どんどん新しい便利なものが生まれるのよね。


 おばちゃん、若い子たちの進歩が楽しみだわ。


 ・

 ・

 ・


 そして夜。


 村の平床の建物に立ち寄り、オオミさんに声をかける。


「具合どう?」


「今も寝てるけど、今日は朝に少し目を開けて水を飲んだきり起きていないわ」


 もう一人のオババが、寝たきりになって久しい。


 怪我でも病気でもなく、ただ老衰。


 現代でも、100歳を超えた人が2日に一度だけ起きるなんて聞くけれど、まさにそれ。


「……」


「ん? オババ? 何か言った?」


 わずかに反応したオババが、ゆっくりと、微かな声でつぶやき始めた。


「かみ……め、来てくれて、ありがとね。

 田があんなにキラキラして、みんな笑顔で笑うておる」


「最後に、こんな幸せな姿を見せてくれて、ありがとう」


 そこまで言うと、また静かに眠りに落ちた。


 そして二日後、息を引き取った。


 オオミさんやオクトさんに聞くと、病気や飢えではなく、完全に老衰で亡くなった年寄りは、これが初めてではないかという。


 去年亡くなったオババは、冬の備蓄が少なくなったとき「儂より子供たちへ食わせてあげな」と言って、最後まで何も食べなかった。


 今年は違う。


 子どもも年寄りも、お腹を空かせることなく冬を越して、暖かい春を迎えられるように。


 不必要な争いも無くしたい。


 おばちゃんの勝手な願いだけど、この村をそう導いていきたい。


「見ててねオババ」私の想いを心の中で誓った。

 見事に育った稲……それを見て満足そうにオババ様が亡くなりました。


 次回は、いよいよ稲の収穫です。

 


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