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『翡翠の勾玉が繋ぐもう一つの歴史』 〜65歳考古学者おばちゃんの古代倭国セカンドライフ〜  作者: カジキカジキ


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366日目 〜力仕事は〜

 ザッ、ザッ……ドザッ。


 冷たい川水が足首を優しく、でも容赦なく締めつけてくる。


 春の陽射しが水面を細かく砕いてキラキラと跳ね、まるで無数の小さな銀貨が舞っているみたい。


「ふぅー……」


 私は深く息を吐いて、額の汗を拭う。


 ようやく温かくなってきた川だけど、まだ雪解けの冷たさが底の方に残っている。


 足の指先が少し痺れるくらい。


 田んぼの方を見上げると、鮮やかな新緑の稲が風にそよぎ、遠くから子供たちの笑い声と「ここに虫がー!」という元気な叫びが混じって届いてくる。


 皆が草取りに夢中だ。


 稲が順調に成長する為に雑草は邪魔になるので、子供達に出来るお手伝いとして皆が頑張っている。


 成長を見守る喜びが、村全体に満ちている。


 私は竹で編んだ粗い籠を手に、再び川底の砂をすくう。


 ザザッと水に沈めて、軽く揺らす。


 泥と砂利が舞い上がり、透明な流れに茶色く濁って下流へ消えていく。


 次に、細く割った竹を等間隔に並べて作った簡易イカダ――いわば手作り溜めに、掬った砂をザザッーっと流す。


 水が勢いよく竹の隙間を抜け、軽い砂や小石はさらさらと流れ落ち、重い黒い粒だけが竹の表面に残る。


 砂鉄だ。


 陽の光を浴びて、鈍く金属的な光沢を放つ黒い砂。


 時々、針の先ほどのきらりとした金色の点が混じっている。


 ごくごく稀に、だけど。


 この辺り、古い時代に金の採掘跡があったのかしら……? そんなことを考えながら、指先でそっとつまんでみる。


 冷たい水滴がぽたりと落ち、掌の上で小さな金粒が太陽を反射して瞬く。


「神女、取ってきたよ」


 サキくんの声に振り返ると、彼が両手でいっぱいの濡れた砂を抱えて立っている。


 頰が少し赤くて、額に汗が光っている。


 いつものタケくんじゃなくて今日はサキくん。


 タケくんはオクトさんと一緒に高床式倉庫の柱立てに夢中らしい。


「ありがとう。じゃあまた少しずつ流していきましょう」


 私は笑って籠を受け取り、一緒にイカダへ砂を移す。


 ザザザッと流れる音が心地いいリズムを刻む。


 竹の表面に積もっていく黒い砂鉄は、乾くとまるで夜空の星屑みたいにきらめく。


 金粒はさらに小さく、でも確実に輝いている。


 風が川面を撫でて、湿った土と青い草の匂い、そしてほのかに鉄の錆のような匂いが混じってくる。


 遠くの田んぼから、カエルの合唱が跳ねて聞こえてくる。


 江戸時代頃には「鉄穴流し」って大規模な砂鉄採集をやってた地域もあったらしいけど、私たちには今、この川で竹と手と根気で少しずつ集めるしかない。


 でも――それが、なんだかとても幸せに感じる。


 休憩の時にサキくんに「どうして手伝ってくれるの?」と聞いたら。「前に神女が鉄を打っている姿を見て、かっこいいと思ったから……」ですって!


(まぁまぁ、彦助さん! 私、カッコ良かったかしら?)


 サキくんがじっと見つめてくる視線に、ふと照れが込み上げる。


 あの鉄を熱して叩いた日のこと、覚えててくれたんだ……。


 あの時は村を守る為に必死だったけれど、出来ればこの砂鉄は農具や鍛冶の為に使いたい。


 けれど、この先の事はまだまだ分からない、隣村とは仲良くなれたけれど、まだ気を抜けない関係の村も沢山ある。


 牽制のための焼き物と最低限の準備をして、それからやっと生活の為の準備に取り掛かれる。


 それまでにどれだけ砂鉄を集めないといけないのか、ちょっと気が遠うなるけれど。


 おばちゃん、まだまだ頑張るわよ。



 


 おばちゃんが始めていたのは砂鉄集めでした。これが農具になれば畑仕事が捗るのでしょうけれど。


 次回は、砂鉄から遂にアレを作ります。

 

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