262日目 〜思い、希望〜
キラキラ光る水辺は、ゆっくりと春の到来を告げている。
私は、オクトさんやオオミさん、他の大人の人たちに集まって貰ったの。
「皆さん、集まってくれてありがとう」
皆の顔はハッキリと分かるくらい疲労している。
私も、さっきからお腹がぐーぐー鳴っている。
冬は開けたといえ、まだ食料が増えたわけではない。
かろうじて芽を出した野草や、野に出てきた小動物を捕まえて凌いでいる。
毎日、食料を確保するのに大人たちは朝から晩まで山や野を探し回って疲れ果てている。
今年は、田んぼの改良と村で育てる作物を増やす。
冬に備えた高床式倉庫の増設もしたい。
もうイヤになっちゃうくらい、何もかもが足りない。
やりたい事は沢山あるのに……お腹が空いているので動けない。
「神女……」
あっ、ごめんなさい。
皆が、私が話し始めるのを待っていた。
「あなた達も、お腹が空いているのに一日中食べ物を探し回ってくれてありがとう。もう少しで春の植物もたくさん芽を出すし、動物や魚も動きだすと思うから。もうちょっとだけ、頑張ってね」
皆も疲れてはいるけれど、その事は分かっているようで少し明るい笑顔で頷いてくれる。
「それから、今年この村で進めたい事を考えたから、皆にも私のやりたい事を知っておいて欲しいの」
私は深呼吸して、皆の顔を見回した。
疲れた瞳の中に、わずかだけど期待の光が宿っているのがわかる。
「まず、一番大事なのは『食料を増やす』こと。
でも、ただ山や野を歩き回るだけじゃもう限界が来てるわよね。
だから……田んぼを、もっと本格的に復活させたいの。
今はまだ小さな田んぼだけど、春になったら壊れた水路を治して。
去年作った肥料を入れて耕すの。
種籾も選別しているから、きっと去年よりたくさん実るはずよ」
オクトさんがゆっくり頷いた。
「神女の言う通りだ。だが、水路を直すにも人手が……」
そうね、動ける大人は少ない。女性や子供も総出での仕事になるでしょう。
「そこは、秋にお腹いっぱいご飯が食べられると信じて、頑張りましょう」
そう言うと、皆も少し明るい笑顔になってくれた。
「それと一緒に、村の一部に『囲い』を作って、ウサギや小動物を飼って増やすの。
捕まえて食べるのでは無くて、守って育てるのよ」
今、この村に家畜動物は居ない。
以前は犬がいたそうだが、2年前の食料不足で……
確か豚や鶏も朝鮮半島から入ってきている筈だけど、まだこの辺りまでは届いていないようね。
「それとね、皆で力を合わせて『高床式倉庫』を今年中に最低でも二棟建てたい。
冬の備蓄が命取りになるって、去年も痛感したでしょ?
倉庫が増えれば、夏から秋にかけて採れるものをもっと長く保存できる。それに……」
私は少し声を落とした。
「もし、よその人たちが来ても、飢えで争わなくていいように。分け合える余裕を作りたいの。
私たちは、もう一人ぼっちじゃない。
この村で生きていく人たちが、もっと増えてもいいんだって……思えるように」
静寂が広がった。
でも、それは重苦しいものじゃなくて、皆がそれぞれに胸の中で何かを噛み締めているような、そんな静けさだった。
オオミさんが、ぽつりと呟いた。
「……神女。
貴女がそう言うなら、私たちはもう一歩、踏ん張ってみます」
オクトさんがパッと顔を上げて続ける。
「であれば神女。隣村と一緒に一棟ずつ作るというのはどうだろうか? 隣村の人手も借りられるし、人が多い方が早く建てられる。
もし時間が空けば、こちらでもう一棟建てられるかもしれん」
オクトさんがとても素晴らしい提案をしてくれたの。私たちも田んぼの改良で隣村にも指導に行くから、村同士の繋がりが深まって良いわよね。
早速、オクトさんが隣村の大人の代表に提案しに行ってくれたわ。
答えは、もちろんオッケー!
隣村も冬の備蓄が尽きて危なかったとの事で、協力の申し出に涙を流して手を取ってくれたそうよ。
後から聞いたのだけれど、あの村も最年長のオババ様と赤子が二人も亡くなってしまっていて、今年はどうかと不安に思っていたみたい。
私の知識と技術で、今年は田んぼを改良して絶対に豊作にさせてみせるわよ!
秋のお祭りを2つの村合同で行うのもいいわね!
今年はとにかく大忙しになるわね。
皆の顔に、疲れの下から確かに小さな火が灯り始めた。
春は、もうすぐそこまで来ている。
私も、皆の笑顔を見られるように土いじり頑張っちゃうからね。
おばちゃんがやりたい事を皆で共有して、村を豊かにするために行動を始めます。隣村とも良い関係が築けそうです。
次回、皆の協力でいろんな事が進み始めます。
第二部スタート致しました。
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よろしくお願いします。




