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『翡翠の勾玉が繋ぐもう一つの歴史』 〜65歳考古学者おばちゃんの古代倭国セカンドライフ〜  作者: カジキカジキ


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〜オババ様〜

 その者、白き衣を纏いて枯れ果てた野に降り立つ。


 神女が最初にワシらの前に現れたのは、そんな姿じゃった。


 背格好はワシらに近く、じゃがふっくらとした体つきは腹を空かせたことのない者の証。


 大きな勾玉を胸に当て、話しかけてくる。


 その声に害意はなく、常に優しく語りかけてきた。


 オクトが許し、既にミナがべったりと寄り添い、オオミまで。


 ワシらは思う。


「神女ならば、龍の声が聞けるはずじゃ」と、龍の祠へ案内した。


 神女は勾玉を額に当て、祈った。


 突然、周囲の音が消え、耳が痛むほどの静寂が訪れた。


 ほんの一瞬の出来事じゃった。


 神女が顔を上げる、確かに龍様の声を聞いたようじゃ。


 夕刻から雨が降り始めた。


 皆が神女を讃える。


 じゃが、今度は雨が止まらなかった。


 良い雨は恵みじゃ。


 だが多すぎる雨は災いになる。


 せっかく芽を出した稲が流され、これ以上降れば山さえ崩れる。


 あの女は災いの元か!?


 そうかと思うと神女は田へ入り、自ら土を掘り始めた。


 溜まった水を外へ流すため、堀の土を掻き出す。


 若い男どもも手伝い始め、何とか水が引き始めた頃、雨が小降りになった。


 これで、どうにかなったのか?


 翌日、水浸しの稲は弱り、葉が黄色く萎れ、根が腐りかけていた。


「さらに水を引いて、灰を撒くのじゃ」ワシの言葉に、真っ先に動き出したのも神女じゃった。


 我を通さず、知る者の言葉に従う女。


 夕方までかけ、田を救った。


 まだ手は抜けぬが、この女が本気であることは伝わった。


 数日後、神女を鬼だと聞かされた隣村の男衆が村を襲い、怪我人が出た。


 大きな怪我、ましてや腹を刺されたとなると神に祈るか諦めるしか無い。


 それを、神女は奇妙な術で手当てを施し命を取り留めた。


 じゃが、行き過ぎた術は人々に訝しみを生む。


 それでも、神女は治療を続け男は元気になった。


 神女は他にも「ムクロジで手を洗え」「ハシを使え」と口うるさく言う。


 面倒じゃと思ったが、食事に砂が入らぬ。


 慣れれば、こちらの方が良いと気づく者も出た。


 ワシらも薄々分かっておる。


 土は恵みじゃが、混じる物が変われば害になる。


 体に入ってはならぬ物もある。


 手を洗う、ハシを使う。


 それは、害を口に入れぬ術じゃな。


 稲についても細かく指図するが、聞かぬ者もおる。


 じゃが、昨年より稲がしっかり育っておるのを見れば、やって良かったと思えてくる。


 秋、収穫間近に大風が来た。


 稲が倒れ、水に浸かれば食えぬ。


 ここでも神女が一番に田へ入り、稲を起こし始めた。


 完全に倒れたものは少し早いが穂を切り収穫した。


 村の者総出で当たったが、それでも守り切れぬ稲は少なくなかった。


 冬を迎え、食い繋いだ蓄えも底を尽くす。


 もうワシに思い残す事はない、次代の生に繋ぐとしようか。


「ワシの分は良い。子供らに回せ」


 何日も食べておらぬ。


 じゃが、空腹は感じぬ。


 感じるのは、この村の将来だけじゃ。


 神女が導いた豊穣と安定。


 村々を繋ぎ、子供らが笑顔で過ごせる世。


 ワシはその姿を見られぬまま逝く。


 じゃが、後から来るオババよ。


 その時に教えておくれ。


 この村が、笑顔でいっぱいになった姿を。



オババ様の願いは皆の笑顔。

次にオババが聞くのは、そんな幸せな村の話しだといいですね。

 

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