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『翡翠の勾玉が繋ぐもう一つの歴史』 〜65歳考古学者おばちゃんの古代倭国セカンドライフ〜  作者: カジキカジキ


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28/43

〜オクト〜

 オレはオクト、この村の首長を務める大人たいじんだ。


 今のオレはこの村の人々を守るために日々村を見回っている。


 昨年の凶作と寒さで子を亡くし、その後妻も後を追うように亡くしてしまった。


 今は仕事に集中する事で寂しさを紛らわし、他の大人達と周囲の警戒や、時には狩りに出たりして過ごしていた。


 2日前、村に神女が現れたと女衆の取りまとめ役のオオミから話があった。


 勝手に怪しい人物を村に入れるなと言っていたのだが「神女様に変な事をすれば神罰が下る!」とその不審な女をすっかり信じ込んでいた。


 ならばと、オレは数人の大人を連れて神女に会いに行く事にした。


 朝、寝床にしている平床の建物に行くと、見慣れない服を着た女がこちらを見て微笑む。まるでこちらの緊張を見抜いているようだ。


「あらあら、みんなおはよう。

 ……今日は、なんだか大事な話があるみたいね?」


 耳慣れない意味の分からない言葉を話す女。


 だが、その優しい目と雰囲気で、悪く言っていない事は伝わってくる。


 女が自分の胸に手を当てて「ひみこ」と言うと、手に持っていた勾玉を掲げて見せる。


 間違いなく我らが持つ誰のものよりも大きく傷もない翡翠の勾玉。


 その勾玉を見た瞬間に分かった……彼女は間違いなく神女だ。


 オレは首に下げた勾玉を外すと、地面に跪き、勾玉を置いた。


 そして頭を地面に付けるほど下げて祈る。


 他の大人や村人達もオレに習って膝を付いて頭を下げる。


 頭を下げていたので分からなかったが、神女が近寄ってきたのは分かった。


 オレの目の前に神女の影が立つ。


 そっと触れる神の手、顔を上げると優しく頷いてオレを立ち上がらせる。


 神女がオレの横に立ち、皆の方を向いて話す。

 

「みんな、ありがとう。でもね、私は神様じゃないの。

 未来から来た、ただの土いじり好きのおばさんよ。

 みんなの暮らしを、少しでも良くしたいだけ」


 何を言っているのか分からないが、その優しい声に自然と涙が出てきた。


 その後、神女が地面にこの周囲の絵を描き始めた。


 我々の村の範囲。交易のある村々、力のある村、気を付けなければならないクニ。


 神女は、この村の状況を知ろうとしてくれた。


 神女が描いた大きな絵(地図)を囲んで、俺たちは座っていた。


 村の輪郭、川の流れ、隣の交易の村、遠くの強いクニ……。


 彼女は細い棒で地面に線を引きながら、ゆっくりと話す。


 言葉は半分しか分からぬが、指の動きと優しい目で何を伝えたいのかは分かる。


 村と村を繋ぎ、縁を繋いで大きな輪にする、神女はそれを望んでいる。


 ある日、神女が村の水源を見たいと言ったので連れて行った。


 そこで見た景色を、俺は一生忘れないだろう。


 黄金に輝く田、皆の笑顔。それが一瞬で燃え上がった。


 思い出される過去、あんな思いはもうしたくない。


 神女が望んでいる未来はどちらなのか――


 それは、聞かないでも分かる。

 

 神女は田を作ろうとしている。


 新しい技術を民に伝え、豊作を願い、戦を好まない神女。


 隣村から襲われた時は戦ったが、隣村にも簡単に技術を教えると言った。


 知らなければ争いの元になるが、お互いを知れば良き隣人となる。


 俺たちは神女に教えられるながら水路を整備し、田を耕した。


 いつの間にか神女のいる生活が当たり前になっていた。


 最上級の勾玉を持ち、優れた知識と行動力。


 その気になればこの村どころか周囲の村々を掌握できる程の力を持ちながら、まるで昔から居たかのように村の人々に親しまれ、土にまみれて働く。


「土いじりが好きだから」


 そう言って働く姿に皆が自然とついていく。


 あの時見た景色。


 金色に輝く田と皆の笑顔。


 神女と共に俺はあの景色を必ずーー


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