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『翡翠の勾玉が繋ぐもう一つの歴史』 〜65歳考古学者おばちゃんの古代倭国セカンドライフ〜  作者: カジキカジキ


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261日目 〜生きる決意〜

 春の陽射しはまだ優しく、冷たい風が頰を撫でる日々が続く。


 けれど、もう待てない。


 この村で生き抜くために、やらなければならないことが、山のように積み重なっている。


 田を耕す。


 去年はただ種を蒔いただけだった。


 今年は違う。


 苗代を作り、一つひとつの苗を丁寧に育て、田植えをする。


 それだけで、草取りの苦労は半分になる。


 種の選別も済ませてある、収穫はきっと去年より増えるだろう。


 村の皆が笑顔で稲を植える姿を想像するだけで、胸が熱くなる。


 畦を高く築き、水路を巡らせる。


 水が命の稲作で、これを怠ればすべてが無に帰す。


 だからこそ、土を踏み固め、水の流れを整えるその一歩一歩が、未来への約束になる。


 木炭も今のかぶせ式から炭焼き窯に作り直す。


 共同調理場の窯が皆に喜ばれたように……いや、失敗したら燃料を無駄にするかも知れない。


 それでも。


 良質な炭を焼き、土器の焼き上がりを美しく強くする。 そしてその先へ。


 もっと高温の窯を作り、鉄を溶かし、ガラスを溶かす。


 朝鮮半島から入ってきた鉄器や、ガラス玉を――


 この村で、私たちの手で作るんだ。


 この近辺は砂鉄が取れる産地として歴史的にも有名だった場所、三輪山付近を流れる川を掬えは砂鉄が取れるだろう。


 ガラスは現代のような透明のソーダ灰ガラスでなくていい。

 植物灰と石灰石、鉱石の混じったガラスなら出来るはず。


 村を守るための武器にも、手を加えたい。


 オクトさんに渡した手スコの槍はそのままに。


 もっと遠くから見えて、敵を威嚇できるものを。


 でも、私の心は決まっている。


 争うためじゃない。


 守るため。


 飢えから、寒さから、悲しみから、みんなを守るため。


 土器の品質を上げ、炭を焼き、鉄を鍛え、交易を広げる。


 この村から、周りの村々へ手を差し伸べ、やがて「クニ」として栄える。


 争いではなく、手を繋いで稲を育て、野菜を分け合い、誰も飢えない世界を。


 無茶な夢だと、自分でも分かっている。


 いや、無茶を通り越して、妄想に近いかもしれない。


 でも、夢を見なければ、ただ死ぬだけだ。


 この冬、あの空っぽの倉庫の前で、凍える指で最後のスープをすする時、オババ様が静かに息を引き取られた時、私はもう、黙っていられなかった。


 目の前で大切な人が、飢えと寒さに耐えきれず逝くのを、二度と見たくない。


 二度と、あの絶望を味わいたくない。


 私の知識が、未来をどう変えるかなんて、もう考えない。


 今更、後戻りなんてできない。


 私はここで生きている。


 この村で、この人たちと。


 冬の厳しさを、骨の髄まで味わって、ようやく吹っ切れた。


 胸の勾玉が、熱く、強く脈打っている。


 まるで、私の決意に呼応するように。


 ただ、私がもう逃げられないように、締め付けているだけかもしれない。


「おばちゃん、やっと重い腰をあげたのね」


 勾玉の声がからかうように、でもどこか冷たく響く。


 そうだよ。


 約束したんだ。


 おばちゃんはこの村のコーディネーターになる。


 みんなの笑顔を守るために。


 みんなが飢えを知らない未来のために。


 ――でも、笑顔なんか、最初から望んでいない。


 生きていれば、それでいい。


 それ以上は贅沢だ。


 もう、迷わない。


 この春から、私たちは歩き出す。


 命を、未来を、繋いでいくんだ。


 (涙がこぼれそうになるのを、歯を食いしばって堪えた)



 皆さま読んで頂きありがとうございました。

 これで第一部完となります。


 厳しい冬を超え、悲しい別れもありましたがおばちゃんの2年目の春がスタートします。


 第二部まで、暫くお待ち下さい。

 宜しければブックマーク、フォロー、評価をよろしくお願いします。

 


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