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『翡翠の勾玉が繋ぐもう一つの歴史』 〜65歳考古学者おばちゃんの古代倭国セカンドライフ〜  作者: カジキカジキ


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120日目 〜収穫、願い、そして現実〜

 台風が過ぎてから数日。


 村のあちこちで倒れた木や飛ばされた屋根の修復が続き、ようやく稲刈りが終わった。


 でも、今年の収穫は……去年の七割にも満たない。


 倉庫の奥に積まれた俵の数は、目に見えて少ない。それでも、今日は祭りだ。


 収穫を神様に感謝し、来年の豊作を祈る日。


 大人たちは無理やり笑顔を作り、子供たちは無邪気に走り回る。


 広場の中央に大きな櫓が組まれ、焚き火が赤々と燃え始めた頃。


 オババ様がゆっくりと立ち上がり、皆の前に進み出た。

「今年も、こうして生き延びられた。

 神様に感謝せねばならん。

 ……だが、正直に言おう。

 今年の稲は、台風に半分以上持っていかれた。

 腹を空かせて冬を越す者も、出るかもしれん。

 それでも、この火を囲んで酒を酌み交わし、歌い、踊る。それが、我らのやり方だ」


 オババ様の声は低く、しかし力強かった。


 誰もが頷きながらも、どこか顔を曇らせる。


 私も胸が締め付けられた。


 この世界に来て初めて迎える収穫祭なのに、こんなに苦い思いを抱えてしまうなんて。


 オオミさんたちが舞い始め、オクトさんたちが低い歌声と木の板を叩いてリズムを刻む。


 焚き火の炎が揺れるたび、影が長く伸びて、皆の顔を照らす。


 夕日が完全に落ち、月が昇り始めた頃、オババ様が私の手を掴んだ。


「神女。最後に、お前が舞え」


「え、私!? いやいや、そんな……踊りなんて!」


「いいから行け。

 お前が来たからこそ、今年はまだこうして祭りができたんじゃ。

 せめて、最後に皆を笑顔にさせてくれ」


 ズイズイと広場の真ん中へ。


 焚き火の熱が頬を炙り、数十の視線が一斉に刺さる。


 心臓がバクバクする。


 踊りなんて、もう何十年とやったことない。


 でも、唯一知ってるのは……。


 「つきが〜、でたで〜た〜……つきがあでたぁ〜……ヨイヨイ」


 声が震えた。


 手と足がぎこちなく動き、輪の中心で回り始める。


 最初は誰も動かなかった。


 不思議そうに、じっと見つめられるだけ。


 恥ずかしくて死にそうだった。


 でも、最初に動いたのはミナちゃんだった。


 私の後ろについて、ニッコリ笑いながら真似をし始めた。


 次に他の子供たち。


「ヨイヨイ!」と小さな声が重なり、だんだん大きくなっていく。


 大人たちも、最初は苦笑いだった顔が、いつしか緩んで……やがて、みんなが輪に加わった。


 焚き火の周りを回りながら、私は歌い続けた。


「つきが〜、でたで〜た〜……」


 声が枯れそうになっても、止まらなかった。


 だって、この歌を歌ってる間だけは、台風の傷跡も、減った俵の数も、少しだけ遠く感じられたから。


 輪が二重になり、三重になり。


 オババ様も、オオミさんも、オクトさんも。


 みんなが手をつなぎ、足を揃えて踊っている。


 笑顔の中に、涙が光る人もいた。


 歌が一区切りついた時、オババ様が私の肩に手を置いた。


「よくやった、神女。

 ……正直、今年は祭りなんかやる気分じゃなかった。

 腹が減る冬が来ると思うと、胸が苦しかった。

 でもな、お前が踊ってくれたおかげで、みんな、少しだけ前を向けた気がする」


 私は言葉に詰まった。


 だって、私だって怖かった。


 この村の人たちが、冬を越せなかったらどうしようって。


 自分が来たせいで、余計に負担をかけてるんじゃないかって。


「でも……収穫が少ないのは、私のせいじゃないですよね?」


 オババ様は小さく笑った。


 「当たり前じゃ。

 台風は神様の気まぐれだ。

 お前が来たからこそ、みんなが力を合わせて、倒れた稲を拾い集め、少しでも多く残せたんじゃ。

 それに……お前が来てから、子供たちの目が、昔よりずっと明るくなった。

 それだけでも、十分すぎる収穫じゃよ」


 そう言われて、ようやく涙がこぼれた。


 嬉しくて、悔しくて、申し訳なくて。


 焚き火がパチパチと音を立てる中、


 オクトさんが大きな酒樽を運んできた。


「今年は量が少ないが……せめて今夜だけは、飲もうぜ。来年の豊作を、みんなで祈ろう」


 皆が杯を掲げる。


「来年こそ、満杯の俵を積もう!」

「神女様のおかげで、生きてる!」


 そんな声が飛び交う。


 私は杯を握りしめながら、月を見上げた。


「つきが〜、でたで〜た〜」


 あの歌が、まだ耳に残っている。


 収穫は少なかった。


 冬は厳しいだろう。


 でも、今夜だけは、この輪の中で、みんなと一緒に笑っていたい。


 ヨイヨイ。


 

皆んなの笑顔も見られて嬉しいね、ヨイヨイ。


 次回は、予想以上に早い冬の到来?


 

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