表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『翡翠の勾玉が繋ぐもう一つの歴史』 〜65歳考古学者おばちゃんの古代倭国セカンドライフ〜  作者: カジキカジキ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/45

111日目 〜残された黄金、冬への備え〜

 台風が去った朝。


 洞窟から出てきた村人たちは、荒れ果てた村を見下ろして息を飲んだ。


 倒れた木々が道を塞ぎ、住居の屋根は半壊。


 田んぼは泥水に浸かり、黄金色の稲が泥に沈んでいる。


「神女様……これじゃ、半分以上がダメだ……」


 サキが子を抱きながら、涙声で言った。


「まだ終わってないわ。残ってる分を全部救い出せば、冬を越せる。みんな、まずは田んぼへ!」


 私は泥だらけの足で田んぼに飛び込んだ。


 倒伏した稲の穂を一つ一つ確認する。


 水没した穂はすでに発芽しかけているものもあった。


「穂が水に浸かると、すぐに発芽するのよ。発芽したら食べられなくなるから、まずは水を抜いて!」


 オクトさんが大声で指示を飛ばした。


「排水溝を掘れ! みんなで土を掻き出せ!」


 村人たちが鍬や木の棒で必死に溝を掘り始めた。


 水が少しずつ流れ出し、田んぼの水位が下がる。


「神女様、この穂……もう芽が出てる……」


 ミナちゃんが小さな穂を手に、悲しげに言った。


「それでも、早めに刈れば食べられるわ。発芽しきってない穂は、乾燥させて脱穀すれば、まだお米になる。諦めないで」


 私は鎌代わりの石包丁で、倒れた稲の根元を刈り始めた。


 現代ではコンバインがあるけど、今は手作業。


 でも、穂が泥に埋まらないよう、株を起こしながら刈る。


「早く刈らないと、全部芽が出て腐っちまうぞ!」


 トキオが声を張り上げ、皆を急かした。


「オオミさん、刈った稲はすぐに干し場へ! 竹の簀の子に広げて、日光に当てて乾燥させて!」


 オオミさんが頷き、若い者たちを率いて運び始めた。


「神女様、干す前に穂を逆さに吊るした方がいいんじゃないか?」


 タケが提案した。「いい考えね! 逆さに吊るせば、水が滴り落ちて乾きやすいわ。みんな、真似して!」


 村の広場に竹を組んで簡易の干し場を作り、刈った稲を逆さに吊るした。


 泥がついた穂は、川の水で軽く洗い流す。


 洗った後は、すぐに干さないとカビが生えるから、急いだ。


「これで……少しは救えるかな」


 サキが拭きながら呟いた。


「半分は失ったけど、残りの半分は品質が落ちても、冬の命綱になるわ。みんなの力で、ここまでやれたんだから」


 三日間、村人総出で収穫を続けた。


 通常なら穂が完全に黄ばんでから刈るけど、今回は早刈り。


 未熟な粒も混じるけど、発芽防止が最優先だった。


 収穫した稲は、脱穫(脱粒)してもみを取り出す。


 木の棒で叩いたり、足で踏んだりして、籾を落とす原始的な方法だ。


「この籾、殻が固いな……」

ミナちゃんが疲れた顔で言った。


「固い方が虫に食われにくいわ。殻付きのまま保存するのが一番よ」


 保存の話になると、私はさらに詳しく説明した。


「みんな、聞いといて。米は殻付きで高床倉庫に上げるの。地面から離して風通しを良くすれば、カビやネズミから守れるわ。

 去年みたいに穴蔵(地下の貯蔵穴)に入れるのもいいけど、湿気がこもりやすいから、今年は高床倉庫を優先しましょう」


 オクトさんが頷いた。


「そうだな。台風で倉庫の柱が傾いてるけど、急いで直すぞ。みんな、手伝え!」


 村人たちは壊れた高床倉庫の修復に取りかかった。


 柱を立て直し、床を高くして、雨が跳ね返らないように葺き直す。


 倉庫の周りには、棘のある枝を置いてネズミ除けにした。


 「神女様、保存した米、どうやって食べるの?」


 タケが聞いた。


「食べる時は、殻を擦って玄米にするわ。木臼で少しずつね。

 それに、干した山菜や干物、塩漬けの魚も一緒に貯蔵する。

 冬は日照時間が短いから、保存食が命よ」


 サキが子を抱きながら言った。


「去年の冬、米が足りなくて、木の皮を食べた子もいた……今年は、そんな思いさせたくない」


「させないわ。みんなで分け合えば、春まで持つはず」


 収穫が終わった夜。


 火を囲んで、皆で残った米を少し炊いて食べた。


 未熟粒が多く、味は薄かったけど、生きている実感があった。


「神女様のおかげだ……」


 オオミさんが涙ぐみながら言った。


「みんなの力よ。私一人じゃ、何もできない」


 冬越しへの備えは、まだ始まったばかり。


 干した稲の葉で屋根を葺き直し、薪を集め、狩りや漁も増やす。


 でも、田んぼの黄金を少しでも救えたことで、村に希望が戻っていた。


 けれど私たちは、冬を越すための黄金を、懸命に掴み取った。


 


少しでも稲を回収して救えて良かった。


次回、台風で避難した先で見たのは?!

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ