111日目 〜残された黄金、冬への備え〜
台風が去った朝。
洞窟から出てきた村人たちは、荒れ果てた村を見下ろして息を飲んだ。
倒れた木々が道を塞ぎ、住居の屋根は半壊。
田んぼは泥水に浸かり、黄金色の稲が泥に沈んでいる。
「神女様……これじゃ、半分以上がダメだ……」
サキが子を抱きながら、涙声で言った。
「まだ終わってないわ。残ってる分を全部救い出せば、冬を越せる。みんな、まずは田んぼへ!」
私は泥だらけの足で田んぼに飛び込んだ。
倒伏した稲の穂を一つ一つ確認する。
水没した穂はすでに発芽しかけているものもあった。
「穂が水に浸かると、すぐに発芽するのよ。発芽したら食べられなくなるから、まずは水を抜いて!」
オクトさんが大声で指示を飛ばした。
「排水溝を掘れ! みんなで土を掻き出せ!」
村人たちが鍬や木の棒で必死に溝を掘り始めた。
水が少しずつ流れ出し、田んぼの水位が下がる。
「神女様、この穂……もう芽が出てる……」
ミナちゃんが小さな穂を手に、悲しげに言った。
「それでも、早めに刈れば食べられるわ。発芽しきってない穂は、乾燥させて脱穀すれば、まだお米になる。諦めないで」
私は鎌代わりの石包丁で、倒れた稲の根元を刈り始めた。
現代ではコンバインがあるけど、今は手作業。
でも、穂が泥に埋まらないよう、株を起こしながら刈る。
「早く刈らないと、全部芽が出て腐っちまうぞ!」
トキオが声を張り上げ、皆を急かした。
「オオミさん、刈った稲はすぐに干し場へ! 竹の簀の子に広げて、日光に当てて乾燥させて!」
オオミさんが頷き、若い者たちを率いて運び始めた。
「神女様、干す前に穂を逆さに吊るした方がいいんじゃないか?」
タケが提案した。「いい考えね! 逆さに吊るせば、水が滴り落ちて乾きやすいわ。みんな、真似して!」
村の広場に竹を組んで簡易の干し場を作り、刈った稲を逆さに吊るした。
泥がついた穂は、川の水で軽く洗い流す。
洗った後は、すぐに干さないとカビが生えるから、急いだ。
「これで……少しは救えるかな」
サキが拭きながら呟いた。
「半分は失ったけど、残りの半分は品質が落ちても、冬の命綱になるわ。みんなの力で、ここまでやれたんだから」
三日間、村人総出で収穫を続けた。
通常なら穂が完全に黄ばんでから刈るけど、今回は早刈り。
未熟な粒も混じるけど、発芽防止が最優先だった。
収穫した稲は、脱穫(脱粒)して籾を取り出す。
木の棒で叩いたり、足で踏んだりして、籾を落とす原始的な方法だ。
「この籾、殻が固いな……」
ミナちゃんが疲れた顔で言った。
「固い方が虫に食われにくいわ。殻付きのまま保存するのが一番よ」
保存の話になると、私はさらに詳しく説明した。
「みんな、聞いといて。米は殻付きで高床倉庫に上げるの。地面から離して風通しを良くすれば、カビやネズミから守れるわ。
去年みたいに穴蔵(地下の貯蔵穴)に入れるのもいいけど、湿気がこもりやすいから、今年は高床倉庫を優先しましょう」
オクトさんが頷いた。
「そうだな。台風で倉庫の柱が傾いてるけど、急いで直すぞ。みんな、手伝え!」
村人たちは壊れた高床倉庫の修復に取りかかった。
柱を立て直し、床を高くして、雨が跳ね返らないように葺き直す。
倉庫の周りには、棘のある枝を置いてネズミ除けにした。
「神女様、保存した米、どうやって食べるの?」
タケが聞いた。
「食べる時は、殻を擦って玄米にするわ。木臼で少しずつね。
それに、干した山菜や干物、塩漬けの魚も一緒に貯蔵する。
冬は日照時間が短いから、保存食が命よ」
サキが子を抱きながら言った。
「去年の冬、米が足りなくて、木の皮を食べた子もいた……今年は、そんな思いさせたくない」
「させないわ。みんなで分け合えば、春まで持つはず」
収穫が終わった夜。
火を囲んで、皆で残った米を少し炊いて食べた。
未熟粒が多く、味は薄かったけど、生きている実感があった。
「神女様のおかげだ……」
オオミさんが涙ぐみながら言った。
「みんなの力よ。私一人じゃ、何もできない」
冬越しへの備えは、まだ始まったばかり。
干した稲の葉で屋根を葺き直し、薪を集め、狩りや漁も増やす。
でも、田んぼの黄金を少しでも救えたことで、村に希望が戻っていた。
けれど私たちは、冬を越すための黄金を、懸命に掴み取った。
少しでも稲を回収して救えて良かった。
次回、台風で避難した先で見たのは?!




