表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『翡翠の勾玉が繋ぐもう一つの歴史』 〜65歳考古学者おばちゃんの古代倭国セカンドライフ〜  作者: カジキカジキ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/29

28日目 〜あなたの初夏が、ここにある〜

 初夏を思わせる強い陽射しが、逞しく育った緑の稲と競うように照りつける。


 空はどこまでも高く、風はまだ梅雨の湿り気を帯びていない。


 隣村での指導は、ようやく一区切りついた。


 水田の改良法、堆肥の作り方、そして共同水路の計画――


 竹製水車と竹樋を村まで通す案を、長老や大人たちに認めさせた。


 とはいえ、隣村の大人たちは最後まで疑心暗鬼だった。


「そんなもので本当に水が上がるのか」

「また失敗したらどうする」

「うちの村の竹を無駄にする気か」


 正直、昨日までの水車組の進捗も遅々として進まず、私自身、心の中で何度もため息をついていた。


 それでも、毎日隣村へ通い続けた。


 以前作った堆肥を分け与え、作物の生育の違いを実際に見せ、言葉だけではなく結果で説得するしかなかった。


「あとは水車が完成すれば……この人たちをあっと言わせられるのに」


 その日の指導を終え、オオミさん、ミナちゃんと村への帰り道を歩いていると、村境の木陰で、タケくんがソワソワしながら立っていた。


「あっ! やっと来た! 早く早く!」


 タケくんが駆け寄り、私の手をぐいっと掴む。


「ちょっと、ちょっと! どうしたの?!」


 走りながら、タケくんが興奮した声で叫ぶ。


「水車! 水車が回ったんだよ! 本気で、ちゃんと回ってる!」


 私たちは顔を見合わせ、思わず足を速めた。


 川辺に近づくと――


 カラン、カラン……ザーッ……カラン、カラン……ザーッ……規則正しい水車の音と、水が竹樋を流れ落ちる爽やかな音が響き合う。


 太い竹で組まれた大きな輪が、川の流れに押されてゆっくり、しかし確実に回っている。


 外周に取り付けられた竹筒が、下で水を掬い、頂上で静かにこぼす。


 その水は、継ぎ目を粘土と藁で固めた竹樋を伝い、村の田んぼの方へ細く、でも途切れなく流れていく。


 オクトさんをはじめ、大人たちは何も言わずに水車の動きを見つめ、固まっていた。


 ミアケさんは腕を組み、口元に笑みを浮かべている。


 オババ様は静かに頷き、目を細めている。


 タケくんが大声で叫ぶ。


「連れてきたよ! 神女様たち! 見て見て、ほんとに上がってる!」


「すごい……! すごい、すごい! オクトさん、やったじゃない!」


 私が思わず声を上げると、オクトさんが照れくさそうに頬を染めながら、でも誇らしげに胸を張る。


「いや……みんなだ。失敗ばっかりで、何度も壊れて、腹立って投げ出したくなったけど……

 神女の設計図と、タケの奴らの斜め切りアイデアがなかったら、ここまで来れなかった」


 ミナちゃんが目を輝かせて竹樋に手を伸ばす。


「冷たい! 水がちゃんと流れてる……これで水汲みしなくていいんだね!」


 オオミさんが静かに呟く。


「子供たちが、こんなに喜ぶ顔を見るのは久しぶりじゃ……」


 私は水車のそばに立ち、ゆっくり回る輪を見つめる。


 失敗の跡があちこちに残っている。


 縄の巻き直し跡、割れた竹の補修、粘土の厚塗り……

でも今、この瞬間、それはすべて「成功」の証だ。


 オクトさんが私の肩を軽く叩く。


「隣村の連中にも、見せてやろう『ほら、言った通りだろ』って、胸張って言える日が来た」


 私は笑って頷く。


「ええ。明日、みんなで連れて行きましょう。

 きっと、あの人たちも……同じ顔になるはず」


 オババ様がゆっくり歩み寄り、穏やかな声で言う。


「一つ、また一つじゃのう。

 まだ梅雨は来ぬ。まだ収穫は遠い。

 だが、今日という日が、皆の心に根を張った。

 あなたの初夏が、ここにあるわよ」


 水車の音が、川のせせらぎと混じり合い、初夏の風に乗って村全体に広がっていく。


 カラン、カラン……ザーッ……


 それは、希望の音だった。

 

水車! 回りました! オクトさん、タケくんも頑張ったね。


 次回、水車のお披露目です。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ