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『翡翠の勾玉が繋ぐもう一つの歴史』 〜65歳考古学者おばちゃんの古代倭国セカンドライフ〜  作者: カジキカジキ


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15日目 〜田の喜び、人の妬み〜

 朝日が照らす田の苗が、やっと緑を取り戻し始めた。


 緑の苗を見て、涙するオオミさん。


 オオミさんとミナちゃんと並んで川までゆき、手を洗う。


 少しづつだけど、手洗いもやってくれる人が増えてきた。

 灰で洗うのは傷にしみるので嫌がる人もいたけれど、コレなら大丈夫。


 龍の祠に行った帰り道で、見つけたものがあったの。


 それはムクロジ、昔から石鹸代わりに使われていた植物なのよ。


 ミナちゃんは、土だらけだった手が綺麗になるのが嬉しいみたいでよく手を洗っているのを見かけるようになった。


 その時、遠くから慌てて駆け付けてくる人の姿が見えた。


 近寄ってくると、タケくんだ。


 タケくんはオオミさんに近寄ると、早口で何か話し始める。

 私には、まだ上手く聞き取れない。


 オオミさんの顔が真っ青になり、私の手を引いて村へと戻った。


 オババ様の所まで走ったオオミさんが、オババ様と一緒にいるオクトさんを見つけて叫ぶ。


「オクト! タケの話しは本当か?!」


 オクトさんがコチラに気が付いて顔を向けると、その顔は一段と厳しい顔になっていた。


 隣村の大人から、「お前達のせいで、田の稲が全て枯れた」「自分たちだけ龍様に願っただろう」と言ってきてるらしい。


「この村だって、あの雨の中、毎日一生懸命に田んぼの世話をしてやっと守ったのよ!」「私たちのせいじゃない!」オオミさんとミナちゃんが私を庇う。


 何故、隣村の者が知っているのか?


 2、3日前から数人の男の姿が消えていた。


 神女の言葉に、不満を爆発させていた男達だと言う。


 その男達が隣村に行って、神女が勝手に龍様に水乞をして大雨を降らせた。


 神女のせいだと言いふらしているらしい。


 興奮して、怒りに狂った隣村の大人達がこちらに向かっている。


 隣村の襲撃だった。


 十数人の男たちが、青銅の槍や石斧を手に、集落の外れを荒らしていた。


 戦いは短かったが、激しかった。


 タケくんや大人たちが応戦し、何人かが怪我をした。


 一人の若い男の子が、腹を切られて運ばれてきた。


 血が土に染みる。


 私はリュックを急いで開け、除菌スプレーを出した。


「みんな、どいて! これで傷をきれいにするのよ」

 

 沸かした湯で患部を洗い、除菌スプレーを掛ける。


 タオルで血を拭き、裁縫キットで傷口を縫合。


 40年の現場経験で、応急処置は慣れていたけど、心臓が鳴り響く。


「彦助さん……あなたが教えてくれた縫い方、役に立ってるわよ」


 命は取り留めた。


 でも、死者が出なかっただけ。


 私のやった治療が異常過ぎて、村の人に気持ち悪いがられているのが分かる。神女でなく魔術師みたいに思われてる。

 

 隣村の数人も倒れ、丁重に隣村まで運んだ。


 みんなの目が暗くなった。


 オオミさんが私の手を握り、涙目で頷く。


 私はオクトさんの目を見て話す。


「隣村の人達と話し合いたい。争いは出来るだけ避ける方向で……でも、みんなを守る力も備えましょう」


 その夜、私は決意した。


 持てる知識で、村を守る。


 ……でも、鉄をゼロから作るなんて到底無理よね。


 せめて、さっきの青銅の槍の破片や、昔からある鉄片を集めて、鍛冶で刃を補強するしかない。


 土器も、登り窯なんて夢のまた夢。せいぜい竪穴を深くして、少し高温で焼けるように工夫するくらい……。


 それでも、何もしないよりはマシだ。


 勾玉を握りながら思う。


 龍神の恵みも、知識も、結局は「人の妬み」を生む。


 守るためには、もっと泥くさく、もっと血なまぐさく、戦わなきゃいけないんだ。



 ほんの些細なキッカケが、隣村との衝突を生み出す。

 みな生きるのに必死な時代。


 次回、隣村との交渉の為には、力も必要なんです。

 


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