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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

気は丹田から

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 つぶらやくんは、朝起きてすぐに歯を磨く派だろうか?

 ひと昔前まで、僕はその行動に懐疑的だったんだよねえ。すぐに朝ご飯を食べて、歯が汚れてしまうのに、なぜ事前に歯を磨くのか。食べたあとに絞れば、一回で済むじゃないか、とね。

 けれど、この起きてすぐの歯磨きは口の中の洗浄に役立つという。朝、起きたばかりの口の中は雑菌が多く、そのまま食事にのぞんでしまうと、食べ物飲み物と一緒に菌たちが内臓へ注ぎ込まれ、腸内細菌のバランスが崩れてしまうことにより、体調不良へつながる恐れがあると。

 いわばトイレと並ぶ、その日最初の招かれざるお客たちの送り出し。いるべきでないものは早めに外へ出てもらうことが、健康を保つコツなのだねえ。

 そして世の中にはほかにも、外へ出しといたほうがいいものがあるらしい。最近、友達から聞いた話なのだけど、耳へ入れてみないか?


 友達の地元だと、夜寝る前にしておくべきことがあるのだという。

 特にお腹の調子が悪いときに、あおむけになってへその上にコースターを張り付けておくのだとか。

 もちろん、乗り物のほうじゃない。コップを受ける小さいマットのことだ。厚みは3センチ以上のものが望まれるとのことで、お手製のものらしい。

 病は気から。気は丹田から。丹田はへそから、という概念が友達の地元には伝わっていて、その異変を察するにはへそにあてがうものが求められる。時代によって葉であったり、金物であったりしたが、現代ではコルク性のコースターへ落ち着いたらしい。


 そうしてコースターを張り付けて眠って、朝に起きたとき。

 もし、よろしくない状態の場合は、コースターがぐっしょり濡れている。

 コースターを構成するコルクは高い不浸透性と撥水性を持つ。ちょっとした水分であるなら自らの体で弾いてしまうもの。けれども、いったん水を通してしまったら膨張、変形して使い物にならなくなるもろさも備えている。

 寝ているだけで、そのような状況に追い込まれるということは、丹田に異常が起きている証拠となるわけだ。


 消耗した丹田を刺激する方法として、ポピュラーなのは呼吸法と思う。しかし、コースターが濡れる事態の場合は、異なる対処をするのだそうだ。

 まず丹田が位置するへその真下にカイロを張り付け、そこへかぶせる形で腹巻をする。

 次に歯を磨きながら、飲むためのショウガ湯の準備をする。友達の地元では片栗粉を用いてとろみをつける製法が主流らしい。一から作ることもあるが、ストックを用意している家庭も珍しくないのだとか。

 最後にじっくり熱したショウガ湯をお椀へ移し、ちまちまと飲む。熱いものだから、猫舌の人は自然とそうなるだろう。たとえ熱いものが平気な人であっても、一気に飲むことは推奨されない。

 実験でちょびっとずつ薬を加えていくのと、同じ要領だ。少しずつ体へ取り入れることで変化を見ていくためだとか。


 へそを出した状態のまま、腹巻をしつつショウガ湯を飲む。

 やがてお腹がほてってくるだろうが、飲みながらもへそへの注意は怠らないように努めるんだ。「そいつ」は、ひょいとした瞬間に出てくるものだから。

 しょうが湯を飲んでいるさなか、勢いよく飛び出てくるそれは、目を凝らさなければ、お腹のまわりへ少し影が差したようにしか思えない。

 しかし、黒く短いひも状であるそれの軌道を追えば、体の向かいに位置するどこかへ張り付くのが見えるはずだ。

 張り付いてからも、そいつの動きは早い。ややもすれば、家具たちのせまい隙間へ入り込み、行方をくらまそうとする。そいつが丹田の調子を崩しにかかった張本人で、放っておけばまた、ふとした拍子に体の中へ入り込み、悪さをしかねない。

 この場でぬかりなく、処理をすることが求められる。


 素手でつかむ剛の者もいないことはないが、大多数はティッシュでつまむ派らしい。

 外見が真っ黒なことをのぞけば、形状はミミズそっくりだとか。そのような奴がヘソから飛び出てくるとなれば、気味が悪くなるだろう。

 とらえたそいつは、むやみにちぎったり、つぶそうとしたりしてはならない。そいつには形はあれども、生き物でいう死を持たないらしい。

 細かくすれば細かくするだけ、止まることなく思い思いの方向へ飛び散ってしまい、いずこかでまた例の姿を作ってしまうのだという。

 なので、溶かす。

 飲み切っていないショウガ湯を再び火にかけ、湯気を大いに吐くほど沸騰させたあとで、そいつを投げ込むんだ。


 ただの湯だと、そいつはほとんどこたえる様子を見せず、ぴょんと容れ物から飛び出しかねないという。しかし、ショウガを含んだ湯であれば、そのような真似はできない。

 湯の中でそいつは身をよじりながら、おおいに暴れる。それでもなお湯を加熱し続けていくと水かさが減っていくのに合わせ、そいつの体も溶けて消えて行ってしまうのだとか。

 完全に溶けきった後のショウガ湯は、そのまま完全に蒸発させるのがよしとされるらしい。

 そいつをお腹に入れ続けていると、様々な病のもとになるが、多いのは排泄時の不調らしい。そいつは腸の壁に張り付き、時とともに肥大化を続けて、ついには腸を閉塞させてしまう。

 しかし、そいつは検査の際にはうまいこと姿を消してしまい、腸閉塞とみて診断をするお医者さんたちの首をしばしばかしげさせるのだという。

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