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季節の静けさ  作者: 波歌
63/83

日記 62

.*・。゜:✧0.009-15

ᵕ̣̣̣̣̣̣ 日記 62


その朝の空は、ここ数日よりも明るかった。けれど澄んではいなかった。尾根から尾根までほとんど水平に広がる高い靄が一面にかかり、太陽を和紙の光のように濾していた――柔らかく、淡く、そして不思議に方向性を持ち、まるで空の一部からだけ光が差しているように。私はまた早くに歩き出し、草履をきつく結び直し、埃を避けるために布で包んだノートを携えていた。道は以前より乾いていた。灌漑の縁は少し下がり、かつて水が張りついていた石肌に光の筋だけを残していた。クワイ畑はほとんどが緑に変わり、わずかに残った花だけが淡い紫を列の間に引きずっていた。

縁側の端からは、棚田が広く馴染み深い段を踏んで下へと伸びていた――曲がりくねり、朝の光に艶めき、それぞれの区画が靄に裂かれた光を少しずつ異なる色合いで受けていた。私はいつもより長くそこに留まり、片手を戸に軽く添えた。下の方、二番目に低い田んぼの近くには、色褪せた天幕が斜面に大きく低く張られていた――角は大きな石輪で押さえられ、布はところどころ乾ききらぬ雨で濃く染みていた。最初は一時的な倉庫かと思った。遠方の道と主要な段のあいだで物資を中継するための中継所だと。布の下から木箱が動かされる音がかすかに聞こえ、声が低く不規則に交わされ、誰かが身をかがめて入るときの鈍い音もした。布は一度はためき、またすぐに落ち着いた。

さらにその下では、緑の樹冠から靄がゆっくりと立ち上っていた。水面が動く前に盆から立つ湯気のように。それは斜面の隙間から吐息のように立ちのぼり――柔らかく、白く、厚みがあり、天幕の基部をすっかり覆い隠したので、それはまるで大地ではなく靄の上に浮かんでいるかのように見えた。そしてその先――ほとんど隠されていたが――荒野は続いていた。森というよりは、ひとつの場所ではなく、ただ世界が決して手放さない絡まりそのもの。ここよりも深い色の木々。音を呑み込むほどの幹と幹のあいだに巻き付く蔓。どの道も長くは同じ形を保たず、この地には留まる縁などなかった。自然は常にこちらの歩みに歩調を合わせてきた。私たちは決して先を行くことはなかった。これが、授かったこの世界の理だった。

その日の縁側は静かだった。今度は茶も置かれていなかったが、机はきれいに磨かれていた。日除け布も新しくなり、四隅には新しい葦縄で結び直されていた。硯の隣には二枚の重し付きの紙が待っていて、銅の札で印がされていた――「北段・春初め」「西方区・第二斜面取水」。筆跡は濃く詰まっていた。調子は見覚えがあるが、以前ほど丁寧ではない。乱雑ではないが、明らかに急ぎの筆致。誰かが本来は正しく写し取るつもりだったが、そうせずに残したのだろうと私は思った。

私はそれらを慎重に広げ、角を小石で押さえ、裾で盤の埃を払った。古い方の紙はすでに繊維が歪み始めていた。樹皮紙は年月には強いが、湿気には弱い。これは湿った場所に保管されていたのだろう。下部のいくつかは薄れ、光を紙目に沿って当てるために机を少し回さなければならなかった。気にはならなかった。むしろ集中できた。考えすぎない作業が私は好きだった。手が思考より先に進む時間も。そして私は、少し海に戻りたくてそわそわしていた。ここ数日は穏やかで、雨も降っていなかったから。

風がかすかに強まり、結び目の甘い布を揺らした。その風に乗って、近くの労働のリズムが聞こえてきた。尾根の壁のすぐ向こうで、道具が動かされる音――石に当たる短い鍬、木の橇を引く擦れる音、水田脇のすすぎ桶からの水音。急ぎではなく、騒がしくもなく、ただ日が温み始める頃に馴染む動き。時折声が掛けられ、ほとんどは女たちだが、男の低く間のある声も混じっていた。座っている場所からは姿が見えなかったが、その歩調は分かった。誰も見張っていない。誰も数えていない。ただ日々の調べと習慣で成る一日。

背後の扉のひとつが軋んだのは、取水の格子の三列目を写していた頃だった――二度目だ。なぜか古い写しが二枚あり、私は新しく二枚を作った。顔を上げなかったが、布が木を擦る音と短い吐息で、誰かが休みに入ったか何かを確かめに来たのが分かった。しばらくすれば人が増えるだろう。彼らはいつも昼近くに集まった――涼むためだったり、昼を分け合うためだったり。人が通っても、棚田の陰は十分に静かで、書くには支障なかった。そして今日はまさにそういう日になると感じた――告げられずとも予期できる日。長い乾きのあとに現れる靄のように。来ることを告げられる必要はなかった。物の繊維にすでに感じられていたから。

私は筆を置き、立ち上がり、膝裏の埃を払った。壁際に積まれた古い木箱がいくつかあり、座るには狭すぎた。私は二つを引き出し、横向きに並べ、上に袋を掛けて少し柔らかくした。それから一番奥の桶へ行き、水口を外し、土器の水瓶をいくつか満たして内側の柱のそばに置いた。茶が欲しければ誰かがあとで用意するだろう。だが水は、少なくとも、準備しておくべきだった。棚の脇の縁に、年長の女たちが持ち込む葦の盆や敷物のために場所を空けておいた。彼女たちは決して場所を求めない――ただ開いていて欲しいだけ。それは大したことではなかったが、私はそれをするのが好きだった。次に来る人のことを、すでに考えてあるように部屋が感じられるのが好きだった。

柱のそばで立ち止まり、土器の冷たさを必要以上に長く手に感じた。光は少し変わり、相変わらず淡かったが、より斜めになり、桶のそばの葦敷きに細い縞を描いていた。ひと呼吸、ふた呼吸のあいだ、私はそこに留まり、遠くで土を削る鍬の音や、道の下方から響く戸口の閂の小さな音に耳を澄ませた。それから振り返り、机に戻り、また座に身を下ろした。下に置いた袋が程よい緩衝になり、角の痛みを和らげた。私は再び筆を取り、樹皮紙の繊維を指でなぞりながら作業を続けた。

二枚目の端に差しかかる頃には、女たちが少しずつ通りかかるようになっていた。一度にではなく、一人ずつ、草履が石を擦る音、小さな包みを傍らに置く鈍い音。見上げることは少なかったが、その動きで分かった。正式な届け物ではない。棚田の食材――青菜や根菜、小さな瓜の束、土でまだ濡れたもの――を集め、日陰に置き、あとで仕分けるために。男たちも何人か来た。歩幅は大きく、袖を高くたくし上げ、額は日に照らされて濡れていた。ほとんど口は利かず、通りすがりに一人が軽く会釈をしただけで歩みを緩めなかった。その往来には一種の律動があった――浅い溝を流れる水のように、安定して、告げられることなく、それでいてどこか安心を与えるもの。誰かが近づくたびに静けさはわずかに変わり、やがてまた元に戻った。

紙自体は層になった図――地図であり、台帳でもあった。道や水路だけではなく、古い標高の記録や、季節ごとの作物の移り変わり、小さな括弧付きの文字が区画が最後に輪作や播種された時期を示していた。古い方の紙には「粒文字つぶもじ✤」が使われていた――繊維に小さな点を押し込んだ触読の文字。年配の女たちの中にはそれを「触字ふれじ✤」と呼ぶ者もいた。

私は親指でひとつなぞってから、それを書き写した――「⠙⠚」。四十。北向きの棚田、浅い傾斜。新しい紙に印を付け、栗畑の新しい行のそば、傾斜が平らになる右寄りの部分に記した。

多くの注記には色が使われていた――土質や保水性、作付けの履歴を示す目印として。言葉は仮名で書かれ、たいてい単純だった。

あか――赤。乾いた斜面土。

あお――青。湿地、水深のある区画。

みどり――緑。休耕地または未耕作。

きいろ――黄。早生の穀物。

しろ――白。塩に洗われた土地。

くろ――黒。粘土質、あるいは連作で傷んだ地。

むらさき――紫。移植予定地。

ちゃいろ――茶。安定した土、前期に輪作済み。

はいいろ――灰。石の多い土地。まだ使用可能。

ぴんく――桃色。共同収穫床に使われることがある。珍しいが、この紙には一つ記されていた。

いくつかの注は色を重ねて記してあった――あか-ちゃ✤ や くろ-みどり✤ のように――地元の者しか理解できない略記だ。私は修正せず、見たままを書き写した。

つぶもじ✤の点のいくつかは正しく中央に打たれていなかった――押しが速すぎたか、目ではなく手で読むことに慣れた人が加えたものだろう。最もずれていたものを半マスだけ直した。意味を変えない程度に、ただ流れないように。これらの紙はまた読まれる。だからじっとしていてもらう必要があった。外では風が強まっていた。私は紙を押さえ直しながら、一つの注記に戸惑った。

北段きたの四番畝:あか・くろ交互、うえた日は九月三日。つる草多め。わたしが読んだ表より早い。ねじれた枝ふくむ。水位は扇尺三つ未満。えんどう、そば、もも、ひのき、ゆずなど混在。けれど、せまい道をへだてて、てまえの畝にもほそい苗が見えた。めだちにくいが、れんげ草も咲いていた。古い札には「をかし」と書かれていた。

水位は扇尺三つ未満。

見慣れぬ語が目に留まった――扇尺せんじゃく✤。意味を理解するまでに数行かかった。いくつかのページと照らし合わせて確かめた。それは主に沿岸や棚田地域で用いられる長さの単位で――浅い水深、土層、あるいは段の高低差を測るためのものだった。字は分かりやすかった。扇は扇子、尺は長さ。「扇の長さ」。どこか詩的だが理に適っていた。

一扇尺は広げた扇子の幅ほど――二十三から二十五尺ほど、人によって差はあるが。三つでちょうど斜面に立ったとき、腰から足首までの長さくらい。私はそれが気に入った。体が斜面にどう収まるかを思い出せばすぐに思い描ける単位。

私が次の段の指定を書き写していたとき、声がかかった――大きくはないが弾む声で。

「戻ってきたんだ!」

この前の少女だった。茶畑から続く細道の影に立っていた。今度は草履をちゃんと結び、ややくたびれた幅広の布帽をかぶっていた。歩いてきたせいで前髪が額に張りついている。腕には包みを抱えていた――丁寧に結ばれた荷。

私はほほ笑んだ。「君も戻ってきたね。」

彼女は勢いよく一歩進み出た。「言ったでしょう。」二歩、跳ねるように前に出る。そのためらいは、ほとんど駆け足に似ていた。

「覚えてる。」

彼女は今度は許しを得ずにござの横に座った。前よりもくつろいでいたが、まだ用心深さを残して。肩掛け袋はなく、代わりに借り物らしい紐付きの巾着を提げていた。片耳の後ろに短い鉄筆を挟んでいるのに気づいた。

彼女は包みを机の向こう側に置き、広げた。中には硬い紙を薄く綴じたものがあり、そこには小さな点が打ち抜かれていた――いくつかは対称に、いくつかはそうでなく。私は手を止めた。

「これは私の。」彼女が言った。「おじさんが見本の帳票を使わせてくれるの。お願いしたら…説明してくれると思って。」彼女はまっすぐに私を見た。その真剣さとためらいの入り交じった眼差しは、子どもにしかできないものだった。

「そう言ってくれたでしょ。」彼女は小声で囁いた。まるで私たちの約束がどこまで有効なのか確かめるように。

私は姿勢を正し、筆を脇に置いた。「言ったよ。」私は認めた。「でも君は助詞を学びに来たんだと思ってた。」

彼女は唇を噛んだ。「そうだった。でも…今はこれを知りたいの。」

彼女は書き始めた。

私たちはそれぞれの数を形や作物の名で呼ぶようになっていた。帳簿というより記憶に近づけるために。

⠁ は いっぽん✤――一本。たいてい えんどう✤(豌豆)。長く曲がった莢。

⠃ は にほん✤――二本。そば✤(蕎麦)の茎。細く直立し、二本でまとめやすい。

⠉ は さんこ✤――三個。柔らかな もも✤(桃)。托に優しく収められた実。

⠙ は よんけん✤――四軒。ひのき✤(檜)の幹。まだ樹脂の香りが強く硬い。

⠑ は ごつぶ✤――五粒。ゆず✤(柚子)の実。小さく結ばれ、酸っぱく輝く。

⠋ は ろっこ✤――六個。重い すいか✤(西瓜)。土に触れた裏は淡い。

⠛ は ななほん✤――七本。濃い皮の なす✤(茄子)。刷毛を立てたように整えて置かれる。

⠓ は はっこ✤――八個。淡い とうがん✤(冬瓜)。冷たく穏やか。

⠊ は きゅうふくろ✤――九袋。みょうが✤(茗荷)の束。柔らかな芽先を紐で結ぶ。

⠚ は じゅっこ✤――十個。いも✤(芋)。土にまみれ、でんぷん質で、ときに割れるが必ず数に入る。

私は穴あきの紙を指さした。「いくつ知ってる?」

彼女は首を振った。「何を表すかは知ってる。でもどう変わるのか分からない。」

指で一つなぞりながら言った。「これは七(⠛)。でもどうして七なのか分からない。それに、六(⠋)を加えたらどうなるのかも。」彼女はまた私を見た。「知ってるの?」

私はすぐには答えなかった。点の配置を見つめた。それは馴染み深いものだったが、彼女の問いのように考えたことはなかった。幼い頃以来。

「何を表すかは知ってる。」私はゆっくり言った。「でもどうしてこの形になるかまでは考えたことがない。」

彼女は首を傾げ、目を細めた。「じゃあ、二人で見つけるのかも。」

私は小さく息を吐き、身を乗り出した。頭を傾け、考える。彼女の紙の最上段は全てのマスが並んだ一面で――九つのセルがあり、それぞれ二つから四つの点が浮かび上がっていた。彼女が指した「七(⠛)」は内側に濃く、紙の隅は歪み、点は擦れていた。私は紙を光にかざすように少し引き寄せた。

「これは押印で作られたんだ。」私は言った。「標準の訓練用セット。」

彼女はうなずいた。「おじさんが言ってた。昔は潮の暦をつけていた人たちのものだって。年寄りが週で数えるのをやめる前。」

私は彼女を見上げた。「じゃあ、ただの数字じゃない。」

彼女は首を傾げた。「違うの?」

私はゆっくり首を振った。「そうかもしれない。でも作った人はそのリズムを理解してた。模様は数じゃなくて曲線をなぞっている。」

彼女は困惑した顔をした。

私は一つ目のセルを叩いた。「一はここ。(⠁)」――左上の点。

次は二(⠃)。点一と点二――縦に並ぶ。

三(⠉)。点一と点四――横にずれる。

「道は続く。」私は言った。「数字は積み重なるんじゃなくて、畑を巡るんだ。」

彼女は身を乗り出した。「円みたいに?」

私はうなずいた。「そう。ただし数字自体はゆっくりした渦巻きのよう。でも幾何学じゃない。重みがある。」

私は再び七を指した(⠛)。「これは形じゃなく、歩みなんだ。」

彼女は瞬きをし、耳の後ろの鉄筆を取り出し、点の模様を柔らかな輪でなぞり始めた。突くのではなく、存在の道筋を追うように。手の動きは慎重で、速くはなかった。

「もしこれ(⠛)に六(⠋)を足したら、どうなるの?」と彼女。

私は眉を上げた。「どうなると思う?」

彼女は片側の口角を上げた。「形は新しくなるはず、って思う。」

「でもならないの。」彼女は続けた。「ただ跳ぶだけ。」

彼女は鉄筆でふたつ――⠛、それから⠋――を押し、結果を指さした――⠉。

「ね?」と言う。「大きくも、ずれもしない。ただ…こうなる。真ん中を飛び越えたみたいに。」

私は身を寄せた。確かにそうだ。⠛――7 の点配置。⠋――6 の点配置。合わせれば 13 だが、表記は ⠉――3。

「なるほど。」私はゆっくり言った。「それは『位』――十の位✤(くらい ༶)って呼ぶ。形は一つの場所にだけ“住んで”いるわけじゃないから。七と六で十三。形がその場で意味をなさなくなったら、次の位に移る。ほら、左側。」

私は十の位を指さした。「『1』はここ。」そして、「左に…」⠁「…左に 1、右こっちに 3…」⠉。

「今見ているのは『繰り上がり』っていう動き。」私はやさしく言った。「目には見えない。でも、ある。」

彼女はまだ納得していない――少し混乱もしている――ようだった。眉間に皺を寄せる。

「じゃあ隠れてるの?」

私は首を振った。「隠れてるんじゃない。…ただ、別の場所に“いる”だけ。」

「跡を残せばいいのに。」彼女は小声で言った。「跳んだことがどこかに響けば。そうじゃないと、ずるみたい。」

私は考えた。「紙の上にあるのは“数そのもの”じゃないからだよ。」と言った。「点は、着地した場所を示してるだけ。どう動いたか、じゃない。」

彼女はゆっくりうなずき、次に鋭くうなずいた。「そこが嫌い!」

今度は私が眉をひそめた。「どうして?」

彼女は紙の印に向けて顔を曇らせた。「だって、どうやってそこに来たのか、何も教えてくれないから。」

彼女は鉄筆で木面をコツコツと叩いた。「島では違うやり方をしてたの。」と言う。「字で数えてた。」

「数字じゃなく?」

「文字。」と彼女。「でも、数字の形をした文字。」

彼女は縦の一本線――「ㅣ」を書いた。「これは一。始まり。一本の線。」

ページをめくり、次を描く――「ㅓ」。

「二。」彼女は言った。「一本は下へ、もう一本は横へ。まだ“一と一”だけど、今は出会っている。いっしょで二。」

私はうなずいた。部品がきれいに噛み合う。

「積み上げるんだね。」私は言った。「そうやって数える。」

彼女は指さした。「三はワ。」

彼女は続け、動きは先ほどより自信に満ちている。

「영 はゼロ。」と言い、四角を描いた。「空っぽがたくさん――」

そこへ ㅣ と ワ を入れて「기」を作る。

「これは四。」彼女は言った。「これまでの部品――一と三――を抱えている。」

私はその手つきを目で追った。彼女は「거」を描く。

「五は、ワに ㅓ をしまい込む。」

私は待ったが、もう推測できる気がした。

「六は『개』。ワ に ㅣ と――ㅐ。」

彼女はまたワを書いた。「これは七。」そう言って「갸」を描く。

私の中で何かがずれる――数え上げなくても分かり始める感じ。

「八は――」彼女は少しゆっくりになって、「걔」。

私は首を傾げた。最後はもう読めない。

「九は?」と尋ねる。

彼女はためらい、注意深く「격」を描いた。

私は沈黙をそのままに、指先が墨の上で動きを止めているのを感じながら、ゆっくりと書いた。

영0, ㅣ1, ㅓ2, ワ3, 기4, 거5, 개6, 갸7, 걔8, 격9 ——そして「십」を添える。

「えっ。」彼女は目を見開いた。「どうして『십』を知ってるの?」

私は微笑んだ。「姉がソムッコッに住んでるんだ。でも、君が今やってるのは初めて見たよ。」

彼女を安心させるように言い添える。「私は――」

だが言い終える前に、足音がこちらに流れ込んできた。何かが置かれる音――それぞれ違う物が、違う間合いで。歩幅は柔らかく、しかも寄り合って。

遠い開口部から小さな一団が入ってきた。若い娘が二人、年配の少年が二人、袖をまくりスカーフを低く結んだ女が一人。

彼らは軽く言葉を交わしながら入ってきた――梁にかすかに跳ね返るくらいの声で、静けさを壊さない程度に。

少年のひとりが浅い籠をドンと置き、わざとらしくないのに慎重さを欠いた音を立て、その隣に息を長く吐きながら腰を下ろした。もう一人はゆっくり続き、壁を撫でるように手を滑らせてから床に身を落とした。

「そんなに落っこちるみたいに座ると、土間がへこむよ。」女が乾いた声で言う。

「へこませたいんじゃない?」娘のひとりが彼の脇腹を小突きながら言った。「そしたら私たちは早く上がれる。」

だれかが笑った――大きくはないが、部屋の重心を少し移すには十分だった。

もうひとりの娘が荷を解き、知らない女に包みを手渡す。「球根の大きさで分けろってさ。待った方がいいって言ったんだけど――チヤコってそうでしょ。」

私はチヤコを知っていた。思わず笑いが込み上げる。茶目っ気があって賢く、根は善い、ちょっとした悪戯好き。

女は目を回した。「もう一度でもチヤコの言うことを聞いたら、帳簿から私の名前を消してちょうだい。」

娘たちは頭を寄せてくすくす笑う。

ひとりが、私がさっき向きを変えた木箱にもたれ、上に掛けた袋の縁を無意識になぞった。

「これ、誰が置いたの?」

口ぶりは何でもないが、少し驚いた声。彼女の目が私を見つけた。

私は小さくうなずいた。控えめに。どう受け取られるか読み切れず。

「ふうん。」彼女はほとんど独り言のように言い、でもそこには事後的な了解の笑み――褒め言葉ではない、静かな承認――がひとかけらあった。

棚から水瓶が上がると、聞き覚えのある軋み。「ああ、冷たい。」誰かが息をつく。

蓋は少し粘ってから、ぽんと小さく外れ、続いて土器に落ちる水のやわらかな音。

杯はことさらに儀式めかすこともなく回された。果物が少し開かれる。

ひとりの少年――年長で、膝に土の跡――がスモモをひとかじりし、柱にもたれた。

「彼女、いつも書いてる。」からかうのではなく、ただ気づいたままに。

隣の友だちは小さく声を漏らし、肘で一度突いた。

「何さ。」最初の少年は笑いながら言う。「ほんとだろ。」

いちばん近くの女がうっすら目を細めたが、何も言わなかった。少年たちは少し静かになった。少なくとも、私の位置からは聞き取れないほどに。

私は顔を上げない。こういう割り込みはありがたい。

私はスタイラスで格子の斜面線をなぞり、季節ごとの等高記号の変化を写していた。

でも、すべて聞こえていた――人が空間を満たしていく、静かな音が。

隣の少女は座ったまま、半分広げたパターン用紙に目を注いでいる。

若い娘のひとりが近づき、彼女のそばにしゃがんだ。

「それ、間違いがあるやつ。」と指して言う。「裂け目で分かる。」

「分かってる。」少女は答えた。「だから端紙にしてるの。」

友だちを肘で突いた方の少年が、好奇心をそそられたようにのぞき込む。「何作ってるの?」

私は瞼が重くなっていくのを感じ、すぐ覚まさせた。楽しいことばかりじゃない…

「作ってない。」少女は点を撫でながら言った。「どう動くか学んでるだけ。」

少年は眉をひそめる。「点は動かない。」

「彼女は動くって言ってる。」少女は私の方を顎で示した。

私は巻き込まれたくなかったので、静かに書き続けたが、彼らのやりとりはそのまま弾んだ。

そのころには女たちの何人かも静かになり、膝を抱えて休む者、首を傾けて半分だけ耳を傾ける者。

ついに誰かが言った。「彼女は間違ってないよ。紙の点は動かない。でも道だって動かない。それでも私たちは辿る。」

短い間――柔らかく、吉兆のような間。答えを求めないが、何も終わらせもしない静けさ。

女のひとりが体重を移し、杯の縁越しに私を一瞥した。

「いつも、そんなふうに膝を折って写すの?」

調子は軽いが、前から見ていたのが分かる。

「乾いてる日だけ。」私はほとんど顔を上げずに答える。「続けてると、膝が落ちちゃうよ。」

別の女が鼻で笑った。「彼女の姿勢は私たち全員の合計よりいいよ。ナツを見なよ――籠を全部運ぶから、もう体が片寄ってる。」

隣の娘が小さく抗議の声を上げ、背中に手を回して、わざとらしいくらい丁寧に姿勢を直した。

「これ(⠛)に六(⠋)を足したら、どうなるの?」と彼女。

私は眉を上げた。「どうなると思う?」

彼女は口の端を片方だけ上げた。「形は新しくなるはず、って思う。」

「でも、ならない。」彼女は続けた。「ただ跳ぶの。」

彼女は鉄筆で⠛、それから⠋を押し、結果――⠉――を指した。

「ね?」と言う。「大きくも、ずれもしない。ただ…それになる。真ん中を飛び越えたみたいに。」

私は身を乗り出した。確かにそうだ。⠛――7 の点模様。⠋――6 の点模様。合わせて 13 になるが、書かれるのは ⠉――3。

「そうか。」私はゆっくり言った。「それは『くらい』――十の位✤のこと。形は一つの場所だけに“住んで”いるわけじゃない。七と六で十三。形がそこで意味をなさなくなったら、次の位でまた始める。ここ、左側。」私は十の位を指した。「『1』はここ。」

「左に…」⠁「…左に 1、そして 3 は右側…」⠉。

「今見ているのは『繰り上がり』。」私はやさしく言った。「見えないけれど、確かにある。」

彼女はまだ腑に落ちない顔をした。少し不満そうに眉を寄せる。

「じゃあ、隠れてるの?」

私は首を横に振った。「隠れてるんじゃない。…ただ、別の場所に“生きている”だけ。」

「跡が残るべきだと思う。」彼女はつぶやいた。「跳んだ余韻みたいな。そうじゃないと、ずるみたい。」

私は考えた。「紙の上にあるのは“数そのもの”じゃないから。」と私は言った。「点は、着地した場所を示しているだけ。どう動いたか、じゃない。」

彼女はゆっくり、それから鋭くうなずいた。「そこが嫌い!」

今度は私が眉をひそめた。「どうして?」

彼女の顔は――私にではなく、紙の印に――険しくなった。「だって、どうやってそこに来たのか、何も教えてくれない。」

彼女は鉄筆で木をコツコツ叩いた。「島では違うやり方をしてた。字で数えてたの。」

「数字じゃなくて?」

「文字。」彼女は言った。「でも数字の形をした文字。」

彼女は縦の一本線――ㅣ――を書いた。「これは一。始まり。一本の線。」

ページをめくり、次を描く――ㅓ。

「二。」彼女は言った。「一本は下へ、もう一本は横へ。まだ“一と一”だけど、今は出会っている。いっしょで二。」

私はうなずいた。「積み上げる数え方だね。」

彼女は指さした。「三はワ。」

彼女の手つきはますます自信を帯びる。

「영 はゼロ。」そう言って四角を描く。「空白がたくさん――」

そこへ ㅣ と ワ を入れて「기」を作る。

「これは四。前に来た部品――一と三――を抱え込む形。」

私は目でその動きを追った。彼女は「거」を描く。

「五は、ワに ㅓ を忍ばせる。」

私は待ったが、もう予想がつく。

「六は『개』。ワ に ㅣ、それから――ㅐ。」

彼女はもう一度ワを書いた。「これは七。」そう言って「갸」を描く。

私の中で何かがほどけ、数えなくても分かり始める。

「八は…」彼女は少しゆっくりになって、「걔」。

私は首を傾げた。最後は読めない。

「九は?」と問う。

彼女はためらい、慎重に「격」を描いた。

私は沈黙を保ち、指先が墨の上で静止しているのを感じながら、ゆっくり書いた。

영0, ㅣ1, ㅓ2, ワ3, 기4, 거5, 개6, 갸7, 걔8, 격9 ——そして「십」を添える。

「えっ、どうして『십』を知ってるの?」彼女が声を上げる。

私は微笑んだ。「姉がソムッコッに住んでるんだ。でも、君が今していることは初めて見る。」

安心させるよう付け加える。「私は――」

言い終える前に、足音が流れ込んできた。何かが置かれる音――いろんな物が、いろんな間で。歩調は柔らかく、しかも寄り添っていた。

遠い開口から小さな一団が入ってきた。若い娘が二人、年上の少年が二人、袖をまくりスカーフを低く結んだ女が一人。

彼らは軽く言葉を交わしながら入ってきた――梁にかすかに反響するほどの声で、静けさを壊さない程度に。

少年のひとりが浅い籠を、丁寧とは言い難いがわざとでもない調子でドンと置き、長く息を吐いてその横に腰を下ろした。もう一人はゆっくり続き、壁に手を滑らせてから床に身を落とした。

「そんなふうに落っこちるみたいに座ると、土間がへこむよ。」女が乾いた声で言う。

「へこませたいのかも。」娘のひとりが彼の脇腹を小突いて言った。「そしたら私たち、早上がりできるし。」

誰かが笑った――大きくはないが、部屋の重心を少し移すには十分な笑い。

もうひとりの娘が荷を解き、見知らぬ女に包みを手渡す。「球根の大きさで分けて、だって。待とうって言ったんだけど――チヤコってそうでしょ。」

私はチヤコを知っていた。笑いがこぼれる。いたずら好きで利発、でも根は善良な人。

女は目をぐるりと回した。「もう一度でもチヤコの言うことを聞いたら、帳簿から私の名前を消しといて。」

娘たちは頭を寄せてくすくす笑う。ひとりが、先ほど私が向きを変えた木箱にもたれ、上に掛けた袋の縁を無意識になぞった。

「これ、誰が置いたの?」

口調は何でもなさそうだが、少し驚きが混じっている。彼女の視線が私を見つけた。

私は小さく、控えめにうなずいた。どう受け止められるか測りかねて。

「ふうん。」彼女はほとんど独り言のように言ったが、その言い方の底には、褒め言葉ではない、後日のための静かな承認の微笑みがあった。

棚から水瓶が上がるおなじみの軋み。「ああ、冷たい。」誰かが息をつく。

蓋は少し粘ってから、ぽん、と小さく外れ、続いて土器に落ちる水の柔らかな音。

杯は大仰な作法もなく回され、果物が少し開かれる。

ひとりの少年――年長で、膝に土――がスモモをかじり、柱にもたれた。

「彼女、いつも書いてる。」嘲りではなく、ただの観察として。

隣の友だちが小さく声を漏らし、肘で一度突く。

「何だよ。」最初の少年は笑って言う。「本当だろ。」

いちばん近くの女が目を細めたが、何も言わなかった。少年たちは少し静かになった――少なくとも、私の位置からは聞こえないくらいには。

私は顔を上げなかった。こういう割り込みはありがたい。

私はスタイラスで格子の斜面線をなぞり、季節ごとの等高記号の変化を書き写していた。

でも、全部聞こえていた――人が空間を満たしていく、あの静かな音が。

隣の少女は座ったまま、半分広げたパターン用紙に注意を注いでいる。

若い娘のひとりが近づき、そばにしゃがんだ。

「それ、間違いのあるやつ。」と指差す。「裂け目で分かる。」

「分かってる。」少女は答えた。「だから端紙にしてるの。」

友だちを肘で突いた方の少年が、好奇心に負けてのぞき込む。「何作ってるの?」

私は瞼が重くなり、すぐに覚まさせた。楽しいことばかりじゃない…

「作ってない。」少女は点を撫でながら言う。「どう動くか学んでるだけ。」

少年は眉をひそめる。「点は動かない。」

「彼女は動くって言ってる。」少女は私の方を顎で示した。

巻き込まれたくなかったので、私は静かに書き続けたが、やりとりはそのまま弾んだ。

その頃には女たちの何人かも静かになり、膝を抱えて休む者、首を傾け半ばだけ耳を傾ける者。

やがて誰かが口を開いた。「彼女は間違ってないよ。紙の点は動かない。でも道だって動かない。私たちはそれでも辿る。」

短い間が落ちた――柔らかく、吉兆めいた間。答えは求めないが、何も終わらせもしない。

女のひとりが体重を移し、杯の縁越しに私をちらと見た。

「いつもそんなふうに膝を折って写すの?」

調子は軽いが、前にも見ていたのがわかる。

「乾いてる日だけ。」私はほとんど顔を上げずに言う。「そんなふうに続けると、膝が落ちちゃうよ。」

別の女が鼻を鳴らした。「彼女の姿勢は、私たち皆の合計よりいいよ。ナツを見な――籠を全部運ぶから、もう体が片寄ってる。」

隣の娘が小さく抗議の声を上げ、背中に手を回して、これ見よがしに姿勢を直した。

「でも本当だよ。」最初の女が言った。「皆の分まで運んでたら、書記の背中になる。私たちだって自分でやれる。全部やらなくていいの。」

彼女は空中で手をひねり、何かをきつく巻き上げる真似をした。

「代々の記録係の家かな?」と別の女がからかう。

「あるいは目ざとい母のもとで、ね。」私はほとんど無意識に呟いた。

二人が短く笑い、ひとりが眉を上げた。「鍛えられてるのね?」

私はためらい、それからうなずいた。「時々。」

「じゃあ、効果があったって伝えて。」別の女が言った。「朝からずっと数字でやり合ってたじゃない。うちなんかヒデユキの草履ひもですら結ばせられないのに、彼は君の二倍は背があるんだから。」

少年のひとりがうめき、皆がくすくす笑った。

「ほんと。」若い娘のひとりがにやりとする。「鶴みたいに前屈み。」

「鶴なら蟹よりマシ。」誰かが言う。「リンが収穫台帳をやろうとして、二日間体が横向いたままだったの覚えてる?」

また笑い――低く、親しみのこもった笑い。

私は微笑み、しかし視線は紙に落としたまま。今日は機知を返す気分ではない。

「ちょっとからかってるだけ。」最初の女は、やさしい調子で言った。「でも善意だよ。これをやっている人を見るのは嬉しい。あの紙の何枚かはずいぶん古くなってた。」

彼女は両手を後ろについて体を支えた。「それに、手で書き落とされるのを見ると、どこか信頼できる。」

私は筆をもう一度墨に浸し、顔を上げずに言った。「私も信頼してる。やっている間は、ね。…落ち着く感じがする。」

言いながら、どこか言い足りないのを感じて眉を寄せる。疲れているのかもしれない。私は手を後ろについて、耳を澄ました。

「それは、あなたが“している本人”だから。」別の女が応じる。「私たちは、あとは眠い手で写されないことを祈るだけ。」

誰かが私の背後を通って、壁から敷物を取った。動く間際、肩にそっと手が触れた――驚かせないための合図のような、柔らかい一瞬の接触。馴染みのある気配。私は少し前に身をずらし、敷物が外されるとき、小さく「ありがとう」が聞こえた。

空気はまた重くなった――けれど暑さではない。緊張でもない。人の気配が満ちる重さ。落ち着いてくる類の重さ――邪魔ではないが、確かな変化。今は全員が話しているわけではない。けれど、新しい姿勢のままでも、私は彼らから離れたとは感じなかった。彼らは休憩し、私もそうすべきかもしれない。

女のひとりが、たたんだメロンの切片を隣の少女に渡し、少女は言葉なくそれを私に回した。

私は微笑み、軽く頭を下げて受け取った。

背後では誰かが長い葦を編み始めていた。すでに半分以上できている。規則的に裂き、撚る手つきが、棚田の外のかすかな風と歩調を合わせる。

誰も誰かを呼ばない。誰も立ち去らない。

私はもう一行だけ写し、それから膝を伸ばすくらいに背を預けた。

スカーフの女がまたこちらを見る。「ねえ。」と呼びかける。「その紙が終わったら、乾き物の計数を一緒に確認して。あなたの目は私より確かだ。」

私は一度うなずいた。嬉しさがそのまま笑顔になった。「うん!」

在庫の帳簿を手伝うのは大好きだった。そこからいろいろ学べる。半島じゅうの日々の暮らしが、小さな物語になっているから。

彼女は私の勢いに、疲れを帯びた笑顔で礼を言い、小さく満足げに鼻歌をもらして、細い茎――ごぼうかもしれない、違うかもしれない――の皮をむく作業に戻った。

「そうやって始まるのよ。」と別の女が、彼女に囁くように言う。「来週には交替記録を仕切ってるわ。」

娘のひとりが、風が強まったのに合わせて戸口へ移り、風に髪を戻してもらうように立った。目を閉じ、体を伸ばす。

「そうだといいけどね。」最初の女が答える。「この手じゃ、もう固くなってきた。」

それには誰も答えなかった――道具を畳む音、紙が擦れる音、外から誰かの笑い声が遠く反響するばかり。

私が紙へ視線を戻したときには、少女はもうしばらくのあいだ私を見ていた。脚を折り、片手で浮き出し模様の紙束を支えて。

彼女は一度も口を挟まなかった――帳簿の話が出たときでさえ。だが、紙縁に置いた指の軽さで分かった。彼女は待っていた。焦ってはいないが、準備はできている。

「続けたい?」私は小声で尋ねた。

彼女はうなずき、控えめに顔を明るくした。

しばらく、私は何も言わなかった。

周りの静けさはまた落ち着いたが、沈黙ではない。女たちはまだ低く囁き合い――誰かは手をすすぎ、別の誰かは木箱を日陰に引き入れている。外の男たちは声を大きくし、堤の漏れをどう直すかで言い合い、道具を持ち替えるか、日没前に斜面の錘を見に下りていくのだろう。そして姿が消えた。

斜面の高いどこかでセミが鳴き始めた――長く上がっていく声は、やがて催眠のようになる。

葉と板のあいだ、気づかなかった取りとめのない思考と衣に触れる風とのあいだ、その鳴き声が空間を満たす。

しばらくすると、それは独立した音ではなくなり、光や空気の一部になった――腕の下の木のぬくもりや、外の竹のやわらかな揺れと同じ、ただ“ある”もの。急がない。夏の気配。

私は紙を机の上で整え、スタイラスを取った。

「よし。」私は言った。「また始めよう。」

彼女の目が一瞬こちらを見る。

「ほら。」私は示した。「これを見て。」

私は数字をきっちり並べて書き始めた。「君の求めてる地図に似てるかもしれない。」

(⠁=1, ⠃=2, ⠉=3, ⠙=4, ⠑=5, ⠋=6, ⠛=7, ⠓=8, ⠊=9, ⠚=0)

⠚: ⠚⠚ ⠚ ⠚ ⠚ ⠚ ⠚ ⠚ ⠚ ⠚ ⠚

⠁: ⠚⠁ ⠃ ⠉ ⠙ ⠑ ⠋ ⠛ ⠓ ⠊ ⠚

⠃: ⠚⠃ ⠙ ⠋ ⠓ ⠚ ⠃ ⠙ ⠋ ⠓ ⠚

⠉: ⠚⠉ ⠋ ⠊ ⠃ ⠑ ⠓ ⠁ ⠙ ⠛ ⠚

⠙: ⠚⠙ ⠓ ⠃ ⠋ ⠚ ⠙ ⠓ ⠃ ⠋ ⠚

⠑: ⠚ ⠑ ⠚ ⠅ ⠄ ⠉ ⠑ ⠚ ⠅ ⠄ ⠉

⠋: ⠚⠋ ⠓ ⠑ ⠛ ⠚ ⠋ ⠓ ⠑ ⠛ ⠚

⠛: ⠚⠛ ⠁ ⠃ ⠉ ⠙ ⠑ ⠋ ⠓ ⠊ ⠚

⠓: ⠚⠓ ⠁ ⠑ ⠃ ⠋ ⠉ ⠛ ⠙ ⠊ ⠚

⠊: ⠚⠊ ⠁ ⠋ ⠙ ⠑ ⠃ ⠓ ⠉ ⠛ ⠚

私は各行のいちばん左の数を指した。「同じ数を自分に足していくと、動きの形が『くらい』の中に見えてくる。」

「今回は数は足さない。」私は言った。「点の群れ一つがセル。豆の莢みたいに。たくさんのセルで一つの畑。畑は『くらい』でできている。」

彼女は真剣にうなずいて聞く。

周りの何人かも聞き始めたが、私は彼女に教えることに集中した。

「足すのは“段”だ。成り行きじゃなく“動き”をなぞってほしい。どうなったか、ではなく、どう動いたか。」

彼女は手本を引き寄せ、縁を親指で一度なぞった。

「正しいかどうか、どう分かるの?」

私は彼女を見た。「分からないよ。でも、形が釣り合って感じられるなら――飛ばずにそこへ至れた“感じ”があるなら――たぶん近い。」

彼女は少し目を細め、うなずいた。「わかった。一歩ずつ。」

私は格子の端にスタイラスで線を引いた。

「これは表面だけ。」私は言う。「形だけ。着地点は教えてくれるけど、どう辿り着いたかは教えない。」

彼女は眉をひそめた。「それ、さっき言った。そこが嫌い。」

私はやさしくうなずいた。「分かってる。だから今、別のことをやってみる。」

私は白紙を引き寄せ、三つのセルを横に描いた――形が保てるくらい太く、縁は細く。

「見てて。」

「一から始めよう。」私は最初のセルを叩き、こう描いた。

⠁――点1だけ。

「次は五を足す。」⠑――点1と点5。

合わせて:⠁ + ⠑ = ⠋ → 点1 + 1, 5 = ⠋(点1・2・4)。

「これで六。」

「じゃあ六を引いてみよう。」⠋ − ⠋ = ⠚。

「ゼロ。」私は言った。「ゆりかごに戻る。」⠋ − ⠋ = ⠚――点なし。

彼女は身を乗り出した。「それは分かる。」

「次は十一を足そう。」私は言った。「でも十一は“十と一”。」

「じゃあ繰り上がり?」

私は笑ってうなずいた。「そう。『一』がゼロに加わる――⠚ + ⠁ = ⠁。でも、そこで終わらない。」

私は隣のセルの上に薄い印をつけた。「十の位が目を覚ます。」

コツン、と軽く示す:(十の繰り上がり:1)――フィールドの中には見えないが、暗にある。

「十はこう書く。⠼⠁⠚。じゅう。だから、⠼⠁ + ⠁ = ⠼⠁⠁、これは“じゅういち”。」

私は二つ目の声をそこに添えた:繰り上がりの 1 → 新しい畑で示す:⠁。

「ここで“ばい”にする。同じ数をぐっと増やすとき『×(かける)』って言う。」

私は漢字で書いて見せた――ばい

「でも、何も変わってない。」彼女は言った。「どうして『倍』って呼ぶの?」

あまりのもどかしさに、私は笑ってしまった。「分からない。私もいつもややこしいと思ってた。」

しばらく考えてから白状した。「本当の“二倍”じゃ、まだない。ただ“それ自身”なんだ。『一倍』って、もう一度その数を見るってこと。変えるんじゃなく、両側から掲げ直す感じ。」

「鏡みたいに?」

「時々はね。」私は言った。「あるいは、バケツを片手からもう片手へ渡すみたいに。水は同じ。形も同じ。けれど動かして、真が保たれるか確かめる。」

彼女はまた眉をひそめた。納得しきれない。

「じゃあ、鏡を鏡に向けたら?」私は続けた。「映るものが増えるわけじゃない――でも反響エコーする。写しの中に写し、さらにその中に写し。同じ形。同じ“自分”。同じ像。でも見続けるほど、背後の空間は果てしなく続くように見える。数が増えているんじゃない。ただ“自分をもう一度見せている”だけ。」

私は両手のひらを向かい合わせて見せた。「でも鏡が一枚だけなら? 反射は起きない。鏡は鏡のまま。それと同じ。」

「おおーーっ。」彼女は声を上げた。ついに腑に落ちたらしい。「うん、分かった!」

私もほっとして勢いよくうなずいた。

「だから“2倍、3倍…”って書くとき、数に『もう一度自分を見せて』と頼んでる。それで畑(位)は動かない。でも“2(に)”――にばいを使うと動く。今度は“姿を見せる”だけじゃなく“何かになる”よう頼むから。そこで繰り上がりが始まる。」

「つまり、動けって頼んだ時だけ“跳ぶ”んだね。」

私はうなずいた。「そう。『一』は“存在”。『二』は“運動”。」

彼女は無言でそれを書き留め、下線を引いた。

「もう一度見て。」

一の位:⠁ * 2 = ⠃ → 点1 → 点1と2になる。

十の位:繰り上がり ⠁ * 2 = ⠃。

だから今は:十の位に ⠃(20)、一の位に ⠃(2)、合わせて ⠼⠃⠃。

「⠃はいつでも“2”じゃないの?」

私は慎重にうなずいた。「2だけど、ここでは“二十”。この場所に座ると、二十の意味。」私は一の位の上を軽く叩いた。

「じゃあ、次は?」

「割る。」私は言った。「全体――二十二――を二で割る。」⠼⠃⠃ / ⠃ = ⠼⠁⠁。

私は仕切りの枠を描いた。「十の位から。⠃ → ⠁(十)。一の位:⠃ → ⠁(一)。『半分ずつ』で一つずつ残す。」

一つ(十)と一つ(個)――合わせてまた⠃。でも今度は、二つの場所から来た。

彼女はもう一度ゆっくり描き、各点をなぞった。

「川の全体を見なくていい。」私は静かに言った。「身体が流れを覚えられるだけの“飛び石”が見えれば十分。」

彼女は形に目を戻す。

⠁ → ⠑ → ⠋ → ⠚ → ⠁ = ⠼⠁⠁(繰り上がりあり)

あるいは

⠃ は(1 * 2)→ ⠁ * ⠃ = ⠃

「もし途中で落ちたら?」彼女がそっと聞く。

「泳ぐ。」私は言った。「次の石を見つけるまで。」

彼女はかすかに笑い、首を傾げる。「じゃあ“表”じゃなくて、“道”なんだ。」

「うん。」私は言った。「そして道を全部覚えてる人はいない。父さんは、もうすぐ覚えられる日が来るかもって言うけど、今は“拍子”がいちばんの案内役。十分に歩けば身につく。」

私は小さな端紙を取り出した。「見せたいものがある。ここを見て――」

(⠁=1, ⠃=2, ⠉=3, ⠙=4, ⠑=5, ⠋=6, ⠛=7, ⠓=8, ⠊=9, ⠚=0)

⠼⠉⠉⠉⠉ − ⠊⠋ は ⠼⠉⠃⠉⠉ + ⠙――⠼⠉ ⠃⠉⠛。

「3333 − 96 は 3233 + 4、つまり 3237、だよね?」

彼女はうなずき、こちらを見上げた。首を傾げて。「…うん?」

私は 7(⠛)を指した。「君はずっと“地図”を探してる。私は地図の一部は渡した。でも、本当に探してるのは――たぶん、これ。」

私は“数え”を並べ、その下に**位取り記号くらいどりきごう**を書き添えた。


零(0)、いち(1)、に(2)、さん(3)、し(4)、ご(5)、

ろく(6)、しち(7)、はち(8)、きゅう(9)、じゅう(10)。

じゅうひゃくせんまんおくちょう

どこか、彼女はそれを知らないのでは――そんな気がして、私は一呼吸置いて彼女に噛みしめさせた。筆先を硯の縁にそっと凭れさせる。

彼女が落ち着いたのを見計らって続けた。

「じゃあ、これを――九十六きゅうじゅうろく。Ninety-six。『九つの十』と『六』。」

彼女はうなずき、口の中でそっと繰り返す。

「次は――三千三百三十三(さんぜん さんびゃく さんじゅう さん)。長く見えるけど、規則的――三千、三百、三十、そして三。」

彼女の目が丸くなる。「三がいっぱい。」

私は笑った。「ね。でも型が分かれば、何だって組める。」

私はゆっくり筆を取り、彼女の書き付けの横にこう書いた――三千二百三十七。

「これも似てる。さんぜん にひゃく さんじゅう なな。階段の刻み、聞こえる?」

ちょうどその時、風が障子の隙をくぐって、湿り気を帯びて温かく流れ込んできた。

彼女は私を見上げる――今度は迷いではなく、考えている眼差し。

私は待った。彼女の中にしばらく置かせてから、続きを言うために。

「さっきの“地図”では、一の位を見た。すべてはゼロから始まる。」

私は ⠚(れい)と書いた。「これは『十の勘定で測る』っていう合図だ。ちょうど“ブッシェル”に入れるみたいに。」

彼女は眉をひそめた。「でも、ブッシェルって“重さ”じゃないの?」

私は笑った。「その通り! よく知ってるね。でもブッシェルは**“ラベル”**でもある。値じゃない。私たちが“何をしているか”を思い出させる札。“どれだけ数えたか”じゃなく。」

彼女の皺が深くなる。「つまり……何だって“札”になれる? そしてどんな札でも“一”になり得る? でも“一”は一個ってだけじゃない――“ひとまとまり”ってこと? ブッシェルみたいに? じゃあ“一”は一のまま、でも“小さな一たち”がたくさん入ってる?」

私は――慎重に――うなずいた。「じゃあ**位(くらい ༶)**って何?」

私はもう一度筆を墨に浸し、しかし書かずに置いた。

「**くらい**は“位置”。」私は彼女が書き写した印に目をやりながら言う。「鉢が一列に並んでいるみたいなもの。中身はまだ分からない――けれど、鉢がどこに座っているかは分かる。」

私はいちばん右の桁を指さした。「ここが“一の鉢”。ここにあるものだけを数える。」

次を指す。「これは“十の鉢”。さらにその次は“百”。」

もう一度彼女を見る。「数を言うってことは、その鉢に物を入れていくこと。何も入れないこともある。でも鉢はいつも“そこにある”。それが“プレース”。」

私は一拍置いた。「物そのもの、ではない。物が着地する“場所”。――この点みたいに!」

強調のためにもう一度 ⠛ を書いた。

「待って――じゃあ点自体は全然変わらないの? でも、座る場所だけで価値が上がるの?」

彼女の声は、半ば感嘆、半ば疑念――少しばかり掟破りを目撃したような響きを帯びていた。

私はにやりと笑った。「そう。」

紙を指でそっと押して向きを揃え、二人で同じ方向から見られるようにした。

「点は同じ――でも“座る場所”がすべてを変える。」

いちばん右端の点を軽く叩く。「ここなら、ただの七。」

次の桁を叩く。「ここなら、七十。」

私は彼女を見た。「同じ印でも、座る席が違う。祭りの踊り子みたいに――一人ひとりは変わらなくても、舞台に上げれば、突然みんなが目を向ける。」

私は小さく笑った。「数も、そういうところがあるんだね。」

彼女はぱちぱちと瞬きし、それから短く笑い、うなずいた。もう馴染みのある何かにうなずくように。

「じゃあ……。」私は言って、また数字を書き並べた:⠚, ⠁, ⠃, ⠉, ⠙, ⠑, ⠋, ⠛, ⠓, ⠊, ⠚。

「……“地図”は特別なものを示す必要がある。」

数字を指しながら続ける。「これは“地図”を教えてはくれない。教えるのは“動き”と“重さ”。各場所がどれだけ重いか、どれだけ満ちているか。」

それから計算も書き直した。⠼⠉⠉⠉⠉ − ⠊⠋ = ⠼⠉ ⠃⠉⠛。

「これはもっと見せてくれる。動きが見える。でも、まだ足りない。そうだよね?」

彼女は嬉しそうに勢いよく首を振った。目に希望が灯る。

「うん! ずっとそれを言ってるの。」

私はうなずいた。「それは私も気になってる。」

ため息をつき、どう見せるか考える。「“位”が何かは、もう知ってる。鉢でできてることも。魔法の鉢だ。じゃあ、点は“真珠”って呼ぼう。真珠を鉢に入れると、場所が変わるごとに、もっとたくさん入る……そうだよね?」

彼女はうなずいた。「うん!」

私も頷く。

「よし。鉢の中身は、⠚ から ⠚ までで数える。ここが手がかり。地図の“端”をまたいだときが分かる。“その地図”じゃない。ひとつの地図。家の中を歩き回るみたいに。部屋がいっぱいになったら、次の部屋へ行く。……でも、待って。」

私は ⠉⠉⠉⠉ を指さした。

「ここでは――」⠉「――が、こうやって下がる……」⠃「……“三”でいられないほど空になったときに。」

彼女は身を弾ませた。「水が抜けるみたい!?」

私はうなずいた。「まさにそれ。」

私は ⠼ ⠙⠉⠃⠁ と書いた。

「見える? 四、三、二、一。三が空になった。あの“場所”は“いくつの三があるか”を教える。じゃあ、いくつだった?」

彼女は指を折って数えた。

彼女は ⠉⠉⠉⠉ と ⠉⠃⠉⠛ を見比べ、唇を動かす。

それから片手を上げ、中指に親指を触れた。

「ここが“百”の桁。」彼女はつぶやいた。「つまり、さっきは三……で、今は二……」

親指を指の付け根へ下ろし、ゆっくりうなずく。「三百。百がこぼれた。」

少し間を置いて付け加える。「いや、百の“いくらか”……かな。全部は見えない。だから“三”を“二”に変えるんだよね?」

私は彼女を見つめながら微笑んだ。「そう! いいね。で、いくつ残った?」

彼女はまた指で示し、中指に一度触れる。「二百。」

それから親指と小指を手のひらに折り込む。「十が三つ。いちが七。」

手の力を抜き、手のひらを開く。「ただの数え上げじゃない……“積み重ね”。場所が違えば、箱の大きさも違うってこと?」

私はさらに笑みを深め、前のめりにうなずく。「そして“積み重ね”が、何が変わったかを教えてくれる。」

彼女はまた紙を見る。点と鉢。

「つまり、“三”が“一”へこぼれた。」彼女は自分に言い聞かせるように言った。「でもそれで、数全体は軽くなった。形が変わった。だから“フィールド”って呼んだの? 畑の形が変わるから?」

「そう。」私はやさしく言った。「部屋替えと同じ。ある部屋が空になり、次の部屋が意味を引き継ぐ。数字は“完璧な記録”じゃない。話すための方法。」

彼女はうなずき、でも眉をひそめた。「……でも、引き算なのに“足した”よね。どうして?」

私は瞬きをして――そして笑った。「えっ!? ああ――そうか。」

少し身を引いて、にやりとする。「気づいたんだ?」

彼女はすばやくうなずく。目は輝いたまま、でもまだ眉間に皺。「『3333 から 96 を引くのは、100 を引いてから 4 を足すのと同じ』って言ったよね?」

告発とも質問ともつかない調子。

私はうなずき、両手のひらを半分上げた――降参の仕草みたいに。「言った。」

それから微笑む。「……それが“君の地図”。少なくとも、その手がかり。」

「ふうん。」彼女は見つめながら声を漏らす。困惑の相。

「でも、決まってるより“多く”取ったよ。少なく取るべきじゃないの?」

私はまた笑った。今度は静かに。「私も最初はそう思った。変だよね。取りすぎたのに、“引いて”直すんじゃなく、“足して”直すなんて。」

彼女の皺がさらに深くなる。「逆じゃない?」

「そうでもない。」私はまた紙を軽く叩く。「私は“答え”を変えてない。変えたのは、そこまでの“道筋”。見てて。」

私はゆっくりともう一度書いた。

3333 − 96 = 3333 − 100 + 4 = 3233 + 4 = 3237

まだ腑に落ちていないのが分かった。数字そのものじゃない。常識として数字は見えている。問題は“物理”だった。どうして“最初より多い水”が現れるのか? どうして“持っていた以上”に着地できるのか?

彼女は身を乗り出して見ている。

「これ全部、水の流れだと想像して。大きな池があって、水はぜんぶそこへ入る。でも池には“九十六”までしか入らない。私はさらに四を足した。魔法みたいだよね。池はそれ以上入らないのに、わざと通り過ぎた。家を一筋行き過ぎて、引き返すみたいに。」

私は 3333 − 100 + 4 を指した。「もし、池が水を吐き出している最中に“水を足したら”、吐き出される水を測るとき、どうなる?」

彼女ははっと息を呑む。「池が実際より多く入るように“数えちゃう”!」

私はうなずいた。「そう。」

彼女は瞬きをして、口元にごく小さな笑み――鍵が回ったみたいな表情。「じゃあ、“足す”って、向きを変えること?」

私は少し考える。頭の中で水の流れの比喩が動く。

それからうなずいた。「うん!」勢いよく言う。「行き過ぎて、戻る。戻りの長さが“プラス4”。」

彼女がそれを飲み込むのを待ってから、付け足す。「それに、池から“ある以上の水”を取ったなら、返さないといけない。誰も泥なんて飲みたくないから。」

彼女はくすくす笑いながらも、ちゃんと聞いている。

「“プラス4”は――借りすぎた分を“返す”ってこと。」

彼女はしばらくうなずいていたが、やがて目がまたひらめきで光った。

「でも、この引き算は、あなたが今まで教えてくれた“地図”と合わない。」彼女は小声で言った。責めるというより、ゆっくり気づいた、という調子で。「同じ地図じゃない。」

私もゆっくり、同じ結論に近づいていた。

「その通り。」私は静かに言った。「いま私たちが読んでるのは“直線的”なやり方。だから嘘っぽく感じる。数は“線の上の動き”を伝えない。数は、移ろう部屋を流れる水で、容れ物を替え、こぼれ、受け止められる――その全体は、決して一度には“見えない”。」

彼女はしばらく黙ったまま、筆の側面を唇に軽く当て、それから私が数字の行を書いた端紙に手を伸ばした。

「もし……。」とつぶやく。声はそこで途切れた。

彼女は紙を横向きにし始める――もはや列としてではなく、斜面として扱うように。

そして描き始めた。

最初に――鉢。

次に――右下がりに、もう一つ。

さらに――もう一つ。三つ、いや四つ。

それぞれの鉢に、小さな真珠を描いた。空の鉢もあれば、満ちた鉢もある。

一つ目の鉢には九。二つ目にはゼロ。

そして、やわらかな線――曲がり、ひとつの鉢の縁から次の鉢へと落ちていく線を描いた。

「これは“数”じゃない。」彼女はほとんど自分に向けて言った。「数がすること。」

私は無意識に身を乗り出していた。「どういう意味?」

彼女は顔を上げ、もう混乱ではない何かで目を輝かせていた。

「これ。」彼女は鉢のあいだの弧を指す。「これが“引き算”の見え方。何かを“引き抜く”んじゃなくて――“出ていくのを見て、別の場所へ着地する”のを見る。」

真珠が落ちるところに、小さな“はね”を描く。「これが“繰り下がり”。でも足し算のときじゃない。ひとつの鉢が抱えきれないほど“多くを取った”とき……こぼれる。」

私はその絵を見つめた。完璧でも、整然でもない。けれど……真実だった。

「でも、これは“君の地図”じゃない。」私は静かに言った。

彼女は驚いたように私を見る。「……うん。」

「これは始まりにすぎない。地図にはもっと要る。鉢に“元は何が入っていたか”も示さなきゃいけないし、“どれだけ遠くへ落ちたか”も。」

彼女は最初の鉢に薄い“幽霊の真珠”を描き、つぎに点線を引いた。鉢と鉢のあいだではなく――すべての鉢を横切るように。

「“動く前はどう見えていたか”を忘れないように。」

私は唇をそっと噛んだ。彼女の言うことを深く考えながら。

「でもそれは――」反論しかけて、ふと何かに気づいた。「うん……。」私はゆっくりうなずく。「分かった。」

彼女はまだ答えそのものを覚えようとしていた。

私は首を横に振った。「七に何を掛けたらいくつ、なんて覚える必要はないよ。」と言った。「どこへ行き着くか、もう知っているなら。」

彼女が不思議そうに私を見る。「でも、知っておかなきゃだめじゃない?」

私は首を振った。「自分の“しまい”がどれくらいの大きさか――そして、これから向かう先の“倉”がどれくらい必要か――それだけ知っていればいい。」

私はまた格子を指さした。「見える?」

最初に彼女に見せた地図の“七の列”を軽く叩く。「ここから出て、戻ってくる。ゼロからゼロへ。いつでも。折りたたまれてるみたいに。」

私はそれを書き直し、反復を取り除いた――

⠚: ⠚ …………………………….. ⠚

⠁: ⠚⠁ ⠃ ⠉ ⠙ ⠑ ⠋ ⠛ ⠓ ⠊ ⠚

⠃: ⠚⠃ ⠙ ⠋ ⠓ ⠚ ………………

⠉: ⠚⠉ ⠋ ⠊ ⠃ ⠑ ⠓ ⠁ ⠙ ⠛ ⠚

⠙: ⠚⠙ ⠓ ⠃ ⠋ ⠚ ………………

⠑: ⠚ ⠑ ⠚ 、、、、、、、

⠋: ⠚⠋ ⠓ ⠑ ⠛ ⠚ ………………

⠛: ⠚⠛ ⠁ ⠃ ⠉ ⠙ ⠑ ⠋ ⠓ ⠊ ⠚

⠓: ⠚⠓ ⠁ ⠑ ⠃ ⠋ ………………

⠊: ⠚⠊ ⠁ ⠋ ⠙ ⠑ ⠃ ⠓ ⠉ ⠛ ⠚

彼女は指で弧をなぞった。「輪になってる。」

私はうなずいた。「そう。しかも、どこからでも輪を始められる。しかも“繰り上げ”はいらない。」

私は言った。「すでに鏡映ミラーになっているから。七かける三は“計算するもの”じゃない。地図の“位置”なんだ。八かける四も同じ。織物にちょっと似てる。長さをとって、折り返す。終わったときは――輪。」

彼女は少し眉を寄せた。「じゃあ数学はないの?」

私は唇をすぼめた。しかめ面というより、考えるしぐさで。「あるよ。でも、みんなが普通にやるやり方じゃなくていい。問題ぜんぶを頭に抱えない。“場所”を持つだけ。そして、折り返しの回数を足す。あとは“地図”がやってくれる。」

私は紙をまた軽く叩き、さっき彼女が見ていた数字――3333、96、100、そして 3237――をやわらかく丸で囲んだ。

「よく気づいたね。」私は言った。「普通とは違う。でも、うまくいく。私たちが“重さ”を動かしたから。」

私はかすかに笑い、彼女の眉間がまた寄るのを見た。「数そのものの重さじゃない。頭の中の重さ――私たちが**思い重ね(おもいがさね)**って呼ぶもの。」

彼女が瞬きする。「オモイ……?」

「思い重ね(おもいがさね) ༶。」私はやさしく繰り返した。「層になった思考、という意味。いっぺんには抱えきれないとき、私たちは段取りを覚えたり、準備ができるまで何かを“持ちこたえたり”する。そのたびに層が重なる。だから“重く”なる。」

彼女の目が少し見開かれる。

「だから、その重さは要らない。できるだけはね。」私は続けた。「でも、ときには“数を楽にする”ことじゃなくて、“手筋てすじ ༶”を与えるのがコツなんだ。」

私は書いて見せた――手すじ(てすじ) ✤。

彼女は首を傾げる。

「手筋 ༶は、“思い出された道順”。手が自然に知っている、よい運び。近道の一種――考えかんがえのう✤は、ちょっと“ゆっくり”だからね。」

私は紙を少し回し、手順をまた書き直した――3333 − 100 + 4。

「――ゆっくりゆっくりのう。」彼女は笑った。

でもうなずいて、また数字を見つめる。

私も笑いながらうなずいた。

「つまり……」彼女は静かに言う。「普通のやり方で詰まる代わりに、手筋 ༶を与える。そうすると軽くなる?」

私は満足げにうなずく。「うん。そうやって思い重ね ༶が積み上がるのを防ぐ。しかも、よい手筋 ༶を使えば、何も“抱える”必要がない。“賢く働く”、だよ。“がむしゃら”じゃなく。」

彼女の手が紙の上に浮かび、私の動きをなぞるみたいに動いた。

「全部は分からなくても……動く?」

私は少しやわらかく微笑む。「うん。良い手筋 ༶っていうのは、そういうもの。」

「じゃあ、私、ほんとうに良い手筋 ༶を作りたい。」彼女はまた言った――こんどは疑問形ではなく。

彼女は紙を自分の方へすっと引き寄せ、さっきよりずっと確かな手つきで筆を取った。

「分かっていることから始めよう。」私はやさしく促した。「すべてはゼロから始まる。」

私は左上に ⠚ の“フルセル”を描いた。

彼女はそれをなぞって写した――夜標よるしるしのように、各点を中空に、石版に打った印みたいに。

⠛: ⠚⠛ ⠁ ⠃ ⠉ ⠙ ⠑ ⠋ ⠓ ⠊ ⠚

「この行は?」私は尋ねた。

彼女はほとんど間を置かずに答える。「ゼロからゼロ。輪。七たち。」

私はうなずいた。「そう。じゃあ ⠛ × ⠋ は?」

彼女の眉がわずかに寄る――でも、もう少しで掴みそうなのが見える。

彼女は小さく指折りし、唇だけが音なく動く。「四十二。」

それから書いた――⠼⠙⠃。

私は小さくうなずく。「いいね。じゃあ ⠛ × ⠁⠋ は?」

彼女は今度は深くためらい、首を振った。「分からない。」

「大丈夫。」私はやさしく微笑んだ。身を少し寄せる。

「私たちの数は十で一巡りするよね。けど、十はたいていこう――」⠚。「“位(くらい ༶)”の中にいるとき。」

彼女は小さくうなずく。「うん……。」

私は隣の表を軽く叩いた。「しかも、一の位では各数がどこへ着地するか、もう地図にしてある。」

もうひとつ、うなずき。「ん。」

「じゃあ、“もっとたくさんの⠛が欲しい”――それが“掛け算”。」

私は首を少し傾け、声をやわらげた。「といっても、長い言い方で、“くり返し足す”ってだけ。」

彼女の視線は格子に釘付けのまま。

私は小さく息を笑いに変え、声を落とした。「こっそり教えるとね――七が六つで四十二なら……」

さっき彼女が書いた数字を指す。

「七が十こ――実際いくつでも――一の位は同じところに着地する。最初の“位(くらい ༶)”では、いつでも二で終わる。」

彼女の目がわずかに明るむ――まだ完全には分からなくても、答えの“形”を感じ始めている。

先へなぞろうとするのが見えた。

私は新しい端紙を取り、「やってみよう。」と言って、上に二つ書いた。

13 × 12。

そして、それをつぶもじ ༶でも――⠼⠁⠉ × ⠼⠁⠃。

彼女はそれを見て、次に私を見て、慎重に言った。「大きいね。」

私は微笑む。「そう見えるだけ。」

「足し算は、二人ともできるよね?」

彼女は笑ってうなずく。「うん……。」

私は小さな枠を書き、こう記した:

1 → 12 ⠁ → ⠁⠃

2 → 24 ⠃ → ⠉⠙

4 → 48 ⠉ → ⠙⠓

8 → 96 ⠙ → ⠊⠋

彼女はそれを眺めた。

私は左の列を軽く叩く。「これは“倍々”。1、次に2、次に4、次に8。次は?」

彼女は首を傾げる。「16。」

私はやわらかく首を振る。「8で止める。どうして?」

彼女は瞬きをした。「左の列でいちばん大きい数が、まだ“13 より小さい”から。」

私は笑い、すばやくうなずく。「うん、うん!」

左列の数字を指さす。「さて――この数字たちだけで“13”をどう作る?」

彼女はじっと考え込んでいた。すると指を指して言った。「一、四…そして八?」私は頷いた。「良いね。二じゃない。」私は二の上に線を引いた。「さあ、見てごらん」と言いながら、右の列の横にかすかな点を描いた。「12、48、96。ただし、君が残したものだけ。」彼女は指を追いながら、それぞれを円で囲った。「足し算してみて。」

彼女はゆっくりと計算した—12に48を足し、さらに96を加える。「156」と息を切らして言った。私は大きく笑った。「その通り!」

彼女はページをじっと見つめた。「だから掛け算してないんだ…」私は幸せそうに首を横に振った。「いつものやり方じゃないけどね」と言った。「どのステップが必要かを見つけて、それ以外は無視したんだ。」彼女は少し眉をひそめて、顔をしかめた。「まるで、数字が真か偽かみたい」と呟いた。私は何も言わず、微かに頷いた。彼女は二と二十四の線を指でたたいた。「これは偽。」私は円で囲んだ部分を指し示した。「そして、これが真。」彼女の顔は静かになった。「うん」と彼女は静かに言った。

風が少しだけ変わった—ほんの少しだが、背後の掛け布がゆっくりと揺れるのを感じた。その揺れは鈍く、だるそうだった。私は次のページを手に取り、手のひらで平らに伸ばした。筆は今、スムーズに動き、名前や傾斜角度を小さくて慎重な線でなぞった。近くで、ひしゃくが水に浸かった音がした。誰かが咳をひとつして、また静かになった。人々は立ち上がり始め、外に戻っていった。リズムが戻ってきた—ほとんど。

彼女はまたスクラップ紙の側面をたたいた。「二の列…」と呟いた。「それが交差しているのが気に入った。」

「どうして?」と私は穏やかに尋ねた。「すべてをカウントする必要はないということ。」と彼女は言った。すると私を見て、「でも、やっぱりそれを気づかなきゃいけないんですね」と言った。私はゆっくり頷いた。「では、16×7の答えはどうやって見つける?」

私は始めたページを見て、放っておいた…「それで」と私は軽く指の間で筆を動かしながら言った。「君はどうやって16×7の答えを見つける?」彼女の口は開いたが、また閉じた。「それは、私たちがやったことを越えてますね。」と彼女は慎重に言った。

「そう?」と私は尋ねた。「16についてはすでに何かを知っているよ。」私は前のチャートを指差した。「それは6より10多い。」彼女は再び眉をひそめ、少し明るくなった。「そして、7×6はもう知っている。」私は一度頷いた。「うん。」

彼女の手はゆっくりと動き、まだ書くのではなく、空中でなぞっていた。「7×6は…42だった。」私は⠙⠃と書き、彼女が指で数えているのを見守った。すでにこれについては説明済みだが、彼女が多くの方向を考えているのが見て取れた。私は彼女が忘れたことを気にしなかった。「そして、それが一の位でどこに着地するか?」と私は促した。彼女はグリッドを見て、微笑んだ。「2で終わる。」私は頷き、笑顔を見せた。「良い...そして?」

私は何も言わず、彼女がその数字をじっと見つめているのを待った。彼女の目は⠋から⠁⠋、そして再び地図に戻った。彼女は首をかしげた。「もし7×6が42なら…もっと7を加えたい…」私は少し眉を上げた。彼女は少し息を止めてから、息を吐き、首を振った。口が開きかけ、ためらいがあり、閉じて言った…「私は70を加えればいいのかな?」と。私は彼女の目を見た。「うん」と私は優しくうなずいた。「それは一つの方法だ。でも、もっと軽い方法かもしれない。」私は42を指さした。「10の位は何?」彼女は見た。「4。」

私は彼女のためにパズルのように数字を並べて書いた:⠁1, ⠃2, ⠉3, ⠙4, ⠑5, ⠋6, ⠛7, ⠓8, ⠊9, ⠚0

「それで、もしその位に7を一つ加えたらどうなる?」彼女は一瞬止まり、まばたきした。「4に7を足すと…11。」私は静かに微笑んだ。「そして、1の位はまだ2で終わるね?」彼女はすでに書き始めた。「だから…112。」私は頷いた。「それが答えだ。」

低い日陰の壁の近く、脇の方で、2人の少女が大きな盆を互いに渡していた—肩は湿り、髪は首に平らに暗く張り付いていた。胸を露わにしながら、チュニックを軽いトップスとスカート状の水着ラップに替えると、腹部はすでに陽を浴びていた。一人がサンダルを脱ぎ、石に叩いて砂を払った。両者の背中に日焼けの線がくっきりと浮かんでいた。近くの少年が笑いながら、カーキのショーツに縫い付けられた重いハーネスのようなストラップを調整していた。胸から上が淡く、まるで今洗い流したばかりのようだった。

他の少女たちが着替えるのを見ていて、そろそろ夕食の準備をしなきゃと気づいた。最近、潜水に行ってなかった。「だから、ランダムじゃないんだ…」少女の質問が私を現実に引き戻した。「もう答えは持ってたよ」と私は言った。「ただ、適切な質問を待ってただけ。」彼女は眉をひそめた—混乱ではなく、考え込んで。「1の位がどこで終わるかを教えてくれた」と私は言った。「10の位がどう育ったかを示してた。」

私は変化した数字を彼女が見えるように書き出した:

⠼⠋, ⠋⠁, ⠋⠃, ⠋⠉, ⠋⠙, ⠋⠑, ⠋⠋, ⠼⠙⠃+ ⠋ = ⠼⠁⠁— ⠁⠁+ ⠋=⠼⠁⠃⠃→ ⠼⠁⠃⠃122 × ⠋ = ⠼⠁⠁⠃⠃⠃182

彼女は紙の112の数字を指でたたいて、今度はもっと確信を持って言った。「もし11にもう一つ7を加えたら…18になる。」私は短く笑った。「その通り。」彼女は自分の手をじっと見つめた。「それは…182だ。だから26の7だ。」私は喜びながら応えた。「そうだ!そして、それを覚えておく必要はなかったんだ。ただそれに合わせて動けばいい。」

彼女は顔を上げて、まるで大きな人生の秘密を発見したかのように笑った!それは今まで難しく思えたが、もうすでに彼女にとっては身近なものとなった。「それはただの足し算じゃない。織りの中で自分がどこにいるかを覚えていること。」私はゆっくり頷いた。「リズムは使うたびにもっと馴染んでくる。1の位を循環して、10の位を登っていく。」彼女は深呼吸をしてから笑顔になった。「だから答えは本当に隠れていない…」彼女は言った。それは長年持っていた信念を手放したようだった。「ただ…私が追いつくのを待っていただけ。」私はそれを考えた。首をかしげながら、ゆっくり頷いた。「うん…うん。」私は再び筆を置いて言った。「それはほとんどのことに当てはまる。ハヌルの時間に合わせて... ༶ 空のタイミングに合わせて。」彼女は奇妙な表情を私に向けた。

柔らかい鈍い音と転がる音が続き、誰かが「—分かった!」と叫んだ。私たちは同時に扉の外を見ると、そこには何もなかった。ただ、倉庫に向かって伸びる砂が、午後の遅い光と落ちた種の殻で斑模様を作っている。風が再び動き、誰かが乾かすために掛けていた薄いシートが揺れ、裾がゆっくりと上がっては下がるように呼吸をするようだった。

彼女は再びループをなぞった。紙に筆が引っかかる音が私を再び戻らせた—6から16、そして26—彼女の指が紙の上をかすかに滑っていた。「だから、答えはすでにパターンの中にあるんだ」と彼女は呟いた。「大きな数字も。」私は静かに同意してうなずいた。「時々、私たちはそれに到達する方法が必要なだけ。」私は新しい紙片を彼女に向けて滑らせ、トップに新しい問題を書いた:3 × 14。しばらくの間、つぶもじは無視した。

彼女はまばたきした。「でも、それはわからない。」私は首をかしげた。「君は3×4を知っている。」彼女は頷いた。「それは12。」私は1と4を別々に指さした。「そして3×10は?」彼女は指で数え始め、そして止まった。気づいたのだ。「30。」

私は紙を指差した。「それなら、14をその部分に分けたらどう?」彼女はためらってから、ゆっくりと書いた:3×10+4は30+12?私は熱心に頷いた。何も言わずに、ただ笑顔を見せた。「42だ」と彼女は驚いて言った。「ふふ…」彼女は考え込みながら呟いた。「それは…ただ…分けてるだけだ。」

「うん、うん!」私は息を吐きながら言った。「私たちは数字をそのまま取る必要はないんだ。それを開ける、バスケットのように、またはそれを小さな部分に分けることができる。」彼女は一度頷いた。それからゆっくりと。「そして私はすべての部分をすでに知っている。」私も頷いた。「ただ、足したり引いたりする部分を忘れないように。」彼女は再び頷き、顎の下で筆を前後に転がしていた。

私はさらに何かを加えた:「3×5+11は何?」彼女は目を細めた。「15。」

「確か?」私は微笑んだ。「ああ—いや、待って…これは3×5、そして3×11。」彼女はリズムで数えるようにそれを呟いた。「15と3033…48。」私は少し背を反らせた。「それなら、君は本当に何をしたんだ?」

彼女は問題を再度見つめた。「私はそれを分けて…それぞれの部分を集めたんだ。」私はやさしく頷いた—あくびをしながら伸びをした。「それが掛け算のすべてだよ」と私は言った。「部分を正しい方法で集めること。それが私たちが物事にラベルを付ける理由。」彼女は小さく頷き、まるで心の中で何かを優しく積み重ねているようだった。「それなら、私は…何でも3×できる。」私は頷いた。「君はできるよ」と言った。「奇妙なことでも。」彼女は私の促しに思いつかなかったようで、私は優しくからかって言った。「例えば3×10,103?」

彼女は私が声に出して言った数字をじっと見つめた。「10,000…」彼女は繰り返した。一百…そして3?」私はもう一度優しく頷いた。「それを開けてごらん」と言って、紙を軽く指でたたいた。「中身は何?」彼女はゆっくり呼吸をしながら考えた。「それは10,000…いや—待って。一千一百…いや。10103。」彼女の眉がひそめた。「でも、それは大きすぎる。」私は首をかしげた。「それなら、小さくしてごらん。」

彼女は一時停止した。「…それが何でできているか分けてみる?」私は賛成する小さな音を出した。彼女はそれをゆっくりと下に書いた:3×10,103…10,000+100+3。

彼女の目が少し大きくなった。「それは許されているの?」私は眉を一つ上げて返事をした。彼女はわずかに微笑み、慎重に再び書き始めた。「10,000に3を掛ける。」と彼女はささやいた。「それは30,000。」彼女はそれを書いた。「100に3を掛ける…それは300。」彼女が立ち止まると、私はやさしく言った。「そして3×3は9だよ。」彼女はゆっくりとその部分を整えた…

30000+300+9=30309

風の音が外でターポリンを揺らし、テラスの向こう側で木々が軋む音だけが変化を示していた。いつもそこにあった音が、少しだけ引き締まったように感じられた。静かに集まり、あるいは中で行き来していた女性たちが、重要性を帯び始めた。数人が物を整え始めた。帳簿が閉じられ、ストラップが確認され、箱のふたが締められ、折りたたまれた地図が膝にぴったりと押し当てられた。ひとりが糸で束ねられたタグを取って、分類し始めた。

その女の子は、自分のページをじっと見つめるようにして、意味が変わったかのように見えた。それから静かに筆をその横に置いた。「こんなに早く終わるなんて思ってなかった」と、少し謝るような声で、でも誰にでもなく自分に話しているように言った。彼女は、自分が声に出していることに気づいていないようだった。私は何も言わなかった。喉が突然締め付けられるような感じがした。混乱と気づきが顔に現れ、認識がゆっくりと私の中で明らかになった。

前に、下のテラスを越えて広いターポリンが張られているのを見かけた。湿気で角が暗くなった、色褪せたキャンバスで、その端が下の緑の中に傾いていた。長くて低い。それが一時的な収納のためだと思っていた。何かを乾燥させ、上に運ぶまで…。

今、彼女の話し方を聞いていると、数を数えるときに言葉が内側に曲がり、母音が長く伸びすぎたり多すぎたりしていたことに気づいた。筆の動きがかな、でも数字には躊躇しない。その母親の声、海風に吹かれるキャンバスのように、途中で上昇して、音の流れがやわらかく、響いていた。下のターポリン。先ほど他の人たちが別のテンポで去って行った様子。無目的ではなく、少し離れたような足取り。後に続く静けさは空虚ではなく、出発の兆しだった。

私は気づいた。彼女は風の一族の一員だった。ベク(백)、ユン(윤)、ナム(남)、ハ(하)、チェ(채)か、最も可能性が高いのはイム(임/林)。家族が南東の崖近くに足場を組んだ、最後の収穫後の季節のことだった。強い足を持つ父親と、数を鳥のように彼に伝える少女。彼らの言葉は同じではなかったが、時間の流れは似ていた。

彼女はそこから来たのだ。おそらくサイクルの一員で—高地や小島から石や種、貨物を定期的に運ぶ人々。住民ではない。でも、見知らぬ人でもない。彼らの船がテラスの建設と収穫を楽にしていたが、彼らは決してそこに留まらなかった。彼らはただ、緑の中で鳴り響くものを置いて行った。彼らの家は遠く北のトロピカルな海に散らばった浅いターコイズの水の中、小さな島々、白い砂浜、澄んだ空が広がる場所だった。

彼女はもう一度その数字に触れた。それから突然、深く低いお辞儀をした。唇をすぼめ、私の目を見てもう一度お辞儀をし、その後、ページをゆっくりと折り畳み、先ほどのノートを押さえた平らな石の下に収めた。彼女の動きは慎重で、ほとんど礼儀正しく、でも呼吸が不規則になっていた。まるで大人の世界がまだ計画を持っていることを思い出したかのように。

「次のシーズンに戻るわ」と彼女は言った。「許されれば。」私は一度頷いた。「そうだといいな。」まだ追いつこうとしている自分がいた。「いつでも歓迎するよ」と私は急いで言った! 女性たち... 彼女の母親は少し後ろに立って、彼女にスペースを与えていた。私を好奇心で見て、それから微笑み、奇妙に親しみのある頷きをしてくれた。でも、彼女は気を散らしている様子だった。先ほどの女性が母親に、与えすぎだと穏やかに言っているようだった。それでも母親は何かをその女性の手に押し込んでいた。二人とも私たちには関心がなかった。

その女の子は静かに立ち上がり、手のひらを合わせるようにして、瞬間を優雅に締めくくった。それから私に向き直り、目は柔らかく、それでも前より少し輝いていた。「あなたのやり方が好きだった」と言った。「…見せ方。」私は少し止まって言った。「あなたの質問が好きだったよ。」私の声は意図せず柔らかくなった。ぎこちなく。彼女は少しためらった。それから一歩前に踏み出し、本能的な動きで、私の脇にわずかに寄りかかった。額が肩に軽く押し当てられ、それからまた引き戻された。抱きしめるのではなく、もっと静かな何か。

「アイユナ」と母親が柔らかく言った—穏やかに急かすように。女の子は振り向いた。「行って」私は言った。「あなたのノートを忘れないで!」彼女は頷いた。その口が少し震えた後、そして彼女は去っていった…

その後、しばらく座っていた。手を合わせ、指の間に顎を載せて、彼女が去った場所を見つめながら。足元の石はまだ温かかった。風が再び動き出した—強くはないが、ひとしずくの蚊を低く保つには十分だった。遠く下に、何か大きなものがゆっくりと霧の中へ消えていくのが見えた。ターポリンはもう見えなかった...

横にあったページがかすかに音を立てた—まるでその静けさを感じ取ったかのように。

誰かが私の後ろを通り過ぎ、きゅうりのスライスと梅酢が入った小さな鉢を置いていった。「まだ働いてるの?」と玉江が聞きながら、私の髪をなでた。私は顔を上げずにうなずき、少し後を追って彼女を見たが、すでに歩き去っていた。数人の子供たちが走り過ぎ、砂を蹴り上げていた。

風に乗ってミレットライスと川魚の焼けた香りが広がり、声がひとつになった。誰かがケトルの縁を二度叩く音—鋭く、そしてやわらかく—その後、浅いカップに水を注ぐ音がした。赤ちゃんが少し泣き出したが、すぐに揺れと優しい言葉で落ち着かされた。私はもう一つの傾斜を写し取ると、筆を上げ、その先を少し空中で止め、最後の光が上の梁から横に押し寄せてくるのを感じた。

「ちょっと休んでいかない?」誰かが呼んだ—近くはないけれど、遠くでもなかった。日焼けした肌に袖をまくった女性が低いところに広げられたお椀の近くで膝をついていた。彼女の声は温かく、でも軽く、あまり求めていないように聞こえた。「今日はもう十分だわ。君がやっていたことは、小さな子たちをずっと忙しくしてたもの。」私はその言葉に目を上げた? いや、私は…

それでも筆を下ろし、膝をついて横になり、半分横たわる形になった。足と膝を横に投げ出して、だらりと広がった。テラスの向こう側では、子供たちがクッションを引きずって、いびつな円を作り、 bowls を渡される前にすでにご飯に指を突っ込んでいた。遠くから短い笑い声が響いた。誰かが飲み物をこぼして風のせいにしていた。空はすでに柔らかい灰色に変わり、最初の星が薄く薄暮のベールの後ろで見え始めた。

私はゆっくりと自分の書類を集めた。もう急ぐ気はなかった。板は私を起こすように砂の中に浅い溝を残しながら立ち上がった。中央のマットの近くで、二人の若い女の子が平べったいパンのスライスを巻き葉の間に並べていた。私が近づくと、その一人は顔を上げ、無言で横に滑って場所を空けてくれた。私は彼女に微笑み、膝を組んで隣に座り、ふくらはぎの裏から砂を払った。彼女も疲れたように微笑んで、何も言わずに私にお椀を渡してくれた。

食べ物はシンプルだった—漬けた野菜、干し魚の一巻き、甘いあんこが少し塗られていたけれど、まるでそれが一日かけて自分を成すためにできたかのように味わい深かった。私はゆっくり食べながら、その料理と空気の温かさに包まれていた。テラスの外のどこかで、誰かが何かを弾いているリズムの音が聞こえた。

私たちはあまり話さなかった。夜は静かに降りてきた。人々は食べて、寄りかかり、そしてしばしば眠りについた。誰かが話をしていたが、全員に向けてではなく、数人がうなずき、数人が笑っていた。何人かの年長の少年たちは再び肘をついて、肩をぶつけ合っていた。

ランプが薄くなってきた頃、私は最後のページを折りたたみデスクに差し込んだ。それをレザーフォルダに入れ、筆を置いた。お腹は温かい食事でいっぱいだった。私は寝転がり、夜空を見上げてじっとしていた。星は今、もっとはっきりと見えた。米、肉、ランプ油の匂いが地面の上にほんのり漂っていた。私は両腕を頭の後ろに組み、深い息を吐いて目を閉じた。最初のカエルの声が聞こえてきて、眠りに落ちていった。

いつもの漁師の小屋を通り過ぎると、目の前に広がる青い海が煌めいていた。誘惑に抗えず、靴を脱いで砂浜に駆け出した。柔らかい砂が足の裏をくすぐり、海の縁にたどり着いた。

ためらうことなく、私は海の清涼感に飛び込んだ。冷たい水が私を包み込み、今日の疲れを洗い流して、純粋な興奮が私に満ちていった。私は優雅に泳ぎ、ダイビングをしながら、波の穏やかなリズムと調和していた。

水から上がるのには少し時間がかかった。肌を滴る水分が落ち、私は黄金色の太陽の光を浴びながら、満ち足りた心で空を見上げていた。時折、長い泳ぎの後に私を追いかけるような幸福感が私を包んだ。村が、魅力的な家々や賑やかな市場で呼びかけているようで、その隅々まで探求したくなった。

狭い砂の道を歩きながら、新しい霧に包まれた花々が飾られている窓の下を眺めていた。花の鮮やかな色合いや甘い香りが空気を満たし、村には静けさと安心感が漂っていた。私は田中家が営む小さなカフェに立ち寄り、蒸し立ての紅茶を楽しみながら、行き交う人々を眺めていた。


【とじ✿】♡


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