日記 61
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ᵕ̣̣̣̣̣̣ 日記 61
朝の棚田へ続く道は、思い出していたよりも長く、見た目よりも険しかった。畑のすぐ先から、緩やかに長く伸びる斜面が続き、水田にはクワイの薄紫の花が沈むように並んで咲いていた。砂利道には履いてきた草履がゆるすぎ、最初の曲がり角を過ぎてからは手に持って歩いた。足裏はすぐに土で色を帯びた。最初は乾いた黄土色の粉が道から付着し、その後は村はずれから松林の奥まで続く灌漑用の溝に沿った、銀色がかった細かい粉塵がまとわりついた。上の泉から流れ出る水は、私の横を素早く清らかに走り、細く音も立てずに己の道を保っていた。私はその水と並んで歩いた。どちらも静かに、どちらも長い道を選びながら。
棚田は、そこに踏み込むまで姿を現さなかった。高所から一度に全貌を見渡せる場所などなく、ただ浅い段が次第に扇のように広がっていくばかりだった。葦の足場や干し草のむしろが並び、かぼちゃや白ねぎの畑が霧の高さへとゆるやかに伸びていた。奥には半ば土に埋もれた家々があり、斜面に刻まれた石段は細い根に覆われていた。ここは「神々の縁」ではなかった――あの重圧はない。だが土地そのものが古く、長いあいだ見守ってきたような気配が漂っていた。太陽が届く前から石に温もりが宿る、その様子でわかるのだ。
私はオチさん、あるいは彼女の姉と会うことになっていた。どちらかは尋ねなかった。彼女たちは北斜面の一族で、谷では育たない作物――紫蘇༶やゴーヤ、私が名前も知らない山菜の根――を主に扱っていた。しかし彼女たちは同時に、保管用の印や干し草の札、古い方言の書物を守っていた。母は言っていた――そういう女なら、いつ写しを取るべきかを見極められるし、また、娘がいつ腰を据えてそれをきちんと行える年頃かも見抜けるのだと。
平らな机はすでに整えられていた。使われていない小屋の壁際に置かれ、二本の枝に渡された木枠の天幕に覆われて影をつくっていた。机の上には厚い樹皮のような紙が重しで押さえられ、青い布で包まれた筆、三つの蓋付き硯、そしてすでに湯気の消えかけた茶の椀があった。近くには正方形の編みござが膝をつくために敷かれていた。子どもの姿はどこにもない。ただ遠くに女たちが並び、柄杓でクロシェ(覆い棚)に水をやっていた。彼女たちは私を見た。一人が手を振った。私は軽く会釈してから腰を下ろした。
空気は肌にまとわりつくほど重かった。汗というより、まだ誰も足を踏み入れていない浅い湯船から立ち上る湯気のようだった。その湿気は、動かなくても午前のうちに袖の内側を湿らせるほどだった。尾根の家の裏の縁側から、南の田の斜面がちらりと見えた。そこでは水が空を映し取り、雲の切れ間ごとに灰色を返していた。海からは台風の前触れのような嵐雲がゆっくりと流れ込みつつあったが、急ぎではなかった。一日かけて姿を見せ続け、けっして到着しない種類のものだった。
家屋そのものは静かだった。すべてが木造で、長年にわたり足や肘が触れた部分は滑らかに、木目は濃く艶を増していた。床は、速く動いたときだけ低く軋んだ。柱と壁の間にはわずかな隙間があり、風が通り抜けられるようになっていた。屋根は高く掛けられ、呼吸するように傾斜していた。家の一部一部が暑さに抗うためではなく、暑さをゆっくりと、忍耐強く、葦の間を抜ける水のように外へ逃がすために造られていた。
私は東向きの障子のそばに座った。そこから時おり、棚田を抜けてきた風が縁に当たり、すぐに引き返していった。机は低く平らで、触れると温かかった。硯はすでに二つ出されていた。一つは濃い褐色に染まり、もう一つは苔のように乾く淡い灰緑色だった。脇には小さな水皿が置かれていたが、まだ触れていなかった。
机の上には封を切っていない手紙があった。
ただ「書き写す必要がある」とだけ伝えられていた。母の知人で田の記録を預かっている人が、尾根の協同組合から受け取ったが正確に読めなかったらしい。墨は濃く、言い回しは奇妙で、一部は朝鮮語、知らぬほど古い方言も混ざっていた。なぜ私にできると思われたのかは分からない。ただ頼まれたのだ。しかも「たいして時間はかからないから」「誰にでもできることだから」といった調子で――けれど最終的に、そういう頼みはいつも私のもとに回ってくる。
私は嫌ではなかった。家は涼しく、光は十分で、その務めには村独特の静かで動かぬ理屈があった。急ぎではないが必要。声高ではないが、確かに残るもの。
手紙は葦の結びで封じられていた。紐は湿気で縮れており、解くときには、まるで「急がなくてもいい」と待っていたかのように自然にほどけた。
中には厚手の紙が一枚折られ、四隅は文字の重みで押さえられていた。見慣れぬ文字列に思わず目を細めた。まず構造に気づいた――標高ごとの水田の区画、降雨の記録、虫害の索引は葉の図と並んだ小さな獣の頭で示されている。どれも不思議ではなかった。しかし文の調子が…
一行目は見たことのない形で終わっていた。二行目は、何か月も耳にしていない助詞を用いていた。三行目になると二度読み返さねばならなかった。理解できないからではない。理解の仕方が異なるように書かれていたからだ。
私は筆に手を伸ばした。まだ書き写すためではない。ただ注釈をつけるために。言葉の響きを聴くために。
紙目が変わると筆はやわらかく引かれた。抵抗ではなく、二つの流れが合流する水のように、わずかな厚みの変化として。古い文書の繊維は湿気で少し波打ち、重しを載せても持ち上がろうとしていた。天候のせいだけではなかった。こういう紙は、長く読み手を待ちすぎていたのだ。墨は灰色に褪せ、端の文字はいくつか滲んでいた。
私の務めは、それを明確にすることだった。修復でも改作でもない。ただ元の文書が安心して保管に戻されるよう、きちんと写し取ること。斜面の一族は記録の扱いに長けていた――帳簿を巡らせ、表紙を織り直し、冬には封を縫い合わせた――それでも墨は擦り減っていくのだった。
机は低い木製で、半ば使われなくなった穀物小屋の外縁に置かれていた。そこは棚田が北に広がる曲がり角だった。背後は静かな家、正面には緩やかな段が遠くへと弧を描いて開けていた。その場所からは海が見えた。近くもなく、騒がしくもないが、確かに在る。雲の切れ間ではまだ青く、平らであることをわずかな煌めきで伝えていた。その先には、かろうじて見える外縁の荒野が広がっていた――低い森は所々水に浸かり、規則的すぎる石々に絡みついていた。母はそこを「空ろの縁」と呼んだ。記録には大文字で記されないが、いつも名を持っていた。神々の領域はその奥に始まっていた。一日では歩けぬほど遠く、誰も口にはしないほど近い。
私は帳簿の三頁目で筆の運びを真似ていたとき、背後で小さな咳払いがした。振り向くと少女だった。九つか十くらい。日に焼け、胸に斜めがけの袋、腰には根の束を提げていた。棚田の子ではなかった――見覚えがない。だが水やりを手伝う子の服装だった。
「あなた、書き手なの?」と彼女は臆せず尋ねた。私は首を振った。「今日は手伝っているだけ。オチさんが、私の字はきれいだと言ったから。」彼女は一歩近づいた。「でも本当はそれが理由じゃないんでしょ?」私は顔を上げた。「どういう意味?」
すぐに答えは返ってこなかった。静けさが戻るのを待っているように。私が黙っていれば、興味をなくして去るだろうと願った。だが彼女はござの傍らにしゃがみ込み、紙を覗き込んだ。「試験なの?」
「試験?」私は紙を見直した。彼女はうなずいた。「そう、ああいう静かなやつ。後になって初めて試験だったって知らされるもの。」
私は笑った。「いいや。少なくとも、私にはそうは思えないよ。」
彼女は顎に指を当てて言った。
「おじさんはね、もう誰も古いのをちゃんとは読まないって言ってたの。あの紙に書かれてる墨の一部は、読むためのものですらなくて――人がどう読むかを記録するためのものなんだって。」
私は片眉を上げた。「それはどういう意味?」
「古い記録には、助詞を全部わかっていないと意味をなさない部分があるんだって。」
私は筆や木炭で引いた欄外の線、そして紙の端の丸まりに目を落とし、再び彼女を見た。
「隠し文字を探してるわけじゃないよ。」そう言いながらも続けた。「でも、君が間違ってるとも思わない。」
おそらく彼女の言いたいことは分かっていた。私たちも時々、木箱の札にちょっとした飾りをつけて書くことがあった。それが戻ってきたとき、その飾りが消えていれば分かる。何が? 多くの場合は――本物かどうか。
少女はござの脇にしゃがみ込み、私が木炭で下線を引いた箇所を覗き込んだ。
「それは何?」
「これは『に』だよ。」私は答えた。「どこかに物が行くとか、いつ何かが起きるとか、誰が受け取るとかを示す。文脈によって変わるんだ。」
彼女は首をかしげた。「道案内みたいな感じ?」
「時にはね。」私は言った。「でもそれだけじゃなくて、関係性を示すんだ。ものと場所のつながりを。」
彼女は袋からしわだらけのノートを取り出した。私は瞬きをした。それは古い帳簿のように見えた。革で大事に綴じられている。私はこの少女が何者なのか気になり始めたが、もし尋ねれば立ち去ってしまう気がした。彼女の姿勢全体がどこか守りを固めているようで、その質問は個人的な探求心から出ているように思えた。ずっと知りたかったことをようやく口にしている、と。そう考えると再び彼女のおじの話へと思いが向いた。彼女自身が書記なのか? 一族の収穫帳簿を任されているのか?
「残りも見せてくれる?」彼女の問いかけが現実に引き戻した。
私はまた瞬きをした。「助詞を全部?」
彼女はうなずいた。「ひとつ残らず。」
私に全部分かるだろうか…?
薄い雲の向こうで空が少し明るさを増し、葦の覆いから漏れた日差しが縞模様になって差し込んできた。私は紙を見てから彼女を見た。
「作業を続けながらでいいなら…」
「邪魔しない。」彼女は真剣に言い、すでにノートを新しいページに開いていた。
私は筆を再び墨に浸し、端に整った「は」を書いた。そして彼女を見た。
「これはね、始まりの印なんだ。」
筆は跳ねない程度の力を加え、しかし墨がにじまないよう控えめに。ゆっくりと線を引いた。この紙はすぐに乾く。樹皮繊維を混ぜた古紙は縁から中心に向かって墨を吸い込むので、筆を均等に走らせなければならない。私は「田は古い順に整えてあります✤」と書き終え、少女に読ませた。
「これが始まりって言ったやつ?」彼女は囁き、指先をそっと文字の下に触れさせた。「本当はどういう意味?」
「それはね、文が何について語っているかを示すんだ。主語じゃなくて、話題を示す印。」私は彼女のノートを見やった。「この文は田――つまり畑について。そしてそれがどう扱われているかを示している。だから最初に『は』で印をつける。『は』は話題を定めてから退くんだ。」
彼女はうなずき、すぐに書き込んだ。
「もし『この畑は広い✤』と言えば、その畑――他のではなく――が広い、と示す。」
「なるほど。」彼女は口を結んで言った。「つまり『は』は、手を置いて『これが今見ているものだよ』って示す感じ。」
「その通り。」私は次の行に移り、標高の記録について書き写した。下の段からはネギや川ミントの香りが漂い、風がようやく通り抜けた。少女はつま先で体をずらした。
「じゃあこれは?」彼女が別の箇所を指した。「見たことある…『が』?」
私は首を傾げて答えた。「それはね、存在の印だよ。あるいは、文の中で誰が行動したか、新しく現れるものを示すんだ。『は』が話題なら、『が』は前に出て何かをする役目。」
「例えば?」
私は周囲を見回し、小さくて確かな例を探した。「風が吹いた✤。」棚田の縁を示しながら言った。「風が吹いた。ただの風じゃない。それが何かをした、その風なんだ。」
彼女はすぐに理解したようだ。「つまり『は』は話題の畑で、『が』は実際に現れて動いた風。」
「そう。」私はうなずいた。「『が』も指し示すものだけど、もっと近くて焦点が当たる。」
彼女はページをめくり、両方の例を書き込んだ。
私は再び記録に目を戻した。そこは混乱していた――半分は見知らぬ方言で、残りは助詞が詰め込まれ、筆致の間に砂が入り込んだようだった。私は慎重にいくつか書き写した――「を越えて、の跡に、まで届く✤」。目が「を」に留まった。
「それは?」彼女がまた身を乗り出した。「『を』って?」
「それはね、通り道だよ。何に働きかけたかを示す。」私は指で一行を示した。「川の跡を見てから測りました✤。川の跡を見てから測った。『を見て✤』――つまり何を見たのか。『を』がそれを示すんだ。」
少女はうなずき、また書き込んだ。「じゃあ『に』は?」
「それはもう知ってるね。」私は笑って言った。「でももう少し例をあげよう。」文を探して指さす。「ここ――『日付に合わせて書き直すこと✤』。日付に合わせて。つまり『に合わせて』は、何かに調整するってこと。」
彼女はぱっと顔を上げた。「『に』って一つじゃないの?」
「いくつもあるよ。他の言葉と組み合わせると意味が変わる。『にとって✤』は『〜にとって』、視点を示す。『によって✤』は『〜によって』、原因や理由を示す。『において✤』は『〜において』、場面や状況を示す。器に入った水みたいに、その形によって変わるんだ。」
彼女は眉を上げた。「そんなにあるの?」
私は筆をとり、欄外に整った「に」を三つ、それぞれの形と一緒に書いた。
「十分にあるよ。読むたびに新しいことを学べるくらいにはね。」
彼女は少し不満そうに顔をしかめた。まるで私がからかっていると疑っているように。
下の段から大きな声が響いた。年配の女たちが豆棚にかけた布を引き締めながら、見えない誰かに声をかけている。湿った空気に反響して、声はやわらかに届いた。
彼女は少し後ろに下がり、ござの端であぐらをかいた。竹の床板が小さくきしむ。陽は木々の間から差し込み、動く縞のように手元を照らしたり、また陰にしたりした。私は紙を回し、尾根の影をちょうどよくずらし、薄れかけた漢字を読み取った。
そのあと、私は少しゆっくりと話した。彼女が追いつけるように。
「『は』『が』『を』『に』が終わったから、次は『へ』だね。」
彼女は眉をひそめた。「『へ』って『に』と同じじゃないの?」
「似てるけど、違う。」私はうなずいた。「『に』は到達点を示すけど、『へ』は方向を示す。到着じゃなくて、向かうこと。」
私は端紙に「学校へ行く✤」と書いた。
「学校へ向かう、という意味だよ。」私は説明した。「まだ着いてない。『に』なら到着。『へ』はただ体がその方向を向いてるだけ。」
彼女は首をかしげた。「じゃあ『道しるべ』みたいな言葉?」
「『向かう』だね。」私は繰り返した。「そのニュアンスが大事なんだ。」
彼女は唇を結びながら書き込み、「じゃあ『で』は? それも違うんでしょ?」と尋ねた。
私は彼女の直感に笑った。「『で』は、行為が起こった場所を示すんだ。」
私はさらに一文を書き足した――「村で育ちました✤」。
「村で育った。向いただけでも、到着しただけでもない。そこで全てが行われたんだ。」
彼女は満足げにうなずいた。「つまり舞台だね。」
「いい表現だ。」私は言った。「物語が展開する舞台だよ。」
私は文書に戻った。次の行には、北西の用水路の曲がり角――この前の大雨で灌漑の支流の一つが逆流した場所――について書かれていた。文中には「と」が使われていて、私は手を止めた。
「これは便利だよ。」私は言った。「『と』。二つのものをつなぐ。たいていは英語の “and” みたいに。でも引用にも、条件にも、ほかにも使う。」私は下線を引いた――「石と竹の支えを強化した✤」。
「『石と竹の支えを補強した』ってこと。」私は続けた。「どちらも含む。『と』がつなぐんだ。」
彼女は瞬きをした。「でも、それが引用じゃないってどうして分かるの?」
「動詞で分かる。」私は言った。「引用なら――『「行く」と書いてありました✤』みたいに、引用の直前に『と』があって、その後ろに『書く✤』とか『言う✤』みたいな動詞が来る。」私は少し間を置いて、欄外にもう一つ注を加えた。「それから、比較でも使う――『と比べて✤』。」
彼女は紙を見つめた。「どれも一つ以上の役割があるの?」
「たいていはね。」私は言った。「重たいのもあれば、静かなのもある。でもみんな顔が一つじゃない。」
彼女は記録の別の箇所――縦書きの訂正が幾重にも重なっている部分――を指さした。「『も』は? よく見るけど。」
「『も』は付け足す。」私は言った。「『〜も』『〜さえ』。似ているものをつなげる。何かが“ひとりぼっちじゃない”って示す。」私は分かりやすい例を書いた――「セイヨも来ました✤」。
「つまり『私も来た』ってこと。他の誰かだけじゃなく。」彼女はそれが気に入ったらしく、ゆっくりと、二度書き写した。
「これは?」彼女の視線がさっと下に滑った。「これは『の』。」
「それは所有、あるいは連関。」私は言った。「“〜の”――所属やつながり。名詞を、別の名詞を説明するかたちに変える。」
「例えば?」――名詞という言葉自体、彼女には伝わっていないのだと気づくような調子だった。
私は見慣れた語を指さした――「山の水✤」。
「『山の水』。」私は言った。「山に属する水、ということ。」
「それは簡単。」
「かもしれない。」私は言った。「でも、至る所に出てくる。」彼女はまだ腑に落ちない顔だった。私は彼女をノートに任せ、記録から次の句を書き写した――「草のように広がる湿地✤」。
のように✤――私は丸で囲った。
「ここからは複合形に入っていく。」私は独り言のように言った。
彼女が顔を上げる。「それも『の』の一部?」
「土台はそう。」私は言った。「何かを何か“のように”作る、という作り。Like / as / 〜のような・〜のごとく。」
彼女はまた首をかしげた。「直喩ってこと?」
「ある意味では。」
私は記録の次のページに手を伸ばした。そこには最下段の棚田――最後の曲がり角の先――の詳細があった。ここから先、田はぐっと落ち込み、遠目には野へと続く冠水した大地の細い帯のように平坦な伸びに開けていく。神々の地は今は見えない――直接には――けれど、樹上にたなびく叢林の霧の掛かり方が、その先に目に見えぬ距離――奥行きさえ――を示していた。
私は書いた――「あのあたりは✤、野生地のように見えるだけです✤」。
「見えるだけ。」私は自分に聞かせるように口にした。「いつも見かけ通りじゃない。」
少女はしばし筆を止め、片手に頬をのせて私と一緒に棚田を見渡した。この角度だと、斜面全体が途切れなく伸びているように見える――淡い緑、濃い緑、また別の緑が帯になり、ところどころに踏み跡と細い排水路が入り、手で据えた水路を通って山の水を運んでいる。最下段では、田がやがて蔓延る境界地帯へとやわらかに溢れ出すあたりで、地面がきらめいていた。熱ではなく、深みのせいだ。水面が静かすぎるとき、映り込みがぼやける、あの感じ。そこは灌漑の記録にもはっきりとは地図化されておらず、ただ斜めの矢印と短い一句――「神々の地に向けて✤」――があるのみだった。
私は一度読み、もう一度読んだ。「これはいくつも入ってる。」私は静かに言った。「『の』『に』『へ』――五文字の中に全部。」
彼女はゆっくり顔を上げた。「言ってみて?」
「『神々の地に向けて✤』――神々の地へ向けて。」私は指さした。「『の』は土地を神々に結びつける。『に』は到達点――斜面の終着。そして『向けて✤』――『へ』を土台にした形で、再び方向を示す。」
彼女は丁寧に書き取り、少ししてから尋ねた。「『に』はいつも同じ?」
私は首を振った。「ほとんど、同じじゃない。」
次の文書はひどく褪せていた。私は頭上の日除けを調整したが、雲が厚くなり、光はむらになって差し込む――ところどころ温すぎ、また別のところは暗すぎる。読めないほどではないが、厄介だ。私は一番はっきりした行を先に拾った――「日のために、水門を閉めた✤」。
「これはもう一つの形、『のために✤』。」私は言った。「『の』と『に』を土台にして、『〜のために』――目的・理由を表す。」
「『にとって✤』と同じ?」
私は笑った。「近いけど違う。『にとって✤』は“誰かにとって(の利益・観点)”。『のために✤』は“理由・目的”。」
彼女は両方を書き写し、それぞれの脇に小さな点を打った。完全に腑に落ちてはいないようだが、私は授業をしに来たわけではない。私は質問のあいまを縫って書き続けることに集中しようとした。数分のあいだ、実際にそうできた。彼女は形だけでなく、手触りでも並べ替え始めているのが見て取れた。
私はもう一行を取った――「雨によって崩れた✤」。
「これは『によって✤』。原因を示す。『雨によって崩れた』。」
「雨“から”崩れた、じゃないの?」彼女が尋ねた。
私は少し戸惑って黙った。雨のせいで崩れたのか、どうか? ――「ああ。」徐々に合点がいく。ニュアンスを伝えるのが難しい。「それでもいい。でも『(〜により)』の方がしっくりくる。形式ばった言い方。報告書に出てきて、日常会話にはあまり出ない。『from』だと“雨が直接当たって”という感じ、『due to』はもう少し背景を含む。」
「これは?」彼女がまた身を寄せた。「『において✤』?」
「文脈。」私は言った。「何かが起こる“状況・枠組み”を表す。単なる場所じゃなく、『どんな場所性の中で』か。」
彼女はまばたきした。「むずかしい。」
「むずかしい。」私は言った。「でも、定義するより、感じるはず。『この畑において』とか『その行事において』とか『その議論において』――何かを“概念の内側に置く”言い回し。」私は第三灌漑区の薄い灰色の行を指で叩いた。「ここ――『北段において水量が不足した✤』。」
彼女は指でなぞった。「つまり……上段で水が足りなかった。」
「そう。」私は言った。「でも“そこに”足りない、だけじゃない。『その標高帯という文脈において、水不足という事態が生じた』という言い方。地形や排水の癖、何を植えているか――全部が関わる。」
彼女はゆっくりうなずいた。「つまり場所じゃなくて、枠。」
「その通り。」
彼女は背をのけぞらせ、ノートのページをゆっくり繰った。「もう十個以上教わった。」小声で数えながら言う。「全部……違うのに、どこか同じ。」
「言葉ってそういうもの。」私はため息をつき、また筆を浸した。「意味は物と物のあいだで釣り合いを取る。ちょうどこの棚田が水を支えるみたいに。どこか一箇所に溜まらず、動く。」
少女はそれを考えているようだった。やがてうなずき、表情が少し和らいで、小さな声で聞いた。「次は?」
私は季節査定の節にたどり着いた。最初の文は明瞭だった。
「この評価は、村全体に関してのものであり✤、…」
私は一度止まり、きれいに訳し書いた――“この評価は村全体に関するもの…”――それから別の行に指を移し、その下を指さした。
「『に関して✤』。」私は声に出した。「関連・関与――“〜に関して、〜について”。」
彼女はさっと書き留め、顔を上げた。「半分いった?」
「まだ。」私は鼻で笑った。「頼んだのは君で、私じゃないよ。」そして言った。「速度を上げよう。」
彼女は小さく笑った。「いいよ。ついていく。」
私たちは実際に速く進んだ。彼女のノートは小さく密になり、ほとんど層をなすほどだった――助詞ごとに印をつけ、説明を書き、しばしば私が口にした例文が続いた。彼女はそれを写すこともあれば、耳だけで受け取ることもあった。けれど注意深く聴いていた。単に聞くのではなく、覚えようとするときの目つきで。
「これは――『に対して✤』。」私は要約から一行に下線を引いた。「『〜に対して』――応答・向き合い・対置。何かに相対し、直接向ける感じ。」
彼女はうなずいた。「ただ向き合うだけじゃないんだね。」そう言って身を乗り出し、じっと見つめた。
「そう。」私は答えた。「それ以上の重みがある。人と人を比べるときや、二つの側面を並べるときによく出てくる。」
彼女はその助詞に二重の下線を引き、私には読めないメモを横に書き込んだ。しばらく走り書きを続ける。
風がまた向きを変え、どこか下の方で誰かが打ち付け始めた――杭を枠に打ち込むような低く一定の音。近すぎて邪魔になるほどではなく、むしろ読書の歩みに溶け込んでいくような響き。私はその音を歓迎した。
筆を再び墨に浸し、私は書いた――「池を通じて確認された✤」。
「これは『を通じて✤』。『〜を通じて』――池を通して確認された、という意味。池が媒介になっている感じ。」
彼女が顔を上げる。「でも『を』って目的語って意味じゃなかった?」
「そう。でもこういう複合形になると、伸びる。助詞はそうやって広がるんだ。」
さらに一つ加えた――「をもとに✤」。
「『〜をもとに』――基づいて。」
「これは?」彼女はまた目を細めた。
私はうなずいた。「これからも似たものが出てくるよ。」
だがそのとき気を散らされた。墨が早く乾きすぎている。私は硯をそっとかき混ぜ、残りの紙束を確かめた。
帳簿の索引には、複合形が二十四残っていた。その多くは記録文書には再び現れないだろう。けれど私は全部確認することにした。彼女のために。そして、もしかすると自分のためにも。
「次。」私は小さく言った。「『に比べて✤』――比較だ。」
私は例を示した――「前年に比べて、湿度が高い✤」。
「去年に比べて湿度が高い。」古い記録には日付があったので、新しい紙に写した。
「この前言ってた、『に』が関係を示すっていうのと似てるね。」彼女が言った。
「そう。」私はうなずいた。「測られた差異。」
「『にわたって✤』は?」彼女が複合形の一覧に戻った。
私は保管袋から一枚を取り出し、そこにあった行を示した――「二ヶ月にわたって観測されました✤」。
「『〜にわたって』――範囲や期間を覆う。」私は言った。
「じゃあ『に限って✤』?」――彼女は急に困惑した顔になった。
「それはやっかい。」私は認めた。「『〜に限って』――限定、あるいは『こういう時に限って』という皮肉や意外さを含むことが多い。」
私は走り書きした――「今日に限って雨が降った✤」。
「よりによって今日、雨が降った――独り言みたいな文。」
彼女はにやりと笑った。「それ、好き。」
私は声を立てて笑った。「私も。」笑みを見せる。「ほら、次は『にすぎない✤』――『〜にすぎない』。」
私は加えた――「これは報告にすぎない✤。」――「ただの報告にすぎない。」
しばらく沈黙した。私は写しに戻った。単に文字を写すだけじゃない――もちろんそれも大事だが――配置も含めて。束になった文書はそれぞれ棚田の異なる区画を写していた――尾根の斜面、水の取入口、左欄に長く記された等高線の符号。私の仕事は内容を書き換えることではなく、全体の形――畑、標高の記号、境界の印――を新しい紙に移すこと。会合で扱うには原本がもろすぎるから。計測器具はない。ただ木炭と細筆と、新しい紙の裏にかすかに刻まれた方眼の押し跡。
古い図のいくつかは雨に打たれて滲み、また三度四度と修正され、墨の層が堆積のように重なっていた。私はどの印を残し、どの印を省くかを選ばなければならなかった。母がかつて言った――「余白と中心線が食い違うときは、自信を持って書かれた方を写しなさい。」
助詞に最も時間がかかった。難しいからではなく、使い方に人の考えが表れるから。何を重視し、どこで間を置いたのか。それも写さなければならなかった。文字だけでなく、その重みも。時には推測するしかないこともあった。
彼女は邪魔をしなかった。私が顔を上げたとき、まだそこにいて、自分のノートを見返していた。片足を折りたたみ、もう片方を微かに揺らしながら、風のリズムに合い始めていた。今は涼しく、雨の匂いを孕んだ風。私たちの間の沈黙は緊張ではなく、ただ二人とも大事なことをしていて、すぐには破りたくないときに生まれる沈黙だった。
空はわずかに薄暗くなっていた。太陽は尾根の上にあったが、雲は厚く柔らかい層になり、すべてが平板に見えた。明るいが、輪郭はない。光は動かずに移ろい、虫たちさえ静かになった――蔓の影のそばで長脚の虫だけが漂い、どこからともなく響く低いガラスのような羽音を立てていた。
棚田の向こう、さらに遠くでは、緑が青黒く深まっていた。野は形を保ちながら遠くにあり、迫るのではなく、ただそこにあった。その彼方、どこかに神々の地が霧の下でほのかに輝いていた。そこは決して動かない。けれど、それが目覚めているときはわかる。木々の傾きが変わるから。
私は木炭で斜面の線を整え、次の符号に入った。
「この列からはあと二つ。」私は言った。「『に際して✤』と『に加えて✤』。」
私は書いた――「移動に際して、注意をお願いします✤。」――「移動に際して、注意してください。重要な時点で。」
そして――「資料に加えて、図もあります✤。」――「資料に加えて、地図もあります。」
彼女はまたゆっくりと書いた。「なんだか積み重なっていくみたい。」
「そう。」私は言った。「私たちの言葉は内側から外へと積み上がる。意味は持つものなんだ。」
「追いかけるものじゃない?」
私は笑った。「ここでは、違う。」
私は残りの紙束に重しを置いた。風向きが変わり始め、紙の端を小さく不規則にめくり上げる――さらに重しを置いた。仕上げが近いところで台無しにしたくはなかった。最下段の近くでは、水鳥が根のあいだを慎重に歩いていた。脚は見えるが、頭は見えない。蔓がそれほど濃く繁っていた。
少女がまた身を寄せた。「あといくつ?」
「十分に。」私は疲れた笑みを返した。「十いこう。」ため息を抑えると、彼女の目が輝いた。彼女は身を乗り出し、肘をノートに置いた。「十なら簡単。」
私は最も誤解されやすい助詞から始めた――「から✤」。
「『から』は“〜から”――起点。でも原因も示す。“〜だから”の意味もある。」
彼女は首をかしげた。「なぜ起きたかってこと?」
私はうなずいた。彼女がすぐに理解してくれて安堵した。「そう!」
私は書いた――「今日は朝から静かだった✤。」――「朝から静かだった。」
さらに――「雨だったから、遅れました✤。」――「雨だったから遅れた。」
彼女は素早く両方を書き写した。「『より』は?」
私は少し間を置いた。「比較。“〜より”――『〜より多い/少ない』。丁寧で、基準を示す。」
私は例を示した――「この畑は、あの畑より広い✤。」――「この畑はあの畑より広い。」
「『より✤』は必ず何かの後につくの?」
「そう。」私はうなずいた。「対比の一部だから。一人では立てない。」
次は「だけ✤」。
「これは“〜だけ”――『only』。感情はない、ただ事実。」
私は加えた――「水だけ持ってきた✤。」――「水だけ持ってきた。」
彼女は指を立てた。「『にすぎない✤』と似てる?」
私は首を小さく横に振った。少し迷ってから言った。「近いけど違う。『にすぎない』には肩をすくめるような響きがある。『だけ』はただの事実。」
彼女のノートは左の余白まで埋まり始め、手首を置いたところからわずかに曲がっていた。
「次は?」
「『ほど✤』。」私は言い、しばし止まった。「これは難しい。“程度”。“どのくらい”。でも理解されるより使われる方が多い。」
私は例を示した――「見えないほど遠い✤。」――「見えないほど遠い。“〜するほど”。」
彼女はまた真剣な顔になった。
「見えないものを測るみたい。」
私はうなずいた。そして「くらい✤」と「ぐらい✤」――ほとんど双子のようなもの。
「意味は同じ。見積もりやおおよそを表す。くだけた言い方。会話でよく耳にするよ。」
私は例を書いた――「三日ぐらいかかります✤。」――「だいたい三日かかります。」
彼女はしばらく考えてから言った。
「『一人くらい来る✤』って言える?」と、少し眉をひそめる。
私は微笑んだ。「うん。でも『しか✤』を使うと違う響きになる。」
彼女は瞬きをした。「次はそれ?」
「そう。」私は書いた――「一人しか来なかった✤。」――「一人しか来なかった。」
「しか✤は必ず否定形と一緒に使うんだ。」
彼女は鉛筆でその文を二度軽く叩いた。「変だね。」
彼女が鼻から息を吐くのを聞きながら私は言った。「そう。でも正確さがあるだろう?」
次は「こそ✤」。
「これは前にあるものを強調する。これこそ、という重みを与えるんだ。」
私は書いた――「あなたこそ正しい✤。」――「あなたこそ正しい。」
彼女はそれを気に入ったようだ。「強い言葉だね。」
「文章では珍しいけど、人が心から強く言いたいときには使う。」私は言った。
次は「でも✤」。
「差し出すとき、あるいは軽い対比。“〜でも”――『〜でもどう?』『〜さえ』。」
私は書いた――「水でも飲みますか✤?」――「お水でもどうですか?」
彼女は考え込んだ。「軽い感じ。」
「それが狙いだよ。」私は言った。
次は「なり✤」。
「これは難しい。」私は言った。「『〜なり〜なり』――どちらでも、あるいは…という意味。古い言葉や改まった表現に多い。ゆるやかな選択を示す。」
私は書いた――「果物なり、菓子なり、何か出してください✤。」――「果物でも菓子でも、何か出してください。」
彼女は十個をすばやく書きつけ、背もたれに寄りかかった。
「冗談じゃなかったんだね。」
「だろう?」私は次の形に目をやりながら答えた。
棚田の風はまた変わり、今度は海から吹いてきた。鉄と稲の茎のかすかな匂い。雨ではないが、その一族の匂い。
光はすでに傾いた角度から拡散したものへと変わっていた。曇り空というほどではないが、太陽が空の奥で薄まり、午後の終わりに影が意図せず短くなるときのように。上の道からいくつかの声が響いた。布が集められ、誰かが種袋を覆えと呼びかけていた。まだ夕方ではないのに、人々はもうそう振る舞っていた。少女は動かなかった。
私は筆の背で欄外を軽く叩いた。「この行を終わらせよう。」
彼女はうなずいた。
次は「やら✤」。
「これは散らす助詞。確かでないとき、ゆるく並べる。」
私は書いた――「雨やら風やらで、中止になった✤。」――「雨やら風やらで、中止になった。」
彼女は笑った。「独り言みたい。」
「そう。ちょっとね。」
次は「とか✤」。
「さらにくだけた言い方。はっきり言わないで並べるとき。」
私は書いた――「ケーキとか、アイスとか、いっぱいあった✤。」――「ケーキとかアイスとか、いろいろあった。」
「柔らかい響き。」彼女が言った。
「そう。形式的ではないけど、失礼でもない。」私は答えた。
次は「たり✤」。
「動作を対にする。順序や優先を定めず経験を並べる形。」
私は書いた――「食べたり、話したりした✤。」――「食べたり話したりした。」
彼女は目で追いながらうなずいた。「だんだんぼやけてきた。」
「それでいい。」私は言った。「ぼやけるように作られているものもある。」
次は「ながら✤」。
「これは美しい。」思わずそう言ってしまった。「一つのことをしながら、別のことをする。」
私は書いた――「歩きながら、考えた✤。」――「歩きながら考えた。」
彼女は小声で「ながら✤…」とつぶやき、その響きを確かめていた。
続いて「つつ✤」。
「ほとんど同じ。でも古くて文語的。今ではあまり聞かない。」
私は書いた――「考えつつ、筆を進めた✤。」――「考えつつ筆を進めた。」
彼女はその横に小さな丸を描いた。「今日みたい。」
私はうなずいた。
次は「ものの✤」。
「これは対比。事実を述べた後に、差を示す。」
私は書いた――「努力したものの、届かなかった✤。」――「努力したものの、届かなかった。」
「次は?」彼女が聞いた。
「『にはならない✤』。」私は記録の一行を丸で囲んだ。
「これは境界を示す。『〜にはならない』――別のものには至らない、という意味。足りないときに使う。」
私は書いた――「説明だけでは、理解にはならない✤。」――「説明だけでは理解にはならない。」
少女は私を見つめ、目を細めた。「もっと意味があるみたいに言うね。」
「ある。」私は言った。「でもここだけじゃない。」
私はページをめくった。新しい紙――洪水逸脱の更新記録。そこには「を通して✤」が使われていた。
「『〜を通して』――媒介や期間を表す。『〜を通じて』より広い。」
私は書いた――「協議を通して、方針を決めた✤。」――「協議を通して方針を決めた。」
彼女はゆっくりと書いた。私は急がせなかった。
次は「を中心に✤」。
「『〜を中心に』――中心として。」
私は書いた――「市場を中心に、道が整備された✤。」――「市場を中心に道が整備された。」
彼女はまた顔を上げた。「空間的な感じがする。」
「そういうのもある。社会的な場合もある。」
次は「をはじめ✤」。
「『〜をはじめ』――最初に挙げるものを重視しながら列挙を開く。」
私は書いた――「町長をはじめ、多くの人が参加した✤。」――「町長をはじめ多くの人が参加した。」
彼女は疲れているように見えた。耳は止まらないが、思考が追いつかない種類の疲れ。
私はもう一度筆を墨に浸した。
「もう少しで終わり。」――粒子の学びも、写しの作業も。
「『をもとに✤』――基づいて。」
私は書いた――「旧記録をもとに、予測した✤。」――「旧記録をもとに予測した。」
彼女は書き写さなかった。ただ、私が筆を運ぶのを見ていた。
私は口元をゆがめて笑った。「おい。私が書いてるなら君も書けよ。」
彼女は、自分から私に絡んだことを少し後悔しているようだった。私はただ微笑んだ…もう本当に終わりが近かった。彼女は書き写した。
少女はノートに頬を寄せたまま、まだ見ていた。眠そうというより、満ち足りて。溢れたからではなく、瓶の口に光が差し込み「もう十分」と告げたから注ぐのをやめるような満ち方。
残りはあと三つだった。
「これで最後の列✤。」私は言った。
彼女は頭を上げずにうなずいたが、手は動いた。
私は開かれた記録を最後にもう一度見た。ここに並ぶ行は行政的なもの――詩的でも実地でもなく、境界石をどこに置くかを議論する人たちの書きつけ。
最初は「に基づいて✤」。
「『〜に基づいて』――資料や原理に基づいて。形式的。とても形式的。」
私は書いた――「法律に基づいて判断された✤。」――「法律に基づいて判断された。」
彼女は鉛筆の端を軽く叩いたが、書き写さなかった。ただ鼻で息をしながら理解したような顔をした。本当には分かっていないのを知っていたが、私は流すことにした。
次は「を問わず✤」。
「これは『〜を問わず』――『〜に関わらず』という意味。」私は言った。
「年齢を問わず、参加できます✤。」――「年齢に関わらず参加できます。」
彼女はそこで身を起こした。「私も?」と微笑む。
私はうなずいた。「もちろん。特に君こそ。」
そして最後は「に応じて✤」。
「これは状況の形に合わせる。必要に応じて調整する。」
「雨量に応じて、水門を調整する✤。」――「雨量に応じて水門を調整する。」
彼女はさらに背を伸ばし、目を輝かせた。
「さっきあなたが言ったことと似てる。」
「そう。」私は言った。「前にあるものに耳を傾け、それに応える。」
私は最後の綴りを静かに閉じ、角を指で整えた。
彼女はノートをめくり返し、ページを戻っていった。
唇を動かしながら黙って数える――「は」「が」「を」「に」… すべての複合形、終止の形、空気からすくい上げて、昆虫を大事に留めるように一つひとつ書き留めた語たち。
「これで全部?」彼女が尋ねる。
私はうなずいた。「一覧の分は全部。」
「覚えられるかな?」
私は首を傾げた。「今すぐのもあるし、あとで思い出すのもある。でも残るよ。」
「どうして?」
「ただ書き写しただけじゃなく、意味が宿るところに気づいたからだ。余白を与えたから。」
彼女は瞬きをした。「棚田みたいに。」
「そう。」私は言った。「棚田みたいに。」
下では鳥の声が止んでいた。密林の方角から低い響きが伝わってきた――深く広く、機械でも獣でも風でもない、けれど確かに近くはない音。この世界の折り目にしか存在しないような響き――神々の地が蔓と濡れた石の下に広がる場所から立ち上がる音。私はそれを指摘しなかった。
ただ紙を集め、静かに重ね、空になった硯に筆を横たえた。
「あなた、先生じゃないよね。」彼女は立ち上がり、膝の土を払った。
「違う。」私は答えた。「先生じゃない。」
「でも教えてくれた。」
私は少し笑いながら彼女を見上げた。「君が残ってくれたからだ。」
彼女は小さく、不完全ながらも丁寧なお辞儀をした。
「また来るね。」
「…うん。」私は答えた。
そして彼女は去っていった。固められた土の道を、半ばほどけた草履を引きずり、ノートを片腕に抱えて。私は彼女が低いバジルの覆い棚の曲がり角を曲がるまで見送った。その背後で大地は再び扇のように広がり――二度と繰り返す必要のない授業のように、静かに形を保っていた。
【とじ✿】♡




