日記 47 ☼
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ᵕ̣̣̣̣̣̣ 日記 47 ☼
味噌汁の煮えるなじみ深い香りが家中に満ち、私は母と妹チョウに囲まれて家族の食卓についた。障子戸から差し込む夕陽の黄金色の光が、小さくも居心地のよい我が家をやわらかく包んでいた。
夕食を前にした穏やかな沈黙を、母のやさしい声が破った。
「セイヨ、あなた…」その声には温かさと心配が入り混じっていた。「最近少し塞ぎこんでいるように見えるわ。何か悩んでいることがあるの?」
私は視線を落とし、箸の先で卓布の模様をなぞった。どう説明すればいいのだろう。日常の一部になりつつある“説明できないもの”、その非凡な体験を。胸の奥には秘密の重さがずしりと残り、けれど言葉にする術が見つからなかった。
勘の鋭いチョウが、いたずらっぽくも心配げな笑みを浮かべて口を挟んだ。
「そうだよ、セイヨ。最近ひとりでいる時間が多いよね。なにか隠してるんじゃない?」
愛情と気遣いに満ちた家族の顔を見上げて、私は思った。どうして彼女たちを暗闇に置いたままでいられるだろうか。真実を伝えるべきだ――たとえ、それが自分に芽生えた異能を明かすことになっても。
深呼吸をして、勇気をふり絞った。
「母さん、チョウ。話さなきゃいけないことがあるんだ。うまく説明できないけど…僕は“贈りもの”を見つけたんだ。自然とつながる力で、普通じゃできないことができるようになった。」
母の目が驚きに見開かれ、好奇心と心配が入り混じった表情になった。
「贈りもの? あなたに目覚めた贈りもの?」その視線は金属を引き寄せる磁石のように私を捉えた。「どういうことなの、セイヨ? もっと教えてちょうだい。」
私は言葉を探し、得体の知れない力をどうにか説明しようとした。
「言葉にするのは難しいんだ。でもね、僕は跳んで…宙にとどまることができる。大地と空のあいだに吊られているみたいに、自然の流れが僕を導いてくれる。そして…まれに、風に運ばれるようにゆっくり降りていけることもある。」
沈黙が食卓を包み、私の告白の重みが空気に漂った。
「セイヨ…」母は手を伸ばし、私の手に自分の手を重ねた。「あなたはいつも特別で、唯一無二の魂だった。」しばらく私を見つめ、その瞳はやさしくも探るようだった。「あなたが話していることは…“贈りもの”なのよ。」
彼女はその言葉を間に置き、ゆっくりと続けた。
「贈りものはたいてい輝きとともに訪れる――鋭く、胸を打ち、無視できないほどにね。でも、その声はやがて静かになる。ときに、持ち主でさえ忘れてしまうこともあるの。気を落としてはいけないわ。数日後にはこのことを忘れてしまうかもしれない。でも、また季節が巡れば戻ってくる――そうして何度も繰り返されるうちに、澄みわたり、しなやかで強いものへと育っていくの。」
母の視線はやさしくも確かな強さを帯びていた。
「やがては日々の道具にとって代わるほど、たくさんの贈りものが現れる。私たちはそれをどう背負うかを学んできたのよ。一つひとつが違う形で、静かにやって来る。けれど、たとえ静かなものでも重さがある――今ここから、あなたの心を引き離してしまうこともあるわ。」
彼女は微笑み、楽しげに私の頬をなでた。叱責ではなく、目を覚まさせるように。
「セイヨ、村や家族の務めをおろそかにしていない?」
その言葉は私の胸を突いた。確かに、この新しい力に心を奪われ、家族のための食料集めや村の手伝いといった務めを忘れかけていたのだ。
涙がにじみ、私は小さくうなずいた。
「ごめんなさい、母さん。自分の世界に夢中になりすぎて、周りの人のことを見失ってた。」
母の瞳がやわらぎ、輝く笑顔が広がった。私の髪をなでながら言った。
「誰でも自分の旅に夢中になるものよ。でも覚えておいて、真の強さは“個の力”だけじゃなく、それをどう調和させるかにあるの。」
チョウが首をかしげ、リボンが肩に滑り落ちた。
「それって…飛んでる感じなの? それとも、すごくゆっくり落ちてる感じ?」
彼女は小さく笑ったが、瞳は大きく見開かれ、像を求めていた。そして少し真剣な表情に変わる。いつものからかいはなく、眉を寄せ唇を結んで私を見つめた。
「…あんまり遠くに行かないでね。一緒じゃなきゃ、やだ。」
私は顔を赤らめ、唇を噛み、感謝の気持ちで彼女の肩に軽くぶつかった。
「うん。」抑えきれない安心の笑みが口元に広がっていった。
チョウは指先で私の鼻をつつき、自分の鼻もつつくと、拳を胸に当てた。
「ほら。約束成立。たとえ空に連れ去られたって、私はちゃんと結ばれてるから。」
ふざけて見せたその笑みにも、瞳には本物の想いが宿っていて、思わず喉を鳴らした。
愛と理解、そして“見守られている”という確かな安心に満ちた食卓を共にしながら、私たちは新しい季節に踏み込んでいたのだと気づいた。私は知らぬ間に孤独を抱え、それに慣れてしまっていた。しかしこのひとつの会話で、家族とのあいだに新しい扉が開き、再び共に歩む道が示された。声に出さず、手入れを怠った愛情は、まるで海藻に覆われた小径のように、行き先があっても人が歩かなくなれば簡単に見失われてしまうのだと悟った。
そして月が夜空を照らし、やわらかな光が家を包むころ、私は希望と新たな目的に満ちている自分を感じていた。私の物語はこれからも続いていく。大きく変わらないかもしれない。けれど、もうひとりではない。最愛の家族とともに歩む旅として。
【とじ✿】ღ




