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季節の静けさ  作者: 波歌
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日記 10

0.002-03

ᵕ̣̣̣̣̣̣ 日記 10


家の空気は、どこか馴染み深く、それでいて儚かった。まるで通り過ぎる風のように。飛行船が去ってから、一週間ほどが経っていた。母は戻っていた――もっとも、いつ帰ってきたのかははっきり言えなかった。彼女の持ち物が静かな隅に散らばっていたのだ。椅子に掛けられたスカーフ、戸口に揃えられた草履、炉端に広げられた薬草袋。乾いたヨモギ༶とラベンダーの香りが部屋を満たし、窓辺に残った潮水の匂いと溶け合っていた。


もちろん、今ここにはいなかった。さきほど戸がきしむ音を聞いたばかりだ。足音も小さく、また出て行った――別の用事、別の村、別の患者。そういうものだった。

私たちは、二人分のドレスが入った荷をどういうわけか受け取れずにいた。何日も…。


けれど朝食は残されていた。台所の戸を開けると同時に、蒸したご飯の匂いが迎えてくれた。すでに何時間も置かれていたように淡く、けれど鍋の木肌に染みた温もりが、囁きのように残っていた。チョウはすでに低い卓に胡坐をかき、乾いた魚を噛みながら、眠たげに皮肉な手振りをした。目はまだ半分閉じていて、早く起こされたせいで不満そうだった。

卓の上には整えられた小さな膳が待っていた――母が夜のあいだに通り過ぎた証のように。蓋の下でまだほのかに温かいご飯は、黒胡麻が軽く振りかけられていた。その隣には半熟卵が二つ、殻に細いひびが入り、すぐ剥けると告げていた。脇には梅干しと塩漬けの海苔がきれいに並べられ、一つも無駄にならないように整えられていた。

卓の端には、小さな味噌壺が布で巻かれ、傍らに木の匙が添えてあった。母はきっと、湯を自分たちで足せと言いたかったのだ――「もう自分でできるでしょ」と。

半分に切られたサバの塩焼きが、乾かぬよう紙に包まれて置かれていた。皮の香ばしい匂いが漂い、口の中が自然に潤った。チョウは箸でつつきながら、わざと無関心を装っていたが、私が食べ始めるのを待っているのは明らかだった。小さな器には柿が盛られ、花びらのように扇状に並べられていた。朝の光に橙色の果肉がきらめいた。

部屋は静かだった。時折、箸の触れ合う音や、器が木に擦れる音がするだけ。窓から入り込む潮風が、塩気と濡れた石の匂いを運び、朝に独特の静けさを纏わせていた。

「また早く出たんだね」とチョウは呟いた。声には苛立ちもなく、ただ受け入れている響きがあった。海苔を一枚摘んで口に運び、しばらく噛みしめていた。

私はご飯を引き寄せ、立ちのぼる湯気を顔に浴びた。それは家の匂いだった――清らかで柔らかく、木の釜の土っぽさがかすかに混じっていた。一口食べると、その簡素な安心感に胸がほぐれた。

「こんなに作らなくてもよかったのに」と口にしたが、自然と笑みがこぼれた。

チョウは鼻で笑い、箸の先でサバを私に押しやった。「でも、いつもそうするじゃない」

私は瞬きをした。本当にそうだったか? チョウを見た。彼女もただ瞬きしながら見返してきた。私もまた瞬きした。目を伏せ、混乱し、余計に瞬きを繰り返した。涙なんて出ていない。出てない。馬鹿みたいに…。

私たちは黙って座り、外では村が少しずつ目を覚ましていった。囲炉裏のやかんが水を冷ましながら小さく音を立て、母が数時間前、静かに家の中を歩いていた光景が浮かんだ――一つひとつを並べ、何も言わなくても分かるようにして出ていったのだろう。

震えを止めようとした。いまは味わえない何かの質感に心を沈めた。

どの皿にも気遣いがあった――梅は二つずつ、私が多く取ってもチョウが文句を言わないように。ご飯は食べきれる量だけ。柿は朝の甘さを好むチョウのために散らされて。

チョウは卵を手に取り、殻を割って満足げに息を吐いた。「今夜は戻ってきてほしいな」と言い、それから独り言のように付け加えた。「あの蜂蜜、もう切らしてるし。」

私はうなずき、残りのご飯を口に運んだ。しばらくは言葉もなく、ただ朝の温もりが毛布のように私たちを包んだ。急ぐ理由はなく、食卓の静けさをそのまま受け止めていた。

気がつくと、チョウが隣に来ていた。湿った髪をゆるく編みながら。「行こうよ、セイヨ」肘で軽く小突いた。「ママが帰ってくる前に、薬草取ってこなきゃ」

私は目を転がしたが、チョウの笑みは伝染するものだった。彼女は、平凡を招待状のように見せることができる。「大変なのは私にやらせたいだけでしょ」と呟いたが、本気ではなかった。すでに腰の帯を結び直していた。

チョウは編み籠を片手でひょいと抱え、腰に当てた。「あんたの方が潜りは上手だからね」と意地悪く笑った。「それに、私より好きでしょ」

それは本当だった。海の冷たさを肌に感じることを思うだけで、もう家を出ていた。


いつ始まったのか分からない。抜けない不機嫌。母はいつも不在。父からの便りもなし。そういうものは小さな兆しで現れる。台所の沈黙。毛布の皺。誰も帰ってこない家の音。いっぱいのままの清潔なタオルの引き出し。長くかかる雑事。少なすぎる食卓。自分で立て直すしかない時の小さな絶望。知らずに頼っていた習慣が変わる時の、裏切られたような感覚。


浜辺は温かく、砂は柔らかく、足首にまとわりついた。チョウは籠を腰に掛け直し、もう塩で肌がべたつくと不満をもらしていた。「早く集めよ。長居はごめん」

「毎回そう言うよね」と私は笑い、水を蹴って彼女にかけた。

彼女は鼻をしかめたが、笑みを隠せなかった。私たちは一緒に潜り、上の世界は一瞬で遠ざかった。

海は静かで涼しく、迎え入れてくれた。私にとっては第二の家のようで、考える間もなく体が動いた。優しく蹴り、滑らかに岩をなぞる。チョウは水面近くを漂い、厚い海藻を指差したり、岩の間の貝殻を見つけたりしていた。

「ほら、コンブ༶」彼女の声が水にくぐもって届いた。「あの岩のとこにはワカメ༶も」

私は深く潜り、海藻の森をすり抜けた。濡れた葉は髪の毛のように腕を撫で、冷たく滑らかだった。私はすぐに掴み、手に束ねて水面へ蹴り上がり、チョウの持つ籠に入れた。

「これで足りる?」水を拭いながら訊いた。

「どうかな」チョウは籠を揺らした。「もっと取っときな」

私は笑い、彼女が言い切る前にまた潜った。海底は驚きに満ちていた――岩陰のウニの群れ、藻の間を駆け抜ける魚の群れ、モズク༶の揺れる姿。必要以上に長く留まり、重みのない静けさと、陽光が模様を描くさまを楽しんだ。

再び浮上すると、チョウは分かっているような目をした。籠の縁に腕を乗せて。「キナメ༶も採っとく?」とにやり。木舐め(きなめ)✤は飴実あめび✤の一種で、数えきれないほど種類があった。けれど私たちは好きではなかった。

私は肩をすくめた。「午後は洗濯したいんだけど」


彼女が本当に言いたかったのは「高地へ行こう」だった。今では一種の廃墟はいきょ✤、放棄され、空っぽになった場所。ゆっくりと広がる場所だった。緑に沈む低い丘々、木々の間を縫う柔らかな小径、ときおり茂みからのぞく野生の気配。空気は陽に温められた樹皮と、湧き水に磨かれた石の匂いがした。何時間歩いても誰とも会わず、ただ甲虫の羽音や、小川でひらめくトカゲの姿を耳目に収めるだけ。北へ進めば高原の平原に出る。草に覆われた丘、雪解けの小川が光を掴み、木々は山のように聳える。永遠の秋のような場所。だがそれでも、その土地は境界で――荒々しく、不確かな場所だった。

そこにも廃墟があった。古く崩れ落ちたもの――私たちのものか、神々のものか、もっと奇妙なものか…。火山性の赤褐色に深く刻み込まれた建造物。シエナ、木炭、錆び色の茶褐。勇気ある者には遊び場のような不思議の国。


私は蟹を捕まえながら、自分に「行かない理由」を思い出させた。

浜に戻ったときには、籠は海藻やはさむ生き物で重く、太陽は村の瓦屋根に長い橙の影を落とすほどに傾いていた。砂を蹴るチョウの足取りは、私の隣でいつも通り軽やかで親しい。

「ママ、もう帰ってると思う?」私が尋ねた。

チョウは首を振った。呼吸が詰まる。肩に緊張が走る。「たぶん明日まで帰らないよ」と間を置いて言った。「別の村に行くって言ってたし。」でも、彼女がさっき急かしたこととの食い違いが、私には引っかかっていた。

そんな会話を、もうずっと続けてきた気がした。考えるまでもなく口に出る――半分は事実、半分は推測。今夜帰るかどうかで大して変わることはない。水が石を避けて流れるように、生活は母の不在を回り込んで続いていた。

母を責める気はなかった。七十人に三人も修復師はいない。その中で本当の医術を持つ者は? さらにごくわずか。


それに、女の子は男の子とは違う状況に置かれる。人生は一度に多くを投げかけてくる。思春期。体の変化。気分――妊娠。どれにも手引きはなく、慈悲もほとんどない。混乱ばかりだ。



男の子はそれと向き合うのを少し後回しにできるように見える。でも私たちは違う。いきなり急流に投げ込まれる。



もし推測するなら――女の子は仕草や気分に敏感になる。手遊びてあそびうた✤。年齢に関係なく、女の子二人なら自然に始める。呼吸のように、本能のように。では男の子は? 彼らは全く別の場所にいるみたいだった。網を引いているのかもしれない。注意は物や考えに向けられていて、気候には向けられない。


なぜそれが大事なのか? 私たちは自分たちの状況に縛られているから。扉が蝶番から外れれば? 男の子は直す。女の子は蜂蜜茶を淹れる。高地は美しい。でも危険か? 絶対に。女の子にとって? 与えられた線の内側で生きるしかない。私たちは結びつきを必要としていた。共に過ごす体験。男の子なら息をするように簡単なこと。羽狼のいる洞窟で野営して、そのまま民兵に入った子たちも去年いた。



私たちにとっては全く違う。大切なのは相性。化学反応。相互の釣り合い。母がいない? 必要なのだ。父がいない? 同じこと。なぜ? 母や父の不在を埋められるものがあるだろうか…何も? そうだろう…。



数年後、似たようなことがあったとき、母は私に言った。「あまり長く吸い込むんじゃないよ――汁はすぐに冷めるからね」それから「薬を一杯差し出しているんだよ」とも。

――たいてい、もう乗り越えたと思う時こそ行かなければならない。

そういう人がまだそばにいるうちに。


家に着くと、私たちは採ってきた草を外の石に広げて干した。暗い海藻の束が夕暮れの光に濡れて輝いた。塩と海藻の匂いが肌に残り、それは呼吸と同じくらい自分の一部に思えた。


「これ、合ってるんだろうか」とチョウが呟いたが、声に苛立ちはなかった。


ときには少しの前向きさが役に立つ。始めてしまえばいい。


「分からない」と私は脚の砂を払った。「でも、上手くなってきてるよ」この前集めたときには、チョウは何も言わなかった。彼女は荷造りに夢中で、小さく「ん」と返しただけ。


でも前向きさは埋め合わせにはならない。不在は不在。失われたものは失われたまま。


私たちは籠を囲炉裏の傍らに置いた。母の痕跡はまだそこに――椅子に掛けられたスカーフ、半ば開いた薬草袋。ついさっきまでいたかのように。それでいて今は、家はまた私たちのものになり、母は何一つ乱さずに隙間から抜け出していったようだった。



その後に続くのは――いや。こういう暮らしだからこそ人生は冷淡になる。続いていくものはわずか な習慣や、新しい親しさの形を作るにすぎない。修復には存在が要る。その日、チョウは高地から何かを必要としていた。私も同じものを。けれど当時の私は、そのことに気づけなかった。



その夜、私たちは布団に横たわった。開け放たれた窓から潮風が入り込み、梁には塩気が残り、囲炉裏の最後の火が甘く漂っていた。外では梁が風に合わせてわずかにきしんだ。何か別のものに急ぐでもない夜だった。

チョウは私の方に向き、頬を手に預けた。咳をしていたが、揺すると眠らせてと言った。その後仰向けになり、また私の方に転がってきた。目は半分も開かず。「それは何もしないのとは違うよ」と言った。「季節外れの草を集めたり、潮の動きで嵐を知ったり…」

私は応じなかった。彼女は夢を見ていた。母との会話の夢かもしれない。

「そこにいなくてもいい。私が行ける」と続けた。外では雨戸が軽く音を立て、また静まった。「手元にあるものを拾えばいい。それがみんなの始まり方だから」

…ふむ。やっぱり母じゃなく夢だった。


声は柔らかくなっていた。気遣いからではなく、眠気が追いついたから。布団の端を顎に引き寄せる姿は、小さな頃から変わらなかった。

「やるよ」と私は言った。ただ、その後を見届けたかったから。けれど何も続かなかった。


炭がため息をつくように落ち、ひとつが火に崩れた。チョウはまた咳をして、胸に手を当てた。眉を寄せ、私は階下へ。戸口近くで干した草が風に揺れ、壁に長い影を落としていた。

そのいくつかと庭のものをすり潰し、静かに鉢に入れ、竈の鍋に水を汲んでまだ熱い灰に置いた。怠けた煮方だが、早かった。

蒸気が立ったところで草を加え、再び二階へ。


「ママ、もうすぐ帰るよ」と私は言った。それが今夜か、もっと先か分からなかった。床板に石を置き、風が渡る位置に鍋を置いた。

チョウは指先で私の腕に触れ、「また薬草間違えたって言われるよ」と囁いた。苛立ちはなく、私たちが分かち合う優しい困惑だけ。彼女は眠そうに笑い、目を閉じて再び眠りに落ちた。


畳はまだ温かかったが、夜気で少しずつ冷えていた。布団は私の息と共にわずかに膨らみ、膝を引き寄せると棉が寄り添った。毛布は心地よく温かいが、樟の匂いとほんのり樟脳が混じっていた。気にしないよう努め、そのうち忘れた。腕を体に巻きつけ、眠りについた。


外では風がゆっくりと動いていた。洗面所の裏の竹をすり抜け、祖父母と一緒に植えた柿の木の下葉を撫で、ちょうどよい加減で吹くと庇を小さく叩き、木のひさしが柔らかく軋む――誰かが段の端にそっと体重をかけてから引き戻すように。雨漏りは直してあったから、今では夜の部屋は深い静けさに包まれていた。だがそれは少なくとも心を落ち着けてくれた。


雨戸は開け放たれていた。雨が上がった後はいつもそうしていた。網戸もなく、ただ枠だけ。窓の小さな棚に身を横たえれば、向かいの屋根の暗い線が見え、何年も欠けたままの瓦が、淡い月明かりをかすかに受け止めていた。今夜の月は細く、疲れたようだったが、それでも十分な光を投げて、路地を横切る物干しを照らしていた。かつては馬小屋、やがて塔になり、その後崩れ落ちて――今ではこの辺りの皆が使う共同の乾し場。誰かが取り込み忘れた湿った手ぬぐいの重みで、少し傾いでいた。遠目には小さな祈り旗のようにひらひらと揺れて。


しばらくの間、蛙が鳴いた。近くの、深い声のするやつ。するともっと遠くで、別の蛙が答えるように鳴いた。拍子は揃っていなかったが、妙に筋が通っていた。おそらく「ここへ来て。寂しい」か。あるいは「これは僕のものだ」と。


しばらくして隣家の戸が鳴った。大きな音ではなかった。誰かが出入りしていただけ。いつもあの戸だ。小さな作業を始めていた。モーターだが、まだうまく動いていない様子。あるいは掛け金を確かめていたのかもしれない。カタ、コトン。カタ、コトン。猫の足音。もう確かめには出てこなかった。


夜が深まるにつれ、家は落ち着いていった。村全体も同じだった。夜にしか現れない、沈黙よりも深い音のようなもの――すべてが重みのある静けさを纏うのを感じられた。床板の下で大地が盛り上がってくるように。囲炉裏の灰が、人のいないのにまだわずかに熱を帯びているように。空気の清らかな匂い。生きているものの低い息づかい。そして他のすべてが、その場にとどまり続ける。


二階にいると、聞こうとしない音まで聞こえてくる。静かな夜の水路をゆっくり巡る水の音。梁の小さな軋み。竹が外でぶつかり合う乾いたかすかな音――二度、三度――そしてまた静寂。


「――チョウ、大好きだよ」と私は囁いた。そして眠りに落ちた。



【とじ✿】♡



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