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季節の静けさ  作者: 波歌
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日記 4 – 9

✧0.002-02

ᵕ̣̣̣̣̣̣ 日記 4 – 9


障子を打つ雨のやわらかな律動は、私が目覚めたことを意識する前に、すでに眠りへと折り重なっていた。大きな音ではなかった――ただ途切れぬ穏やかな拍子が、「もう少し眠りなさい」と促すように響いていた。家そのものが私と一緒に呼吸しているようだった。私はすぐには目を開けなかった。部屋の向こうで、かすかな滴が、数年前の嵐で打たれた出窓✤のそばの木梁に置かれた陶器の水受けに落ちる音が聞こえた。

目を開けると、光は漂白されたような金色で、窓の隙間からこぼれ、あらゆるものの縁を撫でていた。障子紙は夜明け前の真珠のように仄かに輝いていた。毛布は肩に温かく、夜に蹴り下ろした膝には冷たかった。脚は長く裸で、片方を伸ばし、次にもう片方を、空気に触れるつま先を曲げ伸ばしした。汗で湿った肌に毛布の湿気が混じり、ゆるやかに、しかししぶしぶと私を目覚めへと誘った。

私はゆっくり起き上がった。布団がかすかに音を立て、暗がりに響いた。夜の間に、淡い花模様の褪せた青の木綿の羽織が半分ほどはだけていた。湿気に肌へとまとわりつく薄い布。無意識に引き寄せて閉じたが、そのままにした。別のものを羽織ろうとはしなかった。肌に触れる空気を、もう少し感じていたかった。

家の中をあてもなく歩いた。お腹はすでに鳴っていたが、何を口にするか決められなかった。母は隣の村に出かけ、その不在は静けさを当然のものにし、むしろ日常に思えた。チョウも旅袋と共にいなかった。きっと母と一緒だろう。自分一人のために夕食を作る気にはなれなかったし、何より気が散っていた。

数日前、交易の飛行船が到着した。海岸の砂に降り立つ姿は大きな真珠のようだった。飛行船――雲の間を漂う巨大で優美な存在は、遠い地の命綱であり、海や山を地図の影に変えるもの。村と村を結び、物資や物語、知識を運び、その到来はいつもひそやかな期待に包まれる出来事だった。

雨に濡れた船体は光を放ち、帆布は肋骨のような骨組みに張りつめ、設計ではなく本能で紡がれた生き物のようだった。その存在は音ではなく共鳴として感じられ、思考の縁で鳴り続ける音叉のように骨に響いた。不快ではなく、心地よく、どこか誘惑めいていた。長く滞在すれば誰もが気づく。飛行船が放つ何かは、知らずに必要としていた按摩のような安らぎを与えるのだ。

商人たちが係留石に木箱を降ろす微かな音が聞こえた。帆布は見えなかったが、船体が雨に揺れ、地にも海にも完全には繋がれず、それでもそこに在るように思わせる音が届いた。

その驚異から解放されると、私は急いで家へ戻った。縁側✤の冷たい木が家の温もりに変わった。湿った空気に肌がざわめき、裾が腿に張り付いた羽織を引き直した。薄く柔らかな布は腰でゆるく留まり、膝下まで流れ、風のように肌を撫でていた。その軽やかさが好きだった。草履を履こうと身をかがめると、布が揺れ、ふくらはぎの裏を一瞬の涼風が撫でた。

私は霧雨の中に出た。冷たい滴が腕をすべり、髪に絡んだ。噛むほど冷たくはなく、ただ肌を鋭く意識させる涼しさだった。桟橋へ向かう道は滑りやすく、濡れた木と塩の匂いで満ちていた。私は雨を纏いながら歩き、布が一歩ごとに揺れる感触を少し楽しんだ。

草履は石に跡を残さなかった。ただ接触の記憶――やわらかく、短く、振り返る頃には消えていた。道は低い砂丘草と潮に磨かれた流木の間を抜け、朝の霧雨に濡れていた。数時間前は雨が降っていたが、今は海だけが涼しさを運び、鉱物のような息を吐き出していた。腕や顎の縁にそれが触れるのを感じた。乱れた髪がそこに貼りつき、離れようとしなかったが、私は払いのけなかった。

最初からここまで歩くつもりはなかった。飛行船が到着して三日、まだまともに見ていなかった。家からは見えたが、段々畑や学校裏の坂道からは見えなかった。待てると思い込んでいた。大人ぶりたかったのだ。けれど、結局は磁石のように引き寄せられた。

ここからは、視界いっぱいに広がっていた。

客船のようには係留されていなかった――編まれた階段も、帆布の通路も、人を迎える搭乗台もなかった。水面すれすれに漂い、吊られた積み荷は帆布に包まれ、白く日焼けし、満ち潮に膨らんだクラゲのように楕円を描いていた。船底は浅瀬に微かに映り、潮や風に揺れて波紋をつくった。こんな形のものを見た記憶はなかった。

貨物庫に近づくと、低いリズミカルな唸りが耳に届いた――海のようだが、より鋭い、機械的な脈動。木箱の隙間から、コンパクトな装置が見えた。滑らかな金属の殻が青緑の光で脈打ち、細いピストンが静かに動き、まるで呼吸するように熱の揺らぎを放っていた。生きているようで、驚くほど精密――船の心臓に縫い込まれた謎だった。一瞬瞬きすると、木箱が動き、視界から隠れ、胸にその微かな唸りだけが残った。

私は最後の平らな岩の縁に立ち、そこで石は砂浜に変わる。足の裏は冷え、岩をしっかり掴んで均衡を取った。船の近くの動きは、目がくらむほど不思議で、潮の満ち際に流された灯籠のように持ち上げられる感覚だった。飛行船は動かなかった。ただ漂い、繊細で、ほとんど恥じらうように。ここに属さないほど大きく、それ以外の何物でもないほど静かだった。

これまでに見たなかで最も美しいものだったかもしれない。

私は長く眺めた。背後に太陽が回り込み、背中に暖かさを与え、海霧が肌に光沢を生んだ。羽織は肩で緩み、脇の結びを引き締めたが、布は腰に濡れて張りつき、不格好に皺を寄せた。気にしなかった。歩みの緊張が脚に残っていた――痛みではなく、姿勢をぎこちなくするわずかな硬さ。私は体重を移した。

ここからは木箱がよく見えた――積み重ねられたもの、網に吊られたもの。いくつかの間には内部へ続く台があった。白い布で幾重にも包まれ、遠目には判読できない模様で縫い目が走っていた。一つは赤く染みていた――土か、別の何かか。長く見つめ、どこから来たのか、最後に触れたのは誰かを想像した。誰も船の来歴を語らなかった。ただ「しばらく滞在する」と。人々が期待を隠す言い回し。

こうした巨船は一族の所有物だ。優しく、巨大で、気ままに行き来する。だからこそ、その到着はいつもひそやかな喜びに満ちていた。

さらに近づこうかと思った。水際まで下り、砂が淡い反射で湿る帯に立とうかと。だが誰もいなかった。見守る者も、働く者も。船と、囁くように寄せては返す波の音だけ。何かが始まろうとしている気がした。

塩の匂いはここで強く、丘の上より鋭かった。機械的な刺激臭――布に閉じ込められたオゾンのよう――と混じっていた。何かが働き、生きて隠れていると気づかせる匂い。私はそっと手のひらを鎖骨に当てた。そこに宿る温かさが私を落ち着かせ、ここにいるべきだと感じさせた。

飛行船が何を積んでいるか尋ねたかった。いずれ聞くだろう。今ではない。きっと貨物。いつもそうだ。配給品、道具、油紙の小包。香辛料かもしれない。種かもしれない。誰かが待ち望む新しい機械かもしれない。時には島の手織り布。あるいは誰も口にしない小さなものたち。私はそれらを想像するのが好きだった。いや、できるだけ多く目にすることが好きだった。

中に誰かいるのかと思った。厨房で何か食べている? お茶を飲んでいる? 横になっている? 船体の隙間からこちらを見て、私が乗り込むか考えている?

顎の下でくるりと丸まった髪の一房を指でつまんだ。湿っていて、他より濃い色だった。結わえようかと思った。岩に腰を下ろそうか。あるいは水に入り、頭上いっぱいに飛行船を仰ぎ見るまで進もうか。

けれど動かなかった。正直に言えば――高い所が怖かった。

遠くでカモメが一度だけ鳴いた。半分だけ頭を傾けて耳を澄ませたが、その声は二度と聞こえなかった。海は凪いで、船底の長い影が落ちるところだけが濃く、ほとんど緑がかっていた。そよ風に揺れる水を見、吊られた貨物に波が届く様を想像した。だが波は届かなかった。決して触れなかった。

これほど大きなものに近く、いつでも自分の意思で歩み寄れること――それが奇妙に思えた。望めば船体の梯子を登れる。誰かが手を振ってくれるかもしれない。心の片隅で「気づいて」と叫んでいた。だが誰も気づかなかった。

私は腰を下ろした。膝を胸に抱え、両腕を回した。羽織は強く張り付いたが、直さなかった。岩は日差しで温まり、空気は冷えてきていた。その変化を感じた――夕方前の時刻、あらゆるものが止まり、鳥さえ静まる瞬間。船はその場に留まり、音一つ立てなかった。だが私は知っていた。あれは待っているのだと。

白い帆布が最後の琥珀色の光を受け止めるまで見つめた。そしてゆっくり立ち上がり、掌の砂を払った。最初の坂を越えるまで振り返らなかった。その時には、飛行船はすでに光の中に沈み、置かれるべくして置かれたかのように――まだそこにあり、待っていた。

飛行船は遠く自由に旅をする。だから必ず市場がある。ほとんどは物々交換。シガでは真珠や睡蓮が多く、それがしばしば面倒だった。交易品はそれだけではないが、安定した作物や繊維として育てることを学んだ。

新しい服は必要なかった。けれど「柔らかく新しいものに身を包み、それが完全に自分のものになる」という考えが胸に灯り、心を躍らせた。今回は違う色かもしれない。布地を横切るささやく模様かもしれない。なぜ欲しいのか分からなかった。ただ欲しいと知っていた。市場はいつも「ベイ」と呼ばれる区画にあり、船体の腹から貨物甲板に溢れていた。この船では見つけにくかった。

自分がどれだけ持っているかも分からなかった。

真珠――袋に三つ、縄の巻きの下、腰布の折り目に隠してある。柔らかく、淡く光り、水を通した光のような輝き。上質なもの。一度、それらを手のひらにすくい、熟度を測ったことがあった。

真珠草✤――私たちの作物、牡蠣やムール貝の代用品。真珠を育てる方法で、一定の周期を持つ。安定している。トロンプのように収穫物を売れる。潜水夫が使うので圧縮空気のようにも売れる。当時の私はそう思っていた。

私の三つは自分で採ったもの:小さく新鮮で冷たいもの、中くらいのもの、手のひらを打てば痣になるほど重いもの。二十日以上熟している、たぶんもっと。指の関節ほどの苗から始まり、十三日目で最初の成熟――古い帳簿で「テンダー」と呼ばれた最小の取引単位。13 × 10⁰――一日の待ち時間を固めたもの。崩壊以前から、「待ち」は「重み」となった。すべてはそこから始まり、そこへ帰る。

真珠の芽は厳密には花ではないが、花のようだった。絹のような睡蓮の葉が三枚ずつ渦を巻き、強い光の下で白い繊毛が淡い緑に輝いた。氾濫した水路や浅い桶に育ち、野生地の近くで低く広がり、花らしい花は持たず、小さな球体を実らせた。石鹸果のような皮に覆われ、時間と共に硬化し、冷めるにつれ乾き、静かに重みを増す――まるで、意味を得るのは長く留まることだと示すように。

私たちは手作業で収穫した。他の睡蓮と共に。シガの誰もがそうした。「何が一番好きか」と問われたなら? 潜ること。それは間違いなく最高だった。

私の真珠が大きさに合えば、最大のものは「130」、完全に硬化すればもっと。次が「13」、最小は「1」未満――柔らかく、部分的に潰れる、半日の重み。それで計算すれば「144.5」――誰もそんな言い方はしなかったが。秤にかけ、皮を差し引き、値を名づける。

計算を終える頃、潮が戻り、砂はまだらに濡れていた。先ほど立ち止まった場所の近く。私は振り返り、怠惰に水上を漂う巨体を見上げた。

雨は細く降り、太陽が顔を出し始めた。空気は霞み、金色の靄となって船体に触れた。晩夏の熱気に揺らぎ、異界のような趣を与えていた。

風が変わり――帆布の船体がふくらみ、光を受けた。縫い目がそよぐたび、高い物干しに吊るした洗濯物のように揺れた。もう遠くには思えなかった。荷の間から人影が現れ、索具を確かめていた。数人が手を振った。私は歓喜に満ちて振り返した。

浅瀬を割る長い岩の根元には、細い木の杭が砂から突き出ていた。風雨にさらされ、頂に褪せた布切れが結ばれていた。「フロート・ポイント」だと誰もが知っていた。そこに立ち、はっきり手を振って待つ。それで必ず気づいてもらえる。

私はそこへ向かった。草履が潮に枯れた葦や濡れた蔓を擦り、音を立てた。草履を脱ぎ、砂浜に置いた。幼い頃、一度だけ草履を履いたまま昇って滑ったことがあった。二度と繰り返さない。

潮は岩の半ばまで登っていた。フロートは北の水路から入り、海藻の輪を回り、波のすぐ上を低く滑りながら近づくだろう。

片手で目をかざし、もう片手を軽く上げ、手のひらを外へ――高すぎない。古い合図、簡単で誰にでも見える。幼い頃から教わってきた。急げでも歓迎でもない、ただ「乗りたい」という意味。私は少し跳ねながら微笑んだ。本当に手を振りたかった。

光が指に触れ、淡く温かく照らした。空はまだ海の靄に包まれ、完全な陽光ではなかったが、数時間後には雲を突き破るだろう。晴れるに違いない。つま先で弾むのをやめようとした。待ち時間は長くなかった。

フロートは大仰なものではなかった。少し妙だった。隔壁の側面からタープがはらりと落ちた。誰かが重いものを落としたみたいに。布に包まれた何か。

それは落ち、風にあおられて幽霊のようにひらめき、くすんだ灰色の塊のまま勢いよく近づいた。やがて二つの磁石が反発するように、ぽんと止まって浮いた。低い唸りが続き、形は平たく膨らんだ泡へと変わり、さざ波を縫って進み、速度を上げ、卵のような形へと変わった。

低く均一な――大きくはないが滑らかでもない――音が、波止場を渡る風のように空気の奥を伝った。霧の中で光が走り、動きが現れ、フロートの鼻先が輪郭を得た。視界にすべり込み、海藻帯のカーブを回り、両脇に小さな飛沫を巻き上げながら。潮の上にきれいに浮かび、私の方へ漂ってくる。

覆いは近づくと透明だった。操縦士は片腕を上げ、近づきながらそれを折り畳んで開いた。肘まで袖をたくし上げ、額からヘッドスカーフを後ろへ折り返した男――私が頬を染めるのに十分な時間、視線を向けられた。引き締まって無骨、顔は潮で柔らいだ小麦色。呼びかけはせず、ただ一度うなずいた。待っていたことをすでに知っている人間のうなずき方。

フロートが減速したとき、私は一歩進んだ。ランナーが高さを調整し――潮で洗われた岩と足場がぴたりと揃う程度に下がった。船底から温かい息がふっと吹き上がる。ガイドレールを片手でつかみ、裸足で軽く体を移して踏み出した。

フロートは一度揺れ、落ち着いた。

「ベイ行き?」彼は正面を見ずに言った。何度も同じことを尋ねてきた者の調子。

私はうなずいた。「ご迷惑でなければ。」

「いいとも。」彼は操縦をやわらげた。「つかまって。」

広さは語るほどではなかった。小さな泡のような空間。私は彼の側の壁に沿った手すりを、指を強く巻きつけてつかんだ。体を寄せ、フロートの旋回に合わせて重心を移す。彼はタープを私たちの上に戻し、霧雨を締め出した。それから――高くはないが、内側の引き波を跨げる程度に――すっと浮上し、入江を横切って待つ巨体へと向かって滑り出した。背後で浜は白と砂褐色の帯になって剥がれていき、足下の海は深く滑らかになり、船の影を秘密のように抱きとめた。

頭上のタープがまたきらめいた。眩しくて直視できない。私は目を上に保ち、瞬きしながら、その動きを覚えようとした――ゆるい漂い、四隅が持ち上がる瞬間、風を受けたとき縫い目が緩む様子。息ごとに船は近づいて見えた。手すりの握りを変え、親指を木に押し当てた。確かなものを感じたくて。

裾がふくらはぎで軽くはためき、後ろ波に揺れた。霧は上がり、空が開けた。

前方で、飛行船の腹が浅い鉢のように広がり、潮に向かって口を開け、保管用のネットと鋼のランナーが柔らかく光の輪を作っていた。ベイの扉はわずかに開き、動きがのぞいた――木箱の間に身をかがめる人影、遠い甲板に半分下ろされたリフトのそばに立つ何人か。誰かが笑った。かすかに聞き取れた。

匂いは近づくほど強かった――塩、そうだが、使い込んだロープや日で温まったタープの匂いが混じる。貨物の匂い。動いているものの匂い。マウラを思い出し、胸がきゅっと痛んだ。少女時代の記憶が視界の端を走る。

どこへ向かうのか、正確には分からなかった。ただ、ここへ来るべきだと知っていた。これが入口。どの船も同じではない。村の誰かがここまで来る頃には、積み荷の大半が降ろされるか、新しく積まれ、いつも雑然とした場所になる。

それが好きだった。殺蟻剤、アルコール、潰れた缶、靴紐、柑橘――どれも日焼けして強烈に匂う。小さな区画ごとに固有の匂い、固有の物語があった。それらを香水のように吸い込んだ。

フロートは旋回し、下層の桟橋へと上がった。縁が近づくのを見届ける。見下ろすと、焦点の合い方で浜が近く、次に遠のく。遠近に目が慣れるまでの数瞬。足場がそこに――待っていたと――気づくまで、少し時間がかかった。わずかに傾き、不均一で、くらっとした。

「到着。」私は動かず、手すりと一体化したまま。操縦士は息を漏らして笑った。「おっと。待って。」彼はタープを持ち上げ、両手でたたみ返し、私の指をやさしく手すりから外した。「大丈夫。」微笑んで言う。「そのまま歩いて。」

私は彼の手を取り、裸足で金属の足場へ。陽を含んだ温かさ。足場が安定すると、彼の手を離した。

「上で誰かが確認するはずだ。」彼が言う。「手を振ったって伝えな。」

「はい。」私は微笑み、頬が熱くなるのを感じた。「ありがとう。」

彼はうなずき、操縦に戻る。係留索を引き出し、桟橋脇の見えにくいメッシュに引っかける――カチンという確かな音――繋がれたことを告げた。

内部の影は足場に長く伸びていた。上のどこかで、目的の分からない小さなチャイムが一度鳴った。私は羽織の脇を撫でつけ、歩き出した。木箱と網の間を縫い、立ち止まって光と匂いを確かめる。深い影と、わずかな光の兆し。正体の分からない道具。正しい道は、案内より「行き心地」で示されているようだった。

最初の数歩は大きく響いた――金属に裸足、柔らかいが確かな音。慣れていない。床は砕いた貝や砂で封じられ、滑らないようざらついていた。表面には古い使用痕――踵の輪跡、巻いたロープの痕、縁近くに重いものの引きずり跡。私はそれを避けて歩いた。

中の空気は温かかった。一日中陽に当たったテントに包まれているよう。帆布と油の匂いの下に、花、干し草、乾果、塩漬けの塩水――無数の小さな商いの匂いが並んでいた。

ベイの市は毎回同じではない。

今回は狭く――私の好み――積み上がり、詰め込まれていた。段状の平台やキャットウォークが不意にせり出し、硬い床が網に変わり、また床に戻る。大きな区画は二層になり、間に日除けのネットが吊られていた。中央の通路は幅十二歩ほど。柔光灯が並ぶ。上方には薄い布が張られ、雨を防ぎながら海が覗けた。大きなものが網にくるまれ海へ下ろされていた。男たちが手を振り、笑い、叫び合う。網にしがみつく者も、中の誰かに合図を送っていた。霧はささやきほどになり、開いた側面パネルから流れ込む漂いが光に捉えられるのを眺めた。

すぐ奥へは進まなかった。混んでいたから。見知った顔も、初めての顔も、棚の間を流れていく。商人は品を並べ――反物を広げ、木箱を叩いてひびを確かめ、陶器の蓋の結露を拭っていた。女が干し柿の薄切りを並べ、花弁の形に整え、細かな網で覆った。

誰も二秒以上は私を見なかった。それが救いだった。昔は人混みが好きだったのに。最近は緊張してしまい、自分でも嫌になる。私はゆっくり、手すりに寄り添い、指で縁をなぞった。乾いたロープのような、塩のべたつきが肌に馴染む引っかかりを与えた。

布があった。たくさん。

反物は列に積まれ、透明なプレスシルクや網布、木綿の帯で括られていた。色は落ち着いた――苔、流木、茶染めの梅、貝殻の白、柔らいだ藍――だが、いくつかは光そのものから織られたように明るかった。波模様のものは、影でも濡れているように見えた。

ボタンだけの屋台を通り過ぎた。何百ものボタンが重さ、色、形で分類されていた。骨や貝、または「コールドグラス」――透き通る淡い緑、水の真珠のように滑らか。私は丸いボタンの盆の上に指をかざした。触れなかった。けれど、触れたかった。

背後で床が軋んだ。六歳にも満たない子が、冷たい空気で湯気を立てる何かを持った器を手に走り抜けた。口はいっぱい。誰かが名前を呼ぶと、笑いながら布の幕の向こうに潜り込んだ。年上の少年が怒り心頭で追いかけていく! また鐘が鳴った。今度は低く、遠く、かすかに。

鞄のストラップを直した。肩から滑り落ちそうだった。指が真珠の縁に触れた。何を欲しているのか、取引するのか分からなかった。ただ、ここにいるのが好きだった。

木箱に腰を下ろし、男たちが大きな荷を誘導するのを眺めた。男の仕事を見るのが好きだった。小さなパズルのよう。的確に、作業から作業へ集中する。女の子ならお喋りし、考えを巡らせ、細部にこだわり、途中でやめる。男たちは不機嫌そうで、一点に集中し、やがてだらける。退屈し、私はまた歩き出した。

低い梁の下をくぐった。細い真鍮のクリップが吊られ、干し物用の紐のよう。狭い通路を見つけた。船体の形に沿って左にカーブ。床は金属から黄ばんだ膜の板に変わり、かすかな音を立てた。匂いは貨物より、ラベンダーや蒸し布の香り。空気は暖かく、静かに、吐息を抱き込んだよう。

見つけられるための場所かどうか分からない。二つの低い机、潰した木箱で作られ、背後に長い布パネルが幕のよう。すべて折り畳まれ、全面は見せられていない。派手さはなかった。だが、色が――

一見鈍いが、重なり合っていた。日焼けした黄土、灰緑、梅と煙の間の色。やわらかな藍の布束が目に留まった――銀糸で刺繍され、動くときだけ光を返す。押し花で染めたような淡い青の絹の下に収められていた。

さらに奥へ進むと、重い毛皮の垂れ幕が即席の扉。その向こうで息が詰まった。色や産地で束ねられた反物や整然と巻かれた布ではない。仕立てられた服だった。畳まれ、積まれ、簡単な紐で束ねられて。目を引くためでなく、触れるため、試すために置かれていた。

柔らかそうで、使い込まれ、丁寧に新しくされたよう。私に合う大きさ、近いもの、もっと大人びたもの。服が…至るところに…

忍び笑いがこみ上げ、両手を叩き、声なき歓喜で小さく跳ねた! 一つの山にしゃがみ、紐を解き、布包みを開いた。短袖で背中が開いたワンピース、木漏れ日の苔のような緑に染められていた。生地は薄く繊細、裾は果実石の色の糸で縫われていた。肩を持ち上げ、腕から垂らすと、生地は私に形を合わせるように動いた。

その下にもう一着。チョークブルーの巻きワンピース、アーモンド形の布ボタン付き。腰紐は長く、二度巻くか、背中でゆるく結んで垂らすこともできる。三着目は梅紫、ほぼ黒、折り襟がつき、細い袖はまくるように仕立てられていた。

ラベルはなかった。

肩越しに見回した。誰もいない。葦板の折り屏風と、廊下の先から響く蒸した米の低い音。

青い服を頭からかぶってみた。試すだけ。

肩は広く、腰も少し緩かった。けれど少し回ると、裾が揺れ、ふくらはぎを掠めて離れた。その中に、見知らぬ誰かの姿を垣間見た。背筋が伸び、自信に満ち、初めての雰囲気を纏っていた。踊りが得意そうな人。聞きたくないことは聞かないふりができる人。

心臓がぱちぱちと弾けるようで、すぐに脱ぎ、丁寧すぎるほど折り直して、他の服と積み直した。次の一着に手を伸ばした。ためらいながら――この先にも服があることに気づいて。誰もいない。禁じる人も、教えるものも、棚も、札もない。私と静けさと、船体の揺れが刻む拍子。

布敷きの座布団に腰を下ろした。裸足で、膝を抱え、次の包みに手を伸ばした。ここで一日を過ごせると思った。

すべての自分を試したかった。しっくり来るまで。自分のものだと感じられるまで。

次に開いた包みは重かった――リネンか、肌寒い朝のために裏地をつけたものか。海の霧を思わせる淡い色合いで、裾には草か遠い鳥の模様が薄く刷られていた。スカーフが付き、装飾用ではなく、耳の後ろで結んで低く垂らす実用的で美しいもの。肩にかけ、顔をうずめ、香りを吸い込んだ。

知っている匂いではなかったが、瞼が落ち、歩みが軽くなる気がした。

鏡はなかった。

小さなブリキ鉢に水が入っていた。糸を測るためのものだろう。身をかがめ、髪が前に落ち、そこに自分を見た。

ほんの一瞬。

他人の柔らかさに包まれた自分の顔。スカーフが襟元まで流れ、着慣れているかのよう。首を傾げてみる。右に。左に。

遊びのようではなかった。完全には。けれども、もし――。そして、見つけた。

靴。

布の山の左手、低い卓の下に、古びた木の箱――魚やタオルを入れる浅い手彫りの箱。十足か十二足のスリッポン。平らな底、染めた革と植物編みの甲、柔らかな縫い目で、美しく奇妙だった。

四つん這いになり、子どものように肘をついて覗き込んだ。

爪先が丸く、鴨の足のように広いもの。内側に丸まったもの。靴底の縁に小さな歯が刻まれたもの。最初にそれを取り出した。茶色の革、土踏まずに百合の模様が押され、紐は足首に巻くタイプ。

履いてみた。

爪先がきつすぎた――けれど土踏まずを抱く縁の感触に思わず止まった。もう一方も試す。爪先は広がっていて、ぴったりだった。小さく笑った。左右で違うサイズ。同じ靴の片割れが混じったのだろう。あるいは、私と同じ年頃の誰かが手放したものか。静かにそう思った。

さらに探した。

灰色の一足。柔らかい――アザラシの皮か、手のひらの油でなめしたもの。内側には薄緑の繊維が詰められ、誰かが秘密のように冬をしのぐために仕立てたよう。右足にそっと差し込み、屈伸する。音はしない。糸が擦れる囁きだけ。

そして、見つけた。

探していたことすら知らなかった靴。

赤だった。鮮やかではない。ただ染められた――熟したプラムの内側のような深い桑の実色。革は薄く柔らかく、足首に二重に巻くリボンで結ばれていた。垂らしたままにも、隠すこともできた。爪先はわずかに角張っていた。靴底はすり減っていたが、大切に履かれていた。踵には小さな刻み目が一つ彫られ、お守りのよう。

両方を履いた。

完璧ではない。けれど、動けなくなるほどに。長い間座り込み、ただ履いていた。私の足が年上の誰か、注目を恐れない誰かのようだった。

立ち上がった。それがどう支えてくれるか感じるために。

体重を移すと、リボンが揺れた。霧で湿った羽織は腰に張りついた。ひと回りしてみる。靴が敷物の上でかすかに擦れる。「何しているの?」と問われるまでどれくらいかかるか、ふと考えた。心臓が速く打ち、もう少し時間が欲しいと思った。

誰も来なかった。

また腰を下ろし、ゆっくり靴を解いた。革を撫でて整え、箱に戻した。けれどまた手に取り、膝の上に抱えた。

小さな屋台は静かだった。船体がきしむ音だけが低く流れ、奥で何かがどんと鳴った――貨物の移動か、ハッチが閉まる音か。

「持っていきな」――年配の声が頭上から降ってきた。

私は飛び上がった。叫び声をあげ、危うくコートの山に倒れそうに。

「どこに――? こんにちは?」胸を押さえ、周りを見回す。

「そんな熱心な子、久しぶりだね」と声がした。木箱がどんと鳴り、がさりと動き、またどん。

「可愛い子だ」とまた声。はっきりと女性だと分かったが、私が慣れているよりざらついた声。さらにどん。

やっと彼女の姿が見えた。布束の間に急な階段が伸びていた。背の高い痩せた年配の女性が、一段ごとに木箱を慎重に押し下げていた。

「本当?」

「分けてあげられるくらいはあるさ」と彼女はしゃがれた、疲れたような笑みを浮かべて言った。「まだいくつか残ってるかも…」最後の段で木箱を床に落とし、ため息。「高地から下りてきたばかりなんだ」腰をひねり、木箱を別の木箱の上に持ち上げ、ごとんと重い音。「間違いなければ、夏だろう?」振り返り、さらに上から何かを引きずり出した。「これは韓服✤か漢服✤。いつも混同するんだ」

最初の一着を丁寧に脇に置き、腕に畳んで載せた。見た目より重く、沈み方で分かった。「礼装だ」と独り言のようにつぶやいた。「でも重さが好きだった。背筋がしゃんとするからね」皮肉げに笑った。「高地では違う。ただの服さ。冬になったら欲しくなるかも」

私は思わず手を伸ばした。布は冷たく、貝殻の内側のような筋のある質感。幾何学模様が細かく刺繍され、瞬きすると滲むほど密に縫われていた。腰から鐘のように広がり、胸元にはしっかりした花か組紐のモチーフ、裏返した「静」の形の留め具。袖は肩でぴったり、半ばで緩み、風のための淡い膨らみ袖に変わっていた。

「昔は狩りで着てた」と彼女は言った。「短いズボンと合わせてね」隣の布束に手を突っ込む。「今は硬すぎる。私の性に合わない」腹を軽く叩いた。「それに…少し肉がついたしね」

次に彼女が引き出したのは、唸りと小さな笑みと共にだった。

「これはね」と低い木箱に軽く放り投げた。「行列用じゃない。目立つためのものだ」

オレンジ色、太陽に映える柚子を切ったように鮮やか。上半身は小さく――二枚の曲線の布片が黒い紐細工と小さな輪で繋がれているだけ。控えめというより装飾的。紐は腹で再び合流し、潮流網のように下へ編み込まれていく。下半身はほとんどスカートとも言えない。透ける布が一枚、端が波打ち、貝の稜や魚の鰓のような層状の縫い取り。内側から白い布が覗き、波に巻き込まれた泡のよう。

私は瞬き。「それは…ちょっと…」

「派手すぎ?」彼女はにやり。「まあ、夏だからね」私を見回した。「それ着たら目立つよ」

私は口を覆った。恥ずかしいわけではなかった。ただ…驚いたのだ。神聖で私的なことを声に出されたようで。「イエスってことにしとくよ」と彼女は笑い、木箱を私の方へ押してきた。

「そんなの無理――」

「“強制”って知ってるかい、子?」彼女が遮った。

私は目を瞬かせ、首を振った。

彼女は鼻で笑った。「私が言う、君はうなずく。それだけさ」鋭いが遊び心のある調子で、私は赤面した。

彼女は木箱に寄りかかり、「名前は?」と尋ねた。

彼女の目を探った。どう応じていいか分からず。「せ、セイ、セイヨ…」

「セイセイ?」彼女は笑った。「可愛いじゃないか。で、うちのセイセイは何をする子?」

私は首を振った。言葉を失って。「な、なにも…」

「仕事、欲しい?」

「し、仕事? どんな…?」

「まず」と彼女は指を一本立てた。「きょうだいはいる?」

私はうなずいた…目は訝しげに。

「話はこうだ。私はこれを全部仕分けなきゃいけない。手伝えば、使わないものは持って帰っていい」

「全部?」思わず口走った。

彼女は目を細めた。「“使わないもの”って言ったよ。欲張るな、小さなお月さん」

「ち、違…ただ…」私は首を振り、木箱の縁を必死に掴んだ。逃げないように。

彼女は柔らかく笑った。「君、鏡に育てられた子みたいに赤くなるね」

「どういう意味?」

「自分をはっきり見すぎてるか、全然見えてないか。同じことだ」彼女は手を振って話を切り、布束に向き直った。「さあ、世界の層をめくっていくなら、袖から始めよう」

私は低い木箱から降り、彼女の隣に膝をついた。圧倒されて、それ以上何もできなかった。手の下で、布は干された葉のようざわめいた。彼女はスレートブルーの柔らかな上衣を取り出し、二人で広げた。

「旅用の重さだ」と彼女は言った。「胸元を二重にして着る。皺にならない。内陸に行くときはいつも着てた――肘が抜けるまではね」彼女は私に押しやった。「これ着たら“思慮深そう”に見えるよ」

「思慮深そう?」

「部屋を静かにする人に見えるってこと」

私は襟に触れた。何度も指で撫でられたように、柔らかく擦り減っていた。そっと折り戻した。

彼女は別のものを引き出した――靴。「これも悪くない。珍しいよ」

淡い色、手縫い、斜めの織り模様――沿岸の湿気対策の仕立て。爪先は少し反っていたが、意匠ではなく年季から。革は柔らかく、潮に洗われていた。「君なら一週間で履き潰すだろう」と彼女は言った。「でも市場を歩くには? 噂話をするやつに忍び寄るには? 最適さ」

私は微笑んだ。

彼女は秘密を囁くように身を寄せた。「昔は一日で靴を履き替えてた。人目用と歩く用。絹の靴底だけで、人の扱いが変わるのに驚くよ」

私はうなずいた。彼女が服を通してどれだけの人生を生きてきたのか思った。

そして彼女は布束の奥深くから深いプラム色の長いショールを引き出した。杉の香りがふっと立つ。光に透かすと薄いが、風を防ぐには十分に詰まっている。

「これは」と彼女は言った。「どんな女の子でいたいか分からないときのためのもの。だから全部選ぶのさ」

私はそれを腕に掛けた。折り目で色が濃くなった。無地のチュニックの上に巻くのを想像した。あるいは、自分自身に直接。

彼女はしばらく見て、別の木箱を指した。「次の木箱。君にふさわしいものを探そう。大胆か、賢明か、両方か」

私は一度だけ笑った。自分でも驚くほどに。

「いつもこう?」と尋ねた。

「こうって?」

「知らない人を着飾ること」

「セイセイって名前の子だけ」と彼女はくすくす笑い、ベルトのような装飾品を差し出した。「しばらく滞在する?」

私はうなずき、彼女が別の木箱を置く間、胡座をかいて座り直した。

「手袋だよ」と彼女は言った。

木箱は鈍い音を立てて床に落ち、蓋は半分開き、ゆるやかな質感の波がこぼれた――畳まれたニット、レースの縁取り、柔らかく皺の入ったガーゼ。手袋も、だがそれだけじゃない。長いストッキング、ウエストサッシュ、ショール、名前も分からないもの。

彼女は向かいにどさりと腰を下ろし、膝を古い蝶番のようきしませた。「ここは女の子が迷子になる箱」

私は信じた。見るだけで胸がざわめいた――知らないままでいるべき秘密に触れる、浮き立つ感じ。身を乗り出し、錆色に染められ、薄い起毛の絹が裏打ちされた手袋をそっと撫でた。蝋紙に包まれたもう一組は、ほとんど透けて見えた。「これ、すごく…」

「馬鹿げてる?」と彼女。

私は首を振った。「きれい」

彼女は首を傾げ、仕立て屋が裁ちかけの反物を見るように私を見定めた。「スタイリストって知ってる?」

私はうなずいた。「服を作る人」

「女の人が自分と釣り合ってるって感じられるようにする人」と彼女は訂正。「服は土台にすぎない」私は見つめた。一言で一生分の授業を渡されたよう。

彼女は微笑んだ。「君はきっと好きになる」

私はためらい、さらに手を伸ばした。「これは?」 結び目が作ってある帯――十通りに結べて、どれも意図的に見せられる。スカラップのシアー羽織、褪せた真珠のビーズ飾り、陰の露のようきらめく。薄くつぶした小貨幣が織り込まれたリボン――たぶん踊り用。止めていた息がふっと漏れた。

「ね? 言ったろう」と彼女はにやり。

「ただ…」私は言葉を探した。「小さい頃、こんなお店なかった。あるものがすべてで。お風呂場で交換するか、いとこからのおさがり」

彼女は喉で声を立てた。「銭湯育ちか。そういう子は早く大きくなる。鉢の蔓みたいに」

私は体を縮めた。褒められたのか呪われたのか分からず。

「心配いらない、蔓は好きよ」と彼女は笑い、蝋布の小箱を釣り出し、親指で蓋をぱちんと弾いた。簪――彫り骨、漆、欠けたもの、新しいもの。「一つ選びな」

私は潮の泡に引っかかった貝殻を見るように見入った。「これ」と彼女が指差す。

「櫛?」

「違う、隣。波の簪」私はそっと持ち上げた。

「それを髪に挿せば、誰かが気づくよ」

「誰が?」考えずに訊いた。

彼女は肩をすくめた。「君の時間に値する誰か。あるいは、そうなる誰か」彼女は片目をつぶった。「それに、手伝うなら見た目も相応にしないと」私の髪をまとめ、簪を差し込んだ。「ふむ」向きを変え、深い木箱をがさごそ。細いレースを引き抜き、私にあてがい、首を振る。さらに探る。

「裁縫できない」と私は沈黙を埋めた。

彼女はマーマレード色の何かを取り出し、私に押し当ててうなずいた。「脱いで」私のラップに手をかけた。

私は驚き、命じる調子に見つめることしかできなかった。まだビキニをつけていたが、布が落ち、彼女が新しいものを私の頭から被せる間に考える暇はなかった。

「いいね」と彼女は言い、肩を取ってくるりと向きを変え、眺めた。「さて、靴…」さらに探り、服の山をよけ、靴があるとは思わない場所から紐で結わえた束を引っ張り出した。

私の片足を取り、靴底に合わせた。首を振る。次のに移る。鍵束を送るように。私はふらついた。半分は着せられたものを見ようと、半分は立とうと。ドレスだった。背中は深い奈落のように開き、前は安心できる高さ。肩のストラップは私のどれより細い。そして――

「これだ」と彼女は微笑み、一方を私の足にすべらせ、見えるように落とした。「どうだい?」

大した靴じゃない。薄い靴底、布が足を心地よく包み、小さな紐でゆるく結ぶ。濃く褪せたシャルトリューズ、ターコイズへ向かう色合い。驚くほど気に入った。「すごく好き!」息を呑んだ。

彼女は満足の息を鼻で漏らし、うなずき、木箱に潜った。どこかで、染料と魚鱗の染みがついた分厚いキャンバスのエプロンを渡し、「これ着けとき。忘れる前に。でないと台無しにするよ」

私は従った。見下ろすと、別人になった気がした。初めて、本当に分かることをしていると感じた。誰かの過去から衣服を引き出し、今にまだ似合うか確かめる。数え切れない人生の断片を、知られていようといまいと、現在へ連れてくる。

彼女は畳んだリネンシャツを渡し、「これは『今日は放っておいて、でも遠くから見とれるのはいい』って朝のためのもの」

私は笑った。「何にでも用意があるね」

「違うよ。欲しいのに言葉がない時の気持ちを覚えてるだけ」珍しく真顔で私を見た。「服は君を変えるんじゃない。君が言いたいことを言えるようにする」

次の木箱は重かった。私は農夫の真似で膝を曲げ、下から抱えた。大して役に立たず、横へずらすたびに息が漏れ、ついに木箱は彼女の脇に収まった。

彼女は片眉を上げた。「ブーツとベルトだ。気をつけないと肋骨持っていかれるよ」しゃがみ、ラッチを弾き、額の汗を拭った。「ここからは腰が本当より悪いふりをするところ」

「ふりなんてしない。私がやる」

「ふむ。若いって分かるね」蓋がきしむ音に合わせて笑った。「さあ、ブーツ娘。左右を揃えて。カビのは廃棄」

彼女の隣にしゃがみ、中身を引っ張り出し、対に積んだ。蝋引きの革と杉油の匂いが立ち、濃い歌のよう。

「この辺の子?」ひび割れた踵の一組の上から尋ねた。

私はうなずいた。「上の小径、段々畑を越えて、山のふもと。母は町の修復師、ひとり。父は時々ローテーションに出る」

「民兵隊?」

「戦闘じゃない。現地側。静かな仕事、修繕とか」ブーツをひっくり返した。靴底が割れている。脇へ避けた。「母も昔は入ってた」

彼女は歯の間から口笛。「納得。君には染みついた緊張がある。昔はそういう子を“ミリタリー・ブラット”って呼んだ」

良いのか悪いのか分からず、肩をすくめた。

「あなたは?」話題を変えたい半分、知りたい半分。

彼女はベルトを肩に投げ、スカーフのように掛けた。「船の子。小さい貨物船で生まれた。陸に根を張るほど長くいたことがない。ここは、浮かない場所としては一番“家”に近い」

「ここに住んでる? 市場に?」

「スカーフの裏でね」と真顔で言い、笑った。「冗談だ。週に何日か接岸して、貨物を動かし、物を売って、洗濯や修理を請け負う。でもいつもこのベイに戻る。私の場所、私の散らかり、半分忘れられたものの住処」見回し、表情が柔らいだ。「君みたいな子が現れて、手袋を抱きしめ始めるまで、ここが好きか忘れるんだ」

「抱きしめてないよ」

「完全に抱きしめてた」

私は赤面したが、反論しなかった。

しばらく調子を合わせて働いた。ブーツを引き出し、ストラップを合わせ、ベルトを色と傷みで仕分ける。速くはないが、気持ちよかった――他人の洗濯物を畳むうちに癖になる感じ。

「ここに残ること、考えた?」彼女がふいに言った。

「船に?」

「この船だけじゃない。どの船でも。君には“その顔”がある」

「どんな顔?」

「消えたいのに、誰かに気づかれたいと願う女の子の顔」

私はキャンバスのベルトに手を埋めたまま止まった。口が開いたが、声は出なかった。

彼女は追及せず、厚底のトレイルシューズを手に取り、承認するようにうなずいた。「大丈夫。陸に戻るふりをやめるまで五年かかった。今は毎朝新しい場所で、窓に海霧がかかって、どの港か分からないまま目覚めるのが好き」私はゆっくり首を振った。

「怖いよ」と彼女は大きく笑った。「でも完璧でもある」

私はうなずいた。「私…そういうの、好きかも」

彼女は私の肩の糸くずを払った。「新しいもの試してみな、セイセイ。似合うよ」

何と返せばいいか分からず、ただ静かにうなずき、別のベルトを畳んだ。

頭上の照明がちらつき、船が気圧を調整――新しい港か、風の変化か。低い機械の吐息が響いた。

彼女は顔を上げ、どの木箱を次に開けるかすでに知っているように目を光らせた。「さあ、スカーフのところへ。結び目で物語を語る方法を教えてあげる」

船が揺れ、木枠がきしむ中、木箱がかすかに鳴った。「スカーフは」と彼女は別の箱を漁りながら言った。「防寒や飾りじゃない。本当は文章なのさ」

「文章?」

竹色で濃紺の縁取りのスカーフを取り出し、指で気まぐれに回した。「結び目は休符。垂らし方は声色。一つの巻き方で『礼儀正しい』。もう一度巻けば『礼儀に疲れてる』。低く結べば狩人。高く結べば希望。二重に軽く巻いて端をしまい込む? それは『否定できる口実つきの媚び』さ」

私は笑った。「そんなふうに巻いたことない」

「完璧じゃないか」と彼女は笑った。「白紙のキャンバスだ!」

私は隣に跪き、海泡石色にクリーム色の縁取りのヴェールを手に取った。霧のように軽く、指で溶けるほどだが、握るとしっかり。首に一度巻いて、ためらった。

「静かに言いたい?」彼女は首を傾げた。

「静かに」

「じゃあ片方を肩に流して、問いを隠してるみたいに」

試したが、すぐに滑り落ちた。彼女はそっと手を伸ばし、近すぎない距離で直してくれた。手を離した。

「ほら」と彼女は言った。「これは『見られるつもりじゃなかったけど、見られてるならまあいいか』って言ってる」

私は静かに笑った。「本当に上手ですね」

「学ばなきゃならなかった」と彼女は肩をすくめた。「次の港でどう迎えられるか分からない時、言葉を発する前に何かを伝えておくといい」

別のスカーフを手に取った――淡い黄色、擦り切れた刺繍、微かなカルダモンの香り。三角に折り、年上の女の子たちのように髪の下で低く結んでみた。

「それは『新しいことに挑戦してる。邪魔してみな、できるなら』って言ってるね」

「ふむ」

彼女はしばらく見て、くすっと笑った。「セイセイ、君は誰かを困らせるよ」

私はまた赤面した。

「それ」と彼女は私の頬を指差した。「『まだ困らせてないけど、もうすぐかも』って言ってる」

満足そうにため息をつき、彼女は立ち上がり、膝を払った。「君のこと、気に入ったよ」

私は瞬き。「私のこと、まだ知らないのに」

「だから気に入った」と彼女は思案顔で言った。「君はまだ開かれてない手紙みたいだから」

彼女は手を差し出した。「マアサ」

私は迷い、とりあえず頭を下げた。

「ちがうよ」と彼女は笑った。「こう」彼女は私の親指の付け根に自分のを押し当て、ひっかけて、手のひらを下に回した。しっかり握りながら。「相手の目をまっすぐ見る。それ以外は嘘か、もっと悪いもの」

私は真剣にうなずき、強く握り返して見据えた。

彼女は鼻を鳴らした。「だいぶいい」

外で重いものが船体を揺らし、外板のランプが固定される音が響いた。甲板のどこかで世界が変わっていく。新しい港。新しい光。まったく新しい空かもしれない。

マアサは立ち上がり、風を木の音で読むように上を見上げた。「さあ、出発のためのもの、残るためのものを見つけよう」

彼女は最後のくすんだ青緑の刺繍入りハーフジャケットを丁寧に畳み、木箱の上に置いた。何度も結び慣れた手つきで紐を締める。「ほら」と彼女は言った。「誰かになろうとしている少女のための、小さなコレクション」

私はぎこちなく立ち上がり、渡されたエプロンを撫で下ろした。まだ黄緑色の靴を履いたまま。脱ぎたくなかった。

彼女は布束を渡した。重みが移っても腕は安定。「布の面を腰に当てる。金具で擦れないように」

私はうなずき、それを抱えた。布は彼女の手の温もりを残し、腕に引っかかり、すでに私を知っているようだった。木と糊と潮の、境界の匂い。

「どうお礼を…」と私は言った。

「言わないで」と彼女は髪を払って一歩下がった。「贈り物を重荷にしてはいけない」

彼女は私を網幕を通り、広い通路へ導いた。船の背骨のどこかで機械の唸りが緩んだ。扉が開いたのだろう。そよ風が入り、錆と雨に濡れた砂の匂いを運んだ。

「浜に降ろしてあげる」とマアサは言った。「最後のポッドを逃したら、明日まで手袋の仕分けだよ」

私たちは船尾のハッチへ続く脇道を曲がった。静かで、商いの喧騒が消え、柔らかな電気音が漂っていた。ランディングプラットフォームに着くと、小型のフロートが二つ、眠る虫のように停泊井戸に並んでいた。

「セイヨ?」と馴染みのある小さな声。

私は瞬き。「チョウ?」

彼女は段のところに立っていた。腕を胸の前で組み、待つときの守るような姿勢。髪は重い髪留めで扇のようにまとめられ、霧で湿って裸足だった。

「テラスにいると思ってた」

「ママと内陸にいると思ってたのに!」

「いたのよ!」彼女は瞬き。「ママは残った。私は海岸で降ろされた。伝票を確認しに来たの」

彼女の視線は私の腕の荷に移った。「それ、何着てるの?」

「徴兵されたのさ」と隣から声。

私は振り返った。マアサが立っていて、片手を腰に置き、顎を上げて面白そうにしていた。

「華やかさへの徴兵だ」と彼女は言い、チョウを見上げ下ろした。「あなたが双子ね」

チョウは立ちすくみ、ゆっくり瞬き。「あなたは…?」

「マアサ」と私は小さく言った。

チョウはマアサを見回した――層に包まれた彼女を。「織物の機会主義者よ」とマアサは滑らかに。「そしてひどい交渉者。セイセイに聞いてみな」

私は飛び上がった。「な、なに!?」

チョウの眉が上がった。「セイセイ?」

「そう呼んでるの」とマアサは軽く。「似合うと思って」

チョウは私に向かい、口元にゆっくり笑みを浮かべた。「可愛いじゃん…」

「やめて」と私は半ば荷の陰に隠れた。

マアサはにやり。「二人とも、潮ごとに誰かを困らせるね」

チョウは小さく吹き出した。「いつもこうなの?」

「手袋を仕分けてる時だけ」とマアサは返した。「それと助言してる時。彼女は聞いた。だから技術的には私のもの」

私はチョウに助けを求める目を向けた。彼女は肩をすくめた。「共有しても構わないよ」

マアサは私の腕を軽く叩いた。「次に来る時は」と低い声で。「少し野性的なものか、少し怖がってるものを持ってきな。どっちでもいい」

「やってみる」と私は答えた。

「いや――」彼女はにやり。「ただ、やるのさ」

私はうなずいた。頬が熱かった。彼女は一歩下がった。

「行きな」と彼女は言った。「潮が変わる前に」

チョウが私に笑みを見せた。質問が心の奥で泡立っているのを感じた。私はポッドに乗り込んだ。前の運行でまだ温かい。

「運転手は?」私は尋ね、半分知っていて半分怖かった。古い型。タープが私たちの周りに跳ね上がった。

チョウが私を抱きしめた。「大丈夫…」と囁いた。シールがシューッと閉まり、クランプがやわらかなカチンという音で外れた時。

私は激しく首を振った。大丈夫じゃない。ハッチの細い隙間から一度だけ振り返った。

マアサがやさしく手を振った。「Híit’e’iite, wásó’nika… Toksa ake, čhiyéla!」✤――ラコタ族の別れの言葉、温かくも堅く、師匠が生徒を送り出すよう。

次の瞬間、ポッドは浜へ落ちた。ほんの半秒。私はずっと叫び続けて…

泣きじゃくったあと、チョウが先に立って私を家まで導いた。雨は容赦なく降り、私はサンダルを置き忘れてきた。びしょ濡れで戻った。

「ママ、まだ帰ってないの?」震えながら台所で火を起こそうと尋ねた。

「ううん」チョウは伸びをして、毛布の下で脚を気まぐれに揺らし、隅に丸まって見ていた。「たぶんまた泊まりだよ。最近多いし」最後の言葉は問いのようだったが、私は応じなかった。なぜママがよく家を空けるのか、私も知らなかった。

私はうなずき、膝に顎をのせた。夜は私たちを包み、柔らかく静かに、雨の香りが漂っていた。

「ねえ」とチョウが突然、眠そうだが楽しげに。「次、市場に行ったら、ばかみたいに重ね着するドレス買えば? きっと可愛いよ」

私は鼻をしかめたが、心臓が不意に跳ねた。「じゃあ、あんたが買えば」と言い、枕をもう一つ彼女に放った。

チョウは笑ってそれを受け止め、満足そうにため息をつき、頭の下に敷いた。「買うよ」と呟き、すでに半分眠っていた。

私は微笑んだ。静けさが毛布のよう私たちの間に広がった。ママがいなくても家は完全に感じられた――私とチョウ、からかいと安らぎに絡まり、いつも通りに。

毛布の下に潜り込み、火が暖まるのを待ちながら、新しいドレスの布が足にひんやり触れるのを感じた。市場をまた思った。次はきっと買おう。軽くて柔らかく、温かなものを。

眠りに落ちる時、その日の温もりを抱きしめていた――雨に濡れた布、茶の香り、チョウの気楽な笑い声。すべてが、私の心に寄り添う一枚の布のように縫い合わさって。


♡【とじ✿】♡


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