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天国の階段  作者: お赤飯
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天国の階段

バハヴェ氏基調講演「皆さん。人間は生まれた時、神に祝福される。祝福されて生まれてくる。希望に満ち溢れて。・・・・そう教わってきた。だが、本当にそうなのだろうか? 我々は本当に祝福されるているのだろうか? 生まれた時から、我々に希望なんてものはあるのだろうか?

皆さん。世界はたった0.1%の特権階級の人間に支配されているのです。

ああ、驚かないで下さい。それが真実なのですから。・・・陰謀論とか終末論とかそういうものではありません。私は真実を語っているのです。その特権階級の人間が、地球上のあらゆる政治、経済、紛争、食料、医療、ありとあらゆるシナリオを作り、実行されているのです。私達に自由なんてものは存在しない。自分の預かり知れない所で、勝手にレールが敷かれ、そこを歩かされているのに過ぎないのです。そこに希望はありますか? 希望なんてものは存在しない。あるのは役だけ。与えられた役を演じるだけ。

そうです。皆さん。アメリカをはじめ世界の首脳ですら、0.1%の特権階級の傀儡でしかないのです。・・・・自分が投票して、その彼が国のトップになったと、思っていることでしょう?

あなたは自分が投じた票が集計されるのを自分の目で見た事がありますか? 本当に数えられていると思っていますか? 全て出来レースです。選挙なんて茶番劇ですよ。票を投じようが、最初から、誰がリーダーになるのか決まっているのです。0.1%の特権階級が、それを決めるのです。

昨日まで平和だった国が、狂ったように隣国と戦争をはじめる。それだってシナリオに乗っ取ったものです。忠実にシナリオの通り、役を演じるだけ。わざと戦争を起こして、戦争のマネーを懐に入れる為です。

これを見ている皆さんは、聞いている皆さんは、私の頭がおかしくなったとお思いでしょう。そう思ってくれて構いません。それならばそれの方が遥かに幸福だからです。まもなく、アメリカ大統領が殺されるでしょう。

たぶん緊急ニュース速報が世界中に流れると思います。それを見れば嫌でも私の話を信じる事になるでしょう。別に私は預言者でもなんでもない。アメリカ大統領が殺されるのは、シナリオ通りだからです。彼は、0.1%の特権階級の逆鱗に触れた。それだけです。彼の役目はそこで終わったのです。

彼の大統領が行った施策を思い出してみて下さい。自国の工業化の優遇と発展。工業化を無理に推し進めた。その結果がもたらすものは自らの死。0.1%の特権階級に不都合な政策を行った結果です。これから益々、世界は自然保護、環境保護に加速していきます。より過激に、よりスピーディーに。・・・・そういうシナリオです。

何故か。・・・・・この惑星に人間が住めなくなる期限が迫っているからです。環境保護が正しいとかそれは私には判断出来ません。0.1%の特権階級が正義なのかも分かりません。唯一言える事は、理論的に考えて、環境の悪化は、環境負荷があまりにも大きく、経済的な損失を鑑みても、食料問題、エネルギー問題、人種と性別問題、軍事、戦争の問題。これらを内包しているのです。エネルギーの奪い合い、食料の奪い合い、国土の奪い合い、戦争の火種が幾つも同時に、多発的に発生します。それを回避するには、自然環境の改善、保護しかありません。

食べ物も無い、エネルギーも無い、労働人口も無い。黙っていれば人間の住める星ではなくなってしまうのです。誰も住んでいない星に、王様だけいても、何の意味があるでしょうか。0.1%の特権階級はそれを危惧しているのです。私達の命ではなく、自分達の生活を考えれば、自然と、そのような考えになる事は明らかです。

既に彼らは、ヨーロッパの固い岩盤の下に、地球が死の星となっても、生き残れるコロニーを建造しています。当然、核戦争で、中性子線に侵された世界でも生き残れるようになっています。ですが、先程も言ったように、自分達だけが生き残ったとしても、意味がないのです。王様は、奴隷がいてはじめて、王様として君臨できるのですから。嫌でも奴隷を殺さないように手を打つでしょう。それが、現在の、世界の状況なのです。

まあ、それも奴隷として選ばれたらの話ですが。

私は考えたのです。このまま地球という名の檻に囲い入れられた家畜として、生きるのか。それとも、動物として、野生として、主人を殺すのか。

私の結論は、こうです。


思いあがった特権階級のクソ野郎共を始末することにしました。」




生徒「先生、瀬能先生! 質問です。では、神様が宇宙からやってきた、すなわち、宇宙人だ、という事でしょうか?」

瀬能「難しい質問ですね。イエスともノーとも言えません。仮に、仮にイエスと言ってしまったら、多方面から非難を受けるでしょう。こういう学問は、専門分野の学会がある訳ではないので、そういう意味でも多方面から非難を受けると思います。宇宙物理学の世界にしても、生命倫理の世界にしても、民俗学にしても、異端ですから、あくまでここだけの話に留めておいて下さい。テストには出しませんから安心して下さい。テストに出しちゃったら、暗に大学がこれを認めてしまった事になりますからね。」

生徒一同(笑!笑!笑!)

瀬能「ここからは余談になりますが、あ、ずっと余談ですね。最初から余談でした。まあ今日の講義は全編余談ですから、受けても受けなくても全員出席扱いにしましょう。」

生徒一同(笑!笑!失笑!)

瀬能「何も神様が宇宙からやってきた、というのはあながち冗談とも言い切れなくてですね、先程話した『竹取物語』や『羽衣伝説』が有力な説としてあるわけです。ちなみに『浦島太郎』は逆に、地底世界、海底世界が存在する可能性を示唆しているとも言われています。これは余談の中の余談になってしまいますが。」

生徒「先生、それはあくまでお伽噺の中の話じゃないですか?」

瀬能「お伽噺というものは、時に真実を内包している可能性もあります。現代みたいにカメラが普及して風景を一瞬で切り取るストレージがあれば良かったのですが、当時は、口伝です。人から人に、口伝えで出来事を伝えるしか後世に残す方法がありませんでした。それでも、ロゼッタストーンのように石板に記したり、紙や筆を使って残せるようになってからは格段に、出来事を残せるようになりましたが。

口伝という方法に言及して言えば、伝言ゲームですので、確実に尾ひれ腹ひれが付きます。背びれも付きますよ。しかも、何百年、何千年の伝言ゲームです、原型が留まっている方が怪しいと思っています。

『竹取物語』も『羽衣伝説』も、一種、定型的なものがありまして、宇宙から来て宇宙に帰る、というものがあります。これを現代的に言い換えると、宇宙から来た宇宙人が、地球にやって来る。宇宙船が故障したのか、別の目的化かは分からない。だけど、ある程度時間が経過すると、宇宙に帰っていってしまう。自分で帰るのか、迎えに来てもらうかは話によりますが、宇宙に帰って行きます。その時、宇宙人のテクノジーを地球に与えたと考えても、自然ではないでしょうか。」

生徒「ああ、なるほど」「宇宙人にメリットないじゃないですか」

瀬能「宇宙人が地球にやって来たという趣旨を、伝言ゲームで伝えていった結果、その様な伝記になったとも考えられるわけです。これには裏付けられる理由もあって、近年、宇宙物理学の世界で、隕石に有機物が付着していたという研究レポートが発表されました。彗星や隕石に、ガスや液体が固体になっているものが付着していることは知られています。少なくても宇宙空間にいる間は、氷の塊として存在しているわけです。それが、地球に落ちてきた時、大気の摩擦で溶けてなくなってしまうと考えられてきましたが、大気が無かった時代、大気が薄かった時代に落ちてきた隕石に、有機物が付着していた痕跡がありました。」

生徒「それって宇宙生物?」「えぇぇ、モンスター?エイリアン?」

瀬能「有機物ですから生命の可能性だって否定は出来ません。それに、昆虫。昆虫のたぐいは、私達、脊椎動物が陸に上がる以前から、地上を席巻していたと言います。むしろ、虫の楽園だったのです。皆さん、昆虫、見たことあります?どう見てもエイリアンでしょう?昆虫そのものが隕石に乗って地球にやって来たなんて可能性もあるんですよ。クマムシの一種は、死なない、永久冬眠するなんてものも存在します。」

生徒「死なない?」

瀬能「ええ。冬眠状態になると、何百年もずっとその状態を維持し、水をかけると復活します。ですから、宇宙空間でも生存が可能なので、そのままの姿で、隕石に乗ってやってきても、なんら不思議ではありません。」

生徒「へぇ」

瀬能「私達、人間は地球上で我が物顔で生活していますが、その由来はいまだ不明です。私は、進化論だけでは説明が不自由分だと思っています。もしかして、本当に、神様がいて、我々人間を作りたもうた可能性だってあり得るんですよ。」




アメリカ副大統領「・・・・大統領が暗殺された。5分も経たない間に世界中にニュースが広がった。」

政府幹部「ええ。」

副大統領「まったく。大統領も余計な事をしてくれる。・・・・国内産業はもともと火の車なんだ。テコ入れしたって火に油を注ぐ様なもんなんだ。」

政府幹部「副大統領。・・・・スピーチ原稿を只今作成中ですが、もうすぐ、緊急記者会見の準備が整います。」

副大統領「ああ、分かってる。分かってる。・・・・これから淘汰されていくぞ。世界中の人間が淘汰されていくんだ。」

政府幹部「え?」

副大統領「その栄えある第一号が大統領だったんだ。古い時代の代表として、淘汰された最初の人間。・・・・・さて。私は生き残れるだろうか。」

政府幹部「副大統領、何をおっしゃっていらっしゃるんですか?」

副大統領「いや、なんでもない。君も気を付け給えよ。気を抜けば、いつでも、違う人間に入れ替わっているはずだ。私と大統領のようにね。全ては雲の上の御心のままに、だ。」




皇「ほら、爺さん。味噌汁。」

爺さん「おお、温っかい。助かるなぁ。」

皇「帰りに弁当、貰って行けよ。早くしないと無くなっちゃうから。」

爺さん「弁当もあるのか?」

皇「ああ。おにぎり弁当だけどな。」

爺さん「ああ、貰って帰るよ。」

皇「そのかわり早く食えよ。・・・食中毒でも出されたら保健所に目ぇつけられるんだからな。」

爺さん「ああ、そうする。そうする。」

皇「それから・・・・あと、靴下とかパンツとか、あそこで配ってるから。言っておくけど、選べるのはサイズだけだからな。色とか形とかは言いっこナシだぞ。」

爺さん「なんでもいい。貰えるだけありがたい。こうやって炊き出しでメシ、貰って食えるだけ、俺ぁありがたいと思ってる。」

皇「まぁ爺さん。こういうのは持ちつ持たれつだ。気にすんな。」

爺さん「俺ぁ若い頃は、集団就職で田舎から出てきた。あっちもこっちも人ばっかりで寝る所はみんなで雑魚寝だ。給料も安くてな。そりゃそうだ。人で溢れているんだ。人を切ったってすぐ違う人間が見つかる。人を育てるより使い捨てにした方が安く使えるからな。それでも安い給料ながら這いつくばって働いてきた。気がつきゃ終身雇用なんてものは消えてなくなって、成果主義だ。若い奴にどんどん抜かれて給料は減るばかり。定年迎えてようやくゆっくり出来ると思えば、年金だって、スズメの涙よ。まちょうに働いて、生活保護より、貰いが少ないんだ。おかしいだろ?俺ぁおかしいと思う。今、住んでるボロアパートだって年齢でいつ、出ていけって言われるか分からねぇ。追い出されたら、俺ぁたぶん、路上生活だ。この歳でだぞ? 笑えるな。笑うしかねぇ。」

皇「誰も爺さんの人生を笑いやしねぇよ。さっきも言ったろ。・・・・持ちつ持たれつだ。いつ、誰がどんな世話になるか分かんねぇ時代だ。みんな先が見えねぇんだよ。爺さんだけじゃなくてな。」

爺さん「この国がおかしいのか、俺の人生がおかしいのか、・・・・俺ぁ分からねェ。」

皇「誰も間違っちゃいねぇよ。少なくても私はそう思ってる。」




有坂「先生。瀬能先生。さっきの宇宙人の話。とっても面白かったです。」

瀬能「ああ、ゼミの子ですか?」

有坂「有坂です。」

瀬能「あ、私は教授の空いた穴を、頼まれて埋めているだけの雇われ講師ですから、そんな先生なんて大そうなものじゃありませんよ?」

有坂「え?そうなんですか。」

瀬能「教授、ギックリ腰が再発しちゃって動けなくて、それで、私に、お鉢が回ってきた、それだけの話です。たまたま教授のメルトモだったので。」

有坂「・・・・メルトモ?」

瀬能「あ、でも、私の講義でもちゃんとテストは行いますよ。それで成績はつけますから。あまり、見くびらないように。」

有坂「誰も見くびっていませんよ。先生、次はどんな講義を行う予定なんですか?」

瀬能「・・・んん。そうですね。今、考えているのは、ニンゲンだけが持つ特殊な思考、『欲望』について。」

有坂「欲望・・・・?」

瀬能「ええ。宇宙人によって、知恵を授けられた人間はその後、今日まで地球上を席巻するまで大きく繁栄してきました。どうしてニンゲンだけが他の動物と違い、爆発的に繁栄をしたのか。それを解くキーワードが『欲望』です。」

有坂「へぇ。・・・面白そうなテーマですね。」

瀬能「面白そうじゃなくて、面白いんですよ。・・・・ニンゲンは欲望に抗う事が出来ません。ニンゲンは欲望の奴隷です。そして、欲望によって身を亡ぼす。欲望は諸刃の剣。有坂さん。」

有坂「はい?」

瀬能「有坂さん。あなた、可愛い顔をしていても、自分の欲望に抗う事は出来ませんよ?あははははははははははははははははは あははははははははは あ・・・・失礼。」

有坂「・・・・あ、ああ、あの、次の講義が楽しみで す。」




千年婆「おお、見えるぞ! 未来が見えるぞ!」

族長「お、婆様! 婆様のお告げだ! 婆様! 何が見えるんだ! さあ、何が見えるか教えてくれ! 婆様!」

千年婆「そう急かすな! 小僧よ。」

族長「婆様、俺ぁもう族長だぜ?小僧呼ばわりするのは婆様だけだ。 何が見えたんだ、教えてくれよ、婆様!」

千年婆「ううぅぅぅぅん、ううううぅぅぅぅぅぅぅぅうん。・・・・・人間が、多くの人間が死んでいるビジョンが見えるゾ! 多くの人間だ、アフリカ大陸全土の人間が、いや、ユーラシア、・・・・もっとだ、もっと、これは、地球上、全ての人間が死ぬビジョンが見えるゾォォォォォオォ!」

族長「人が死ぬ?大勢が死ぬぅ? ホントか、婆様!」

千年婆「階段が見えるゾ! 階段だぁ、あれは、天国の階段だ。・・・・人間共が皆、天国の階段を上っていくのが見える! ああ、駄目だ、そっちに行ってはいけない!帰ってくるのだ!その階段を、天国へ通じる階段を上ってはいけないぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃいいいい!」

族長「天国の階段? な、なんなんだそれは、婆様!」

千年婆「儂には天国の階段が見えるゾォォォォォォォ、天国の階段がぁぁぁぁぁぁぁぁ」

族長「おい、特等席へホットラインを繋げ! 婆様のお告げがあったってな。・・・なんなんだよ婆様、みんな死ぬって?」

部族「・・・はい、族長、了解しました。」

千年婆「世紀末だ、世紀末ぅぅぅぅぅぅぅ!」




瀬能「人類がここまで繁栄した要因に”欲望”という感情があります。”欲望”という感情は、あらゆる動物が持つ、原初の感情、”恐怖”から派生したもと言われています。

”恐怖”という感情を少しだけお話しましょう。恐怖とは、自分の命を守る為に必要なものです。有名な所で、動物の多くは、生まれてすぐ自分で動き、母親の乳を吸おうとします。自分で動かなければ、他の動物、敵に襲われて死んでしまうからです。恐怖という感情が、本能に組み込まれている為、生存本能として生まれたの動物でさえ、母親を目指して手足を動かすのです。」

生徒「そうよね」「馬とかそうらしいわ」「どんな動物でもそうよ」

瀬能「身を守ったり、危険を察知したり、逃げたりと、生命を守る行動の原点が”恐怖”という感情なのです。何度も言いますが、これはあらゆる動物が持っている感情です。アメーバーもそう、ミジンコもそう。ネズミも。ネコも、イヌも。ライオンも、シカもゾウも。鳥も魚も。みんなみんな持ち合わせているもので、本能と言っていいものです。

私達人類はこの”恐怖”という感情がより肥大化しました。人類が発展すればするほど、恐怖も同じ様に肥大化していったのです。

例えば”飢え”。食べ物がなく、食べる事が出来ない、飢え。食べる事が出来ないまま過ごしていればいずれ死んでしまいます。その”飢え”に備えるように、脂肪を蓄えるようになりました。脂肪を蓄積する事で飢えから多少なりとも三日四日は我慢できるようになりました。でも、最大の発明は”農耕”です。狩猟は、身体的にも危険であるし、獲物が取れる確約がありません。狩猟は半分、運任せなのです。ですが、農耕は狩猟よりは確実に食べる物を得る事が出来る。それに作物の種類によっては保存が可能になった。これによって格段に”飢え”から解放されました。”飢え”て死ぬという恐怖に抗う為、”農耕”という手法を人類は手に入れたのです。ま、人類は大勢が一緒に暮らすコロニー型の生活スタイルだったので、食うか食えるか分からない狩猟よりも、農耕によって全員が食料を食える方が、社会の発展、文明の発展という意味でも都合が良かったんですけどね。」

生徒「文明の発展には安定した社会生活は必要だものね」

瀬能「その”恐怖”という感情から派生したものが、私達人類を発展させる要因となりました。それは原始生活の終わりを告げ、人類は文明を構築するまでになりました。サーベルタイガーを警戒しながら、時に襲われ、狩りをしていた時代は昔となり、人間の敵は人間となった時代です。食料や領土を拡大する為、人間同士で戦争をするようになりました。もちろんこの行動の原点は”恐怖”に由来するものです。飢えたくないから、死にたくないから、人より裕福でいたいから、そんな些細な人間の感情が、”欲望”に変化していったのです。人より多く食べたい、人より多く富を得たい、人より多く偉くなりたい、美しくなりたい、若くいたい、名声をあびたい。恐怖を回避する感情が、転じて”欲望”へ変わっていったのです。

これは何も感情だけの話で言っているのではありません。脳の仕組み的にも”欲望”は肥大化してきました。原始的な動物、人間以外の動物は、食欲や恐怖といった原初の感情しか持たない古い脳で生きています。人間は進化により、その古い脳、原初の感情の上に、新しい脳、大脳新皮質を手に入れました。それによって人間は自分の”欲”に対して、成果が得られると報酬を受け取る仕組み、すなわち報酬系を手に入れたのです。その報酬とは脳内麻薬と言われるホルモンです。エンドルフィン、ドーパミン、オキシトシンが有名ですね。これらは成果に応じて得られる報酬・・・・いわゆる、快感という感覚です。

皆さんも目的を達成すると、気持ちよくなるでしょう?アレです。あれは気持ちが、気持ち良いというだけでなく、物理的に、脳内麻薬が脳から出ている為、得られる感覚なのです。そして、人間はその気持ち良い、快感を得たいから、また、成果を達成しようとする。その繰り返し。達成すれば、気持ち良い、脳内麻薬が得られるのです。”欲望”を満たせば満たすほど、快楽が得られるのです。次第に、目的と手段が逆転していきますよ?脳内麻薬が欲しいから、目的を達成しようとする。快楽を得たいが為に”欲望”を貪るようになる。

・・・・・人間の欲望が際限ない理由がこれです。」

生徒「脳内麻薬・・・・」

瀬能「”欲望”は人類を発展させてくれました。この感情がなかったらここまで人類が地球上、そして歴史上においても、大きく発展することはなかったでしょう。ですが、行き過ぎた”欲望”は、どうでしょうか?

仕組みを理解せず、数式のみで作った大量破壊兵器、核爆弾による紛争、戦争。化石燃料を掘り続け、産業という名のもとに、空気、水、土、あらゆる環境を汚染し破壊する。金と権力の為に人を人とも思わない傲慢な態度。”欲望”は諸刃の剣なのです。行き過ぎた”欲望”は私達人類の首を絞めているのです。そして、その事に多くの人間が気づいていない。」

生徒「・・・・・」

瀬能「ああ、皆さんも加害者ですよ?」

生徒「え?」有坂「・・・・・・」

瀬能「エアコンで快適な温度で生活できてますよね?暑くもなく、寒くもなく。お腹が減れば勝手にご飯が出てくる。綺麗なお洋服で学校に行ったり、遊んだり。スマートフォンで彼氏彼女を作ったり、不倫してみたり。とても楽しい毎日ですよね?」

生徒「先生、何を言っているですか?」「関係なくない?」「不倫ってなによ?」

瀬能「・・・・あなた達が快適に暮らしていけているのはどうしてですか?その電気、どうやって作っているんですか?そのご飯、誰が作っているんですか?その着ている洋服だって。 電気を作るのに化石燃料を燃やし、場合によっては核の熱で電気を作っていますけど。ご飯は、誰が作っているんですか?魚は誰が取っているんですか?食べている肉は、動物の肉ですよ?鳥や豚を殺して、さばいたお肉ですよ?洋服だってそうです。その洋服の糸、どうやって作ったんですか?

ぜんぶぜんぶ経済活動の産物です。その生産過程で、二酸化炭素が大量に排出され、土壌、河川は汚染される。誰かが動物を殺さなければ、精肉にはならないんですよ?それは知らないで済まされる事なんですか? 私達は、自分達の”欲望”を満たすように生活をしているんです。こんな楽な生活はないでしょう?それは誰かが、その過程を肩代わりしてくれているおかげなのです。”欲望”が社会を満たしているのです。そして、もう、後戻りは出来ません。一度、覚えた安楽な生活を捨てる事は不可能ですから。」

生徒「・・・・・」

瀬能「社会を知らないとか、知らなかったとか、そういうので犠牲者面するのは、もう辞めましょう。あなた方はもれなく”加害者”です。

あ、もちろん私もですよ。私はちゃんと加害意識を持っていますから。あなた方は『井の中の蛙』そのものです。安全な所にいて、文句を垂れているばかり。・・・・それでは世の中は変わりません。ならば反対に受け入れ、”欲望”と共に滅びる方が、潔いと思いませんか?」

有坂「先生! それは私達に死ねって事ですか?」

瀬能「あなた達は、私も含めてですが、何も知らず死んでいくよりも、世界で起きている出来事を知った上で、何をすべきか考えて欲しいのです。それは学生である皆さんの仕事です。そうですね、今回は、これをレポート課題にしましょう。」

有坂「先生はどう、お考えなんですか?」生徒「あ、聞きたい聞きたい!」「先生こそ偉そうな事ばっかり言ってんじゃん!」

瀬能「・・・・・私は、世界が滅亡しようとも、這いつくばって生きていますよ?ええ。命乞いをしてでも、他人を出し抜いてでも、そうです。後ろ指を指されても構いません。私は生きていたいんです。」

生徒「それこそ自分勝手じゃないですか!」「そうだ!」「先生、言っている事が矛盾してるよ!」

瀬能「いいえ。私は世界で最後の一人になったとしても、どんな手を使ってでも生き残るつもりです。そういう覚悟があります。・・・・私は”欲望”と共に滅びる覚悟があります。とても潔いと思いませんか?」

生徒「・・・・・・・」

瀬能「今、世界がきな臭くなっています。みなさんもこの世界が、いつまでも、この状態であると思わない方がよろしいですよ?そういうのを考える良いきっかけにこの授業がなると思います。社会はとても理不尽ですから。」




火野「それじゃ、政権を維持できないじゃない!」

ビクビク「そうだよ。だからそう言っているじゃないか。」

火野「政権幹部がおおよそ交代なんて話、誰が信じるのよ?」

ビクビク「いや、別に信じなくてもいいんだけど。・・・だって、君も、アレでしょ?面白い話、聞きたいから僕の所に来たんでしょ?」

火野「・・・・ええ。まぁ。そうですけど。」

ビクビク「僕も最初は嫌だったんだよ?皇君がお小遣いくれるっていうから、来ただけで。それに、君、皇君の友達じゃなきゃ僕、会わないよ?」

火野「・・・・ああ。ええ。」

ビクビク「ほら、僕。こう見えて、億の玉、動かしてる投資家だからさ。あんまり、情報、出せないのよ?インサイダー?になっちゃうじゃない? 今日はたまたま時間が空いてたから、皇君に頼まれて君に会ってるわけだけれども。普通じゃ、僕、会わないよ?」

火野「ソープ帰りに、暇だからって瑠思亜が言ってましたけど?」

ビクビク「暇じゃないよぉ!そこ、ちゃんと注意しておいてよ! 僕ぁねぇ、朝一番に特殊入浴場に行って、頭を覚まさせるのが日課なの。」

火野「はぁ。」

ビクビク「そうしないと一日がはじまらないのよ。頭も回らないし。それにほら、行くとハンコ押してもらえるし。ポイント溜まるとサービス無料券、もらえるし。」

火野「それは、・・・・通わないとですね。」

ビクビク「だから、通うとか通わないじゃないの、日課なのよ。」

火野「ビクビクさん。言える範囲で、教えていただける範囲で、もう少し、教えてもらえませんか?」

ビクビク「いいよ。いいよ。火野君だっけ?君、素直な所が皇君と違っていていいよ。 まぁ僕の情報網は特殊でね。あまり表に出ない話ばっかりなんだ。最近、アメリカ大統領が代わったのはニュースで見たかい?」

火野「副大統領が緊急的に就任したとか。」

ビクビク「あれと一緒よ。日本も、政府が変わる。大規模人事。流石に、アメリカみたいに露骨な大統領交代劇はないと思うけど、総理大臣以外、主要閣僚は交代だね。」

火野「露骨っていうのは、どういう意味なんですか?殺されたのは知っていますけど。」

ビクビク「アメリカなんて国は民主主義なんて言えば聞こえがいいけど、早い話、オーディションだ。オーディション。どれだけ良い事を言って票を入れてもらうか、それだけの人気投票だよ。・・・・大統領に価値なんてない。あんなのはお飾りさ。意にそぐわなければ交代させられる。それだけ。」

火野「・・・・意にそぐわない事をしたから、殺された?と。」

ビクビク「そうさ。」

火野「誰の?」

ビクビク「決まっているじゃないか。資本主義の上澄みを吸っている一部の連中さ。・・・・特権階級、法の外にいるとも言われているけどね。」

火野「法の外?」

ビクビク「そう。法の及ばない所にいるからね、連中は。それに、自分が法を犯さなくても、代わりに、誰かがやってくれるし。彼らに足がつく事なんて、ないんだよ。」

火野「・・・アウトローの連中が、大統領を暗殺したって事?ビクビクさん。」

ビクビク「マフィアとかじゃないよ。同じアウトローでもね。本物のアウトローさ。」

火野「その、本物のアウトローが、日本の政界を動かすっていうんですか?」

ビクビク「平たく言うとそうだね。別に、その特権階級の連中は、アメリカ経済だけを動かしている訳じゃないから。全世界のマーケットを、玩具みたいに動かしているんだ。次のターゲットが日本ってだけでね。」

火野「政権の人員をそんなに大きく変えて、この国は大丈夫なんですか?」

ビクビク「この国の行く末なんて、その連中が知るわけないじゃない。それより、世界規模での話さ。前任のアメリカ大統領が消されたのは、工業製品の自国産業の拡大。機械、鉄鋼、自動車。分かりやすいだろ?でも、特権階級の連中はそれを良しとしなかった。・・・・考えが真逆だったんだ。だから殺された。」

火野「確かに、自国の工業化を無理矢理、推し進めていましたよね、前任の大統領は。」

ビクビク「特権階級の連中が、危惧しているのは、食料の問題だ。」

火野「食糧?」

ビクビク「・・・・すでに始まっている地球規模での食料争奪戦。地球各地で、第二次産業が大手を振り、一次産業が衰退化しつつある。それは今にはじまった話じゃないが、気象異常、環境汚染により人口に対して、食べられる食料の量が著しく低下している。」

火野「・・・・環境家なんですか?環境保護活動家なんですか?」

ビクビク「まぁ、そこがそんなに簡単な話じゃないんだな。それだけ聞けば、過激な環境保護活動家みたいに聞こえるが、そんな、生易しい奴らじゃない。そうだろ?現役大統領を暗殺してしまうんだから。」

火野「確かに言われてみれば。」

ビクビク「・・・・奴隷だよ。」

火野「奴隷?」

ビクビク「・・・・自分達に都合よく動いてくれる奴隷が、エサが無くて、死んでしまったら、どうする?奴隷が全部、死んでしまったら。誰が困る? ・・・・奴隷を飼っているご主人様さ。」

火野「・・・・・」

ビクビク「誰も自分で働きたいとは思わないからね。だから奴隷を働かせる為に、奴隷にエサを与える必要がある。あとは分かるだろ?ドミノ倒しだ。奴隷のエサの確保には、農耕を増やす必要がある。今の、工業一辺倒の政策は不都合なんだ。だから、農耕政策にカジを切らせるように、世界中の政策を捻じ曲げているんだ。もちろん日本もそう。全部、入れ替えてでもね。」

火野「・・・・そんな、バカみたいな話、誰も信じないでしょう?」

ビクビク「まぁ。別に、信じなくても構わないよ。・・・・面白い話が聞きたいって事だから、話をしただけで。」

火野「根拠は?根拠はあるの?」

ビクビク「噂話に根拠なんかある訳ないだろ? 君こそ酔っ払っているのかい?」

火野「・・・・・・・」

ビクビク「これからもっともっと目に見える形で、食料問題、環境問題が過激に、改善方向に向かっていくと思うよ。世界の特権階級がそれを望んでいるからね。ぐひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ」

火野「ビクビクさん。・・・・・この話、にわかには信じがたいけど、裏を取りたいんですけど。ツテはありませんか?」

ビクビク「いずれ僕が言った事が本当になるだろう?それが答えさ。」

火野「・・・・うぅぅぅぅぅぅ~むぅ。その、特権階級とかいう人達とはいったい何者なんです?」

ビクビク「そりゃぁ、君ぃ。古代文明の末裔だよ。」

火野「・・・・・ああああああ。ああ、そうきたか・・・・・ ローマ帝国とかオスマン帝国の生き残りで、影でこの世界を支配してきたとか、そういう類の連中? もしかして?」

ビクビク「???? なんで知っているんだ?」

火野「・・・・・わかりました。わかりました。もう、結構です。」

ビクビク「なんだ君は?失礼だな。・・・僕を呼び出したのは君達の方だろ? 僕の貴重な時間を使ってだなぁ。」

火野「うっっっっっっっっっっっっっっさぁぁぁぁいわねぇぇぇぇえええ! 風俗好きの無職野郎の話を誰が真剣に聞くのよぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

ビクビク「僕はぁ特殊入浴場愛好家の投資家だって言ってんだろぉぉぉぉぉぉおおおおがぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!」

火野「知らねぇぇぇぇぇぇぇぇぇって言ってんだろがよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおお!」




声「千年巫女のお告げだと、世界が滅びるらしい。」

声「世界が滅びる?」

声「当てになるのか?」

声「これまで千年巫女が予言を外した事はない。」

声「滅びるとは、どういう意味なんだ?」

声「いや、わからない。それから、天国の階段がどうとか、こうとか。」

声「どうとか、こうとか?」

声「明確な話が何もないじゃないか? 我々は高い金を千年巫女に支出しているんだぞ?」

声「世界が滅びるとは言っていない。地球上の人間が死滅すると言ったんだ。」

声「同じことじゃないか」

声「いいや、違う。世界が滅びることと、人間が死ぬ事は同義ではない。」

声「でもどのみち、人間が全滅するんだろう?同じことじゃないか?」

声「だが、千年巫女の預言の解釈次第では、地球上の人間が死ぬ、というのであれば、地球上にいなければ死なないと考えられないか?」

声「?」

声「地球上にいなければいい。」

声「・・・・海、地底と宇宙か?」

声「海は地球の上だろう?」

声「地底は、解釈次第では地球上ではない。地球の中だ。」

声「・・・・確実に違う場所は宇宙だ。」

声「我々は宇宙に行く。地球上の人間が死ぬのであれば、地球上にいなければ良い。」

声「そうだ。宇宙に逃げよう。宇宙に飛び立つのだ。」

声「宇宙に拠点を移すのだ。」




瀬能「あ! こんにちは!こんにちは! おはこんばんちは!コニャニャニワ!」

部族「?」

族長「おお、キョウコ! キョウコじゃないか!よく来たな。・・・・お前も相当の暇人だな。」

瀬能「族長!族長もお元気そうで。シェイシェイ、シェイシェイ!」

族長「・・・お前、何言ってんだ?」

部族「族長、族長、こちらの東洋人は?」

族長「ああ。フレデリカのフレンドだ。」

部族「・・・・ああ、あの迷惑アメリカ人の。」

族長「まぁそうだな。」

瀬能「族長。久しぶりにアフリカ大陸に来たので、お土産です。はい、これ。香港饅頭。それからシンガポール饅頭。あと、パリ饅頭。」

族長「お前、バカか?なんで饅頭ばっかりなんだよ?」

瀬能「いやぁ乗り換えるたんびに空港で売ってたものですから。饅頭って世界共通のお土産ですね。」

族長「・・・・まぁもらっておくけど。お土産だから。」

瀬能「それは嘘で、これ、浅香唯のポスター。族長、好きでしょ?」

族長「!」

瀬能「これ苦労したんですよ。ネットには出ないし、オークションにも出ない。・・・・神保町という町で、たまたま見つけました。族長が欲しいと言っていたサイン入り。本来、サインがつくとポスターは安くなってしまって、買いたい人が減るんですけど、中には族長みたいなサイン入りの方が欲しいというマニア中のマニアがいるんですよ。買う方は安いので助かるんですが、出玉は少ないです。」

族長「いいのか!もらって?」

瀬能「族長の為ですから。・・・・ねぇ。それで族長、千年婆はご健在です?」

族長「ああ、浅香唯ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん ん? 婆様は生きてるぞ?なかなかくたばらないがな。」

瀬能「くたばられちゃ困るでしょ? 地球の命運を左右する巫女様でしょ?」

族長「まぁぁぁなぁ。俺は興味ねぇけど。」


瀬能「婆さん、こんにちは。」

千年婆「おおキョウコか。来るのは分かっておったぞ。」

瀬能「はい、これ、お土産です。」

千年婆「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! 待っておったぞ!これが日本の宝、そして至高、国宝! BL!BL!BLぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」

瀬能「・・・婆さん、これ、持ってくるの大変だったんですよ?国によっちゃ違法ですからねぇ。ポルノだし、同姓だし、・・・色々、政治、宗教問題を内包している厄介なものなんですから。」

千年婆「知っとるわい。だからアマゾンで買えないんだ!」

瀬能「そう。日本のBLは、日本人から買うしかない。特に、質の良いBLは、BLソムリエと呼ばれるBLを極めた乙女が、餞別している。・・・・日本屈指の国宝級のBLですよ?」

千年婆「ひゃほほほほほほぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ~い! BL、ばんざぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁい!」

瀬能「婆さんは幾つになっても、乙女ですねぇ。」

千年婆「当たり前だ、儂は巫女になることと引き換えに、一切の男を断ったのだぁぁぁ! 女の幸せを捨て、巫女になる事を選んだのだ! せめてぇ、せめてぇ、BLぐらい楽しんでもバチは当たらんだろ?なぁ、キョウコ?」

瀬能「世界の命運と、個人の趣味は別ですから。婆さんが喜んでくれて幸いです。」

千年婆「BLだ、BLだ、BLだぁぁぁぁぁい!」

瀬能「千年先を見通せる婆さんが、なに喜んでいるんですか?」

千年婆「でぇ? それで今日は何の用だい? 儂にBLを届けに来ただけじゃなかろうに?」


部族「族長。」

族長「なんだ?」

部族「その、・・・・・千年婆様と連絡を取っている、特等席とか、言われている人達は何者なんですか?」

族長「いや、俺も詳しくは知らん。」

部族「え?」

族長「まぁ、あれだよな。婆様の寝言を、伝えれば、・・・・・使えきれないほどのキャッシュをくれる。」

部族「相当怪しいじゃないですか」

族長「ああ。言ってしまえば何にもないこんなアフリカのド田舎に、こんな、電気製品やら通信設備、衛生的な家、高級車、場違いな物が多いのは、全部、婆様のおかげだ。婆様がもらえる報酬でこの部族は成り立っているんだ。・・・・ある意味、婆様に感謝だな」

部族「・・・・ええ。我々もその恩恵に預かっているわけなんですが、その、金の出所。・・・一体、何者なんです?」


千年婆「まぁキョウコ。知らなくていい事もあるだろうて。」

瀬能「その通りなんですけど。」

千年婆「儂も直接、会った事はない。・・・・そいつ等の使いが突然やって来てな。どこで噂を聞きつけてきたのか」

瀬能「千年巫女の噂をですか?」

千年婆「そうだ。儂がまだ処女の生娘だった頃にな。」

瀬能「・・・・婆さん。いまだに処女の生娘でしょ?」

千年婆「いまだ誰のものでもありません・・・・・・うるさいわ!誰が井森だ!」

瀬能「アフリカの僻地にホットラインを設けるなんて。・・・・・気が触れているとしか思えませんよ。」

千年婆「・・・儂もそう思うぞ」

瀬能「これは、・・・・あくまで聞いた話なんですがね。千年婆さん以外の人にも、その謎の連中。ホットラインを設けているらしいんですよ。」

千年婆「ふん。だろうな。」

瀬能「予知が出来る人間は千年婆さんだけじゃないですからね。」

千年婆「他の奴等は、どうせ儂のバッタモンじゃろがい」

瀬能「それは知りませんけど。ただ言えるのは、予知の精度もマチマチだし、インチキ野郎も混じっているのは確かです。それでも、幾人かホットラインを結んでいる。・・・・そこまでして未来の事を知りたい連中って何者なんでしょうか。もちろん日本にも、そのような人がいましてね。政財界の人間相手に金儲けしてますよ。」

千年婆「随分、世俗的な輩もいるんだな。」

瀬能「そりゃタニマチは多い方がいいでしょう? ただ、その人もやっぱり、由緒正しい。そういうのに云われや由緒があるのかどうかも謎ですけど、先祖代々、予知が出来る家系だそうで。その人にも、どこで聞きつけたのか、謎のタニマチの使者が来たそうなんです。」

千年婆「・・・・。」

瀬能「私は紹介でその人と会う事が出来ました。政財界の重鎮でなければ、紹介してもらえないんだそうです。・・・・・とんだミクシィですよ。その人も、謎のタニマチについては詳しくは教えてくれませんでした。ただ、お伽噺をしてくれましてね。聞きたいですか?」

千年婆「・・・・聞きたいねぇ。是非、儂にもそのお伽噺を聞かせてくれないか。」

瀬能「むかしむかし宇宙人が地球にやってきたそうです。 この時点でもうついていけませんけどね。 主役は宇宙人ではありません。主役は、貧しい村人の男。宇宙人は、地球にいる間。そうそう。なんで宇宙人が地球にやって来たかと言えば、UFOが故障して不時着したんだそうです。その宇宙人、地球で初めて遭遇したその村人の男に、色々とテクノロジーを教えたんだそうです。そして宇宙人は、UFOを直すと再び、宇宙に帰っていってしまいました。残された村人の男。宇宙人に何かを教わって以来、人が変わったように、やる事なす事、すべて上手くいくようになり、死んでも使えきれない財産を築いたそうです。

別に面白い話でもなんでもないんですけどね。」



有坂「え?じゃあ先生、宇宙人は本当に地球に、やって来たって事ですか?」

瀬能「そういう昔話、噂話が残っているという事です。以前話した通り、『竹取物語』『羽衣伝説』はそれを裏付けていると言えるでしょう。」

有坂「その、村人は、何らかのオーバーテクノロジー、オーパーツを宇宙人から貰ったんでしょうか?」

瀬能「・・・・有坂さん。質問が多いです。大学生なんですから、自分で研究しなさい。」

有坂「雑談です。雑談です、先生。」

瀬能「猿人だったものが、人類へ進化し、その人類も、爆発的に世界中を、地球上を支配するに至った。そうです、南極から北極まで。」

有坂「先生。意味はわかりますが、寒い所から寒い所だと、なんていいますか、伝わりにくいです。」

瀬能「そうですね。熱い所から寒い所まで、山の上の空気が薄い所から、陸地すらない海の孤島まで、人間が辿り着けなかった場所はありません。ゴキブリ以上、ネズミ以上の生命力だと言えます。・・・何が言いたいか分かりますか?」

有坂「?」

瀬能「いくら人間が恒温動物だとしても限界があります。人類は、環境に適応できる道具を発明して、それにより過酷な環境でも生存が可能になりました。そうです。環境に、体が適応出来ないなら、適応できるように、道具を作る。知恵を得たのです。その知恵。環境に適応するやり方。それは誰から得たものでしょうか。誰が人類に授けたものでしょうか。」

有坂「・・・・宇宙人?」



瀬能「あくまでお伽噺の話ですよ。本当に宇宙人がいるかどうかも分からないし。そもそも、予知だって、本当かどうかも分かりません。」

千年婆「儂も宇宙人なんて、生まれてから見た事がないわい。儂も、昔、処女だった時、婆さんから聞いた事がある。宇宙からきた何者かは知らん。だが、その何者かと接触した人間は、ずっとずっと絶えず末裔が生き延びている、とな。・・・・宇宙人は信用してなくても、人間はの方は、いるかいないかは目で見れば確かめられる。宇宙人と接触した人間の末裔は、その教えによって、人間を統べるようになった。きっと今も、人間を統べる立場にいる事だろう。・・・・儂の憶測だがな。」

瀬能「千年婆さんの憶測は、随分、明確なんですね。目で見たように話すから。」

千年婆「儂は千年巫女だぞ。いつでもビジョンはクリアだ。BLの、ホワイトで修正された所も、修正前のビジョンを見る事が出来る。だから、ちゃんと描いてホワイトをかけているのか、描かずに楽してホワイトを乗せているのか、儂が見れば明らかだ。儂に嘘は通用せんぞ!」

瀬能「ここにもBLソムリエがいたとは。」



瀬能「世界中を、好き勝手出来る連中がいるんですよ。富裕層の中の富裕層。権力者の中の権力者。世界は自由経済で回っているのではありません。一部の、意図した人間たちの思惑で、動いているのです。」

有坂「宇宙人の末裔・・・・」

瀬能「いや、違います。宇宙人に、テクノロジーをもらった人間の末裔です。」

有坂「やっぱりその人間は、宇宙人に何かされちゃったのでしょうか? ・・・・そう、例えば、インプラントを埋め込まれたりだとか、宇宙船に誘拐されてしまったとか。宇宙人の赤ちゃんを妊娠しちゃった、なんて話もあるじゃないですか?」

瀬能「・・・・。そうですね。そういう話は昔からよく聞きますよね。みんな大好き東スポ記事などで。・・・・それでも、最も有名な聖母と言えばマリア。そのマリアは、神の子を授かった、処女懐胎といった逸話が残されています。もし宇宙人が、マリアの体に精子か、精子かどうかも分かりませんが、遺伝子情報を持つ細胞体を入れたとすれば、・・・宇宙人の赤ちゃんを身ごもる事も可能でしょう。そして、宇宙人を神と仮定するならば、まさしく神の子を宿したことになります。」

有坂「じゃあ、じゃあ先生、その赤ちゃんは宇宙人と地球人のハーフという事になるじゃないですか!」

瀬能「・・・宇宙人の精子かどうかも分かりませんので何も言えませんけど、もしかしたら、現在の生態実験といえばマウスじゃないですか。だから宇宙人のマウス的な動物の遺伝子の可能性だってありますよ?実験に使う下等で安価な実験用生物。宇宙人からしてみれば、地球の人間なんて得体の知れないものですから、とりあえずマウスと交配させてみよう、なんて思うかも知れませんし。」

有坂「言われてみれば、確かに。自分達と同程度じゃなければ、交配させようとは思いませんものね。」

瀬能「ネアンデルタール人やアウストラルピテクス等々、同時代に出現した猿人、新人類は、雑交していた、という説もありますからね。・・・・ただ、交配っていうのは遺伝子が近くないと、受精しないんですけどね。受精したと考えれば、極めて遺伝子が近かった、もしくは、同じだったと考えるのが正しいかも知れません。

ほら、あ、有坂さんはグロテスクな話、大丈夫ですか?」

有坂「グロテスク? うぅぅぅん。話の度合いによりますけど。」

瀬能「獣姦って分かります?」

有坂「???」

瀬能「まぁそうですよね。特殊な性癖ですからね。男も女も、動物と性交する性癖の人がいるんですよ。」

有坂「!」

瀬能「驚く事じゃないですよ。今も昔も、太古からそういう趣味の人はいますから。最近だと、ヤギを犯してしまって動物愛護団体から訴えられたって話も聞きますし。ヤギにとっては迷惑な話ですけど。ま、そう。じゃ、ヤギにしましょうか。ヤギと性交しても、ヤギ人間、もしくは人間ヤギは生まれませんよね?これは人間の遺伝子情報がヤギと遠いからです。受精できません。でも、ネアンデルタール人らは他の類人猿と雑交しました。そして、新しい類人猿を作っていきました。ということは、遺伝子が近かった。遺伝子が同じだったと、考えられるわけです。面白いでしょ?」

有坂「・・・・・はぁ。」

瀬能「宇宙人と地球人が交配して、受精したならば、遺伝子情報が近い、同じじゃないと、成立しないんですよ。宇宙人が遺伝子情報を操作したか、宇宙人と地球人は実は、同じ祖先を持っていた、と考えれば成立しますけどね。」

有坂「先生、ますます興味深い話です!」




バハヴェ氏基調講演「私はある時、考えました。このまま家畜として生きていくのか。それとも、人間として、尊厳をもって生きるべきか。自分自身が家畜風情だとしても、主人の手を咬む事くらい出来るはずだ、と。私は大いに噛みついてやろうと思います。手を、腕を、引き千切るぐらいに。私は人間であり、動物である。私と言う動物を飼い馴らす事など不可能なのだと、教えてやりたいと思っています。

世界を、この社会を自分達の都合が良いように動かし、自分達こそが神だと勘違いしている、哀れな人間共に、私は鉄槌を下すこととしました。お前達は神ではない。神のマネ事をしている、愚かな傀儡人形だと、知らしめる時が来たのです。

さて。

さて、私はどうやって愚かな神の真似事をする人間共を滅ぼすか、考えてみました。・・・・過去、愚直な犯罪者達が、何度も地球を滅ぼそうと画策しました。大量の殺人ロボット兵器を使う方法。未知のウィルスで死滅させる方法。核ミサイルで地表を焦土にする方法。隕石を落としマントルをえぐる方法。しかし、全部失敗しました。勇敢なるヒーローによって阻止されたのです。それは人類の英知、そして希望、未来。誇らしき事です。

ですが残念ながら人間の歴史はここで終了します。私は人間を滅ぼさなくてはなりません。それは義憤であり私に与えられた使命なのです。

神を語る人間共は、地球で一番安全な場所にあるシェルターへ避難するでしょう。もっとも岩盤が固く、地震にも強く、アルプス級の山々の高さまで津波が来ても、助かるシェルターにいます。そのシェルターは、核はもちろん、病原菌、ウィルスの類は通しません。むろん、隕石が落下しても耐えうる構造です。ですから、ロボットで攻撃しようが意味がありません。無敵の要塞です。

ノアの箱舟を現代に蘇らせるとしたら、きっと奴等が入っているシェルターこそが、その箱舟と呼ぶにふさわしいものだと思います。そんな物に私は勝てるでしょうか。いいえ、間違いなく、私は裁きを与えます。」




声「やはり天国の階段というのは、宇宙に上れ、という事の暗示ではないのか?」

声「地球上の人間が死ぬという事からも、地上にいては危険だという事を指し占めている。」

声「であるならば、宇宙に退避するのは常套手段ではないだろうか」

声「実に、千年婆の預言は曖昧だ。どうとでも解釈がとれる。」

声「・・・・言語学者に分析をさせたのか?」

声「当然だ。」

声「天国の階段とは、宗教的な意味合いも大きいと評価されている。すなわち、神と人間の間にある、道。」

声「我々は神のもとに帰る、ということか?」

声「すなわち、宇宙に戻る時が来た、と解釈が可能だという事だ。」

声「母なる宇宙に、我々は帰還するのか。」

声「神は我々を、見捨てなかった。」




有坂「先生。・・・・質問です。」

瀬能「却下です」

有坂「まだ何も言っていません。」

瀬能「有坂さんは自分で考えなさい。そうでなければ頭を使う時間がありませんよ?社会人になれば、上に言われた事をしていればいいのですから頭を使う事はありません。使うなら、学生の時だけです。」

有坂「先生。それは社会人の人を敵に回す発言かと?」

瀬能「あのねぇ、有坂さん。上司に言われた事をその通りに実行できる人が出世するんですよ。頭を使う必要なんてないんです。上役が白と言えば黒いものも白になってしまうんです。」

有坂「・・・・いつの時代の話ですか?それは。」

瀬能「・・・・有坂さん。それで質問は?発言を許可します。」

有坂「あ、ありがとうございます。あの、先生。・・・・『竹取物語』『羽衣伝説』にしたって、どうして宇宙人は、地球人を残して帰ってしまったんですか?『竹取物語』なんかはいい例で、宇宙人だった”かぐや姫”だけ連れて帰ってしまって、育ててくれた恩人の”お爺さんお婆さん”は連れて行ってくれませんでした。別に、邪魔になるわけじゃないんだから、連れて行ってくれてもいいと思いません?」

瀬能「・・・・そうですね。確かにそうですね。連れて行かない代わりに、宇宙人のテクノロジーを地球に残した、伝えた事によって莫大な恩恵を受けたわけですが、それでも、宇宙に一緒に連れて行ってあげても良かったですよね。」

有坂「そうですよ。連れて行くと不都合な事でもあるんでしょうか。」

瀬能「近年発売されたアメリカのSF小説で、薬にも毒にもなるバクテリアみたいな物質があって、それが地球人類を死滅させてしまうんで、それを救う為に、宇宙の遥か彼方へ旅立つっていうものがあるんですけど。」

有坂「ヤマトですか?スペースバトルシップヤマトですか?」

瀬能「・・・・あらすじだけ言うとヤマトみたいですけど、もっと本格的なSF小説なんですけどね。その宇宙バクテリア。他所の星でも悪さしているみたいで、やっぱりその星の人も、同じ目的で、宇宙の遥か彼方へ旅立つんです。」

有坂「ヤマトですね。完全にヤマトですね。劇場版のヤマト2ですね。」

瀬能「だから違うんですけど。要するに、お互い宇宙人なんですよ。同じ目的を持った、別の星の宇宙人。こちらからしてみれば、相手は宇宙人だし。相手にしてみたら、やはりこちらは宇宙人。面白いのが、お互いに、外宇宙に出られる科学力を持っている、文明を持っているという事に気づくんです。であるならば、自ずと、コミュニケーションは可能なわけです。物理学は、どこにいても同じですからね。星が違っていたら物理学の定義が変わるって事はありません。物理という共通の言語が、コミュニケーションに役立つんです。ですが、環境の違いは否めません。」

有坂「ああ、パセリ?」

瀬能「セロリです。・・・・地球の環境。重力1Gの環境が、どこの星でも共通とは限りません。小説に出てくる宇宙人は遥か、強力な重力の星の住人だったのです。話が進んで、主人公は、地球への帰還が出来なくなり、その宇宙で知り合った宇宙人の星へ行く事になるんですが、やっぱり、重力が大変で、何十年過ごしていても慣れないなんて話をしています。」

有坂「・・・・へぇ。」

瀬能「その小説を引き合いにだすと、宇宙人が、地球人を連れて行かなかったのは、やはり環境が地球人に相応しくない可能性がある、という事です。連れて行ったところで、すぐ、死なせてしまったら申し訳ないじゃないですか。言葉だって違うし、食べ物だって違うし、たぶん、そういう動物園のような飼育小屋みたいな所では、人間は長く生きられないと思います。よほどパンダのように、手厚く研究と飼育が行われているならば可能でしょうが。」

有坂「宇宙人の人も、連れていけない理由があるんですね。泣く泣く連れていけなかった。・・・ゾウの花子ですね。」

瀬能「まったく違いますよ。有坂さん。・・・・だから、有坂さんも宇宙人と出会っても、コミュニケーションが取れるように、宇宙でどこでも同じ、物理学はしっかり勉強しておかないといけませんよ?数学と物理。これは必須です。」

有坂「・・・確かに。私達は10進数を当たり前のように使っていますけど、宇宙人が、12進数とか、31進数の可能性もありますからね。」




バハヴェ氏基調講演「核攻撃でも死なない。ウィルスでも死なない。殺人ロボットでも死なない。そんな無敵の要塞に暮らす、0.1%の特権階級の人間を殺す、良い方法を、私は見つけました。

人類は爆発的な繁栄をし、人口の急激な増加、画一化、工業化による産業の発展、人類の英知は文明を限りなく発展させました。同時に、それは、地球環境を蝕む事となりました。知らず知らずに私達人類は、自分達の首を絞めていたのです。大規模産業化に伴う弊害は、二酸化炭素をことごとく吐き出し、大気を破壊しました。上空の大気は破壊され、太陽光が直接、降り注ぐようになり、動物も植物も、焼き殺されるのです。人間を含めた動物も、植物も、上皮組織を紫外線で焼かれ、タンパク質は破壊されました。目は白濁し、皮膚はガン化。気温は、温室効果により上昇し、下がる事を知りません。オーロラを沢山見て、綺麗だと言う人がいますが、あれは、大気が破壊された、その現象なのです。かつてオーロラは不吉な予兆とされてきました。それすらも人類は忘れてしまったのです。・・・・オーロラはただ美しい自然現象ではないのです。

森が自然火災で焼かれ、ここでも二酸化炭素をまき散らす。海水温度が上昇する事で、より大きな雲を作り、その雲は、気圧を発生させ、巨大な台風を呼び、強烈な豪雨を大地に降らすのです。風と雨に浸食された大地は、津波、洪水、人間の文明を飲み込んでいくでしょう。

私達、人類に逃げる場所はありません。この環境悪化、環境破壊、すなわち人為的なディザスターは、もれなく地球と言う惑星を死の星と変えてくれる事でしょう。地球は人間の住まう星では無くなってしまったのです。

・・・・皆さん。私が何を言いたいか、お分かりですか?

私は、世界一の納税者であり、それに見合う、報酬を得ています。湯水の様に、金が湧き、金の卵を産む鶏の様に、金が生まれてくるのです。正直、金によって窒息させられてしまいそうです。それは、私が、確実な投資家であり、また、優れた経営者でもあるからです。財界人である私に、政界の人間が擦り寄って来て、国、公益法人、公益団体、ごちゃごちゃした人達が、ウジ虫のようにたかってくるのです。あれよ、あれよと私は、祭り上げられ、世界一の頂きに立つことが出来ました。私は、類まれなる財の才により、時代の寵児となったのです。

ですが、その頂とは、人間が見える頂でした。人間が見える最高の頂上。人間として、これ以上、上に行く事は叶いません。それは、私が人間だからです。私は、ふと、天を見上げました。・・・・そこには、決して人間では到達できない別の何者かがいたのです。そうです。それが、世界の特権階級。孫う事なき神の頂き。・・・・私はつくづく人間だと言う事を思い知らされました。私は天才だと思っていましたが、凡人であることに気づかされました。

この地球上の全て、世界の理は、その、特権階級の、一部の人間が決めている、という事をまざまざと知ったのです。

それからです。私は、過度な経済成長を、各産業に促しました。自然環境を無視した、非人道的な、産業促進の一手です。この一手を私は緩める事はありません。それが、神の頂きにいる、特権階級の人間を下界に引きずり下ろす最大で最高の手段だと気づいたからです。

いくら、核ミサイルやウィルス、細菌兵器で死ななくても、地球が住めない環境となれば、いずれじり貧になる事でしょう。兵糧攻めです。かなり原始的なやり方ですが、これが、一番、効果的な戦いでしょう。干ばつ、水害、雹害。海水面の上昇、永久凍土の融解。そして砂漠化。これがもたらす未来は、耕作不能。家畜は死に、魚は取れず、穀物も不作。・・・食料が尽きるのです。食料の減少は、地球規模で、食料の奪い合い。すなわち食糧をかけた戦争が起こるのです。食料という名の安全保障こそ、今後、私達の最大の政治的関心事になるのです。

神の頂きに踏ん反り返っている特権階級の人間も、食料安全保障は、例外ではありません。いつまでそこで、高みの見物をしていられるやら、私は見物だと思っています。

私の思惑に気づいた、彼らは、急いで、環境保護に舵を切りだしました。最近のニュースはそればかりです。今更、手を打っても遅いと思いますよ。過激な環境保全にシフトしても、間に合うかどうか。

特権階級の皆さんと私のチキンレースです。・・・・・地球に住まう数多の人々にご迷惑をおかけしますが、誠に、申し訳ありません。是非、私と一緒に死んで下さい。」




皇「これ、本気だと思うか?」

火野「世界一のお金持ち、バハヴェ氏の講演。・・・・エイプリルフールにしたって、本気か冗談か、真意が分からないわ。」

ビクビク「ほら見たまえ。僕が言った通りになったじゃないか。・・・・僕の情報網も馬鹿に出来ないだろう?」

火野「・・・・・。」

皇「ビクビクさんの考えだと、環境保護政策が加速するって事?」

ビクビク「そうだよ。その通りだよ、皇君。・・・いくらバハヴェ氏が金持ちだからって、特権階級の人間には敵いっこないさ。所詮、人間は人間。神には敵わないのさ。」

火野「神?」

ビクビク「ああ、そうさ。バハヴェ氏が講演動画で言っていた通り、神さ。神以外の何者でもない。・・・・こいつらの思う通りに世界が動く。この世界は玩具みたいなもんさ。さしずめ僕等は、玩具の人形さ。」

皇「その・・・・ババヴェっていう奴は、特権階級の存在を知って、自暴自棄になり、環境破壊へ一直線。短絡過ぎやしないか?」

火野「常人には理解しがたい思考よね。正直。」

ビクビク「火野君。」

火野「気安く私の名前を呼ばないで」

ビクビク「・・・・・。皇君。・・・・・君達は何も理解していない。バハヴェ氏の絶望を。天才故の孤独を。・・・・・もうこれ以上ないくらい、地位も名声も金も得た。これ以上ない位に。だが、ふと見上げれば、そこには、到底辿り着けない世界があった。人類を支配する、高度な人類に。それはもう、絶望しかないだろう?」

火野「人間の世界と、特権階級の世界では、雲泥の差がある。天と地の差がある。覆せない何かが。」

皇「だからと言って、世界中の人間と一緒に心中しようとは、思わないだろ?ふつう。」

ビクビク「だから普通じゃないのさ。・・・・特権階級の存在は、まことしやかに囁かれてはいたんだ。歴史の影に、奴等、アリってね。」

皇「オカルトの見過ぎだろ?」

ビクビク「いいや。十字騎士団とかの秘密結社が可愛く見えるくらいだよ。皇君、いいかい。歴史を作って来たのは彼等、表に出ない特権階級の人々だ。多くの秘密結社を手足の様に使い、歴史を動かしてきた。・・・・秘密結社に所属している人間は、当時の政権幹部や財界人だ。それらに資金供与し、人民をコントロールしていく。人々が言う事を聞きやすい人間を使って、人を動かす。人為的に誘導されているなんて当人からしてみれば決して分からないだろうからね。そうやって、人心を掌握していったんだ。」

火野「自分の手を汚さずに、歴史を動かす。・・・・・一番、気に入らないタイプの人間だわ。」

ビクビク「まぁでも。バハヴェ氏が吠えた所で、真なる支配者、特権階級の人々に勝てるとは思えない。・・・歴史は、急激に、自然保護に大きく舵を切るだろうね。」

火野「それが、御上のご遺志だから?」

ビクビク「そういう事だよ、火野君。物分かりがいいね。」

皇「両方共、雲の上じゃぁ、・・・・どうにもならねぇなぁ。直接、文句の一つも言えやしねぇ。」




夢我「あなたの夢を叶えちゃう! チープドリーミン!ホラホラホラ?ホラー担当、夢我です。今日は、緊急特別生配信を行いたいと思います。パチパチパチパチ! どうして私が緊急生配信をするかと言えば、ホラー系オカルト系で話題になっている、あの人を特集したいからです。題して、こちら!

『世界一のお金持ち、バハヴェ氏! 環境破壊を肯定? そして、謎の特権階級の人々とは?』」

エグたん「アシスタントのエグたんエグ! 夢我をアシスタントしていくエグ!」

夢我「なんで二回言ったの?」

エグたん「夢我、今日もエグいエグ!」

夢我「じゃあ早速、最初のテーマはこちら!『バハヴェ氏って何者?』・・・・確かに、世界一のお金持ちって事ぐらいは知っているけど、他には何も知らないわねぇ。」

エグたん「どうせ金に物を言わせて、いい女をはべらかしているに違いないエグ!」

夢我「・・・・。エグたんのお金持ちのイメージっていうのは、ハーレムなのね?」

エグたん「男の夢はハーレムエグ!ロマンエグ!」

夢我「・・・・・。まあいいわ。じゃ、噂のバハヴェ氏についてなんだけど。エグたん、知ってる?この人。」

エグたん「うぅぅぅぅん沢山、会社を経営している、超お金持ちって事しか知らないエグ!」

夢我「そうね。私が有識者から聞いた情報だと、鉄鋼、造船、自動車、飛行機、ロケット、半導体、飲料水、米、小麦、マグロ養殖、カニ養殖、加工食品、飲料水、製薬。これらの会社を統括して経営している実業家と言う事です。いやぁぁぁぁぁぁ、手を広げすぎ!業種が多彩で、よくそれだけ頭が回るわね。」

エグたん「バハヴェは中東系アメリカ人で、移民としてアメリカにやって来たという報告があるエグ。」

夢我「移民なのね?」

エグたん「アメリカで移民はそんなに珍しい話じゃないエグ。それよりも、小学生でアメリカに来たバハヴェは、その時から、神童と言われていた、ってカンペに書いてあるエグ!」

夢我「じゃ子供の頃から頭が良かったのね。」

エグたん「そうみたいエグ。飛び級はしなかったけど、常に、学校で最優秀の成績を残し、大学生になった時、自分で会社をやるエグ。アメリカじゃ起業は珍しい事じゃないエグ。それでも、その起業した会社が成功し、そのまま、実業家の道を突き進む事になるエグ!」

夢我「大学生の起業家が、幾つもの業種を束ねる経営者。しかも、中東系の移民からそこまで成功するなんて。・・・・アメリカンドリームを地で行く人なのね。」

エグたん「まさに、そうエグ!」

夢我「次のテーマに行くわよ?エグたん!『環境破壊を肯定?』・・・・ネットで盛んに話題になっているのがコレ。バハヴェ氏が環境問題について否定的で、むしろ、環境破壊を促進させるような言動が目立つこと。これは私にも分かるわ。時代に逆行している。これだけ自然環境が悪くなって、台風とか集中豪雨、山火事、干ばつ。地球上の至る所で、異常気象が起きているのに、それを否定して、工業化、産業化を推し進めているのは、間違っているわ。やっぱり」

エグたん「でも死んじゃったアメリカ大統領は、気候変動とか異常気象とか、そういうのは無いって言ってたエグ! シーオーツーが増えて地球温暖化なんて頭のおかしい環境活動家の妄想エグ!プロバガンダだエグ!」

夢我「うわぁ、エグたん大丈夫?」

エグたん「死んじゃったけど大統領がそう言ってたんだからきっとそうエグ!だったら人間が増えた所為で、気温が上昇したデータを出すエグ!」

夢我「そうね。エグたんの言いたい事は分かるけど、私達、データを見せられてもそれが正しいデータだか判断はつかないと思うわ。それに、そういう人が出すデータは自分に都合がよいデータしか出さないのよ? それは環境問題について否定派、肯定派、どちらにも言える事だけどね。・・・・ディスカッションの武器だし、レトリックだから、別にそれはいいんだけど、あからさまな印象操作は、悪い印象しか与えないわね。」

エグたん「みんなバカだから印象操作されている事にも気づかないエグぅ!」

夢我「こらぁエグたん! もう!」

エグたん「夢我が怒ったエグ!」

夢我「バハヴェ氏はこれまでの発言も、会社の事業も、一貫していて、環境問題は無視して、やっている感はあるわね。でも、確かに、環境問題を考えないで、レジ袋も使いたいし、プラスチックのストローでジュースも飲みたいし、ヨーグルトだってプラスチックのスプーンで食べたいわ。そうそう。電気自動車の開発をやめてまたガソリンエンジンの車を生産しはじめたし。」

エグたん「環境問題に意識が向くのはそういう意識のある国だけエグ。言ってしまえば一部の先進国の富裕層だけエグ。多くの一般庶民は、そんな事、気にしないエグ。ビニールのレジ袋をやめて、1ドルでも儲かるなら、みんなやるエグ。今日の食べるものを考えて生きている人間に、環境問題の事なんて、頭にないエグ。それ食べられるの?って話エグ。」

夢我「異常気象、環境問題の考え方自体、地域差、経済格差が影響しているわね。反対に言えば、煽る必要もないのに、環境問題を引き合いにだして、自ら否定する事でそれを煽っている感じも見受けられるわ。」

エグたん「逆バリエグな。・・・・逆の逆は真なりエグ!」

夢我「そして、これがインターネットの掲示板で密かに囁かれている、とんでもない噂『謎の特権階級!市民について』、なにやらバハヴェ氏はこの特権階級なる人々と戦う、宣戦布告をした、とか噂になっているわね。」

エグたん「世界人口の、上澄み。0.1%の富裕層じゃないか、って言われているエグ。」

夢我「ほへぇ。0.1%。」

エグたん「金融の世界ではもっぱら当たり前の話エグけど、市場経済は、0.1%の支配層と99.9%の労働者層に分かれているという話エグ。だから、そこから考えても、0.1%の富裕層、特権階級がいても不思議じゃないエグ。」

夢我「でも、富裕層は分かるわ。その、特権階級って何なの? 特別な何かを持っているの?」

エグたん「その0.1%の支配層は、0.1%の人間だけで残りの99.9%を集めた人間の資産より、資産を持っている計算になっているエグ。」

夢我「え? 99.9%の人口より、たった0.1%の人達の方が、お金持ちって事?」

エグたん「そうエグ。 とにかく使い切れない金を持っているエグ。金が金を呼び、金が集まるエグ。その金があれば、出来ない事はないエグ。・・・簡単な話エグ。0.1%の人間の金で、99.9%の人間を買えるエグ。99.9%の人間を自由に、自由に動かせるエグ。・・・現代の王様エグ!皇帝エグ! 夢我、いいかエグ?もしその特権階級の人間が、夢我、裸になれって言われたらどうするエグ? 夢我は裸になれるエグか?」

夢我「え? え? え?」

エグたん「金なら使いきれない程、奴等はもっているエグ。百ドル、千ドル、・・・・あっと言う間に、一億ドル。一億ドルだって奴等には、駄菓子屋でタラタラしてんじゃねぇよ、買うくらいのはした金エグ。お前の裸なんて、タラタラしてんじゃねぇよと同じエグ!」

夢我「ひっど~い! 私の裸は、将来のダンナ様にしか、見せませぇぇぇぇん!」

エグたん「お前は、目の前に、一億ドル積まれて、裸にならない自信があるエグか? エグたんは無いエグ。エグたんは、裸になって、靴も舐めるエグ! エグたんのプライドなんて一億ドルの前じゃ紙屑同然エグ!」

夢我「ちょっとエグたん、もうちょっとプライド、持とうよ!でも、わかるわ。その気持ち。バハヴェ氏は、そういう特権階級の、札束で頬を叩くやり方が気に入らないわけね。だから、宣戦布告したのね?」

エグたん「いくらバハヴェが金を持っている、資産家だとは言えエグ、特権階級に敵うはずがないエグ。その世界一の金持ちだって、99.9%の方に、入っているエグ!勝負にならないエグ!」

夢我「バハヴェ氏はプライドは持っているわ」

エグたん「そんなプライド、本当に役に立つか、分からないエグ!」

夢我「私の情報網だと、経済系の有識者から聞いた話。その特権階級は、自然環境保護に力を入れはじめた。どんどんお金を投資して、自然環境の回復を実現させるんだって。クリーンなエネルギー、クリーンな交通手段、クリーンな食物生産、そして、生活環境。下手な額じゃなくて、まとまった資本が動いているから、これはバカに出来ない事業だって言ってたわ。・・・本気が伝わってくるって。」

エグたん「じゃバハヴェが自然を幾ら汚そうとしても、敵わないって事エグ?」

夢我「予算規模が違うもの。喧嘩にならないわ。」

エグたん「なんだか悲しいエグ。喧嘩するなら、ちゃんと相手になる喧嘩をして欲しいエグ。」

夢我「それにしても、その、特権階級って何者なのかしら? お金を持っているのは分かったわ。でも、それだけじゃないんでしょう?」

エグたん「超古代文明の末裔だとか、世界最古の人類。楽園を追放された人間。神が作り給もうた最初の人間。なんて説があるエグ。」

夢我「なんだか凄いわね。聖書のエピソードみたい。」

エグたん「そうエグ。石造り職人とか言われている秘密結社が可愛いく見えるエグ。なんせ、時代が違うエグ。アダムとイブの血を引く、真なる後継者、真なる人間、なんて話もあるエグ。たかだか二千年前後の宗教なんて、おへそでお茶が湧いちゃうエグ。どっちが老舗、どっちが元祖、どっちが本店、なんて話になれば、ローマ教皇だって土下座しなくちゃいけないエグ。」

夢我「そうね。今回の緊急生配信で、少しは話題の人物、バハヴェ氏について話せたかしら? この動画、消されないかしら。」

エグたん「誰も見てないから平気エグ!」

夢我「百五十人のリスナーさんが見てくれているじゃない!」

エグたん「・・・百五十人も見ているエグか?リアルタイムじゃ凄い事、エグな。人気動画配信者と肩を並べられるエグ!」

夢我「今回は、オカルトの方でも有名な、バハヴェ氏について語ってみました! 良かったら高評価、よろしくお願いします!」

エグたん「また見てくれエグ!」




皇「お前等、本気で思ってるのか? 異常気象で、そりゃ温暖化とか台風とかくるかも知れないけど、人間を殺せるほどの威力があると思うか?」

火野「・・・・・」

ビクビク「・・・・・・」

皇「局所的な災害が起きても、被害は限定的だし、被災難民、戦争難民が出たところで、・・・・・・人口の半分が死ぬわけでもない。」

火野「バハヴェ氏は、何らかの手段を用いて、地球にいる全ての人間を殺す。」

ビクビク「だから、君達。さっきから僕が説いている様にそれは特権階級の人間が阻止するから、現実的ではないと言っているだろう?」

皇「そのバハヴェって奴だって、相当の、キレてる奴なんだろ?」

火野「ええ。自社グループだけで、社会インフラをおおよそ網羅している。・・・・鉛筆からロケットまで、おはようからおやすみまで、私達は知らないうちにバハヴェ氏のテリトリーの中にいる。」

皇「へぇ。気が付かないうちにバハヴェの手の中って事か。」

火野「まだ日本はいい方よ。アメリカ、ヨーロッパ、中東はバハヴェ氏の最大のマーケット。・・・・良い意味でも悪い意味でも、アジアは中国のマーケットに助けられているってわけ。皮肉なもんね。」

皇「共産圏が防波堤か。・・・・きひひひひひひひひひひ。笑えないな。」

ビクビク「いや、バハヴェ氏はそれを隠れ蓑に使っていたんだよ。バハヴェ氏のグループ企業は、その気になれば世界中のマーケットを席巻できる。だが、あえて、行わなかった。小さい小さい事業規模で、裾野を広く、じんわりと、確実に、拡大していった経緯がある。」

皇「ビクビクさん。どっちの味方だよ?」

ビクビク「いや僕はどちらの味方とかではない。世界の裏側を知る投資家として、君達に助言を与えているだけだ。」

皇「じゃあ聞くけど。バハヴェが本気で、人類抹殺を実行するなら、ビクビクさんは助かる方法を何か思いつくのか?」

ビクビク「いや。だから、そうはならないって。マーケットの裏側では有名な話だ。・・・・じきにバハヴェ氏の全事業は機能停止に追い込まれる。あらゆる妨害工作を受けてね。最初は小さい小さいクレームから始まって、非買運動。そして、事業廃止だ。」

火野「ずいぶん地味なやり方、ね。」

ビクビク「??? 火野君。 社会的に人間を抹殺する、正攻法のやり方だぞ? 人を殺すのに銃はいらない。信用を落とせばいいんだ。特に、巨大な会社は、小さな傷に弱い。ダムと一緒だ。小さな穴が、巨大なダムを決壊させる。バカには出来ないんだぞ?」

皇「そんなん待ってたら、こっちが死んじまうだろ?ビクビクさん。 てっとり早くヒットマンを雇った方が早いじゃねぇか。」

ビクビク「甘い。甘いよ、皇君。殺し屋にバハヴェ氏本人を殺させたとして、会社が残ったら、意味がないじゃないか?動き出した事象は、自律で動く。頭がなくなっても勝手に動くんだ。誰にも止められない。」

火野「ああ、亡霊企業の論理ね。」

皇「なんだよ、それ?亡霊?」

火野「優秀な会社っていうのは、トップが変わっても、皆、気づかないし、いつまでもいつまでも働き続けるの。もう、経営判断とかいらないし、関係ない。バカみたいに売れもしないし、売れなくもない。あって当然の空気みたいな存在になるの。」

ビクビク「そういう事だ。バハヴェ氏が消えた所で、事業は継続されるだろう。だから、止めるには、ボトムアップして社会的に消すしか方法がない。ただ、悪い噂が立てばあっというまに消える。これも人間社会の性ってやつだ。」

火野「ペンは剣より強し、ってやつ・・・ね。」

皇「・・・・・バハヴェって奴は、私は、得体の知れない、奇妙さを感じるんだよ。」

ビクビク「考えすぎではないのか?皇君。」




瀬能「さて、婆さん。」

千年婆「誰がお前の婆さんだ!」

瀬能「どうやって、人類を滅亡させるんでしょうか? バハヴェ氏は。」

千年婆「知るか」

瀬能「人類が死んでしまったら、もうBLも読めませんよ。まぁ婆さんの場合、寿命の方が先に来そうですけど。」

千年婆「・・・・失礼な奴だとは思っていたが、本当に失礼な奴だな、お前は。」

瀬能「千年婆さんは、BL同人誌を読めればそれでいいんでしょうが、こういう無から有を生み出す作業をする人は、無限じゃありませんよ。人類が死んでしまったら、BLを描く人がいなくなってしまいます。困るのは千年婆さん。あなたじゃ、ないですか?」

千年婆「フン!そんな挑発、のらんぞ? この世界には、この世界中のストレージには、死んでも読み切れないBLが埋もれているのだ。新作は読めなくとも、遺産は好きなだけ読める。儂に寿命があるならば、それは反対に好都合だ。死ぬまでBLを楽しめればそれでいい! かーっかっかかかかかかかかかかっかっかかか!」

瀬能「もうツバ、飛ばさないで下さい! いいんですか、壁の新作。読めなくても?」

千年婆「うるさいわい!」

瀬能「そうですよね。千年婆さんは、特権階級に貢献してきたから、シェルターに避難できる。人類が死んでも、自分は死ぬまでBL三昧。・・・うらやま死刑です。」

千年婆「・・・・キョウコ、お前はあの実業家気取りが、本気で人類を始末すると思っているのか?」

瀬能「ええ。 あの人は本気で全人類を抹殺しますよ。」

千年婆「そりゃ豪儀だ。」

瀬能「私はバハヴェっていう人と直接会った事はありませんが、あの目は、確実にやる目です。」

千年婆「目だと?」

瀬能「ええ。・・・・絶望を経験した人の目です。たぶん、死ぬのは怖くないタイプの人なのでしょう。いやぁ、人類は災難です。死ぬのが怖くない人間に、目を付けられてしまったのですから。」

千年婆「そうだろうな」

瀬能「あの人、中東系アメリカ人で移民だったそうじゃないですか。・・・・・聖地。始まりの地。人間製造工場。呼び名は色々あれど、そこで選ばれた人間なのではないですか。特権階級の絶大な権力を後ろ盾に、その尖兵として、幼少時から動いていた。殺されてしまったアメリカ大統領だって、彼には逆らえなかったのかも知れません。」

千年婆「そんな奴が、生みの親みたいな組織に、何故、歯向かう? このまま暮らしていたら世界一裕福で、幸福な人生を生きていけるのだぞ?」

瀬能「そんな事、知りませんよ。私、バハヴェ氏じゃありませんから。人類を滅ぼそうとした秘密、それは全部、聖地にあると思いますけど。」

千年婆「まぁ・・・・儂もきっと奴と同じ物を見たら、絶望するんだろうな。絶望しない人間なんていない。」

瀬能「・・・・・」

千年婆「これは予想だけど、バハヴェは人類を全員、殺すだろう。預言でも予知でもなんでもない、これは儂の想像だ。そう思うってだけの話だ。」

瀬能「千年先が見える婆さんが何を言ってんだか・・・・・」

千年婆「言っておくがな。奴が実行すれば、どこに逃げても変わらんぞ? 特権階級の連中が逃げ込んでいる、シェルターだって同じだ。皆、死ぬ。仲良くおさらばだ。」

瀬能「・・・・・こりゃ、凄い、話ですね。核ミサイルの攻撃を受けたってビクともしないシェルターが、無意味? BC兵器だって無効化するんですよ? はぁ?」

千年婆「だからお手上げだ、って言っているだろがい? バハヴェは特権階級の後ろ盾を、最大限、最大限、活用し、人類を抹殺する方法を手に入れた。特権階級の連中が作ったのはユートピアじゃない。バハヴェという化け物だったんだ。」

瀬能「・・・・ああ。・・・・千年婆さんの所にくれば何か、打開策が見つかるかと思ったんですが、ああ、こりゃ、お先真っ暗ですね。」

千年婆「なあキョウコ。良い機会じゃないのか。人類が滅びるのも。手に余る物を作るから、しっぺ返しをくらうんだ。・・・・まあ飲め。バター茶だ。マズイぞ。」

瀬能「ああ。どうも。ありがとうございます。・・・・・・・濃いなぁ、濃いなぁ。これ。」

千年婆「バターの味というか、油の味しかしないだろ? かーっかかかかっかかかかかかっかかかかかっかか 儂はな、この高カロリー茶を飲んでBLを読むのが、何よりも楽しみなのだ。BLを読むのにも体力を使うからな。」

瀬能「・・・・使わないでしょ?」

千年婆「お前!乙女のたしなみを馬鹿にするのかぁぁぁぁぁぁぁぁ!所作っていうもんがあるだろうがい! 日本人のくせにそんな事も知らんのか!」

瀬能「ちょっと、ちょっと、待って下さい! 婆さん! ちょっと待って下さい! 人類を抹殺?特権階級を抹殺? これって、これって、同じ事を言っているようで、まったく違う事を言っていませんか?」

千年婆「儂はもうBLを読んで寝る。そして死ぬ。あとは任せた!」

瀬能「待て、待てってクソ婆!」

千年婆「誰がクソ婆だ!」

瀬能「・・・・バハヴェ氏の基調講演を思い出して下さい。別に、全人類を抹殺しようとはバハヴェは言っていません。あくまで目的は特権階級の連中を殺すこと。それが出来ないから全人類をまとめて、一緒に殺すと言っているんです。」

千年婆「だから最初からそう言っているだろがい?」

瀬能「・・・・だからそこですよ! 殺したいのは特権階級。でも、出来ないから全人類皆殺し。どうして、特権階級の連中だけ殺せないんでしょうか?殺せる方法があれば、特権階級の連中だけ殺すはずですよ。・・・・そこですよ、そこに謎があるんですよ!どうして特権階級の連中だけ殺せないのか?」




火野「どうして、自然環境を破壊するような事を言って、時代に逆行してまで、工業化、産業化を行うのかしら?」

皇「目的があるからに決まっているだろ? 人間、目的もなしにやっていたら、ただのバカだ。」

火野「じゃその目的ってなによ?」

皇「知るか?」

火野「じゃ、バカじゃない。バハヴェ氏はバカじゃない。」

皇「だからバカなんじゃないのか。・・・・・・!」

火野「!」

ビクビク「さっきから何を話して、」

皇「ビクビクさん。まだいたのか、もう、帰れよ? あ、コーヒー代、立て替えておいてくれ。」

ビクビク「はぁぁっぁぁぁぁ?」

火野「あ、私のも。」

ビクビク「えぇぇぇはぁぁぁぁぁっぁぁぁぁ?」

火野「あなた、有名な投資家なんでしょ?お金、持っているんでしょ? いいじゃない、奢ってくれたって?」

皇「森を隠すなら木の中だ」

火野「・・・逆でしょ? 林を隠すなら森の中でしょ?」

皇「林も森もサバンナも一緒だろ?」

火野「違うわよ。 環境破壊は隠れ蓑よ。わざと煽って、真意を隠している。」

皇「要するに、陽動作戦なわけだ。」

火野「きっと、何かを隠してる。」

皇「えらいやたら、グループ企業があるよな? 鉛筆からロケットまで何でも作っているんだろ?おまけに、食い物までやってやがる。」

火野「ビクビクさん、あなた、投資家だったわよね? バハヴェ氏の事業、ぜんぶ、洗いざらい、調べられない? 過去も未来も全部。」

ビクビク「は? 未来?」

皇「未来はもういいよ。事業計画より、過去、行った事業だ。グループ企業、全部。・・・・・ビクビクさん。森を隠すならサバンナだ。」

ビクビク「だから何を言っているんだい?皇君?・・・火野君?」

火野「気安く名前、呼ばないで下さい。気持ち悪い。」

ビクビク「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ? なんだい?コーヒー代、出せとか、会社の事業計画を調べろとか、好き勝手言わないでくれたまえよ?」

皇「ビクビクさんのネットワークがあるだろ?そういう、人の揚げ足を取るのが好きな連中。」

ビクビク「・・・・そんな仲間はいない。皆、正義感がある仲間ばかりだ。」

火野「じゃ、その正義感にかけて、バハヴェ氏を調べあげてよ?」

皇「それじゃあ何か分かったら、教えてくれよ。私は帰るから。」

火野「待ってよ、瑠思亜!」

皇「あ、店員さん。あれ、あそこ。あの人、あのオカッパの人。あの人が、全部、払うから。じゃ、ごちそうさま。」

火野「ごちそうさまでした。 待ちなさいよ、瑠思亜!」

ビクビク「待って、待って、待ってよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおお!」




瀬能「やぁ、まだ、パーティーには間に合いそうですか? いかんせんチケットは、招待状は持っていませんが?」

バハヴェ「・・・・いや。たった一人のパーティーにお客さんがいらっしゃるとは光栄だ。・・・・さて、ご婦人は何者だね?」

瀬能「・・・・瀬能杏子。しがない日本人です。」

バハヴェ「はて。ジャパニーズに幾人か友人はいたが、君の様な若い女性の友達はいなかったが? 皆、バーコードメンばかりだ。」

瀬能「そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ。私は、特権階級の手駒じゃありませんから。」

バハヴェ「別にそれでも構わないよ。」

瀬能「あのぉ、聞かないんですか? どうやって私がここに来たのか?」

バハヴェ「いや。今更それを聞いた所で何になるんだい? 今、君は私の目の前にいるんだから、それで、全てじゃないか。」

瀬能「・・・天才という人種は、合理的と言うか。レディーと世間話も出来ないんですか? 社交界としては失格ですよ?」

バハヴェ「はは。生憎だな。・・・・私は社交界というものに縁遠くてね。」

瀬能「私の知り合いに、千年巫女をやっている婆さんがいましてね。」

バハヴェ「ああ、その御仁なら私も存じ上げてるよ。商売では大分、世話になった。」

瀬能「驚かないんですね。・・・ええ。その婆さんが、”天国の階段”が見えるとか、意味不明な事を言い出しましてね。」

バハヴェ「”天国の階段”?」

瀬能「そうです。天国の階段です。その、天国の階段に来たら、たまたま、あなたがいらっしゃった、という事です。」

バハヴェ「そうすると君は、あのお婆さんに導かれて、ここに来た、という事かね? そしてここが、その、『天国の階段』という場所なのかい?」

瀬能「まあそうなりますね。とても抽象的な表現ですけれども。」

バハヴェ「いや、とても芸術性を感じる表現だ。・・・素晴らしい。私もここを『天国の階段』と名付けよう。」

瀬能「そんなファンタジックな話じゃありませんよ。私の国では、”冥府、魔道の門”と言いましてね、地獄へ通じる砦という意味です。」

バハヴェ「ははははははは。それもまた芸術的だ。芥川とか言ったね、ジャパニーズのファンタスティックな物語を書いた作家は。それに通じるものがある表現だ。文化が違えば見える景色もが違うというのも、実に、感慨深いものだね。

さて、お嬢さん。天国の階段というキーワードだけで、よく、ここに辿り着けたものだね。何か、魔法。君の国で言う、忍術とかいう奴を使ったのかい?」

瀬能「いえいえ。簡単な発想です。ここが地球で一番、高い所だからです。」

バハヴェ「高い?ここが? アフリカ大陸のど真ん中の、この、国がか?」

瀬能「・・・この期に及んでそんな冗談じゃ笑えませんよ。ここがオリジナルの人間にとって、本当の聖地。始まりの地でもあるからです。」

バハヴェ「まったくジャパニーズはおかしな事を言う。まるで理解が出来ないな。地球で一番、高い所だとか、聖地とか、・・・・まったく度し難い話だね。」

瀬能「まぁいいでしょう。せっかくだから教えてあげますよ。当初私は、聖地は中東にあると思っていました。そこから歴史上、人間の転換点、人間の文明の大躍進が始まったと考えたからです。しかしそこはあくまで人間を製造する為だけの工場。大量生産の始まりの地でしかありませんでした。

ですが本当の意味での、始まりはここだったのです。・・・・宇宙人が降りてきた場所。言わば、神の降り立った聖地。」

バハヴェ「・・・・なんだね、妄想話かね?」

瀬能「言い換えれば、宇宙人と人間が最初にコンタクトを取った場所と言えます。数千年前に。・・・・そこから爆発的に人間が地球上を席巻していきます。何があったかは知りませんけどね。」

バハヴェ「まったくジャパニーズはアニメやマンガを産業化しているとは聞いていたが、ここまでファンタジーだと逆に、面白い。だがタコ型宇宙人が地球を侵略に来る作品は、何度も映画化されているから、その話は、もう少し捻った方がいい。そんな話、ハリウッドに持っていけば、その場で、ダストボックス行きだ。・・・私は実業家だが、君にはとても投資できないね。」

瀬能「いえいえ。きっとあなたは実業家として二流なのでしょう。あるお金持ちに私が、このアフリカの地に行きたいと言ったら、すぐ、ジェット機をチャーターしてくれましたよ。ま、自分で操縦して来ちゃいましたけど。少なくても私にはある程度の信用があるので。」

バハヴェ「その信用で、飛行機も自由に出来るのだね。カード会社が君を信用しているなら、その君を信じるのも悪くない選択だ。信用とはそういうものだからね。」

瀬能「お褒めに預かり光栄です。

私はここが地球上、一番、高い所と言いました。宇宙船やロケットが宇宙に上がる時、一番都合が良い場所は何処でしょう?ロケットの事業を行っているあなたならお分かりでしょう?緯度0度。赤道上です。・・・・天国の階段というのもヒントになりました。宇宙に登る為の階段と解釈すれば、ロケットの発射場と容易に想像出来ます。あとは簡単。赤道上のあなたの私有地を見つけて、やって来ただけです。それに、あなたの会社の事業計画書を見て、ここに将来、軌道エレベーターの建造計画があるのを発見しました。まさか本当に、天国の階段を作ろうとしていたとは思ってもいませんでしたけどね。

種が分かると簡単な話でしょ?

ここは聖地ですから、特権階級の人間だって、馬鹿な真似は出来ない場所です。だからこそ、反対に都合が良かった。・・・・パーティーの会場にはね。」

バハヴェ「はっはっはっは。見直したよ。なかなか賢いお嬢さんだ。

一つ訂正をしておこうか。ここを聖地と思っているのは、一部の猿共だけだ。多くの家畜は、ここを誰も聖地だなんて思ってはいない。

それで、君は、神と名乗る特権階級の猿共の手下でもない。そして、私の味方でもなさそうだ。一体、何者なんだね?私に何の用があるのかね?」

瀬能「その、単刀直入に言って特権階級の皆さんを殺すのに、人類一同を巻き添えに心中する、その物騒な計画を、あと、そうですねぇ、八十、いや、七十五年、後に遅らせてもらいたいんですよ?」

バハヴェ「ほぉ?・・・・七十五年ねぇ。」

瀬能「ええ。私が死んだ後なら、好きに、人類を滅亡させていただいて構いませんけど、ちょっと、今は、込み入った事情がありまして、人がみんな死んじゃうと、困るんですよ。八十年とは言いませんから、七十五年、どうにかなりませんか?」

バハヴェ「本当に君は面白いなぁ! 何かね、君は、正義の味方か何かなのかね?」

瀬能「そんな大そうなもんじゃありませんよ。・・・・・みんながここで死んじゃったら、誰が、BL、描いてくれるんですか? 私の性癖、どうしてくれるんですか?」


シュ


バハヴェ「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ 話しながらいきなり殴るとは礼儀に反するのじゃないのかね?」



瀬能「ん゛ぁ、、がァ ァ ァ」

バハヴェ「私はなるべくなら女子供は殴りたくは、ないのだけれどね。」

瀬能「・・・・あははは いいですね。信条を曲げてまでお付き合い下さって。」


ガ シュ グガッァ シュ ガ ガ ガガガガ シュ ズガァ


瀬能「あなたは文科系でダンスはまるで出来ないと思っていましたが」

バハヴェ「私は全てを求められて生きて来たのだよ。私に自由などなかった。そう、知恵も知識も、そして戦いも、全てだ。」

瀬能「・・・・どうりでダンスがお上手な事で」


ズガガガガ シュ シュシュ ガ ガガガガ ダン! ガ


バハヴェ「・・・君もなかなかダンスが上手だ。 出来るなら、もう少し私のペースに合わせて踊ってくれないと困るのだよ? もう息が上がっている様だが ね」


ガン


瀬能「ぃぐぅ  ペッ ・・・・・レディーに手をあげるなんて紳士の風上にもおけませんね。」

バハヴェ「男女平等だよ。国連憲章にも書いてあるだろう?ま、あれも特権階級の猿共が書かせたものだけどね。・・・・さて、君に付き合ってダンスを踊ってきたが、丸腰で私を制圧できると思ったのかね? 随分、甘く見られたものだ。」

瀬能「ええ。当然ですよ。・・・・・・チッ・・・・・。」

バハヴェ「・・・・・・君は紳士の前でタバコを嗜むのかね?」

瀬能「男女平等ですよ。税金、納めているんだからタバコくらい吸ってもいいでしょう? もう、空だけど。・・・・一本下さい。一本下さいよ?」

バハヴェ「すまんな。私はタバコは吸わんのだ。」

瀬能「ハッ? シケた男ですね。あなたは? じゃ、・・・・少し休んだことだし、 二回戦でもいきますか?」

バハヴェ「君はどこまでも余裕だね? 私に勝てるとでも?」

瀬能「冗談。 はなっから相手にしてませんよ。 お前みたいなシケたデク人形は」


ズダン


瀬能「が はぁあぁぁぁっぁぁぁ!!」

バハヴェ「言葉は慎み給えよ? 私もいつまでも紳士でいられる保証はないのだからね?」


瀬能「これだからDTは。・・・いきがって。女の扱い方も知らない、童貞風情がぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁ!」


シュ ダダン!! ガ アガガガガ ダン ズデャ ズダァ シュ バァン ガンガナンガンアェ!


瀬能「ハァハァ ハァ ハァ」

バハヴェ「どうした、君、ご自慢のベッドテクニックを私に披露してくれるんじゃなかったのか?」

瀬能「そっちこそ、足がフラフラで。 片手はズダボロ。・・・・オッパイは二つあるんですよ?そんなんで女が満足するとでも?」

バハヴェ「ああ、片方、あれば十分だ。」

瀬能「・・・あなたは、支配者である特権階級の人間を始末する方法を考えた。問題は、あの完璧な要塞。核兵器も生物兵器も通用しない無敵のシェルター。・・・あんなのに隠れられたら手も足も出ない。そこであなたは秘策を編み出した。地球上の人類をまるごと巻き添えにする代わりに、特権階級の人間もろとも始末する方法を。」



ビクビク「・・・・あったよ。あったよ。世界中にありましたよ。不可解なデータが。」

皇「さすがビクビクさんだわ。」

ビクビク「ああ、事業計画書の中に、不必要に増産しているロケットを発見した。それに、それを運搬する巨大輸送船、巨大輸送車。まぁ、その輸送車も特別に開発したキャタピラーを使用している。全部、全部、企業内で、繋がっている。・・・・個はまるで使途不明の開発も、俯瞰でみてみると、一貫した目的が姿を現してくる。」

火野「ロケットってエンジンを付けなきゃ、あんなもん、水素爆弾でしょ?」

皇「一応言っておくけど、水素爆弾と、ロケットの水素燃料は違うからな。民間人が水素爆弾作れたら、国賓扱いだぞ?」

火野「ちがうの?」

皇「・・・・まぁもしかしたら水素爆弾も作れる奴かも知れないけどな。まぁ、自分の事業規模で作れるのは、ロケットエンジンくらいだろう?それだってこれだけ大量に、数千、数万機も作れるのは異常だけどな。」

ビクビク「じゃ、ロケットを偽装した爆弾を運ぶ為のタンカーや、特殊車両って事なのか?」

皇「ロケットに引火しただけだって、結構な爆発規模だもんな。威力が小さくても数で勝負なんだろ?」

火野「笑い事じゃないでしょ?」

皇「行先は?」

ビクビク「・・・・・ヨーロッパとかインド、パキスタン。他にもアメリカ大陸の高高山。それに、グリーンランド、ロシア、北極大陸周辺。反対側は南極も。」

皇「地図、地図、地図、地図、地図持って来い!」

火野「・・・・・何が目的なの?こんな所に爆弾を運んで。」

ビクビク「山だけじゃない。海もそうだ。海溝という海溝。そこに船を向かわせている。・・・・たぶん沈めたんだろう。」

皇「地球の、一番高い所と、低い所か。・・・地球を真っ平にでも、しようっていうのか?」

火野「地球に、爆弾を何千何万個も設置して。これで、世界中の人間と心中しようっていうの?」

ビクビク「無理でしょう? 心中したいなら、ニューヨークでもロサンゼルスでも、町の真ん中に爆弾、仕掛けた方が早い。」

皇「そんな事してもダイハードが止めるだろ?」

火野「そうなのよ。人類抹殺が目的なのに、爆弾と、その設置場所が、こんな所じゃ全ての人間を殺せない。殺せても、世界中の人間を殺す事は出来ない。・・・何か目的があって設置したはずよ。」

皇「頭のネジの外れた奴ほど、こういうの冷静に行えるんだ。非常時の非常識っていうのは、案外、まともだったりするんだよな。」

火野「縁起でもない事、言わないでよ!」




バハヴェ「その方法を、是非、私にご教授、願えないかね? ジャパニーズのお嬢さん。」

瀬能「あなたの会社が所有する、世界中にある無数の不動産。そこに、ロケットと偽った無数の爆弾が設置してあります。先程、話した通り、核攻撃も生物兵器も効かないシェルターには無意味です。ですから、地球上に、配置した爆弾を使って、特権階級の人間を殺す事にしました。間接的に。

その手段は、窒息死です。」

バハヴェ「・・・・」

瀬能「地球上の酸素を全部、失くしてしまおうっていうのが、この作戦の肝です。元をただせば、地球には酸素がありませんでした。酸素は後から出来た副産物です。ですから、地球にある酸素は脆弱なんです。吹けば飛ぶような代物なんです。地球が木星のようにガス体であれば酸素も十分に貯蔵できたでしょうが、生憎、鉱物で固まってしまっている為、表面上に薄っすら酸素はへばりついているだけです。

さて、地球を酸欠にする方法です。世界中の海溝、ロシアはじめ南極圏の永久凍土、その地下には、メタンが眠っています。それを一気に解放したらどうなるでしょう? それだけで莫大な量の二酸化炭素が放出されます。世界で排出される二酸化炭素、数十年分の量が、瞬間的に放出されます。あくまで確認されている全てのメタン、メタンハイドレードを崩壊させた場合の試算です。ですが、あなたは地球を酸欠にしようというのだから、それは、行うでしょう?その為に、莫大な資産を投資し、専用の機械を開発してまで、全人類と心中しようと計画してきた訳ですから。

もうそういう風に爆弾を配置してあるんだから確実ですよ。なんせ天才のあなたが確実に、人類を殺す為、効果的な場所に爆弾を設置したんでしょうから。

ああ、もう、それだけで酸欠ですよ。更に爆発と爆風によって酸素は地球圏から吹き飛ばされます。仮に、その大量の二酸化炭素の爆発で生き残ったとしても、地球の両極に仕掛けられた爆弾によって、南極北極の氷が完全に溶けて水になります。アルプスやヒマラヤの氷もそうです。氷という氷がすべて融解されるのです。海水面は上昇し、地図から消える国も多いでしょう。ですが問題はそこではありません。氷が水に変わったという事です。理科で習ったでしょう?真水が増えると、塩分濃度が下がるって。海の塩分濃度が下がれば、海が海としての機能を維持できなくなります。手始めに、海流の循環システムが停止します。それってそんなに大事な事?って思うかも知れませんが、海流の機能がなくなるという事は、風がなくなるという事です。風がなくなれば、気象全体が維持できなくなります。海が死に、風が死に、大気が死に、圧力が死に。大地は死に、作物も死に、魚も、動物も、人間も、あらゆる物が生きていけない死の星となるでしょう。

例え生き残った人類も、数か月と保たない間に死滅します。


あなたの計画は、

核攻撃も凌ぐシェルターであっても、外気と内気を循環させるシステムを使っていたなら、地球の酸素がなくなる、この時点で詰み。

酸素を作り出すシステムを使っていて、助かったとしても、地球上の人間は死滅し、食料も生産出来ないから、この時点で詰み。

どう転んでも、どんなに考えても、あなたを敵に回した時点で、人類は詰んでいるのです。

素晴らしい。あなたは人類を抹殺する事に成功するのです。疑う余地なく、完全なる確定事項として。」

バハヴェ「・・・お嬢さん。ご婦人は少し、無口の方が可愛がられるのを知らないのか? ・・・・・ペラペラ、ペラペラ、時間稼ぎのつもりか?」

瀬能「よっこらしょっと。・・・いいえ。そういうつもりはありません。あなたを賞賛しているのですよ。・・・・この、紀元前、紀元後。等しく、人類に引導を渡す人物に。」

バハヴェ「不思議な事を言う、お嬢さんだな? 君は私を止めたいのではないのか?」

瀬能「チィィィ、あなたはサイボーグですか? こっちが優位なハズなのにまったく勝てる気がしませんよ?」

バハヴェ「言っただろう? 片手、片足、あれば十分だ。 私は踊れば踊るほど、ドーパミンが大量に放出される。」


カン ガガガガガガ!


瀬能「無感症状とは厄介ですね。私も似たようなものですけど。・・・・興奮し過ぎてすぐにイっちゃいそうですよ、あはははははははははははははははははははははははははははは!」

バハヴェ「喜んでもらえれて光栄だね。」

瀬能「ええ。私の小脳が未来を見せてくれています。あなたに勝ち目はありませんよ?百手先まで私は見えているんですから!」

バハヴェ「・・・・それはハイになってゾーンに入っているだけだ。脳からの神経伝達に、体がついていっていない。」


ズダン!


瀬能「がぁ はぁぁぁぁぁ ぁぁ」

バハヴェ「だから、こうなるんだ。・・・・・おやすみ、ベイビー。」


瀬能「ちぃぃぃぃぃ! あははははははは あははははははははははは あははは 今のは危なかった。」

バハヴェ「・・・・・君は往生際が悪いな。」

瀬能「あははははははははははははは あははは はは は はぁ  はぁ  バハヴェさん。あなたも、相当、体にガタがきているんですよ。あなたの予想以上にね。・・・ほら、私、絶倫だから。あはははははははははははははははは」

バハヴェ「・・・・・確かにそうらしい。まだ大人しく寝かせてもらえないようだ。」

瀬能「・・・・所詮、あなたも人間なんですよ。いくら選ばれた人間だったとしても。」

バハヴェ「君とのダンスも、そろそろ飽きてきた。頃合だ。終わりにしよう。」

瀬能「あはははははははははははははは あはははははははははははははははははは あははは はは はははははは いい女がここにいるのに、一人で寝るなんて。女心が分かっていない。だから童貞なんですよ。」

バハヴェ「・・・・ああ、もう、その挑発にもうんざりだ。私はもう終わりにしたいんだ。」

瀬能「じゃあ 終わりに しましょうよ。」

バハヴェ「・・・・・。」

瀬能「・・・・・・・・。」

バハヴェ「止めないのか?」

瀬能「・・・・・・・は? 止めて欲しいんですか?」

バハヴェ「ジャパニーズは・・・いや、君の行動と心理はまるで理解が出来ない。死ぬ気で私に抵抗してくるかと思えば、そうでもない。君はいったい何がしたいんだ?」

瀬能「打ち上げ花火が上がるなら、一番、綺麗に見える席で見たかった、それだけですよ。」


バハヴェ「そうか。」


カチッ


バハヴェ「今、地球のあちこちから、綺麗なファイヤーワークスが上がる。あと七時間も経たないうちに、地球上の酸素は無くなる。私の勝ちだ。」

瀬能「案外、呆気ないものですね。人類が滅亡するのは。・・・・・それと、勝ちとか負けとか、ないですよ?」

バハヴェ「・・・・どういう事だ? 私は勝ったんだぞ?」

瀬能「だから、あなたは女心が分かっていないんですよ。・・・・・何も分かっちゃいない。昔、好きだったBL漫画家が、十年、二十年ぶりにその作家の新刊を見てみたら、ただの今風の、エロ漫画を描いていた事に私はショックを受けました。売れなくても、信念をもってBLを描いていたら応援していたのに、今の社会に迎合した、売れる為だけのエロ漫画。BLに対する思想も信条もない。クソですよ、クソ。BLはただエロくてオカズになればいいってもんじゃないんですよ、そこに、作家の性癖とか人間性とか、そういう後ろめたいもの、全部、ぶつけるから、読むこっちだって、魂が震えるんです!条例違反ギリギリ発禁覚悟で戦うんですよ! なのに、なのに金に魂を売ったんです、そのBL作家は。このいたたまれない感情、あなたに理解できますか?決して理解できないでしょう?あなたは、その、BL作家と同じなんですよぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおお!」

バハヴェ「・・・・・お前は何を言っているんだ? 理解できるワードで話せぇぇぇぇぇぇぇえええええ!!!!」

瀬能「あなたには理解できませんよ。崇高なBLの世界を。 あなたは、安易な所に逃げた、そのBL作家と何ら変わりないんですよ。」

バハヴェ「私が、安易な所に、逃げた、だと?」

瀬能「ええ。一番簡単な方法です。・・・・・簡単に言うならばリセットです。世界をリセット。あなたはさっき、リセットボタンを押しただけ。」

バハヴェ「・・・・それの何が悪い?」

瀬能「??? あなた、頭、大丈夫ですか? 誰も悪いとか良いとか言っていないじゃないですか。あ、それに、勝ち負けも、関係ありませんよ。

あなたは頭がそれほど賢くないようですので、あたなに理解しやすい言葉で話してさしあげましょう。『あなたは一番、安易な方法を選んだ』のです。そうでしょう?リセットボタンを押すだけなんだから。あとは地球殲滅爆弾が爆発して、人類はおしまい。ジ・エンドです。」

バハヴェ「・・・・・・・」

瀬能「あなたと二度と会う事もないですから、あえて、お話しますけど、私は期待していたんです。人類を葬り去る、そんな壮大な計画を成し遂げた人間は、いったいどんな人間なのか。人類の最後を、その人と一緒に見てみたいと思っていました。だから、私はここに来たんです。

でも、ガッカリですよ。金に絵を売ったBL作家と一緒だったんでガッカリですよ。ただの、腰抜けクソ野郎じゃないですか。勝ち?負け? はぁぁぁ? 馬鹿じゃないですか。あなたに命乞いをすれば助けてもらえるぅ?とか思ったんですか?

私はあなたを買いかぶり過ぎました。つまらない。非常につまらない男でガッカリです。」

バハヴェ「待て! 待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇええ!」

瀬能「・・・・・・・・」

バハヴェ「私は、君に、待てと言っている。」

瀬能「私は、あなたの命令に従ういわれは何ひとつ、ありませんよ?」

バハヴェ「私は、人類を無酸素にして殺す、爆弾のスイッチを押したんだぞ? 何故だ? 何故、そんなに平然としていられるんだ? おかしいだろ? そんなの、おかしいだろ?」

瀬能「??? おかしな事を言いますね。 あなた自分でそのスイッチを押したんでしょう? 驚く方がおかしいじゃないですか? あなた、本当に馬鹿なんですか?

バハヴェ「・・・・・・・ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁっぁぁぁああああああああ! 貴様ぁぁぁぁぁぁああああ! ここから、逃がさんぞぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおお!」

瀬能「ちょ、 ちょっと! まだやるんですか? もう決着はついたでしょ? はいはい。あなたの勝ちですよ?勝ちでございますよ?もう、それでいいでしょ? 

あなたはここで、一人寂しく死ぬんです。それがあなたの望みでしょ? あははははははははははははははは あはははははははははははははははははははははははっは あはははははははははははっはははっはははっははっははははっははははははは!!!!」

バハヴェ「違う! 断じて違うぅぅぅぅぅぅぅうううううううううううううう!」

瀬能「しつこい! しつこい、男は嫌われますよ!」

バハヴェ「待てぇぇぇぇ 待ってくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっぇぇぇぇぇええええええええええええええええええええええええええ!」






瀬能「あぁぁぁぁ痛い。痛ぁぁぁぁい。本気で殴ってきてぇぇぇ。腹立つつぅぅぅぅ!!!

・・・・・さて。この世も終わってしまう事だし。”最後の晩飯”ですか。・・・・・祈ったところで、呪ったところで、現実は何も変わらない。人間の歴史に、終止符を打つのもまた人間でした。つくづく人間は愚かな生き物です。」






バハヴェ「私は。・・・私は解放されたかったのだ。ただ、ただ、開放されたかったのだ。人間は平等ではない。そもそも平等ではない。

神の如き、限られた0.数パーセントの支配階級。・・・・そう、始まりの人間。ヒトの祖。ヒトの歴史は、彼らが作り始めた。

我々、家畜を製造することによって。・・・・我々は、単なる家畜だ。支配階級の人間達によって作られた家畜。・・・・人間の劣化コピーだ。我々、99.9%の人間。自分達を人間と思っている多くの人間。我々は決して人間なのではない、人間を模して造られた模造品に過ぎない。ヒトの形をしている何かなのだ。

私は、家畜でありながら、その真実を知ってしまった。私は人間に選ばれた家畜だったからだ。人間に、知恵と知識、そして、金、名誉、名声。そして多くの家畜を管理する仕事を任せられた。家畜の中の勝ち組だ。私は素直に喜んださ。それが名誉であり、最高の誉れだったからだ。

だが気づいた。・・・・いくら私が成果を上げた所で、家畜である事には変わらない。所詮、家畜は家畜なのだ。ブタ小屋に飼われているブタと私が、何が違うと言うのか。

我々は、地球と言うブタ小屋に飼われた、ブタなのだ。

人間の劣化コピーである我々は、繁殖力は旺盛だが、寿命は短い。そして行動はとても短絡的。素直で扱いやすいと言えばそうだが、単純でバカな生き物だ。だから同じ家畜同士でいさかいを始める。お互いがお互いを殺し合う、とても滑稽で惨めな家畜だ。

人間は我々家畜を飼い易いようにデザインした。

歴史上、起こる戦争や疫病。それらは、偶然ではない。たまたまではない。支配層の人間が、我々の数を調整する為に、人工的に行っている操作だ。家畜が増え過ぎないように。家畜が減らないように。常に、数をコントロールしているのだ。

・・・・人間は、オリジナルの人間は、歴史すらも作ってしまうのだと。

そう。家畜は家畜。ブタ小屋で、ブヒブヒ鳴いて、出荷を待つだけの、ブタでしかない。ブタが逆らったところで、人間には敵わない。ただ殺されるだけ。我々は家畜なのだ。」




皇「そう。それがこれ。カーテン効果だ。」

火野「・・・・なにそれ?」

皇「メタンハイドレードの大量圧壊によって、大気中に大量のメタンが放出される。そのメタンはどこに行く?」

火野「どこって? 言われても。」

皇「地球っていうのは、大気のフタがしてあるんだ。だから空気が外に逃げていかない。あ、外っていうのは宇宙のことな。」

火野「あ、地球がメタンで満たされるってこと?」

皇「そういう事だ。まるでカーテンで仕切られたように、その空間は、メタンで充満する。・・・・この地球は毒ガス処刑室と同じになったんだ。カーテン効果によってな。」

火野「えええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!! ど、ど、どうなるの? どうなるの、私達?」

皇「簡単な事、聞くなよ? 吸える空気が無くなりゃ、お陀仏だ。」

火野「なぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁんで、そんな簡単に言うの? 私達、死んじゃうのよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ?」

皇「お前なぁ、これだけ、地球のあちらこちら、数万箇所以上に、ロケットエンジンが埋められているんだぞ?その時点で、察しろよ。 逃げ場はねぇよ。」

火野「なんとかしなさいよぉぉぉぉぉぉぉぉぉっぉおおおお!」

皇「地球全体が毒ガス処刑室だ。どこにも逃げても同じだ。・・・・・諦めろ。」

火野「嫌よぉぉぉぉぉお! 私、まだ、死にたくないぃぃぃぃぃぃぃぃぃいい! まだ、やりたい事、いっぱいあるのにぃぃぃぃぃぃいい! ちょ、ちょっと、瑠思亜、瑠思亜、どこ行くのよ?」

皇「あ? どうせ死ぬのにヒステリーの横で死にたくないからな。」

火野「待って、待ってぇ、待ってってぇぇぇぇぇえ!」

皇「ついてくるのか? ついて来るなら大人しくしろよ?いいな。 これから雲が晴れて空が綺麗に見える。それがタイムアウトだ。膨れ上がった二酸化炭素を、大気が抑えきれなくなったら、地球上の空気が無くなる。大気のフタが外れるんだよ。そうしたら、毒ガスじゃなくて、窒息死だ。」

火野「・・・・どっちみち死んじゃうじゃない?」

皇「ああ、人類はお終い。」

火野「用意周到ね。」

皇「まぁ、分かったところで、誰も止められないけどな。・・・・・そういやぁ、あのバカは今頃、どこにいるんだろうなぁ? あ、そうだ、お前?牛丼、食いに行くか。」

火野「・・・・もちろん、瑠思亜の奢りでしょ?」

皇「最後くらい、お前が出せよ?」






バハヴェ「私なら支配層の人間を殺せる。家畜もろとも。少なくとも、家畜は皆、解放される。家畜として生きていかなくて済む。私達は、・・・・・自由になれるのだ。」




瀬能「ずっと箱庭で生きてきた者が、いきなり箱庭から出ていいと言われても、きっと生きてはいけませんよ。もしかしたら、箱庭で何も知らずに生きていた方が幸せだった人だって、いっぱいいると思いますよ。家畜には家畜の幸せがあるんです。自分が家畜だからって、すべての家畜が、あなたのように賢い家畜ではないんです。そういうのが分からないから、いつまで経っても人の気持ちが分からない、童貞なんですよ。

ま、どのみち、もうすぐ、みんな、死んじゃうんですけどね。」






バハヴェ「・・・・流れ星だ。猿共が乗ったロケットに仕掛けた花火が、破裂したのだろう。当たり前だ、お前達が乗ったロケットは、私が作ったのだから。綺麗な花火だ。魂が宇宙に吸い込まれていくようだ。」






有坂「こうやって死を間近に感じると、いかに神サマが空虚な存在か実感できる。神サマは生きている人間に必要なものであって、これから死ぬ人間には必要ないものなんですね。世界が滅びるというのに、まるでそんな気がしない。・・・・案外、人間という生き物は図太いのかも知れないですね、瀬能センセ」






バハヴェ「おおお、空が。空がどんどん青くなっていく。・・・・雲が、なくなっていく。これが、原初の地球。原初の空。・・・・わずかに残った海が、投影している、最初の空。

もうじき我々は、歴史の幕を閉じる。私は、家畜を解放したのだ。私は、真の自由を得た・・・・の・・だ・」






カツン カツン カツン カツン ガッ バシュ! ガ ガガガ ガガガガ ガ カツン カツン カツン

瀬能「愛しのマイホーム!へカミンナウ! ジェット機で大陸横断して八時間。間に合いました。天山山脈のおひざ元、シルクロードの宿場町。西遊記で牛魔王のお城があったとされる辺りです。

地上も海、宇宙もダメなら、行く場所は一つ。地下です。・・・・・米ソ冷戦時代に、掘られた穴が幾つもあるんですよね。核実験の試験場、跡地が。これがまぁ、マントルまで繋がっているんじゃないかって思えるくらい深い、深い、縦穴で。核実験に使用していたから耐久性も気密性も万全で、おまけに、冷戦後はこんな地下実験場、国のお荷物でしかないんですよ。国にも軍にも見捨てられた縦穴が、どういう経緯で売りに出されているのかは謎ですが格安で、販売されているんですよね~。

買ってて良かった、縦穴式住居。縦穴にしては巨大過ぎますが。

きっと皆さんは助からないでしょう。・・・・・ナンマンダブ、ナンマンダブ。

バハヴェさんが小者なのは、人類滅亡する仕掛けを用意したのに、最終的な起爆スイッチを自分で押した、という事です。覚悟を持った独裁者なら、そんな不確定要素があるスイッチを用意しませんよ。タイマーでドカーン!です。時間が来たら起爆する方が、安心できるじゃないですか。それをやらなかった。・・・・・自分は孤独だ、孤独でカワイソウ、だからみんな道ずれに死んでくれ!っていうタイプの人間なんです。・・・哀れな人なんですよ。

何年先になるか分かりませんが、お墓ぐらい立ててあげましょう。

さて、私は、シャワーでも浴びて、快適な引き籠もり生活です。世界で一人きりじゃ、働く必要もないし、ニートという稼業も、意味を成しません。どうしましょう。他人が働いて、相対的にニートというものが成立するのに、比較対象がいないんじゃ、ニートの存在意義がなくなってしまいます。困った事態です。

とは言え、地球上で一人きりになってしまった訳ですから、私がアダムで、私がイヴという事でしょうか? いや、神? どっちでもいいですけど。たった一人じゃ繁殖する事も出来ません。私が、生きている間に、別の生命体と接触できれば、人間の子孫を、何らかの形で残す事も可能でしょう。原初の人間が、そうだったように。

でも、イケメンじゃないと嫌だなぁ。私、こう見えて面食いなので、イケメンの生命体じゃないと繁殖したくありません! どうか、カッコイイ、生命体と出会えますように! なんつってぇぇぇぇぇぇぇ! あはははははははははははははははははははは!!!!

ちなみに、空気は、水があれば好きなだけ作れますから、私が空気の問題で死ぬ事はありません。あしからず。

ま、とりあえず、長期睡眠用のカプセルで、しばらく寝て、起きたらまた、考えましょう。」


※本作品は全編会話劇です。ご了承下さい。

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