第13話 脱出ルート
目が覚めないまま、悪夢は続いていた。
警報が鳴り響き、通路の奥や階段下から、複数の足音がにじむように迫っていた。
晃の鼓動が速まる。警報が耳鳴りのように脳を叩き、呼吸が浅くなる。
逃げ道は一つしかない。侵入に使ったルートを逆にたどり、搬送階段を降り、南通路を抜けて搬入口へ。だが、その道が依然として確保されているかは判断できなかった。
けれど――
今、彼らは走っている。
晃は、ただ前を見ていた。沙耶の手を引き、仲間たちと共に。
その小さな手は汗ばんでいた。
怖がっているのが、手から伝わってくる。
でも晃の手も同じくらい震えていた。
「南側、非常階段! 早く抜けろ!」
阿久津の声が響く。
柿沼が背後を警戒しながら、仲間たちと連携して進む。
訓練されたような動き。
「センサー反応が薄い……ラッキーか? いや、誰かが細工してないと変だろ」
阿久津が呟く。
誰かが遠隔で干渉しているのか、それとも偶然なのか――確証はなかったが、明らかに異常だった。
銃声。
壁に跳ね返る音。
阿久津が即座に反応し、敵の足元を正確に撃ち抜いた。
牽制のつもりだろうが、その手際には歴戦の勘がにじむ。
「こっちは見えてるぞ」
小さく呟き、次の動きに備える。
善戦していた。
確かに――このまま抜けられる、はずだった。
けれど、運命は甘くなかった。
「……封鎖だ」
柿沼の声が低く落ちた。
非常階段の先に、金属シャッターが降りている。
阿久津が無言で端末にアクセスするが、ロックは解除されない。
仕掛けは破られている。誰かが気づいたのだ。
背後から、足音がじわじわと増えていく。
増援だ。数分以内には到達できる距離。
足音の響きが次第に重くなり、晃は直感的に感じた。
「武器を構えて近づいてきている」と。
少なくとも三人以上。
沙耶の肩が震える。晃の喉が鳴る。
――もう、ダメなのか?
その時だった。
シャッターの横にある、点検口が「カチッ」と音を立てて開いた。
光が漏れる。
誰かがそこにいた。
「早く、こちらに」
通路の暗がりから現れたのは、カナンの制服を着た女。
長い髪を後ろで束ね、表情は読めない。
一瞬、誰も動けなかった。
味方なのか? 敵なのか?
「早く、時間がない」
晃は息を呑んだ。
この状況で、なぜ彼女は敵に銃を向けない?
正体不明の『味方』。
判断を迫られる時間。
背後では、柿沼が無言で状況を測るように目を細めていた。
阿久津は沙耶をかばうように前に立ち、拳銃に手をかけたまま動かない。
「……行くぞ。俺が先に入る」
晃が一歩、踏み出す。
その瞬間、後方で何かが爆ぜた。




