目的
目を覚ますと、月明かりが水面に反射する噴水の公園にいた。ユウリが、心配そうにこちらを見ていた。
「よかった!目が覚めたんだね!」
そう言って、可愛い笑みを見せる。胸が高まり、鼓動がバクバクと音を立てた。
それにしても、死んだはずなのになぜ生きているのだろうか。そういえばステータスがあったから、ゲームの世界ってことだろう。青い光が原因か。
体を起こして立ち上がると、手ぶらのユウリがいた。死ぬと、公園からスタートのようだ。
土下座して謝る。
「すまない。俺は弱かった。あいつらを倒せなくて!」
「ううん。そんなことないよ!顔を上げて。僕も倒せなかったし、お互い様だよ。二人で強くなっていこうね!」
「はぁ……。俺なんかが世界を救えるとは思えねえし、強くなってもモンスターに惨殺されそうだな。なんでここにいるんだ。死んだ方がマシだっ……」
「そんなこと言っちゃダメ。自信持ちなさいよね。ネガティブな言葉は、気持ちが暗くなって病んでしまう……。そんなことには、させないから!!」
手を握りしめられて、真剣な表情を見せる。そして、すぐ和かな笑みに変わった。
彼の顔が委員長の女の子に重なり、彼女と初めて話した時を思い出す。
ユウリがそばにいたら、頑張れる気がする。
だから、この笑顔を失いたくない。女の子の命を奪った二人を思い出すと、腹が立ってくる。
一人の主人公はこのヒロインを守るために強くなり、そしてあの二人へ復讐することを誓う。
体は光り輝き、力が湧いてくる。
◇◆
モンスターを退治するために、緊張した面持ちでステータスを頼りに武器と防具を選んでいく。
憑依する前のナオキは人間の命を奪っていたが、もうしない。倫理的な問題もあるし、何より人間殺しはしたくない。
二人は今あるお金で武器を買う。お金が足りなくて下級武器しか買えず、ユウリが防具を買ってくれた。
黒いスーツに赤縁の黒いマントを羽織り、赤いネクタイのついた、吸血鬼が着ていそうな服装。
近くにいたモンスターをハンマーで殴り倒していく。
この夜の間、たくさんのモンスターを倒して、魔法を手に入れたり捨てたりを繰り返していた。それでもレベルが三つしか上がらない。ユウリはレベル四つも上がっているのに!
しかも武器が何度も壊れたので、モンスターからかっぱらった金で武器を新しくする。
「おい、ステータス。どうなっているんだ?」
『はい。デバフ【洗脳】により、モンスターを倒しても経験値が半分になります。人間を倒せば経験値が2倍になります』
それを聞いて、呆れ返る。
「はぁ?じゃあ、どうやったらそのデバフは解除できるんだ?」
『方法は二つあります。一つはデバフをかけている相手にお願いして、解除してもらうこと。もう一つはデバフをかけている相手を殺すこと。これ以外の解除法はありません』
つまり、デバフをかけている相手を探す必要があるということか。そうしないと、この呪いが一生まとわりつく。説得してみるか。
「グォォォォォォ!!」
そんな雄叫びが聞こえてその場に寄ってみると、人間が超巨大な豚の姿をしたモンスターにやられていた。
最近モンスターから吸収した「水龍」を選択して、マナを使う。震える手で買ったばかりの刀を握りしめ、戦いに挑む。
「ユウリ、いくぞ!」
「うん、わかった!同時に倒そう」
ユウリと二人で挟み撃ち攻撃だ。これなら倒せる。
弱点は恐らく凹んでいる頭の上と怪我を負っている腹。そこを狙えば、いけるはず。
二人はそこを狙って切り刻むが、武器が壊れそうだ。なんとか耐えてくれ。
その願いが叶ったのか、この豚のモンスターを倒すことに成功した。人間たちは全滅だ。血を流している。彼らにはステータスがないようだ。
しかも甘い匂いがただやってきている。鼻を押さえた。
突進と地鳴らしという能力を吸収することができたな。地鳴らしはいらないので、ユウリに渡す。
レベルが一つ上がって、レベル16になった。何かがおかしい。さっきまで、経験値がそんなにもらえなかったのに何が起きている!?
「ねえ、何か嫌な気配を感じない?」
「変な気配?」
ユウリが汗を流しながら、辺りを見回している。気配とはいったいなんのことだろうか?
彼と同じようにキョロキョロしていたら、目の前に見知らぬメガネ男が立っていた。そいつは拍手している。
「いやー、素晴らしい。やっぱり強いね、ナオキは」
「誰だ?」
「おやおや、忘れたのかい?俺はユウダイ、君の主人みたいなものさ」
彼が近づいてくると、圧倒的な威圧感に押しつぶされそうになる。汗を流し、一歩ずつ後ろに下がった。こいつは見るからに強い。
そこへ危機感を覚えたユウリが、中級ソードを強く握りしめ攻撃にかかる。
「ナオキに近づくなぁぁぁぁ!!悪党めぇぇぇぇ!!」
「お邪魔虫がいるな。排除しないと」
「待て!ユウリに攻撃するな」
彼の攻撃の目の前に立ち、争いをやめさせる。流石にこいつには勝てないし、戦ってもやられるだけ。
「うっ!」
背中に怪我を負ったが、少しダメージを負った。これくらいなら大丈夫だ。HPは307しか減っていない。
「あっ、ごめん!」
攻撃し終わった後、彼の表情が暗くなった。
「いや、これくらい大丈夫。それで、俺に何の用だ?」
ユウダイはにこりと笑みを浮かべる。
「モンスターを倒して、無双はしたくないか?俺ならこれ以上強くしてあげられるよ?」
「な、なんだと!?」
目を見開く。
無双するのは、チート漫画では馴染みがあるもの。確かに強くなればいじめっ子二人を一瞬でワンパンできるが、それは何か違う。
けどそっちの方が快感がすごそうだし、ざまぁが簡単にできるんじゃないか。話も短くなりそうだし。
「ま、痛みは伴うけどね。どうする?」
痛みが伴うなら嫌だと否定しようとしたのに、息が詰まる。言葉が出てこない。どうなっているんだ!