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哀悼の牙  作者: 片桐 遥
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転生したら襲撃される

 目が醒めると、見覚えのない木の天井が見えた。ここはどこだろうか。


 僕は死んだはずなのに、なぜ生きている!?意味がわからねえ!!


 もしかすると神様が僕の気持ちを汲み取り、チャンスを与えてくださったのかもしれない。




 体を起こそうとしたが、腕と脚がビクビクと震えるだけで全く動かない。


 それに頭が割れるほど痛い。



「うう……まるで金縛りにあってる感じだな」



 そう言葉に出したつもりだが、こいつの口が開かない。



「どうすればいいんだよ、これ!」



 初っ端から絶体絶命のピンチだ。


 漫画やアニメでよく見る転生とは、少し違うようだ。


 転生ならば、最初から自分の意志で動けるはずだ。それなのに、僕の場合は自分の意志が反映されていない。



「動け!動け!僕の体……!」



 ダメだ。全く動かない。やはり金縛りにあっているようだ。男の野太い声らしきものも聞こえているし。


 少し冷静になって、母が言っていたことを思い出す。



「金縛りに遭った時は、無理に動くよりじっとして目を閉じた方が解消するわよ」



 彼女の言っていた通り、目を閉じた。深呼吸をして、気持ちを落ち着かせる。次に目を覚ましたら、別の空間へ飛ばされていた。


 ここは人間の脳にある記憶を司る司令塔、海馬である。海馬は新しい記憶が保存される場所だ。

 意識が細分化され、自分の姿が煙になって具現化したようだ。

 目の前には、後ろ姿しか見えない茶髪の男が座っている。それは前の持ち主の記憶が生み出した産物。


 全身黒いマントを羽織り、黒いズボンを履いている。彼は怒り気味の声で、話しかけてきた。


「おい、人間。なぜ俺の体を乗っ取った?」

「ただの偶然ですよ。貴方は誰ですか?」

「俺の名はナオキ。ご主人様にお仕えしている、ただの下っ端だ」

「ご主人様とは誰ですか?」

「それ以上質問するな!やかましい!人間とは話したくねえんだよ!」


 大きな声で怒鳴られて、僕はお辞儀し謝る。

 どうやらこの男は人間嫌いなようだ。説得は難しそうだな。


「す、すみません……ですが、この体でしなければならないことがあ」

「は?てめえの話なんか聞きたくねえ」

「し、しかし……復讐したいんです」

「復讐か……出来たら気持ちいいんだろうな……」


 意味深そうに呟くと、無言が続く。


 男が振り返ると、彼の顔は半分真っ黒でゴツゴツした岩みたいな皮膚が上に伸びている。赤い目が四つくらいある化け物だった。驚きのあまり言葉を失う。

 しかしもう半分は人間の顔をしていて、眉目秀麗な顔をしている。女にモテそうなイケメンだな。目の下の隈のせいで、悪人ヅラにしか見えないなぁ。


 こいつはいじめっ子二人と同じくモンスターなのだろうか。恐怖のあまり、煙のまま瞬時に後ろへ下がる。人間の姿だったら、冷や汗をかいているだろう。


「逃げるんじゃねえ!俺の顔を見て、逃げるのかお前は!この無礼者!その態度はねえだろ!」

「こ、殺されると思って……」

「本当は速やかに殺したいが、ここで戦って万が一壁を傷つけたら新しく記憶できる機能が鈍くなっちまうからな。やめておこう」


 そんな言葉を聞いて、意外と常識があるようだ。人間嫌いで、横暴な男だと思っていたのに。


「まあいい。お前のような人間が乗っ取るのが事実なら、認めてやらんこともないがな」


 いやいや。乗っ取るのはマジの事実ですから、素直に認めましょうよ、ナオキさん。ツンデレか!!

 と言うツッコミは置いておき、彼は咳払いをして話を続ける。


「だが、一つお前にして欲しいことがある。真のラスボスを倒し、このゲームを終わらせることだ」

「それが一番の目的なんですね」

「その通り。承諾してくれるか?」

「うーん」


 真顔でそう言われて、僕はその質問に顎を当てて考えた。迷いが生じてしまう。

 本当は承諾すれば良いのだが、僕みたいな素人がラスボスを倒せるのだろうか。難しい。

 目線を逸らして無言を貫く。


「はー、人間と話してるとどうも気が狂いそうだな。話は終わりだ」


 そんな会話をした後、意識が神経を通って肥大化し元の体に意識が戻ってきた。体を動かそうとしたが、自分の思うように動かない。

 焦りと混乱が入り乱れ、顔と体中に冷や汗をかいてしまう。どうやったらこの体で、自我を持てるんだ?


 なんとか歯を噛み締めて真っ赤な顔で起き上がると、無地の布団が掛けられている。家の寝室だった。

 腰を無理やり動かして重たい体で立とうとした瞬間、歯車が窓ガラスを割り一人の女に襲撃される。


 女は赤い髪を二つに結び、黒い口紅をしていた。目は吊り目で、胸も大きい。

 胸の谷間が見えそうなほど空いている、青くてゴツゴツした戦闘用スーツを着ている。両手が細長く、先は大砲のようになっていた。後ろには、灰色の歯車が二つ付いている。


「やっと見つけたわよーー!糞ナオキ!!」

「くっ……!」


 両手から噴き出る炎の連続攻撃を食らい、ドアが燃やされ吹き飛ばされる。パジャマが真っ黒コゲになり、その場で倒れた。

 どうして攻撃されているのだろうか。全然理解できないぞ。いきなり攻撃とか焦るだろうが!!


「うっ……なにをする」


 重たい体ではその場から動くことができず、生きたいのでなんとか立ち上がるが攻撃はまた続く。


「あははっ!!噂で聞いていたより弱いわねー!死になさーい!!」


 女は高らかに笑いながら、背中にあった歯車型刃つきブーメラン二つを投げ飛ばしてきた。

 なんとか避けたが、頬に刃が当たって血が吹き出る。避けても避けても追いかけてくるなんて。しかも全部当たってしまう。

 これは、どうすりゃいい!?はぁ……諦めるか……。


 服が切れて皮膚が血まみれ。逃げながらも炎の玉を連発してくるため、攻撃をモロに喰らう。


「うっ……!」

『警告、警告!HPが残り2になりました。回復してください』

「この俺に回復しろと!?冗談じゃねえだろうな!!」


 いきなりステータスが開き、名前とHPを表記してくる。どうやら荻原(おぎわら)ナオキという名前で、レベル12らしい。

 現在のHPは2/2042。

 ステータスの言っていたことは本当だったのか……。

 女の攻撃が遥かに強いことがわかる。このままじゃ、死んじまう!もう二度と死の恐怖は味わいたくねえ……!


 ステータスに魔法が表記されると、たくさん技がある。その技をよく見るために、見つからないと思われるキッチンの棚の裏に隠れる。

 その中にある超回復が目に止まる。これを使うことにする。しかし……。


『マナが足りません。マナを貯めてください』

「どういうことだ……?」


 マナとはいったい何のことだろうか?ファンタジー漫画でよく見る、魔法を使うために必要なものか!?

 疑問に思って首を傾げると、それを見計らってステータスが教えてくる。


『マナとはあなたの感情に左右されて発動します。ポジティブな気持ちの方がマナが大きくなります』

「ポジティブ!?具体的には?」

『今までで楽しかったことや嬉しかったことを思い浮かべてください』

「は……?」


 口が開いて、目が点になる。


 僕にはそのような思い出が残っていなかった。

 人間の本能だから仕方ないが、そのような前向きな思い出はすぐに忘れてしまう。トラウマや嫌なことの方が記憶に残りやすいのだ。


 ずっと一人だったし、家族とも碌な思い出がない。あのクラス委員長と少し話したことくらいしか、嬉しかったことがない。そのようなことでもいいのだろうか。

 だが、今は敵に見つからないようにするのが最前線。額が汗まみれになっている。

 焦りが込み上げてしまい、気持ちは楽にならない。むしろ死にたくない・見つかりたくない恐怖が強く、思い出している時間がない。


「あははっーー!お姉さん、退屈してきちゃったわ!もっと私と遊びなさいよー!」


 毒の効いた笑い声を聞いた。ドーンと炎の爆弾が投げ込まれ、棚に穴が空いた。奇跡的にぶつからなかったが、ここにいるのは危険だ。逃げなければ!


 立ち上がってキッチンの棚から離れて、燃えかすだらけの隣のリビングへ向かう。途中で転んでしまった。

 なんてミスだ。恥ずかしい。これじゃ死んじまうじゃねえか!


 その時、ポケットから黄色のお守りが飛び出す。それを見て彼女の言葉を明白に思い出す。


「逃げちゃダメ。自信を持ちなさい……」


 そうだ。ここで逃げてしまえば、僕はこのままHPがなくなって死んでしまう。

 逃げちゃダメだ、サトル!僕なら、まだできる……!


 お守りを握りしめて、ポケットに入れる。


 体から力が漲ってきた。今ならマナが使えそうだ。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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