番外編 側近のひとり
家に戻ると粗末な馬車が止まっていた。こんな馬車が玄関まえに止まっているとは?と思いながら玄関を入ると執事が待っていた。
「ご当主様が執務室で待っておいです。そのままどうぞ」と言うとコートも荷物も受け取らずにさっさと行ってしまった。
ランダを養女にする話だろうが、急ぎなのは、他に取られるからかなと思って、自分でコートを脱ぐと腕にかかえて部屋に向かった。
見知らぬ男が父上と茶を飲んでいた。俺はそいつを無視して
「呼んでらっしゃると」と父上に話しかけた。
「あぁ呼んだ。お前はすぐにこの方とここを立つ」とだけ返って来た。
ここを立つ?
「立つとは?」と父上に言うと
「それだけでは理解できまい。わたしから説明しても?」と男は言ったが、それは質問ではなかった。男は父上の返事を待たずに
「お前は王子の側近としての仕事をやらなかった」そこで俺は反論しようとしたが、男の言葉が続いたので出来なかった。
「違うな、出来なかっただな!能力が足らずに。側近は王子を正しく導く事が仕事だ。今の王子は王太子へはなれない。多分、どこかの国へ婿に出される。子供は出来ないだろう」
「なんだと! 出鱈目を言うな!ランダはあの優しさで殿下を癒してらっしゃる」と言うと男は
「ほーー、癒して貰う必要がある程、執務をしていると言うのだな?」
「そうだとも、殿下は」とまで反論して、気がついた。
最近はなにもしてない。だが怯んではならない。なにか言わなくては・・・
「いくぞ」の声におもわず体が従ってしまい、俺は男の後ろをついて歩いた。
「それでは」と男は父上に声をかけた。俺も挨拶と思ったが
男の「必要ない」の声に振り向くことも出来なかった。
廊下に出たが誰もいなかった。男と二人で玄関を出て、あの粗末な馬車に乗った。馬車に木箱が乗っていた。
たったこれだけが、荷物だった。だが、殿下がすぐに呼び戻してくれる。荷物は必要ない。
おれは、痛みを増してきた背中や顔の痛みに馬車のなかでうずくまった。
苦労はまだ始まってもいなかった。
おれは辺境伯の兵団に入れられた。毎日、訓練だけだった。食事はたくさんあった。
仲間が山盛り食べるそれをおれは食べられなかった。毎日死んだように眠った。
ある日、腹が空いたと感じた。そのときから昨日と今日、明日。と区別がつくようになった。
町の巡回班に加わるようになった。平民の区別がつくようになった。
おれはなにを見ていたんだ。町の暮らし、平民を暮らしを知るためにとランダや殿下、側近仲間と出かけていたのに・・・・
彼らのなにを見ていたんだ。
おれは時間が空けば、資料室で国の政策を学んだ。
そんなある日、あの男がやって来た。
「隣り、いいか」と座ったあとで言ってきた。
「どうぞ」
「見違えたな」と男は言うと続けて
「王太子殿下の護衛をして欲しい」
「は?」
「王宮に慣れていて、腕も立つ。最適だ」
「・・・」
「貴族の義務だ」
「・・・・」
「出発は、明日だ」
今回はすぐじゃなかったな。
「拝命いたします」と言うとおれは頭を下げた。
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