表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

公爵令嬢として生まれたけれど

 フランツェーナとドミニク。両親の名付けのセンスはなかなかなものだと思う。

 フランツェーナと名付けられた姉は、とても美しく女性らしい体型をしている。一方、ドミニクと名付けられたわたくしは、低い鼻に平凡な容姿、平べったい身体。

 赤子のわたくしたちをみて、成長を予見していたのなら、両親は天才だと思う。






「すまない。ドミニク。他に愛する人ができたんだ」


 同じ光景を見るのは四回目。愛する人の相手が誰かなんて、聞かなくてもわかる。



「君の姉上、フランツェーナ様だ。彼女の美しさには、」


 何か語っている婚約者候補を放置して、カフェを出た。こんなときくらいお代は払わないわよ?







「ただいま戻りました」


「あら、ドミニク。早かったわね?」


 今最も顔を見たくない相手ナンバーワンのお姉さまに出迎えられ、あれよこれよと部屋着に着替えさせられる。メイドにやらせればいいのに、わたくしが産まれた瞬間から、わたくしの着替えだけはお姉さまがしていたらしい。普段はおとなしいお姉さまが、わたくしの着替えをできないとわかると泣いて暴れたとか。泣いて暴れたいのは、わたくしの方だわ。


「あら、ドミニク。何かあったの?」


「いえ、お姉さま。別に」


「そう? じゃあ、わたくしは出かけてきますわ」


「気をつけてね」


 出かけるお姉さまを見送り、早めに眠りにつく。何が辛いって明日も学園生活だ。











「ドミニク!」


 朝、登校して姉と別れると、元婚約者候補その四がやってきた。


「ごきげんよう。では」


「まて」


 そう言ってわたくしの手を握りしめる。


「痛、」


「昨日のカフェのお金を返せ」


「……貴方が呼び出して、一方的に話したカフェでのお代ですか? 不要でしょう」


 ちらちらとこちらを見ている生徒たちがいる。早く話を終わらせてしまいたい。


「そうだ! 君を振ったカフェでのお金だ!」


 大きな声でそう威張る元婚約者候補その四。他の候補たちもなかなかだったけど、こいつは一番ない。


「え、ドミニク様、また振られたの?」

「おかわいそうに」

「ふふ、だって。美しくない方の公爵令嬢ですものね」


 ドミニカ・アフルレッツァ。アフルレッツァ家の公爵令嬢だ。もちろん、フランツェーナお姉さまとは同腹の姉妹だ。


 わたくしを蔑む声に、顔を赤く染めたわたくしは、小銭を元婚約者候補その四に投げつけ、教室へと逃げた。










「ごきげんよう、ドミニク様」


「ごきげんよう」


「朝の騒ぎ、お聞きになった?」

「ふふ、姉に何度も婚約者候補を奪われるなんて、無様ね」


 こそこそとわたくしについて話す方々をきっと睨むと、わたくしは席についた。


「みなさま! ドミニク様は悪くありませんではないですか! どちらかといえば、婚約者を奪われた可哀想なお方です! そんな言い方はないと思いますわ!」


 正義感に駆られた伯爵令嬢の言葉に、わたくしはイラつく。


「わたくしを庇ってくださり、ありがとう存じます。ですが、余計なお世話ですわ!」


 そう言って教室を飛び出しました。




「あら、ドミニク」


「お姉さま……」


 いつも一人になりたい時に来る、裏庭。わたくしが裏庭に到着したら、お姉さまが小鳥と遊んでいました。そんなお姿も絵になるお姉さま。



「ねぇ、ドミニク。何度も言っているでしょう? そんなのだから、恋人をわたくしに奪われるのよ?」


「な!? ま、まだ、恋人ではなく単なる婚約者候補の一人でしたわ!」


「ふふ、強がっちゃって。わたくしは、そんなドミニクを可愛らしく感じるけど、そんな風にしていては、公爵令嬢としてやっていけないわよ?」



 そう言って、わたくしの頭を軽く撫でたお姉さまは去っていきました。












「ど、ドミニク嬢。ずっと君を見ていました。こ、婚約者候補と別れたと聞いたので、ぼ、ぼ、僕とおつきあいしてください!」


 公爵令嬢だからか、次の婚約者候補はすぐに現れた。


「まずは、お友達からでよろしいでしょうか?」


「は、はい!」


 婚約者候補その五は、結婚を考えると共に暮らすのは難しいかもしれない、そう思いながら、我が家に招待し、友人としてお茶会を楽しんでいた。



「あら、ドミニク。お友達?」


「……えぇ、お姉さま」


 わたくしたちのお茶会にわざわざ押しかけてきたお姉さま。わたくしの隣――といっても、婚約者候補その五の隣でもある――に腰掛け、微笑みを浮かべて話し始めた。


「ドミニクはとてもいい子なのよ。仲良くしてあげてくださるかしら? ……あら、あなたのその指、見せてくださる?」


 そう言って、婚約者候補その五の指をとり、微笑みを浮かべた。婚約者候補その五は、顔を真っ赤にして、こくこくと頷いていた。


 さっきまで、綺麗な女性は嫌いだと言っていたじゃない。僕のことを羽虫のように扱うからって……。



「この指、昔流行っていた幼児向けの童話の絵かしら?」


「そ、そそそ、そうなんです!」


 ふんふんと鼻息を吐きながら、お姉さまに近づく婚約者候補その五。


「とても素敵だわ。今度、指に絵を描いた画家を紹介してくださるかしら?」


「も、ももも、も、もちろんです!」


 もう、わたくしのことなど目に入っていないようだ。


 そんなわたくしをチラリと見て、お姉さまは何か言いたげな表情を一瞬浮かべた。









「ど、ど、ドミニク嬢。き、き、君のお姉さまに惚れてしまった。別れてくれ」


「……わたくしたち、まだお付き合いなんてしておりませんわ。でも、わかりました。婚約者候補として考えるのも友人になるのもやめましょう」


「そ、そこまでは言っていないが、その、」


「……ここだけのお話にしてくださる? お姉さま、あぁ見えて狭量ですの。妹といえども、他の女の影がある男性は受け入れないと思いますわ」


「そ、そうなのか」


「それに、お姉さま、シスコンですの。わたくしのことを悪く言ったら……あの美しい容姿ですもの。世を味方につけて、公爵家の権力も使って……いえ、なんでもございませんわ」


「き、気をつける!」


「では、わたくしたちは赤の他人ということで、その証明をこちらにいただけるかしら?」


 言われるがままに書類にサインを記す元婚約者候補その五。大丈夫なのだろうか? と、心配がよぎるものの、わたくしは席を立った。


「こちらのカフェのお代は、お任せしてもよろしくて? お姉さまは男らしいお方がお好きなはずですわ」


「も、もちろん! 任せて!!」



 ふんすふんすしている元婚約者候補その五を置いて、カフェを出る。


「ドミニク! とても上手に交渉できたじゃない! さすがわたくしの可愛い可愛い妹!」


「……お姉さま。こんなところまでついてきていたのですか?」


「もちろんよ。可愛いドミニクには、クソみたいな男ばかりが寄ってくるんだもの。わたくしが守らないと」


 そう言って、わたくしをぐりぐりと抱きしめるお姉様。



「あ、ああああ、あの、フランツェーナ様! ぼ、ぼぼぼぼ、」


「あら? 貴方はドミニクの元お友達のお方ね」


 そう言ったお姉さまは、元婚約者候補その五に近寄り、耳元で何か囁く。


 そうして、わたくしの元に戻って、彼に笑顔を向けると、彼は顔を真っ青にしてチビっていた。


「お姉さま。一体何を?」


「また、かわいいドミニクには教えてあげないとね? クソみたいなストーカー男を退治する方法」


「わたくしのストーカーはお姉さまではなくて?」


「ん?」



 そう微笑んだお姉さまは、美しい顔をわたくしに向けて、わたくしの手を取り馬車へとエスコートしてくれた。



「ドミニク。ここは少し臭うから、早く帰りましょう?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ