宙のお城の舞踏会
「ハンナ姫様、お部屋にお戻り下さい。」
今日はクリスマス。ルルーヴキングダムのお城で華やかな舞踏会が行われました。しかし一番年下のハンナ姫は仲間に入れてもらえません。
「どうしてナネット。お母様は勿論リリカお姉様やクリスお姉様は参加しているのに。どうして私だけ駄目なの?」
ハンナ姫は侍女のナネットに尋ねます。二人のお姉様は朝からお気に入りのドレスを試着してばかり。リリカ姫は水色のに白いレースが着いたドレスを、クリス姫は赤色に白いリボンが着いたドレスでダンスを楽しんでいます。
「ハンナ姫様、リリカ姫様もクリス姫様も15才過ぎております。ハンナ姫様はまだ5才ではありませんか。」
ルルーヴキングダムのプリンセスは15才から舞踏会に出られるのです。リリカ姫は今年18才、クリス姫は16才だから参加できるのです。
「ハンナ姫様も大きくなったら仲間に入れますよ。なので今日はもうお休みにしましょう。」
ハンナ姫はナネットに連れられお部屋に戻るのでした。
「お姉様達は王子様達と楽しくダンスをしてるのに私は1人お部屋でお留守番。つまらないの。」
ハンナ姫は部屋に入るとベッドに横になるます。
トントン トントン
ハンナ姫が横になってどれくらい経ったでしょうか?窓を叩く音がします。
「誰かしら?」
ハンナ姫は部屋のカーテンを開きます。
「きゃあ!!」
部屋の窓には白い服を着て羽をはやした天使が立っていました。ハンナ姫は窓を開けます。
「ハンナ姫様、驚かせてしまってすみません。」
王子様のような姿をしていますが髪は長く声は女の人です。
「私は宙のお城から来ました。天使のラファエラです。今日はクリスマス。貴女を宙の国から舞踏会に招待します。」
クリスマスの夜には宙の国で舞踏会が開かれるのです。ラファエラが窓の方に手を向けます。窓からは虹の橋が出ていて馬車がありました。車体にはペガサスが繋がれています。
「舞踏会?でも15才からじゃなきゃ出ちゃいけないってお母様が。」
ハンナ姫は少し悲しそうな顔をします。
「ハンナ姫、宙のお城の舞踏会にはまだ成人していないプリンセスが参加できます。いつか大人になって舞踏会に出た時のための練習のような物です。いかがでしょうか?」
「行くわ!!是非連れてって!!」
ハンナ姫が頼むとラファエラが馬車に乗せてくれます。
「それでは出発しますよ。」
ラファエラが手綱を取るとペガサスは虹の橋の上を掛けていきます。
虹の橋は高く登っていきます。
「素敵。街が見えるわ。あれが私の住むお城ね。」
ハンナ姫は窓の外から下を見ます。ハンナ姫の住む城下町が広がっていました。
虹の橋はやがて雲の上へと続いて行きます。
「さあ、着きましたよ。」
ラファエラが扉を開け馬車を降りると雲の上でした。お城の屋根には星が光っています。
「ようこそ、宙のお城へ。」
ハンナ姫はお城のドレスルームに案内されました。
「わぁ、可愛いドレスが沢山あるわ。」
「ハンナ姫様が好きな物をお選び下さい。」
「どれも可愛いくて迷ってしまうわ。」
ハンナ姫はドレスを1着ずつ手に取り鏡の前で合わせてみます。
「私これにするわ。」
散々迷った結果ハンナ姫はピンク色で白いリボンが袖と裾についたドレスを選びました。
「では、お着替えしましょう。」
メイドに白いネグリジェからピンクのドレスに着替えさせてもらいます。するとどうでしょう。
「誰?!」
鏡には自分と同じドレスを着たお姉さんが写っています。
「ハンナ姫様でございますよ。そのドレスを着ると素敵な淑女になれるのです。」
淑女になったハンナ姫はドレスと同じピンク色のハイヒールを履きます。
「ハンナ姫様、支度はできましたか?」
「ええ。」
ラファエラの手を取り広間へと向かいました。
広間は天井から吊るされたシャンデリアに照らされています。オーケストラが美しい音楽を奏でています。ハンナ姫の他にも参加してるプリンセスがいます。お姉さんの姿になっています。
「あの娘達も魔法のドレスの力でお姉さんになってるの?」
「はい。ここにいらっしゃるのはまだ成人前のプリンセス。ハンナ姫様と同じぐらいです。」
ラファエラが教えます。
その時トランペットの音色が響き渡り王子様の到着を告げます。
『ようこそ、プリンセス達。』
王子様が広間の階段から降りてきます。
「王子様ももしかして未成年の王子様達かしら?」
ハンナ姫がラファエラに尋ねます。
「はい、彼らもまた各国の王族のご子息様でございます。中には成人後舞踏会で再会し結婚された方々もおります。さあ、王子様がいらっしゃいましたよ。」
ハンナの目の前には金髪で背の高い純白な軍服姿の王子様が立っていました。
「僕と踊ってくださいますか?」
王子様は手を差し出します。他のプリンセス達もダンスに誘われます。
ハンナは王子様の手を取ります。
オーケストラの奏でるワルツで王子様とのダンスを楽しんでいた時です。
「あの娘、踊らないのかしら?」
ハンナ姫は広間の隅で誰とも踊らず立っているプリンセスを見つけました。オレンジ色のドレスにブラウンの髪を夜会巻きにした気品のある娘です。
「壁の花でしょう。」
壁の花とは踊る相手がおらず誘いを待ってる女性の事をいいます。
「この舞踏会ではプリンセスの参加のが多く余ってしまう娘がいるのです。」
「まあ、せっかくの舞踏会なのに。」
ハンナ姫は王子様の手を離し一礼して去っていきます。
「姫、まだダンスの途中です。」
ハンナ姫が向かったのはオレンジのドレスのプリンセスのところでした。
「一緒に踊りましょう。」
ハンナ姫はオレンジのドレスのプリンセスに手を差し出します。
「宜しいのですか?せっかく王子様に誘って頂いたのに。」
「構わないわ。だって女の子は誰でも舞踏会でダンスを夢見るものよ。」
ハンナ姫はプリンセスの手を取り広間へと向かいます。
オレンジのドレスのプリンセスはジュリアといい、アムール王国のプリンセスです。軽やかなステップでハンナ姫をリードします。
「貴女、踊りが上手なのね。」
「ありがとう。私いつもお人形と二人で舞踏会しますの。」
ジュリア姫は母からもらったフランス人形が一番の友達だと教えてくれました。
「いつか本当の舞踏会に出た時のために練習してるのですわ。」
「本当の舞踏会、ジュリア姫その時は必ず貴女を招待するわ。」
「ありがとう。絶対よ。そしてまた一緒に踊りましょう。」
二人のプリンセスは約束しました。
翌日ハンナは目を覚ますとベッドの上にいました。起きて姿見の前に立ってみましたが子供の姿をした自分が立っていました。
あれは夢だったのでしょうか?姉のリリカ姫やクリス姫にも話したけど素敵な夢を見たのねと言って笑っています。
ハンナ姫自身もあの夜の舞踏会の事は夢だと次第に思うようになっていました。
あれから10年が経ちました。ハンナ姫が成人しクリスマスの舞踏会にデビューする日がやって来ました。
「ごきげんよう」
ハンナ姫は招待客の前でお辞儀をします。
「ごきげんようプリンセスハンナ、お久しぶりですわね。」
ハンナ姫の元にオレンジのドレスに夜会巻きのプリンセスが挨拶に来ました。
「エスポワールキングダムのプリンセスジュリアですわ。」
彼女は10年前に一緒に宙のお城の舞踏会で踊ったプリンセスでした。あの夜の出来事は夢ではなかったのです。ジュリア姫は招待状を見せます。
「お越し頂きありがとうございます。ジュリア姫。」
「こちらこそ、お招き頂き感謝致しますわ。ハンナ姫。」
二人が挨拶を交わしてるとオーケストラの音楽が始まります。ダンスタイムです。
「ハンナ姫、踊ってくださいますか?」
王子様がハンナ姫をダンスに誘います。
「ごめんなさい、既に約束してる方がいますの。」
ハンナ姫はジュリア姫の元へ向かいます。
「踊って頂きますか?ジュリア姫。」
「ええ、勿論ですわ。」
ジュリア姫がハンナ姫の手を取ります。
「ハンナ姫様、今日の舞踏会ではこちらのルーカス殿下と最初に踊ると先週約束したはずでは?」
侍女のナネットが割って入ります。
「ええ、ですがジュリア姫とはもっと前にお約束しましたもの。10年前に。」
ハンナ姫はジュリア姫と広間に向かうと組んで踊り出しました。
FIN