練習しない卓球部と回帰する日常
試合から数日が経ち、季節はさらに夏の暑さが増していた。蝉の鳴き声が教室の窓の外から響き、夏らしい青空が広がっている。太陽はどこまでも高く、地面からの照り返しが肌をじりじりと焼くような日々。私たちは卓球部の活動を続けながらも、この暑さにやられて、体育館の中で涼を取るのが日常になっていた。
部室に戻ると、またいつものように緩んだ空気が漂っていた。試合での真剣な表情はすっかり影を潜め、机の上にはラケットやボールが無造作に置かれているが、誰も手に取ろうとしない。部員たちは椅子に座り込み、雑談したり、冷たいお茶を飲んだりして過ごしている。
「もう、この暑さどうにかならないかな……」と、部員の一人がため息混じりに言った。
リョウ先輩はそんな声に答えず、扇風機の風を浴びながら「まあまあ、こんな日は無理して動かない方がいいんだよ」と、相変わらずの緩い調子で言っていた。私も部室の涼しい空気にホッとしつつ、いつものように椅子に腰掛けた。
「そういえば、ユウナ、墨汁まみれのときの顔、最高だったな!」と、サトル先輩が笑いながら私に声をかけてきた。
「もうその話、いい加減やめてくださいよ……」私は苦笑しながらも、自然と笑顔がこぼれていた。試合での悔しさも、この卓球部の日常に戻ればなんだかどうでもよくなる。ここでは、勝ち負けよりもみんなで楽しく過ごすことが何よりも大事だった。
部員たちはそれぞれ、試合のことや学校生活の話をしながら、リラックスした時間を過ごしていた。私も、机の上に置かれたラケットをぼんやりと眺めながら、自然とこの空間が自分にとって居心地の良い場所になっていることに気づいた。
「次の試合はどうする? ちゃんと練習する?」と誰かが冗談半分で聞く。
サトル先輩は、ラケットを軽く手に取りながら「それは天の神様次第だけどさ、もうちょっと動かないと、今度は本当に勝てないからね」と笑いながら答えた。
「まあ、確かに……」私はその言葉に少しだけ真剣さを感じつつも、次こそはしっかりと準備して試合に挑むことを心に決めた。
卓球部のこの独特なリズム――普段はリラックスしていて、でも試合では真剣に。それが私にとってちょうど良いバランスだった。ここが私の居場所なんだと、改めて実感した。
外では夏の蝉の声が響いている。これからも、暑さと汗と笑い声に包まれた日々が続いていくのだろう。そして私は、この卓球部という居心地のいい場所で、仲間たちと一緒に過ごす日々が待っている。