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練習しない卓球部への怒り

 試合当日が迫っているというのに、部員たちは相変わらず練習に対して無関心だった。それどころか、ますます奇妙なことをし始めるようになっていた。


「卓球の本質は精神力なんだよ」ある日、サトル先輩が突然言い出した。私はその言葉に驚きながらも、彼の話を聞いていた。


「だから、俺たちは普通の練習じゃなくて、精神を鍛えるために、集中力を高めるようなことをやってるんだ。冗談大会とかさ、相手のジョークに即座に反応できるかどうかで、試合の勝敗が決まるんだよ」


 サトル先輩は真顔で話しているが、彼は正気なんだろうか。いよいよ信頼できる医療機関のリストを渡したほうがいいんじゃないか? 私はその説明にどう反応していいのかわからなかった。


「冗談大会……ですか?」私は半信半疑で聞き返した。


「そう、笑っちゃダメなんだ。相手の冗談に耐えることで、試合中のプレッシャーにも耐えられるようになるってわけさ」サトル先輩は自信満々に言った。


 私は驚きながらも、試しに参加してみることにした。しかし、冗談を言い合う部員たちの姿を見ているうちに、これが本当に卓球の練習になるのかという疑問がますます強くなっていく。


 その後も、奇妙な行動は続いた。ある日、主将のリョウ先輩がいつものように卓球台の横で遊んでいた。ラケットを握る姿も見せず、彼は床にゴロゴロと寝転がっていた。


「リョウ先輩、もう練習しないんですか?」私は聞かずにはいられなかった。


 リョウ先輩は私にちらりと目をやり、「いや、もうラケットの振り方はマスターしたからさ。これ以上練習する必要ないんだよ」と言ってまた寝返りを打った。


「マスターした?」私は思わずあごが外れて落下しそうになったが、周りを見ると他の部員たちも彼の言葉を真に受けている様子だった。


「そう。何回も振ると、体が疲れちゃうだろ? だから、試合までに体力を温存しておくんだ」リョウ先輩はそう言って、またのんびりと横になったまま、ラケットを放り投げた。


 さらに、試合が近づくにつれて、他の部員たちもますます奇妙な行動を取り始めた。ラケットを見つめてじっと動かないとある先輩を見て、私は声をかけた。


「どうしてラケットを握らないんですか?」


 彼は少し気まずそうに笑ってから、「試合前にラケットを触ると、運気が下がるんだよ。だから、できるだけ触らないようにしてるんだ」と真顔で答えた。


 私はまたしても言葉を失った。試合前にラケットを触らないなんて、どうやって卓球をするつもりなんだろう? 私は「中国あたりにいる卓球の神様に謝れ」と言いながら、思わず彼の肩を揺さぶる。それでも、彼はそのままラケットを見つめるだけで、決して握ろうとはしなかった。


 こうして、試合が間近に迫っているのに、誰一人としてまともに練習をする気配がないまま、無駄な時間は過ぎていった。私はただその様子を見守るしかなく、内心ますます不安を募らせていた。


「ふざけないでください。これで本当に試合に出られるんですか?」


 ついに我慢できず、口から言葉がこぼれた。部室の空気が一瞬静まり返り、みんなの視線が私に向けられる。焦りと苛立ちが混じったその言葉は、思っていたよりも強い口調だった。


 サトル先輩が少し笑いながら、「まあまあ、大丈夫だって。試合なんて何とかなるもんさ」と言い、他の部員たちも同調するように「そうそう」と笑い合う。


 私はその態度にさらに苛立ちを感じた。試合に向けて、みんながもっと真剣に取り組むべきだと思っていたのに、誰もがまるで遊びの延長のように捉えている。


「それじゃ、何とかならなかったときはどうするんですか?」


 私は自分でも制御できない不満をぶつけた。部室の中は再び静まり返り、しばらくの沈黙が続いた。しかし、サトル先輩は肩をすくめ、「何とかするのが俺たちさ」と軽く返す。


 私は返す言葉を失い、その場に立ち尽くしたまま、次第に自分の居場所がわからなくなってきた。ここで真剣にやるべきなのか、それとも他の部活に移ってもっと充実した活動をすべきなのか。胸の奥に芽生えた疑問がどんどん膨らんでいく。


「すみません、ちょっと外に出ます」とだけ言って、私は部室を後にした。


 外に出ると、冷たい風が私の体に当たり、少しずつ頭が冷えていく。どこかに進むわけでもなく、私はただ風に吹かれながら、黙々と歩き続けた。試合に向けての不安と、この部活での自分の居場所についての迷いが胸の中をぐるぐる回っていた。


(私は、本当にここにいていいのかな……)


 冷たい風が顔に当たるたび、頭がさらにクリアになっていく。私が卓球部に入った理由は、リラックスして楽しめる場所を求めていたからだった。でも今、私は楽しむどころか、焦りと苛立ちばかり感じている。そんな状態で、これからの試合に向き合えるのだろうか?


 自分の気持ちを整理しようとしたが、答えは出なかった。ただ、何かが間違っているという感覚だけが残った。


 そんな時、ふとサトル先輩の声が聞こえてきた。「よし、運気を高める儀式を始めるぞ!」


 私はその言葉に振り返った。「運気を高める儀式?」どういうことかと不思議に思いながらも、体が自然と体育館に戻っていった。


 体育館に戻ると、サトル先輩たちが青いバケツを手に歩いていく姿が見えた。近づいて中身を見る。それは墨汁だった。

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