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セイヴィアー・ヒストーリア

作者: キキカサラ

 その日、空にいくつかの光の帯が走った。

 それが宇宙からの飛来物だと気づいた時には遅かった。迎撃も対策もすることはできず、それらは世界各地に落ちた。

 飛来物は着地せず、そのまま大地に追突した。文字通り落下である。その衝撃は地面にクレーターを作り、周囲の街を吹き飛ばした。落下物は十メートルほどで、直径百メートルほどのクレーターを刻んだ。

 しかし、事はそれだけでは終わらなかった。

クレーター中央にある落下物から、二~三メートルの様々な形容をした個体が現れ、近くの街を襲った。

 その様子は、侵攻と呼ぶには雑な動きだった。彼らは自らの進行方向にあるものを、片っ端から捕食した。

 捕食と表現したのは、体の中央部に穴が開き、掴んだものを放り込むからだ。穴が口なのか、彼らの攻撃方法なのかは分からないが、その一連の動作が、生物の捕食の姿に似ていることから、そう呼ばれた。

 彼らが口にするものは生物、無生物問わず、有機物、無機物も問わなかった。進行先の建物……鉄骨やコンクリートなども捕食したため、地球上の生物の常識では考えられない生態をしていた。

 そして、野生生物と同じように、言葉は通じなかった。つまり、知的生命体とは呼べない。目につくものを片っ端から侵すさまは、侵攻というよりも、害虫被害に近いものだった。

被害は甚大で、数々の街が陥落。多くの死者を出した。

 協議を重ねた結果、人類はこの脅威を無視できないとし、駆除することを決定した。そして、駆除対象である脅威体を『招かれざる客(ゼノ)』と名付けた。加えて、ゼノが出現する飛来物の名前を『宿巣(ドームス)』とした。

 ゼノは、捕食行動の他に、明確に攻撃と分かる行動もし、身体の腕のような部分は刃のようで、様々なものを断ち切った。そして、プラズマ弾のような飛び道具も放ってきた。戦闘能力においても、他の生物よりズバ抜けて高かった。地球外生命体という言葉がピッタリと当てはまる通り、未知の強さだった。


 世界各国が、自国に出現したゼノに対抗した。

幸いだったのは、ゼノに地球の兵器が通用したことだ。しかし、その外皮は硬性と軟性を兼ね揃えており、非常に強固なものだった。そのため、地球上のものを破壊するよりも困難だった。

 そしてもう一つ厄介なのは、上位種の存在だった。それらは、ゼノ特有の防御シールドを有しており、攻撃を「受ける(ガード)」とも「弾く(バウンス)」とも違う、「逸らす(ディフレクト)」という形で防いだ。これは、爆弾などの衝撃に対しても有効で、逸らされたエネルギーは、そのまま他に飛んで行く。つまり、自分が放った攻撃が味方に飛んでいく可能性があるのだ。この強力なシールドを要する個体を、より危険な力を持つ種を意味とする、「力ある異種(ヴィ・ゼノ)」と命名。そして、その特殊なシールドの名前は「ディフレクト・ガード」と呼ばれた。

 この奇怪な防御能力により、人類は消耗戦を強いられた。これにより、戦況は劣勢になっていった。




 そんな絶望の中、一つの光が射す。

 動かなくなったゼノの捕獲に成功したのだ。


 その個体は日本で発見された。単独でおり、微動だにせず、異常に気付いたゼノ迎撃隊の隊長が攻撃を制止し、捕獲に至ることができた。

 休眠状態の可能性もあり、捕獲は慎重に行われた。緊張の最中、運搬されたゼノは、無事、厳重な研究施設に収容された。

 捕獲したゼノは、まるでサナギのように硬質化していた。強く掴むと、ボロりと固まった砂のように崩れた。その様子から、既に活動が停止していることが伺えた。

 さすがにこの状態からの復活はないだろうということで、生態を調べるべく解剖が実施された。全身が脆くなっているため、作業は慎重に行われた。

 今まで、ゼノに関しては何一つ分かっていなかった。なぜ喰らうのか。その行動は捕食なのか。捕食だとしたら何をエネルギーとしているのか。寿命はあるのか。繁殖をするのか。

 外皮の成分は何か。口の部分の形状はどうなっており運ばれたものはどこへ行くのか。ブレードの素材は何なのか。プラズマ弾はどこから出ているのか。

 ゼノの生態については、知りたいことが山ほどあった。そして、一つでも分かれば、対策を講じることができるため、戦況は変わると考えられていた。



 解剖結果が出た。

 繊細な作業をしたものの、殆どの組織が崩れてしまったが、いくつか収穫はあった。


 先ずは、捕食に関して。

 ゼノが口に運ぶ行動は確かに捕食だった。個体は、自らがエネルギーと変換できるものを捕食し、活動エネルギーとしていたのだ。

 詳細な対象は、まだ研究が必要だが、何をエネルギーにしているかは、仮説が立った。それは、生体エネルギーだ。

 地球上の生物は、他の生命を捕食することで、活動エネルギーを獲る。

 エネルギーにする過程は、獲物を捕食し咀嚼をすることで食べた物を細かくし、胃に運ぶ。そこで消化をして分解した後、小腸で吸収をするというものだ。

 一方ゼノは、獲物を口から体内に取り込み、体内にてエネルギーを吸収するという、シンプルで効率的な造りだった。

 捕食の際に、口を通る大きさなら、獲物はどんな形でもいいようだ。体内に取り込めればいいのだ。即座にエネルギーに変換できるため、地球上の生物より圧倒的に進化している。

 また、体内の構造を見ると、まるで機械のように、エネルギーを溜めておけるタンクのような器官があり、ここに吸収して直ぐに使わない生体エネルギーを溜めておけるようだった。

 しかし、エネルギーの詳細は分からなかった。だから、生体エネルギーと、漠然と呼ぶしかなかった。何より奇妙なのは、ゼノは生物のみならず、生きてすらいない鉄やコンクリートまで捕食している。つまり、それらのものにも、ゼノが吸収できる生体エネルギーがあるということになる。結果、ゼノのエネルギー吸収の対象は、地球上の生物よりも多いことがわかった。


 このエネルギー関係で、もう一つ分かったことがあった。

 ゼノはタンクに溜めたエネルギーを攻撃に使えることがわかった。

 つまり、あのプラズマ弾はタンクから供給されたエネルギーということになる。

 加えて、同種でも攻撃が重い種がいるという報告から、エネルギーによる攻撃力の上乗せができることが発覚した。



 次に生態に関して。

 

 ゼノに生殖器の類は見つからなかった。つまり、自己増殖できないことになる。個々から増えることがないという事実は、我々にとって光明だった。そして、繁殖機能がない時点で生物という括りから外れる。

 この事実は大きく、我々が地球外生物だと思っていたものが、生物でないのだから、地球外から来た兵器という見方ができるわけだ。でも確かに、エネルギータンクがある構造は兵器と言っても違和感はない。

 しかし、個々で繁殖できないとなると、大量のゼノはどこから発生しているのか。もしくは作られているのか。

 一つ考えられるのは、ドームスの存在である。

 もし、ドームスがゼノの工場的なものだとするならば、合点がいく。同時に、この推論が正しければ、ドームスを全て壊せば、ゼノが増えることがなくなるため、全滅させることができる。


「ドームスを核で攻撃すれば…」

「馬鹿言わないで!」

 研究者の呟きに、研究チームのリーダーである、アリナ・テナーが叫んだ。

「ヴィ・ゼノはディフレクト・ガードを持っているのよ。もし、その機能が核の衝撃まで逸らせることができるとしたら、大惨事よ!」

 立ち上がって、机を叩いて叫ぶ。

「それに私は、そんな兵器を使うのには、反対だわ。たとえ勝利したとしても、代償が大きい」

 ため息を吐くと、全体重をかけて、椅子に座り直す。きしむ音がして、キャスターが転がる。

「ドームス破壊の現実化は難しいわ。何より、ドームスがゼノを生成しているという話は、仮説であって事実ではないわ。そんな仮説に、大層な作戦もお金も戦力もかけられない」

 研究員一同はうなだれた。一瞬にして、研究室は暗い雰囲気になる。

「でもね、悲観することばかりじゃないわ。ゼノの解剖結果から、ゼノに対抗しうる強力な武器を開発できるかもしれないの」

 アリナの言葉に、今度は全員が顔を上げ、明るい表情になった。

「ユウセイ君、説明して」

「はい」

 今回の新武器の開発に関わっている、ユウセイ・ミカゲヤマが立ち上がる。

「ゼノの生体エネルギーを吸収する器官の解析を進め、この器官を実際に兵器にできるという推論が立ちました」

 研究員たちの間から、ざわめきが起きる。そこには、歓声や疑問の声など、様々な思想が渦巻いていた。

「ゼノの吸収している生体エネルギーとは、活動エネルギーと考えられます。人間で言うとカロリーなどになります。鉄骨やコンクリートなどを捕食しているところを見るに、生命以外のエネルギーも入っているのではないかと思っています。力学の運動エネルギーや位置エネルギーなどですね」

「では、無生物からもエネルギーを吸収できる装置が作れるということか?」

 声を上げたのは、研究者の中でも上位の位置にいる、ガイスト教授だ。何か発案があると、いちゃもんといっても過言ではない、ねちっこい質問をすることで有名で、研究者の間でも嫌われていた。

「いいえ、それは無理でした」

「どういうことだ?」

 ガイストの表情が険しくなる。

「回収したゼノは、既に活動を停止しており、組織の崩壊が激しい状態でした。そのため、吸収器官も完全な状態ではなく、一部のメカニズムしか解明できませんでした」

「そんなことで、新しい武器に転用できるのかね?」

 もっともな疑問だ。何人かの研究員が同意の意思を示す。

 ユウセイは一つ深呼吸をし、話を再開する。

「無生物からエネルギーを吸収する器官は損傷され、解明はできませんでした。しかし、生物からエネルギーを吸収する器官は残っていたのです」

「おい、それって…」

 生き物をエネルギーとして流用するということ。

 研究員たちにどよめきが起こる。

「非人道的じゃないか!」

 ガイストが勢いよく立ち上がると、ユウセイを指差した。

「まだ、そうと決まっていません」

「決まっているだろう。人の命を使うと言っているのだろ?」

「言ってないわよ」

 今度は空かさずアリナが指摘をする。

「彼は、一度も命を使うとは言っていないわ。あくまで、生物からエネルギーを取ることができると言っただけよ」

 ガイストの顔がみるみる赤くなる。

「お気に入りの、ユウセイ君が責められているから、非人道的であっても擁護するというのかね?」

 嫌味を込めて、執拗に食い下がった。ガイストの言葉は、完全に言いがかりだ。

「ガイスト教授、興奮してますね」

 ユウセイが横槍を入れた。この言葉は、完全に煽っている。

「当たり前だ! お前たちバカにしおって」

「その怒り、吸われたら死にますか?」

「死ぬわけないだろう!!」

「その通りです」

「はぁ!?」

 ガイストが怒りで震える。一方のユウセイは、冷静だ。

「それが生体エネルギーです。そのエネルギーを武器に使います。それって、死にますか?」

「いや、それは…」

 さすが教授という立場なだけはある。ユウセイの言わんとしていること理解したガイストは、直ぐに冷静になった。そして、先程までの荒ぶった態度から一変し、静かに座った。

「話を続けてくれ」

 教授の姿勢に、アリナは満足すると、先を続けるように促した。


 ゼノは喰らった生体エネルギーを使い、活動。加えて、そのエネルギーを攻撃にも使っている。このことから、生体エネルギーを使い、武器の威力の強化ができると考えた。更に、ゼノの使うプラズマ弾のように、エネルギーを飛ばして使うことも出来るかもしれない。

 このエネルギーを具現化させて使えるというのは、現代科学では不可能だった。そう考えると、エネルギーの具現化の成功は、今後の科学に大きな功績を残す。



  ◇  ◆  ◇



 生体エネルギーの吸収、運用の研究開始から三年が経過した。戦況は劣勢ではあったが、何とか耐えた。

 数々の試作品を作り、試行錯誤の結果、最も活用できる形として、行き着いた先はロボットだった。

 そして今日、とうとう試作一号機が完成した。

 全長六メートル、三トンもの大きさを誇る、巨大ロボットだ。機体の色は真っ白で、神々しいイメージカラーだった。

 複座式になっており、メインパイロットの他に、生体エネルギーを吸収される役目を持つ操縦士がいる。

 メインパイロットは、機体を動かす動力役ということで「動力士(ポテンチア)」と命名し、生体エネルギーを供給する者は、機体の活力になることから、「活力士(ヴィターレ)」と名付けられた。それぞれの乗る部分はユニットが別れており、ポテンチアの乗る操縦席はコックピットと呼ばれるが、ヴィターレの乗るユニットは、構造が特殊なため、整備士の整備時の混乱をなくすため、別の名前が付けられた。その名を「(アルカ)」と言った。

 基本的に、どちらのユニットでも操縦ができるが、エネルギーを吸い取られるということで、基本はポテンチアが操縦をする形となっている。

 二人の乗る位置は違い、コックピットには前部から、アルカには上部から乗る形となる。


 操縦士の二人には、ポテンチアをユウセイ、ヴィターレをアリナが担った。これは、開発に時間がなく、研究開発者本人のデータをベースにして作ることが一番早かったためである。

「夫婦の力で、ゼノを倒してくれよ!」

 整備士長が発破をかけてくる。

 その言葉に、ユウセイは笑顔で答える。もう、覚悟は決まっていた。



  ◇  ◆  ◇



 ユウセイとアリナは、このプロジェクトが始まって、ぐっと距離が近くなった。元々、昔からアリナはユウセイに気があり、チャンスと思った彼女は、直ぐにユウセイを口説いた。

 そして、プロポーズもアリナの方からした。


「今の状況じゃ、いつ殺されるか分からない。だから、子供が欲しい」


 ムードも何もない求婚の言葉だったが、素直な本心でもあった。今の地球は、ゼノの侵攻でいつ死んでもおかしくない。そんな世に、子供を産み落とすなんて、非情だと思う人もいる。しかし、子供がいるからこそ、生き抜きたいという気持ちも強くなるものである。


 ――何より………自分に何かあっても、寂しくならない。


 アリナの望み通り、一年後、二人の間には、ノゾムという宝が生まれた。


 パイロットの立ち位置は、最後まで揉めた。

 生命エネルギーを吸収されるということで、ユウセイは自分をヴィターレにしろと抗議した。しかし、一度決めたことは曲げない、いい意味で実直、悪い意味で頑固なアリナは、勝手に自分用に作り上げてしまった。

 それを知ったのは、テスト段階になってからだった。その日、初めてユウセイは声を荒げて怒った。

 しかしそれでも、アリナは頑なに首を横に振り、役割を換わることはなかった。

 テスト段階では、ユニットだけで機体は完成していないから、まだ作り直すことができた。とはいっても、完成までの時間が一年近く伸びる。

「人類をこれ以上、脅威に晒していられないでしょ」

 殺し文句だった。

 これ以上の変更の要望は、もうユウセイのワガママになってしまう。しかも、人類を巻き込んでのものだ。

「何で、危険な役をするんだよ」

「ううん、一番安全な形なのよ」

「だって、生体エネルギーを吸われるんだよ? 僕も一度やったけど、体から力が抜けていく感じで、不快で辛かった」

「そうね、それが理由の一つ」

「え?」

 何を言っているか分からなかった。目を白黒させているユウセイに、アリナは微笑んで口を開いた。

「私はそんなにキツくなかったのよ。きっと、私には適正があるんでしょうね」

 エネルギーを吸われる適正とは何だろう。それは、アリナの嘘だと思ったが、それを証明する術もないので、ユウセイは黙り込んだ。

「もう一つの理由は、私、ロボットの操縦が下手なのよね。私がポテンチアになったら、直ぐにやられちゃう」

 ほがらかに笑った。

 母になったからか、アリナは以前よりも、よく笑うようになった。しかも、その笑顔はいつも穏やかだ。

「だから、ユウセイが守ってよ。ユウセイが操縦してくれれば、直ぐに相手を倒してくれれば、私にも危険は及ばないでしょ?」

 最もな意見だった。確かに、アリナにポテンチアをやらせるということは、自分の命も預けるということだ。それは、プレッシャーというものだろう。

 なら、ユウセイがアリナの命を預かり、しっかりと守る方が、正しい選択に思えた。

「分かった。僕が君を守るよ」

 それからユウセイは気持ちを入れ替え、操縦の訓練を必死にやった。



  ◇  ◆  ◇



「起動します」

 試作機の目が光り、機動音が鳴る。

「ハンガー外します!」

 整備士のアナウンスで、ハンガーが外された。

 ……無事、自立する。取り敢えず、初動は成功だ。

「体は大丈夫?」

 モニター越しに、ユウセイはアリナに話しかけた。

「あははは、大丈夫よ。まだ私はエネルギーを吸われていないもの」

 口に手を当てて、面白そうに笑った。

 完成したロボットは、基本は電力で動く。攻撃や機動力にパワーを上乗せする際に、ヴィターレから生体エネルギーを吸うという形だ。

「なぁ、博士方」

 整備士長がモニターに割って入ってきた。

「このロボットよ、設計図にも試作機としか書いてねぇんだが、名前とか付けないのか? 何かこう、試作機発進とかって、格好悪くないか?」

 頭を搔きながら、バツが悪そうに言う。なるほど、整備士長は格好良く機体名を呼びたいのだ。ただ、それを大っぴらに言うのが恥ずかしい。

「そうねぇ……セイヴィアーなんて、どうかしら」

「どういう意味?」

「救世主って意味よ。これからゼノを倒して人類を救うんだもの」

 ウィンクして言う。その動作に、ユウセイは赤くなった。本当にアリナは可愛くなった気がする。この笑顔、守らなくては。

「いいね! イカしてる!!」

 整備士長はご満悦だ。

「じゃあ、発進の第一声、格好良く頼むぜ」

 モニターいっぱいにサムズアップを作った。

「セイヴィアー出ます!」

 ブースターを吹かして、滑走路を疾走する。そして、その先端で大きく跳ねた。

「ブースター、脚部、問題なし」

「レーダーは私が見るわ」

 周りをサーチする。ゼノらしき影はない。

「目的地は浜松だったっけ? そっちに舵を切って。私はレーダーの範囲を広げながら確認するわ」

 徐々にサーチ範囲を広げてゆくと、レーダーの端に、何か捉えた。それは赤色を示している。

「ゼノだわ」

 このレーダーは、ゼノのエネルギー吸収器官の構造からセイヴィアーを作った際に、ゼノの生態データも作成し、そのデータと一致するものを赤く表示するようにした。

「ごめん、アリナ。ゼノの姿が見えたら、君のエネルギーを借りるよ」

「うん、大丈夫。セイヴィアーに乗った時から、覚悟は決まっているわ」

「見えた!」

「……くっ」

 生体エネルギーを吸い取ると、アリナの顔が歪む。

「大丈夫?」

「大丈夫。片頭痛みたいなものよ……でも、後の操作はお願いできるかしら」

「任せとけって!」



  ◇  ◆  ◇



「おー!」

 指令室に歓喜の声が上がる。

 ゼノに対峙したセイヴィアーは、その機体の色を白から黄に変化させた。その様は、戦闘に挑んでいる意志を示しているようで、勇ましかった。

 ユウセイの戦い方は見事だった。相手の攻撃を見事に避け、一撃のもと撃破する。セイヴァーに積まれているのは、エネルギーソードに、エネルギーガンだけだった。試作機のため、武器は近距離用と遠距離用の二つしかなかった。どちらも吸収したエネルギーを使うもので、使用する毎に、アリナの生体エネルギーを使う。

 それが分かっているから、ユウセイは少ない手数でゼノを屠っていっているのだ。

 ゼノは二、三メートル。対してセイヴィアーは六メートル。大きい方が有利かもしれないが、体格差で優位に立てるのは生物同士の話で、機械と無生物だとその法則が当てはまるかは分からない。むしろ、二倍のサイズになることで、ゼノの格好の的になっている可能性だってある。

 しかし、その杞憂を吹き飛ばすように、ユウセイは無傷でゼノを全部撃破し、帰還した。



「大丈夫? アリナ」

 アルカから出てこないアリナを心配して、外部から開けた。

「うん。これくらいは、どうってことないわ…」

 額に一杯汗をかきながら言われても、説得力がない。疲労感で動けなかったのだろう。

 今回は、一撃必殺でやれたから、アリナのエネルギー消費は最小限だったはずだ。それでも、これほどの疲労である。撃破に弾数を多く使ったり、時間をかけたら、彼女はどうなってしまうだろう。

何より、これから出撃を続けて行って、彼女の身は大丈夫だろうか?

 ユウセイは、言い知れぬ不安を覚えた。



  ◇  ◆  ◇



「この子の名前は、リュウキンカって名前にするわ」

「どうしたの急に」

 あれから一年が経ち、セイヴィアーの量産が開始された。世界各国に設計図が渡され、順調に造られているということだ。当然この日本でも、ユウセイたちの乗る試作一号機以外にも稼働を始めている。

「だって、ロボットの名前、全部セイヴィアーじゃない? この子自身の名前がないなぁ~と思って」

 機体を見上げながら、アリナは腰かける。

「ママー」

「はいはい、よいしょっと」

 抱っこをねだるノゾムを持ち上げる。

「ちょっと重くなったかしら? 子供の成長は早いわね」

 ノゾムももう三歳になった。

 優しく頭を撫でながらつぶやく。その顔は穏やかで、母親そのものだった。ノゾムは甘えたいらしく、アリナの顔に、自らの顔をすり寄せる。

「それで、何でリュウキンカなの?」

 ユウセイもノゾムの頭を撫でる。母に抱かれ、父に撫でられ、息子はご満悦だ。

「リュウキンカは黄色い花で、花言葉は、必ずくる幸せ。私たちの未来にピッタリでしょ?」

「そうだね」

 穏やかな時間。未来には、これが日常的になるのだろうか。ノゾムが子供のうちに、その未来を実現させたい。


 ビービービー!!!!


「ふえぇ…」

 警告音に、ノゾムがビックリして、ぐずり出す。

「大丈夫、怖くないよ」

 アリナが優しく胸に抱き寄せ、頭を撫でる。

「警告音なんて、初めてじゃない?」

「そうね……何があったのかしら」

 嫌な予感がした。

「アリナさん、ノゾム君、お預かりしますよ」

 チームの女性が、駆けて来てくれた。女性はノゾムを抱きかかえるためにアリナに体を寄せる。

「新種が現れたそうです」

 そして、耳打ちをした。その言葉は、ユウセイの耳にも届いた。

「新種……」

 今まで新種は何度か出てきたが、こんな警告音なんて鳴らなかった。それだけ、今回は危険な相手なのかもしれない。



  ◇  ◆  ◇



 出撃したユウセイたちは言葉を失った。

 新種のゼノは大型種だった。司令部のはドローンを飛ばし、事前に情報を取得していたが、全長は七十メートル程もあった。

「デカい…」

 新装備の飛行ユニット『あまねく翼(アーラ)』で飛び、上空から確認し、その大きさに恐怖を覚える。

 六本足に竜のような頭部。そして……。

「危ない!」

 体長と同じ長さまで伸びる触手。

 それを間一髪で避けると、崩したバランスを立て直す。

「追加バッテリーを積んだから、後四十分は飛べるけど。上空で避けているだけともいかないね。とはいえ、接近戦で倒せるかどうか…」

 体が大きいため、一撃でどれくらいの傷を与えられるか分からない。仮に無傷だとしたら、その分危険になる。

神の鉄槌(トリノール)を使いましょう」

「え?」

 トリートルとは、高出力ロングレンジエネルギー砲だ。従来のプラズマ法の十倍以上の威力と出力がある。

「でもあれは…」

 以前、試行した際には、途中でアリナは意識を失い、三日起きなかった。あの時は本当に死んでしまうかと思い、ユウセイは絶望のどん底に落とされたものだ。

「大丈夫、私を信じて。でも、苦しむ姿を見られたくないから、モニターは切ってちょうだい」

「でも…」

「無理はしないわ。危なかったら、エネルギー吸収装置を切るから大丈夫」

「わ…分かったよ」

 アリナの言葉を信じ、モニターを切る。そして、意を決し、上空でトリートルを構える。

「エネルギー供給!」

 砲身を構え標準を合わせる。

「発射!!」

 太いビーム光が、新種に向かって走る。

 そして、接触する直前に右に逸れた。

「ディフレクト・ガードか!」

 ヴィタイプ以上が有している特殊防御。

「でも…!」

 逸れたビームが軌道を戻し、再び新種に向かう。

「生体エネルギーは、自在に形を変えられる!」

 今度はガードが発動せず、新種はビームの直撃を受けた。

「ギャウァアアァン」

 けたたましい叫び声と共に、暴れる。効果ありだ。

 しかし、なかなかビームが貫通しない。

「でも、これ以上出力を上げると、アリナが…」

「私は大丈夫…」

 モニターに姿は映されず、声だけがスピーカーから聞こえてきた。その声は苦しそうだ。

「お願い、倒して。ノゾムのためにも」

「……分かった」

 ユウセイはパネルを操作し、出力を上げる。

「いけーーーー!!!!」

 出力の上がったビームは、見事に新種を貫いた。

 新種は断末魔の声を上げると、そのまま倒れ崩れた。ユウセイたちの勝利だ。

「アリナ、倒したよ…」

 返事はない。

「アリナ……」

 ユウセイは、静かに涙を流した。

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