セイヴィアー・ヒストーリア
その日、空にいくつかの光の帯が走った。
それが宇宙からの飛来物だと気づいた時には遅かった。迎撃も対策もすることはできず、それらは世界各地に落ちた。
飛来物は着地せず、そのまま大地に追突した。文字通り落下である。その衝撃は地面にクレーターを作り、周囲の街を吹き飛ばした。落下物は十メートルほどで、直径百メートルほどのクレーターを刻んだ。
しかし、事はそれだけでは終わらなかった。
クレーター中央にある落下物から、二~三メートルの様々な形容をした個体が現れ、近くの街を襲った。
その様子は、侵攻と呼ぶには雑な動きだった。彼らは自らの進行方向にあるものを、片っ端から捕食した。
捕食と表現したのは、体の中央部に穴が開き、掴んだものを放り込むからだ。穴が口なのか、彼らの攻撃方法なのかは分からないが、その一連の動作が、生物の捕食の姿に似ていることから、そう呼ばれた。
彼らが口にするものは生物、無生物問わず、有機物、無機物も問わなかった。進行先の建物……鉄骨やコンクリートなども捕食したため、地球上の生物の常識では考えられない生態をしていた。
そして、野生生物と同じように、言葉は通じなかった。つまり、知的生命体とは呼べない。目につくものを片っ端から侵すさまは、侵攻というよりも、害虫被害に近いものだった。
被害は甚大で、数々の街が陥落。多くの死者を出した。
協議を重ねた結果、人類はこの脅威を無視できないとし、駆除することを決定した。そして、駆除対象である脅威体を『招かれざる客』と名付けた。加えて、ゼノが出現する飛来物の名前を『宿巣』とした。
ゼノは、捕食行動の他に、明確に攻撃と分かる行動もし、身体の腕のような部分は刃のようで、様々なものを断ち切った。そして、プラズマ弾のような飛び道具も放ってきた。戦闘能力においても、他の生物よりズバ抜けて高かった。地球外生命体という言葉がピッタリと当てはまる通り、未知の強さだった。
世界各国が、自国に出現したゼノに対抗した。
幸いだったのは、ゼノに地球の兵器が通用したことだ。しかし、その外皮は硬性と軟性を兼ね揃えており、非常に強固なものだった。そのため、地球上のものを破壊するよりも困難だった。
そしてもう一つ厄介なのは、上位種の存在だった。それらは、ゼノ特有の防御シールドを有しており、攻撃を「受ける」とも「弾く」とも違う、「逸らす」という形で防いだ。これは、爆弾などの衝撃に対しても有効で、逸らされたエネルギーは、そのまま他に飛んで行く。つまり、自分が放った攻撃が味方に飛んでいく可能性があるのだ。この強力なシールドを要する個体を、より危険な力を持つ種を意味とする、「力ある異種」と命名。そして、その特殊なシールドの名前は「ディフレクト・ガード」と呼ばれた。
この奇怪な防御能力により、人類は消耗戦を強いられた。これにより、戦況は劣勢になっていった。
そんな絶望の中、一つの光が射す。
動かなくなったゼノの捕獲に成功したのだ。
その個体は日本で発見された。単独でおり、微動だにせず、異常に気付いたゼノ迎撃隊の隊長が攻撃を制止し、捕獲に至ることができた。
休眠状態の可能性もあり、捕獲は慎重に行われた。緊張の最中、運搬されたゼノは、無事、厳重な研究施設に収容された。
捕獲したゼノは、まるでサナギのように硬質化していた。強く掴むと、ボロりと固まった砂のように崩れた。その様子から、既に活動が停止していることが伺えた。
さすがにこの状態からの復活はないだろうということで、生態を調べるべく解剖が実施された。全身が脆くなっているため、作業は慎重に行われた。
今まで、ゼノに関しては何一つ分かっていなかった。なぜ喰らうのか。その行動は捕食なのか。捕食だとしたら何をエネルギーとしているのか。寿命はあるのか。繁殖をするのか。
外皮の成分は何か。口の部分の形状はどうなっており運ばれたものはどこへ行くのか。ブレードの素材は何なのか。プラズマ弾はどこから出ているのか。
ゼノの生態については、知りたいことが山ほどあった。そして、一つでも分かれば、対策を講じることができるため、戦況は変わると考えられていた。
解剖結果が出た。
繊細な作業をしたものの、殆どの組織が崩れてしまったが、いくつか収穫はあった。
先ずは、捕食に関して。
ゼノが口に運ぶ行動は確かに捕食だった。個体は、自らがエネルギーと変換できるものを捕食し、活動エネルギーとしていたのだ。
詳細な対象は、まだ研究が必要だが、何をエネルギーにしているかは、仮説が立った。それは、生体エネルギーだ。
地球上の生物は、他の生命を捕食することで、活動エネルギーを獲る。
エネルギーにする過程は、獲物を捕食し咀嚼をすることで食べた物を細かくし、胃に運ぶ。そこで消化をして分解した後、小腸で吸収をするというものだ。
一方ゼノは、獲物を口から体内に取り込み、体内にてエネルギーを吸収するという、シンプルで効率的な造りだった。
捕食の際に、口を通る大きさなら、獲物はどんな形でもいいようだ。体内に取り込めればいいのだ。即座にエネルギーに変換できるため、地球上の生物より圧倒的に進化している。
また、体内の構造を見ると、まるで機械のように、エネルギーを溜めておけるタンクのような器官があり、ここに吸収して直ぐに使わない生体エネルギーを溜めておけるようだった。
しかし、エネルギーの詳細は分からなかった。だから、生体エネルギーと、漠然と呼ぶしかなかった。何より奇妙なのは、ゼノは生物のみならず、生きてすらいない鉄やコンクリートまで捕食している。つまり、それらのものにも、ゼノが吸収できる生体エネルギーがあるということになる。結果、ゼノのエネルギー吸収の対象は、地球上の生物よりも多いことがわかった。
このエネルギー関係で、もう一つ分かったことがあった。
ゼノはタンクに溜めたエネルギーを攻撃に使えることがわかった。
つまり、あのプラズマ弾はタンクから供給されたエネルギーということになる。
加えて、同種でも攻撃が重い種がいるという報告から、エネルギーによる攻撃力の上乗せができることが発覚した。
次に生態に関して。
ゼノに生殖器の類は見つからなかった。つまり、自己増殖できないことになる。個々から増えることがないという事実は、我々にとって光明だった。そして、繁殖機能がない時点で生物という括りから外れる。
この事実は大きく、我々が地球外生物だと思っていたものが、生物でないのだから、地球外から来た兵器という見方ができるわけだ。でも確かに、エネルギータンクがある構造は兵器と言っても違和感はない。
しかし、個々で繁殖できないとなると、大量のゼノはどこから発生しているのか。もしくは作られているのか。
一つ考えられるのは、ドームスの存在である。
もし、ドームスがゼノの工場的なものだとするならば、合点がいく。同時に、この推論が正しければ、ドームスを全て壊せば、ゼノが増えることがなくなるため、全滅させることができる。
「ドームスを核で攻撃すれば…」
「馬鹿言わないで!」
研究者の呟きに、研究チームのリーダーである、アリナ・テナーが叫んだ。
「ヴィ・ゼノはディフレクト・ガードを持っているのよ。もし、その機能が核の衝撃まで逸らせることができるとしたら、大惨事よ!」
立ち上がって、机を叩いて叫ぶ。
「それに私は、そんな兵器を使うのには、反対だわ。たとえ勝利したとしても、代償が大きい」
ため息を吐くと、全体重をかけて、椅子に座り直す。きしむ音がして、キャスターが転がる。
「ドームス破壊の現実化は難しいわ。何より、ドームスがゼノを生成しているという話は、仮説であって事実ではないわ。そんな仮説に、大層な作戦もお金も戦力もかけられない」
研究員一同はうなだれた。一瞬にして、研究室は暗い雰囲気になる。
「でもね、悲観することばかりじゃないわ。ゼノの解剖結果から、ゼノに対抗しうる強力な武器を開発できるかもしれないの」
アリナの言葉に、今度は全員が顔を上げ、明るい表情になった。
「ユウセイ君、説明して」
「はい」
今回の新武器の開発に関わっている、ユウセイ・ミカゲヤマが立ち上がる。
「ゼノの生体エネルギーを吸収する器官の解析を進め、この器官を実際に兵器にできるという推論が立ちました」
研究員たちの間から、ざわめきが起きる。そこには、歓声や疑問の声など、様々な思想が渦巻いていた。
「ゼノの吸収している生体エネルギーとは、活動エネルギーと考えられます。人間で言うとカロリーなどになります。鉄骨やコンクリートなどを捕食しているところを見るに、生命以外のエネルギーも入っているのではないかと思っています。力学の運動エネルギーや位置エネルギーなどですね」
「では、無生物からもエネルギーを吸収できる装置が作れるということか?」
声を上げたのは、研究者の中でも上位の位置にいる、ガイスト教授だ。何か発案があると、いちゃもんといっても過言ではない、ねちっこい質問をすることで有名で、研究者の間でも嫌われていた。
「いいえ、それは無理でした」
「どういうことだ?」
ガイストの表情が険しくなる。
「回収したゼノは、既に活動を停止しており、組織の崩壊が激しい状態でした。そのため、吸収器官も完全な状態ではなく、一部のメカニズムしか解明できませんでした」
「そんなことで、新しい武器に転用できるのかね?」
もっともな疑問だ。何人かの研究員が同意の意思を示す。
ユウセイは一つ深呼吸をし、話を再開する。
「無生物からエネルギーを吸収する器官は損傷され、解明はできませんでした。しかし、生物からエネルギーを吸収する器官は残っていたのです」
「おい、それって…」
生き物をエネルギーとして流用するということ。
研究員たちにどよめきが起こる。
「非人道的じゃないか!」
ガイストが勢いよく立ち上がると、ユウセイを指差した。
「まだ、そうと決まっていません」
「決まっているだろう。人の命を使うと言っているのだろ?」
「言ってないわよ」
今度は空かさずアリナが指摘をする。
「彼は、一度も命を使うとは言っていないわ。あくまで、生物からエネルギーを取ることができると言っただけよ」
ガイストの顔がみるみる赤くなる。
「お気に入りの、ユウセイ君が責められているから、非人道的であっても擁護するというのかね?」
嫌味を込めて、執拗に食い下がった。ガイストの言葉は、完全に言いがかりだ。
「ガイスト教授、興奮してますね」
ユウセイが横槍を入れた。この言葉は、完全に煽っている。
「当たり前だ! お前たちバカにしおって」
「その怒り、吸われたら死にますか?」
「死ぬわけないだろう!!」
「その通りです」
「はぁ!?」
ガイストが怒りで震える。一方のユウセイは、冷静だ。
「それが生体エネルギーです。そのエネルギーを武器に使います。それって、死にますか?」
「いや、それは…」
さすが教授という立場なだけはある。ユウセイの言わんとしていること理解したガイストは、直ぐに冷静になった。そして、先程までの荒ぶった態度から一変し、静かに座った。
「話を続けてくれ」
教授の姿勢に、アリナは満足すると、先を続けるように促した。
ゼノは喰らった生体エネルギーを使い、活動。加えて、そのエネルギーを攻撃にも使っている。このことから、生体エネルギーを使い、武器の威力の強化ができると考えた。更に、ゼノの使うプラズマ弾のように、エネルギーを飛ばして使うことも出来るかもしれない。
このエネルギーを具現化させて使えるというのは、現代科学では不可能だった。そう考えると、エネルギーの具現化の成功は、今後の科学に大きな功績を残す。
◇ ◆ ◇
生体エネルギーの吸収、運用の研究開始から三年が経過した。戦況は劣勢ではあったが、何とか耐えた。
数々の試作品を作り、試行錯誤の結果、最も活用できる形として、行き着いた先はロボットだった。
そして今日、とうとう試作一号機が完成した。
全長六メートル、三トンもの大きさを誇る、巨大ロボットだ。機体の色は真っ白で、神々しいイメージカラーだった。
複座式になっており、メインパイロットの他に、生体エネルギーを吸収される役目を持つ操縦士がいる。
メインパイロットは、機体を動かす動力役ということで「動力士」と命名し、生体エネルギーを供給する者は、機体の活力になることから、「活力士」と名付けられた。それぞれの乗る部分はユニットが別れており、ポテンチアの乗る操縦席はコックピットと呼ばれるが、ヴィターレの乗るユニットは、構造が特殊なため、整備士の整備時の混乱をなくすため、別の名前が付けられた。その名を「棺」と言った。
基本的に、どちらのユニットでも操縦ができるが、エネルギーを吸い取られるということで、基本はポテンチアが操縦をする形となっている。
二人の乗る位置は違い、コックピットには前部から、アルカには上部から乗る形となる。
操縦士の二人には、ポテンチアをユウセイ、ヴィターレをアリナが担った。これは、開発に時間がなく、研究開発者本人のデータをベースにして作ることが一番早かったためである。
「夫婦の力で、ゼノを倒してくれよ!」
整備士長が発破をかけてくる。
その言葉に、ユウセイは笑顔で答える。もう、覚悟は決まっていた。
◇ ◆ ◇
ユウセイとアリナは、このプロジェクトが始まって、ぐっと距離が近くなった。元々、昔からアリナはユウセイに気があり、チャンスと思った彼女は、直ぐにユウセイを口説いた。
そして、プロポーズもアリナの方からした。
「今の状況じゃ、いつ殺されるか分からない。だから、子供が欲しい」
ムードも何もない求婚の言葉だったが、素直な本心でもあった。今の地球は、ゼノの侵攻でいつ死んでもおかしくない。そんな世に、子供を産み落とすなんて、非情だと思う人もいる。しかし、子供がいるからこそ、生き抜きたいという気持ちも強くなるものである。
――何より………自分に何かあっても、寂しくならない。
アリナの望み通り、一年後、二人の間には、ノゾムという宝が生まれた。
パイロットの立ち位置は、最後まで揉めた。
生命エネルギーを吸収されるということで、ユウセイは自分をヴィターレにしろと抗議した。しかし、一度決めたことは曲げない、いい意味で実直、悪い意味で頑固なアリナは、勝手に自分用に作り上げてしまった。
それを知ったのは、テスト段階になってからだった。その日、初めてユウセイは声を荒げて怒った。
しかしそれでも、アリナは頑なに首を横に振り、役割を換わることはなかった。
テスト段階では、ユニットだけで機体は完成していないから、まだ作り直すことができた。とはいっても、完成までの時間が一年近く伸びる。
「人類をこれ以上、脅威に晒していられないでしょ」
殺し文句だった。
これ以上の変更の要望は、もうユウセイのワガママになってしまう。しかも、人類を巻き込んでのものだ。
「何で、危険な役をするんだよ」
「ううん、一番安全な形なのよ」
「だって、生体エネルギーを吸われるんだよ? 僕も一度やったけど、体から力が抜けていく感じで、不快で辛かった」
「そうね、それが理由の一つ」
「え?」
何を言っているか分からなかった。目を白黒させているユウセイに、アリナは微笑んで口を開いた。
「私はそんなにキツくなかったのよ。きっと、私には適正があるんでしょうね」
エネルギーを吸われる適正とは何だろう。それは、アリナの嘘だと思ったが、それを証明する術もないので、ユウセイは黙り込んだ。
「もう一つの理由は、私、ロボットの操縦が下手なのよね。私がポテンチアになったら、直ぐにやられちゃう」
ほがらかに笑った。
母になったからか、アリナは以前よりも、よく笑うようになった。しかも、その笑顔はいつも穏やかだ。
「だから、ユウセイが守ってよ。ユウセイが操縦してくれれば、直ぐに相手を倒してくれれば、私にも危険は及ばないでしょ?」
最もな意見だった。確かに、アリナにポテンチアをやらせるということは、自分の命も預けるということだ。それは、プレッシャーというものだろう。
なら、ユウセイがアリナの命を預かり、しっかりと守る方が、正しい選択に思えた。
「分かった。僕が君を守るよ」
それからユウセイは気持ちを入れ替え、操縦の訓練を必死にやった。
◇ ◆ ◇
「起動します」
試作機の目が光り、機動音が鳴る。
「ハンガー外します!」
整備士のアナウンスで、ハンガーが外された。
……無事、自立する。取り敢えず、初動は成功だ。
「体は大丈夫?」
モニター越しに、ユウセイはアリナに話しかけた。
「あははは、大丈夫よ。まだ私はエネルギーを吸われていないもの」
口に手を当てて、面白そうに笑った。
完成したロボットは、基本は電力で動く。攻撃や機動力にパワーを上乗せする際に、ヴィターレから生体エネルギーを吸うという形だ。
「なぁ、博士方」
整備士長がモニターに割って入ってきた。
「このロボットよ、設計図にも試作機としか書いてねぇんだが、名前とか付けないのか? 何かこう、試作機発進とかって、格好悪くないか?」
頭を搔きながら、バツが悪そうに言う。なるほど、整備士長は格好良く機体名を呼びたいのだ。ただ、それを大っぴらに言うのが恥ずかしい。
「そうねぇ……セイヴィアーなんて、どうかしら」
「どういう意味?」
「救世主って意味よ。これからゼノを倒して人類を救うんだもの」
ウィンクして言う。その動作に、ユウセイは赤くなった。本当にアリナは可愛くなった気がする。この笑顔、守らなくては。
「いいね! イカしてる!!」
整備士長はご満悦だ。
「じゃあ、発進の第一声、格好良く頼むぜ」
モニターいっぱいにサムズアップを作った。
「セイヴィアー出ます!」
ブースターを吹かして、滑走路を疾走する。そして、その先端で大きく跳ねた。
「ブースター、脚部、問題なし」
「レーダーは私が見るわ」
周りをサーチする。ゼノらしき影はない。
「目的地は浜松だったっけ? そっちに舵を切って。私はレーダーの範囲を広げながら確認するわ」
徐々にサーチ範囲を広げてゆくと、レーダーの端に、何か捉えた。それは赤色を示している。
「ゼノだわ」
このレーダーは、ゼノのエネルギー吸収器官の構造からセイヴィアーを作った際に、ゼノの生態データも作成し、そのデータと一致するものを赤く表示するようにした。
「ごめん、アリナ。ゼノの姿が見えたら、君のエネルギーを借りるよ」
「うん、大丈夫。セイヴィアーに乗った時から、覚悟は決まっているわ」
「見えた!」
「……くっ」
生体エネルギーを吸い取ると、アリナの顔が歪む。
「大丈夫?」
「大丈夫。片頭痛みたいなものよ……でも、後の操作はお願いできるかしら」
「任せとけって!」
◇ ◆ ◇
「おー!」
指令室に歓喜の声が上がる。
ゼノに対峙したセイヴィアーは、その機体の色を白から黄に変化させた。その様は、戦闘に挑んでいる意志を示しているようで、勇ましかった。
ユウセイの戦い方は見事だった。相手の攻撃を見事に避け、一撃のもと撃破する。セイヴァーに積まれているのは、エネルギーソードに、エネルギーガンだけだった。試作機のため、武器は近距離用と遠距離用の二つしかなかった。どちらも吸収したエネルギーを使うもので、使用する毎に、アリナの生体エネルギーを使う。
それが分かっているから、ユウセイは少ない手数でゼノを屠っていっているのだ。
ゼノは二、三メートル。対してセイヴィアーは六メートル。大きい方が有利かもしれないが、体格差で優位に立てるのは生物同士の話で、機械と無生物だとその法則が当てはまるかは分からない。むしろ、二倍のサイズになることで、ゼノの格好の的になっている可能性だってある。
しかし、その杞憂を吹き飛ばすように、ユウセイは無傷でゼノを全部撃破し、帰還した。
「大丈夫? アリナ」
アルカから出てこないアリナを心配して、外部から開けた。
「うん。これくらいは、どうってことないわ…」
額に一杯汗をかきながら言われても、説得力がない。疲労感で動けなかったのだろう。
今回は、一撃必殺でやれたから、アリナのエネルギー消費は最小限だったはずだ。それでも、これほどの疲労である。撃破に弾数を多く使ったり、時間をかけたら、彼女はどうなってしまうだろう。
何より、これから出撃を続けて行って、彼女の身は大丈夫だろうか?
ユウセイは、言い知れぬ不安を覚えた。
◇ ◆ ◇
「この子の名前は、リュウキンカって名前にするわ」
「どうしたの急に」
あれから一年が経ち、セイヴィアーの量産が開始された。世界各国に設計図が渡され、順調に造られているということだ。当然この日本でも、ユウセイたちの乗る試作一号機以外にも稼働を始めている。
「だって、ロボットの名前、全部セイヴィアーじゃない? この子自身の名前がないなぁ~と思って」
機体を見上げながら、アリナは腰かける。
「ママー」
「はいはい、よいしょっと」
抱っこをねだるノゾムを持ち上げる。
「ちょっと重くなったかしら? 子供の成長は早いわね」
ノゾムももう三歳になった。
優しく頭を撫でながらつぶやく。その顔は穏やかで、母親そのものだった。ノゾムは甘えたいらしく、アリナの顔に、自らの顔をすり寄せる。
「それで、何でリュウキンカなの?」
ユウセイもノゾムの頭を撫でる。母に抱かれ、父に撫でられ、息子はご満悦だ。
「リュウキンカは黄色い花で、花言葉は、必ずくる幸せ。私たちの未来にピッタリでしょ?」
「そうだね」
穏やかな時間。未来には、これが日常的になるのだろうか。ノゾムが子供のうちに、その未来を実現させたい。
ビービービー!!!!
「ふえぇ…」
警告音に、ノゾムがビックリして、ぐずり出す。
「大丈夫、怖くないよ」
アリナが優しく胸に抱き寄せ、頭を撫でる。
「警告音なんて、初めてじゃない?」
「そうね……何があったのかしら」
嫌な予感がした。
「アリナさん、ノゾム君、お預かりしますよ」
チームの女性が、駆けて来てくれた。女性はノゾムを抱きかかえるためにアリナに体を寄せる。
「新種が現れたそうです」
そして、耳打ちをした。その言葉は、ユウセイの耳にも届いた。
「新種……」
今まで新種は何度か出てきたが、こんな警告音なんて鳴らなかった。それだけ、今回は危険な相手なのかもしれない。
◇ ◆ ◇
出撃したユウセイたちは言葉を失った。
新種のゼノは大型種だった。司令部のはドローンを飛ばし、事前に情報を取得していたが、全長は七十メートル程もあった。
「デカい…」
新装備の飛行ユニット『あまねく翼』で飛び、上空から確認し、その大きさに恐怖を覚える。
六本足に竜のような頭部。そして……。
「危ない!」
体長と同じ長さまで伸びる触手。
それを間一髪で避けると、崩したバランスを立て直す。
「追加バッテリーを積んだから、後四十分は飛べるけど。上空で避けているだけともいかないね。とはいえ、接近戦で倒せるかどうか…」
体が大きいため、一撃でどれくらいの傷を与えられるか分からない。仮に無傷だとしたら、その分危険になる。
「神の鉄槌を使いましょう」
「え?」
トリートルとは、高出力ロングレンジエネルギー砲だ。従来のプラズマ法の十倍以上の威力と出力がある。
「でもあれは…」
以前、試行した際には、途中でアリナは意識を失い、三日起きなかった。あの時は本当に死んでしまうかと思い、ユウセイは絶望のどん底に落とされたものだ。
「大丈夫、私を信じて。でも、苦しむ姿を見られたくないから、モニターは切ってちょうだい」
「でも…」
「無理はしないわ。危なかったら、エネルギー吸収装置を切るから大丈夫」
「わ…分かったよ」
アリナの言葉を信じ、モニターを切る。そして、意を決し、上空でトリートルを構える。
「エネルギー供給!」
砲身を構え標準を合わせる。
「発射!!」
太いビーム光が、新種に向かって走る。
そして、接触する直前に右に逸れた。
「ディフレクト・ガードか!」
ヴィタイプ以上が有している特殊防御。
「でも…!」
逸れたビームが軌道を戻し、再び新種に向かう。
「生体エネルギーは、自在に形を変えられる!」
今度はガードが発動せず、新種はビームの直撃を受けた。
「ギャウァアアァン」
けたたましい叫び声と共に、暴れる。効果ありだ。
しかし、なかなかビームが貫通しない。
「でも、これ以上出力を上げると、アリナが…」
「私は大丈夫…」
モニターに姿は映されず、声だけがスピーカーから聞こえてきた。その声は苦しそうだ。
「お願い、倒して。ノゾムのためにも」
「……分かった」
ユウセイはパネルを操作し、出力を上げる。
「いけーーーー!!!!」
出力の上がったビームは、見事に新種を貫いた。
新種は断末魔の声を上げると、そのまま倒れ崩れた。ユウセイたちの勝利だ。
「アリナ、倒したよ…」
返事はない。
「アリナ……」
ユウセイは、静かに涙を流した。