52 決着(ドリス視点)
魔女の秘法、ホーリーグラント。ジルヴァディニドに比べたら大したものではない。威力の高いただの攻撃魔法だ。しかし、光魔法であるということで、アンデッドへの効果が絶大だった。
それでも巨人はホーリーグラントに抗った。私はそれに負けないよう、魔力を絞り尽くした。そして力尽きて倒れた。勝敗が分からないまま気絶してしまったようだ。
それでも気絶していたのは一瞬だったようで、すぐにマヤとデルロイとウィルに囲まれているのに気づいた。
「やった! やったよ、ドリス!!」
「凄え凄え、よくやったぞ、ドリス!!」
「ドリス!! ドリス!!」
三人共、大はしゃぎしている。
……なら、私たちは勝ったのか。はしゃぐ気力さえない私は、彼らにもみくちゃにされるだけだった。
「無茶したね、ドリス」
「ゾリー……」
「君の身体の負担を考えると、早く魔力の制約を元に戻したい。早くあのルーツという魔道士に戻ってきてもらわないと」
そうだ! そういえば、ルーツたちはどうなったのだろう! 大体、私たちが勝ったって、彼らが負けてしまえば依然として世界は危機なのでは!?
「心配はいりません。恐らくあの魔道士たちの勝ちです」
不思議な声が響いた。その方向に顔を向けると、そこには女性の姿をしたアンデッドがいた。
「あっ! あなたは!?」
ウィルが叫んだ。ということは、このアンデッドこそウィルに禁呪をかけて時を超えさせたアンデッドなのだろう。
「私を知っているのですか?」
アンデッドが不思議そうに言った。ウィルは簡単に未来で起こったことを説明した。
「なるほど、私がそんなことを……。道理で、ユグドラシルへのアクセスが遮断されていると思いました」
それは、ユグドラシルの禁呪を勝手に使ったから対策をされたということだろうか。
「けど、ルーツたちは無事なんですね」
「ええ。あの三人は凄まじい使い手のようですね。そして、ほら」
アンデッドが指を指すと、そこには闇の瘴気が集まっている場所があった。どうやら巨人アンデッドが爆散したものらしい。
そして、その瘴気が人の表情を形作り、一瞬だけ私たちに笑みを浮かべた気がした。
「あのベルビントという男も、これでようやく解放されたのです。死界は、終わりです。発生源が滅されたので、ここから徐々に浄化されていくでしょう」
「そうか、やったんだな、俺たち……」
「まさか、私たちがこんな役目を担うなんてね……」
アンデッドの言葉にデルロイとマヤが続いた。
「あなたはアンデッドたちが死界消滅を願っていると言っていました。今は、どうですか?」
「ええ。皆、解放されるのを喜んでいます」
ウィルにアンデッドが答えた。アンデッドに殺された者の一部がアンデッドになっていたのが死界だから、この世に残り続けるのは本望ではなかったのだと思う。
「あなたは、どうなるのですか?」
私はアンデッドに尋ねた。考えてみれば、このアンデッドこそが運命を覆した英雄とも言える。他のアンデッドと共に消えてしまうのだろうか。
「私は、恐らく消えません。死界の中でアンデッドとして生まれた奇異な存在なので。けれど、死界に縛られていた。これからは外に行ける。私がなぜ生まれたのか、答えを探そうと思っています」
「そうですか……」
何だか新しい大いなる存在の誕生のような気もする。私たちより寿命も長いだろうから、私たちが死んだ後にもこの世界を見守ってくれそうだ。
「さあ、皆さんはもう帰りなさい。英雄の凱旋を多くの人たちが待っていますよ」
アンデッドがそう言うと、ウィルが彼女の前に歩いていった。そして握手をした。ウィルにとっては恩人だから思うところも強いのだろう。
アンデッドはウィルに微笑むと、崩れた巨城の壁から外に飛び出し、どこかに行ってしまった。
「さて、帰るって言ってもな……」
「サナがいないと無理よね……」
デルロイとマヤが言った。
すると、ウィルが持っていた通信魔導具が反応した。ルーツたちからだった。向こうも終わったらしい。巨城の外にいるというから、私たちは疲弊しきった身体に鞭を打って立ち上がり、巨城を降りた。
二人のルーツとサナは、巨城の入り口前の広場でしゃがみ込んでいた。彼らがここまで消耗するとは、一体どんな相手だったのだろうか。しかし、私たちは彼らに駆け寄り、再び大はしゃぎ状態になった。
異世界からやって来た死界討滅の立役者。皆、思い思いに感謝の言葉をぶつけながらルーツたちをもみくちゃにした。
その喧騒が収まると、私はルーツの前に立った。
「ドリス、よく頑張ったな」
「ルーツのおかげ。さっきも言ったけど、本当にありがとう……」
ルーツと出会ってから、本当に大きく運命が動いたと思う。この世界にやって来た理由は何かあるのだろうが、ここに来てくれて良かった。
「ドリス」
「ん?」
「処置するぞ」
「あ……」
そうだった、私の魔力の制約を元に戻すのと、体内に注入された闇の魔力を取り除くのだった。
ルーツは左手を私の方に向ける。私は観念し、せめて目を瞑った。
大きな戦いはこれで終わったから、もうこの処置を受けることもないだろう。何度もやって慣れてしまいたくはない……。




