50 運命への挑戦(ドリス視点)
悪魔アブタビムは多数のアンデッドの肉体を取り込んだようだ。巨大になったアブタビムの身体からは異様な腕や触手が飛び出し、四方八方に動き回る。
腕は人や動物、魔物だったアンデッドの物らしく、爪が生えていたりそうでなかったりと、全てが異なるものだった。触手は魔物型のアンデッドから生えているものと同じらしい。
元がアンデッドの物だから腕力は相当なもののはずだ。爪の攻撃を喰らってしまえば肉が抉られ、パンチを喰らえば内蔵が破裂し、触手に捕縛されてしまえば締め殺されてしまうだろう。
私は魔力ブーストなしで戦うことを提案された。温存ということだ。最初は少し心配だったが、二人のルーツとサナの援護が尋常ではない。私やウィルに向く致命的な攻撃はほとんど開始時点で阻止される。
デルロイはその強さを活かして前衛で戦えているし、マヤも攻撃を捌けている。何より、ウィルの反応速度はここでも相当に役立った。魔導具からの攻撃は威力の面でルーツたちには劣るが、アブタビムの魔法攻撃を次々と撃ち落としている。
そうなると、私が攻撃に回る機会が増えた。通常状態の魔力では威力が不足だったが、ルーツたちも随時攻撃を加えている。アブタビムはどんどんと削られていった。
「ぐ……、かくなる上は!」
アブタビムは口に魔力を集中させた。何らかの闇魔法だ。最後の一手ということなのだろう。
「うおおおおおお!!」
アブタビムは咆哮し、その魔力を解放した。
「「はぁっ!!」」
しかし、その魔法はコピーのルーツとサナが作った二つの障壁に阻まれる。アブタビムは力んでそれを突破しようとしたが、障壁は少しも揺らぐことはなかった。
その時、ルーツがハンドサインを出した。私は答え、ルーツと共にアブタビムに魔法攻撃をした。
直撃したアブタビムは物凄い雄叫びを上げて倒れた。しかし、最後にニヤリと笑った。
「はっ!?」
私の立っている地面の少し前から何かが飛び出してきた。繰り返す世界の中で、マヤやウィルが喰らった攻撃だ。狙いは明らかに私だった。
しかし、それはいつものように防がれた。ルーツの防御魔法が発動したのだ。
「それは解除させてもらうぞ!」
アブタビムが叫んだ。
いつもだと、ルーツの防御魔法は一度はこの攻撃を防ぐのだが、どういうわけか解除されてしまうのだ。どうやらアブタビムの仕業だったようで、今回も解除されてしまった。
しかし、私はルーツを信じ切っていた。あのルーツが、このアブタビム相手では魔力ブーストは要らないと言ったのだから、大丈夫のはずなのだ。
「ば、馬鹿な……」
アブタビムが驚愕の声を上げる。確かに防御魔法は解除されたが、同じような防御魔法が二重にかけられており、それは私への攻撃を完全に防いでいた。
「何故かそう来ると思っていた……」
ルーツが言った。
そうか、やはりルーツにも繰り返した世界の記憶がどこかにあるんだ。だから、アブタビムの行動を予測できたのだと思う。
「く……そ……」
アブタビムの肉体のアンデッドを取り込んだ部分が爆散し、アブタビム自身の身体が地面に倒れた。
「化け物共め……。これではどちらが悪魔か分からんな……」
「一緒にするな……」
アブタビムにルーツが答える。
「自覚なき選ばれし魔女……。お前が絶望に喘ぐ様を見たかったが、私の望みも水泡に帰したわけか……」
「選ばれし魔女ですって……?」
アブタビムの言い方に私が反応した。
「それはそうだろう。世界をやり直すなどという特権を与えられていたのだから。それが優遇と自覚していなかった小娘だからこそ、私はお前に興味を持ったわけだがな……」
「悪趣味ね」
「私は悪魔だからな。だが、引き際はわきまえている。完全に私の負けだ」
アブタビムの身体が発光し始めた。他の三体の悪魔が消滅した時と同じだ。
「さらばだ。なかなかに楽しかったぞ」
最後にそう言い残し、アブタビムは消えてしまった。
「私は全然楽しくなかった……」
「ドリス、大変だったわね」
「ああ、変な奴に目を付けられたもんだな」
「全くだよ。お疲れ様」
私の嘆きに、マヤ、デルロイ、ウィルが反応した。
ルーツたちも私を労ってくれた。
「じゃあ、いよいよ決戦だね……」
ウィルが言った。
ウィルにとっては時を超えてまで再戦することになった宿敵だ。気合も入るのだろう。正直、悪魔アブタビムの方が脅威度は上だから注意すれば何とかなるはずだった。
しかし、二人のルーツとサナが突然巨城の壁に走り、窓を開けてそこから空を見上げた。
「えっ、どうしたの!?」
私たちも慌てて後を追った。
「まずい、出てきてしまうな……」
「ええ。あれは危険です」
「時空の乱れの修復、間に合わなかったようですね」
二人のルーツとサナが言った。
三人は私たちに向き合って説明してくれた。危惧していた通り、時空の乱れの修復が間に合わず、亀裂の部分から時空の狭間に封印されていた魔物の一体が出てこようとしているらしい。
「ちょっと相手が悪い。君たちが相手にするのはまだ早い」
ルーツはそう言った。私もマヤもウィルもデルロイも、その魔物との戦いには連れていけないということだ。しかし、三人が戦い終わるのを待つことはできない。ここは死界のど真ん中であり、巨城内もアンデッドで溢れかえっているのだ。無駄に時間を過ごす場所などない。
「それじゃどうするんだ?」
「皆は先へ進むんだ」
「うん。四人で力を合わせればきっと勝てる」
デルロイにコピーのルーツとサナが答えた。ルーツも同意見らしく、私たちに頷きを返した。
そうなると話は変わってくる。あのアブタビムの相手をできたのは二人のルーツとサナがいたからだ。彼ら抜きでは私たちの戦力は大幅に落ちる。果たして、あの巨人に勝てるだろうか。
「ドリスの力を解放する。ウィル、未来で君たちが願った通りだ」
「……そっか」
ルーツの言葉に、ウィルが呟き返した。
「ドリス、君がマヤとウィルとデルロイを導くんだ。できるな?」
「ルーツたちがいないのは不安だけど……、でも、分かった……」
「ああ、君なら大丈夫だ。自分を信じろ」
「うん……」
私は決意を固め、両手を広げた。魔力解放の処置を受けるために。
「じゃあ、行くぞ」
ルーツはそう言うと、左手を私に向けた。外装に装備されているという触手が形作られ、うねうねと蠢きながら私の方に向かってきた。
「ひっ……!?」
私は思わず悲鳴を上げてしまった。やっぱり慣れない……。固めた決意がやっぱりやめておけば良かったなどという泣き言に変わってしまう。
両腕、両脚、胴体に触手が絡みつく。這われるように絡みついてくるのも生理的にキツいものがあるし、それを通して闇魔法が流されてくるのも異様な感触だ。私は目を瞑り、歯を食いしばって耐えた。
触手に解放された感覚がすると私は目を開けた。戦いが無事に終わった後にもこれをやらないといけないかと思うと、今から気が滅入る。正直、早く自分の力で魔力を使いこなせるようになりたい……。
昨日と同じように封印された魔力が私の中で充実し、マヤたちが駆け寄ってきた。
「ド、ドリス、凄いねその魔力……!」
「マジかよ……。とんでもねーなドリス……!」
マヤとデルロイが言った。
「魔女ドリス……。僕たちが君に運命を託したこと、やっぱり間違っていなかった……」
ウィルが神妙な顔をして言った。未来の世界で、ウィルとマヤとデルロイは私なんかを頼りにしていたらしい。全くプレッシャーもいいところだ。
「ドリス、気をつけてね」
「ウィルもマヤもデルロイも、絶対に死ぬなよ」
サナとコピーのルーツが言った。私たちはそれに答えるように声を出した。
そして、私はルーツに向き合った。
「ルーツ、ありがとう。おかげで私は……、私たちはここまで来ることができた」
私はルーツにお礼を言った。
「お礼なんか要らない。まだ勝ったわけじゃないぞ。絶対に負けるなよ、ドリス、皆!」
ルーツはそう言うと、コピーのルーツとサナと共に窓から外へ飛び出していった。
私たちはその背中に言葉をかけた。ルーツたちこそ、絶対に無事に帰ってきてほしい。きちんとお礼をしたいから。
そして私たちは四人で向かい合った。
「さあ、行こう皆!」
「ああ!」
「ええ!」
「うん!」
私の言葉にデルロイとマヤとウィルが肯定を返してきた。そして、私たちは最上階に向けて駆け出した。




