11 才能の活かし方(ルーツ視点)
養成アカデミーで連携の訓練を終えた俺は、死界討滅軍にすぐに合流することにはならなかった。ウィルを指導する期間を与えられたからだ。ウィルは通常の授業をこなした後、訓練室の一つで俺の指導を受けることになった。
時間的にも大変だろうが、ウィルはマヤについていきたいという意志が強いらしく、文句は言わなかった。
初日はドリス、マヤ、デルロイも共に俺の元を訪れた。ウィルが心配だったのだろう。同郷とはいえ、デルロイまで来るというのは意外だった。デルロイとウィルの実力差は明確だったから、相手にしていないのかと思っていた。
「ウィルは、デルロイとマヤの長所を引き出すのが上手いのよ。だから、デルロイにとってもウィルはお気に入りってわけ」
ドリスがその辺りの事情を説明してくれた。そういうことなら、デルロイまでついてきたのも納得というものだ。
「さて、ウィル。俺の提案を説明するぞ」
「は、はい……!」
「まず、君は今のアカデミーでの立ち位置を理解する必要がある。残念ながら、落第寸前だそうだ」
「……」
ウィルの表情が曇る。大して驚きはしないところを見ると、薄々気がついていたような様子だ。しかし、言葉としてぶつけられるのは辛いだろう。
「俺から見ても、君はぎりぎりまで努力している。それは素晴らしいことだ。だが、この訓練では自分を魔道士と思うことを捨てることだ」
「え……?」
「とりあえず、これを見てくれ」
俺は訓練室の机を指さした。数々の魔導具が置かれている。それらは使用者の魔法行使を手助けするものではない。スイッチを押すことで簡易的な魔法を発動させることができるものだ。魔道士でないものが魔法を使えるということになる。ただし、魔力を貯めておける量は限りがあるので、大した威力は出ない。
それでも物は使いようなのだ。蓄魔力石を素早く交換すれば何発でも撃てるし、前の世界でオーデルグ一味の同士はこういう戦い方で、メルトベイク帝国の兵士に劣らない戦いをすることができた。
「魔法を、使うなということですか……?」
「そう取ってもらって構わない。だが、この戦法は有効だ。どうやらここでは確立されていない方法のようだが、俺の出身地では結果を残している。それに、君には向いていると思うよ」
「そう、でしょうか?」
「ああ。まずは試しに使ってみなよ」
ウィルは半信半疑という表情で、杖上の魔導具を手にした。スイッチを押すと、蓄魔力石から魔力が放出されて火魔法として飛び出す。この世界でも、魔力の乏しい一般人が使ったりすることはあるようだが、威力が低い上に回数が限られるから結局は魔道士そのものの方が有益なのだ。その辺りの事情は前の世界でも同じだった。
「使ったことねーなぁ、こういうの」
「デルロイは小さい頃から魔法が普通にできてたもんね。私もないな……。ドリスは?」
「私も。お母さんが優秀な魔道士だったから、普通に魔法を教えてもらってた」
デルロイ、マヤ、ドリスが順に言った。この3人は優れた魔道士なので、こういう魔導具とは無縁だろう。
ウィルは、何回か試した後に俺と向き合った。
「確かにスイッチ一つで魔法が発動するのは便利と思いますが、この威力では厳しくないですか?」
ウィルのその言葉からは、自分でもこういうことを考えたことがありそうな含みを感じた。
逆にウィルに魔法そのものの才能がなかったら自分からもっと早くにこういう道に進んでいたのかもしれない。しかし、魔法が使えないわけではなかったし、努力できる子だからこそ難関であるこのアカデミーにも入学できたし、道を変える気にならなかったのだと思う。
「威力なんてそこの3人に任せておけばいいのさ。君の役目は元よりそこではないだろう」
「うーん、まあ、確かに……」
「何なら、少し俺と模擬戦をしてみるかい?」
「え?」
「なぁに、この前の授業でやったのと同じだ。ただし、君は魔法を一切使わず、道具だけで対処してみてほしい」
「わ、分かりました……」
ウィルがまだ納得していないようだったので、実際に対戦形式で使ってみてもらうことにした。恐らく、ウィルが持っている才能と組み合わされば、こっちの方が向いていると痛感してくれるだろう。
部屋の真ん中に俺とウィルが立ち、外側からドリスとデルロイとマヤが見守る形となった。立会人を引き受けてくれたドリスが合図をした瞬間に、俺は風魔法で高速ステップをした。魔導具のスイッチを押せば攻撃できてしまうので、先手をさせないためだ。
「う!?」
ウィルが呟いた。
俺は移動先で、以前の訓練と同じように高速で魔法を詠唱し、ウィルを撃とうとした。
「そこ!!」
すると、ウィルがすぐに反応して魔導具で攻撃してくる。見事、俺が詠唱しようとしている部分を撃ってきた。強引に詠唱を続けることもできたが、ウィルに自分の才能とこの戦法との相性の良さを感じてもらうことが目的だったので、詠唱をそのままストップする。
同じように高速移動をしてから詠唱をすると、ウィルは難なくついてきた。何度か繰り返すと、ウィルの表情が変わってきた。手応えを感じているようだ。反応はできるのに自分の魔法では上手く対応できなかったストレスから解放されるのだから、当然だ。
準備しておいた魔導具を使い切ったところで、俺から立会人のドリスに合図をし、模擬戦の終わらせてウィルの方に近づいた。
「どうだった、ウィル?」
「これは……、なるほどですね。でも、この方法だとアカデミーの成績が上げられなくないですか」
「確かに魔法そのものの成績は上がらないかもしれないが、連携や戦術の成績は大きく向上するだろ? それが認められるなら落第にはしないという話にしておいたから、心配しないで大丈夫さ」
「え、そうなのですか!?」
ウィルが声を上げた。懸念も解消されたのだろう。
「そうか、元より僕はこういう道を模索すべきだったのかもしれないな」
「ふふっ、なんか、良かったじゃないウィル」
マヤがウィルに近づき、その肩を抱き寄せてさすっている。
「だな。意図は俺も分かった。面白そうじゃねーか。高威力の魔法が必要な局面では俺たちがやればいい話だからな」
デルロイが興味津々で魔導具を手に取って眺めながら言った。
「ルーツ、お疲れ様。面白い戦法だね」
ドリスが俺の元に来て言った。
「まあ、ウィルには合う方法だと思うよ」
そう返答し、俺は魔導具を見た。
こういう戦法に最適化された魔導具はなかったので、少し手を加える必要がある。幸い、このアカデミーには魔導具作りのコースもあるし、この街にもそういう工房は複数ある。
ひとまずは俺が改良品を用意する。次の指導の時にでもウィルに試してもらおう。それをウィルに伝えて今回の指導は終わりとした。ウィルはマヤと肩を並べて帰っていったが、ウィル自身も何かを考えているらしく、マヤとその話をしているようだった。




