順調にレベルアップ中
グルド達に加わって半年ほどが過ぎた。
身体強化が出来るようになったので、この頃は戦闘にも加わっている。
「教えたことの吸収率がすごいな、お前」
シムは本気で感心してくれるが、強化はヨガのイメージでやれば案外簡単なのだ。
ヨガは、前世で色々やった。基本のハタヨガから陰ヨガ、アシュタンヨガ、空中ヨガともいわれるエアリアルヨガ、サップの上でやるサップヨガなどなど。まあ、要は美と健康にいいものはすべて体験済みである。でも、体内に気を巡らすのならば、太極拳や気功をやっていた方がもっと効果的だっただろうか?いや、死んで、来世で役立つことを考えて習うものでもないのだが。
さて、体が強化できるようになれば、キックボクシングも生きてくる。手足は短くても、ステップで上手く敵の攻撃回避が出来るのだ。前世とは比較にならないくらい素早い動きな上、動体視力も異常に良くてビックリした。身体の強化に脳も含まれるようで、情報の処理速度も速い。魔物の動きが遅く見える。こうなってくるともう、戦うのが楽しくて仕方がない。
しかし、調子に乗ると痛い目にも遭う。
体が堅くなるので怪我もしにくいはずだが、鱗牛と戦ったときに吹っ飛ばされ、肋骨にヒビが入ったのだ。ザグに担がれてニアムの町に戻るまで掛かった日数は2日。その間、ずっと熱と痛みにうなされた。
「調子に乗るなと言っただろう!」
シムに怒られたが、これは言い返せない。
鱗牛の突進力を甘く見過ぎた……(その後、2週間ほど1人で宿屋で過ごした。ただ身体強化の影響か、怪我が治るのも早い)。
一方でギルは怖ろしく剣技が伸びた。剣だけではない。棒、槍、弓などあらゆる武器を一通り使いこなす。たった半年で恐ろしい習得能力だ。天性の才があるのだろう。そして、その中で彼が一番気に入ったのは何故か鞭だった。
「剣や槍ほど接近しなくても戦えるからな。大型のを殺すには向いてないけどさ、足止めにわりと使えるだろ?」
私やギルは、グルド達のオマケみたいなものである。狩りで獲物を倒すことは求められていない。邪魔にならず、かつ役立つには上手な足止めに終始するのは確かだ。
ギルの使う鞭は大紫蜘蛛の糸で出来ている。しなやかで信じられないほど強靭、更に軽い。10m以上の長さを振るうのはかなり難しいはずだが、ギルは見事な精度で小石を弾き飛ばす。また、遠くのコップを手元まで持って来ることだって可能だ。非常に格好いい。私も真似をしたいのだが、半分の長さでも思ったようには扱えなかった。悔しい……。
「リンってびっくりするほど負けず嫌いだな」
「別に負けず嫌いじゃない。お前に出来るなら私にも出来るはずだからだ」
「それが負けず嫌いなんだよ。てか、オマエってゆーな。オレの方が年上だ!」
「ギルなんか、お前で充分だろ」
「……っとに、アンタ達ってカワイイわねぇ」
くっ。そんな、子供同士のじゃれ合いを微笑ましく見るような視線を向けるな、ザグ!私はギルどころかアンタよりも年上なんだぞ?!
最強クラスに入る魔物に、竜がいる。竜にもランクはあるそうだが、1頭でも狩ったことがあれば“2級”の狩人と名乗れるらしい。ザグは以前、自分達の腕は“わりと”いい方だと言ったが、ファーロに聞いたところではニアムの街で2級の狩人は他に1組いるかどうかという話なので、かなりいい方に入ると思われる。
ちなみにグルド達が狩った竜は土竜だそうだ。
その時に獲った土竜の牙のペンダントをアラックから自慢そうに見せられた。ちなみに1人で竜を狩れたら1級。ここまでのレベルは滅多にいないらしい。
「まあ、土竜は竜のランクで低い方なんだけどね」
ザグがアラックの横で苦笑しながら言う。
「でも、竜が出たら小さい村でも全滅するときがあるからな。それを狩ったなんてスゲェよ」
ギルが尊敬の眼差しでアラックの持つ牙を見る。その眼差しですっかり得意満面になったアラックの鼻は、今にもにょきにょきと伸びそうだ。
「ま、オマエ達は運がいいよ。オレ達に拾われるなんてな。しっかり腕を磨いて、役に立てよ」
本当~にコイツはムカつくなぁ。確かに運が良かったのは事実だが……。
もっとも。
運も実力のうち。これも私の力だ。




