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ゼロ転生 ~ 気ままなモブスタート ~  作者: もののめ明
模索期

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帝都での新しい生活がスタート

 三角屋根の下の屋根裏部屋は、天井が低かった。もっとも大人では窮屈だろうが、私には問題ない高さだ。

 室内に置かれている家具は、ベッドと小さなチェストのみ。

 うん、悪くない。

 しかしアスラがベッドに飛び乗り、不満そうにしっぽをペシペシさせた。

『このベッドはいまいちじゃ』

「地面の上で寝るより、いいだろ」

『……エルナの部屋へ行こうかのう。きっとフカフカの良いベッドのはず』

 アスラは現在、無害で可愛い愛玩動物のフリをしている。

 何故ならエルナから菓子がもらえるからである。甘えてすり寄れば、たまに飴がもらえるのだ。おかげですっかり彼女に懐いてしまった(前世における“猫”は甘味を感じないと聞いたことがあるが、アスラは甘いものが大好きらしい)。なお旅の道中では、どうやら夜もしばしばエルナのところへ行っていたようである。私は野外でごろ寝だが、エルナは馬車の中のベッド。そちらの方が寝心地がいいからだろう。

 たまに、どちらが主か忘れていないか?と問いたくなる。私に対して、あんなに可愛らしく甘えてきたことなど、一度もないのだから。

 ま、見限って契約解除してくれるのなら万々歳ではあるけれど。

『それにしても、主殿がドレスに興味があるとはのー。のう、主殿。今こそ妾の力を使いどきじゃ。この帝国を落とそうではないか。さすれば主殿も好きなだけ、着飾れようぞ』

「は?誰が着飾りたいと言った?」

『……む?』

 アスラがくにっと首を傾げた。瞳孔が細くなる。

『着んのか?』

「だってコルセットとか、苦しいだけじゃないか。それに今さらハイヒールも履きたくない」

 前世は高いヒールを履きこなしていたが、外反母趾には悩まされた。今、履いている、爪先が細くない靴は素晴らしい。

『……ドレスが可愛いと言ったではないか』

「可愛いからそれを着たい───には、ならない。私は見て、愛でるのが好きなんだ。自分で着たところで、全部、見えないだろう?」

 前世なら写真を撮ってネットに上げ、いいね!で承認欲求を満たしたかも知れない。が、今世では鏡で見て満足するだけである。

 それより、他人が着ているのを眺める方がいい。その人に似合うコーディネートを見繕うのも、実はわりと好きだ。

 ああ、ちなみに……私は決して自分は薄汚れた格好やダサい格好でいいと思っている訳ではない。そういう格好でいると、気持ちが上向きにならない(とはいえ、状況により我慢はする)。

 そう、今、着るとするなら……肌触りの良い上質な服で、動きやすくて、すっとしたデザインなら言うこと無しなんだが。ああ、狩りをするから汚れにくく丈夫だと嬉しいかも知れない。

 ま、せっかく服飾屋と知り合えたのだ。私好みの服もいずれ作ってもらおう。

『はー……主殿の思考は実に難解じゃ……』

「何を言ってるんだ」

 うずくまって額に皺を寄せているアスラに笑いかける。

「そもそも、私に可愛いドレスは似合わないだろう」

 この棒っ切れのような凹凸もなく色気ゼロの身体にのっぺりと平坦な糸目顔。いくら頑張ってもロココ調ドレスは無理だろう。

 私は道化になんて、なりたくない。

 そこが、この愛すべきモブ顔の些か残念な点だな。


 さて、アスラには秘密だが、私がマイノの店を手伝うのには、服が可愛い、デザインがしたいではなく、もっと切実な理由がある。

“帝国の図書館は帝国の貴族しか利用出来ない”からである。

 前世なら、図書館は誰でも利用出来た。すべての国民は必要とする資料を利用する権利があったのだ。なのに帝国ときたら……古い歴史ある大国だというわりに、なんともケチくさい。平民は図書館に足を踏み入れることも出来ないそうだ。

 という訳で、図書館へ入るために帝国の貴族とお知り合いになりたいのである。

 もっとも、知り合って貴族の付き添いがあれば入れるかどうかは分からない。

 手っ取り早く、貴族の侍女にでもなれば、その貴族が図書館へ行くときに入れるかも知れない。が、とにもかくにも、今の私では帝国の貴族と繋がる術がないのだ。

 という次第で、どれほど細くても繋がる可能性のある糸を上手く利用しなくてはならない。時間は掛かりそうだが、仕方がないだろう。

 なにせマイノのような大きな店の主でも、貴族とのコネクションを作るのは難しいらしいのである。

 この国では、貴族と平民の間にはかなり大きな壁がある、という訳だ。異国の小娘では、まず貴族に面識を得るまででもかなり厳しいだろう。

 一応、貴族の護衛職も考えてはみた。

 しかし、屋敷の外の見回りならともかく、貴族の傍に付くような護衛になると、平民では無理らしい。

 子爵や男爵くらいなら平民の護衛もいるかも知れないが、身分の低い貴族は護衛を雇わない場合が多いのだとか。常に傍に護衛が付いているのは高位貴族のみとなると……やはり、平民で子供で異国籍の私には難しいだろう。

 ちなみに侍女なども、基本は紹介と教えてもらった。しかも貴族の身の回りの仕事が出来るのは、やはり貴族なんだとか。

 平民はお貴族様から見えない裏方仕事しか携われないと言われた。

 つまらん。

 以上の理由でマイノの店をランクアップさせて貴族と面識を得ようと考えているのだが……はあ、アスラとの契約を解除するには膨大な手間と時間が掛かるなぁ……(しかも図書館に望む本があるとは限らない)。


 翌日。

 朝からエルナが街を案内してくれた。

「うれしいわ!私、今まであまり出歩かせてもらえなかったの。これからは父さんと一緒じゃなくても買い物へ行けるわね」

 良いところのお嬢さんは大変だ。

 さて、ルーペスブルク帝国の外街区はエルサール王国の首都サンルドアとは比較にならないほど大きな街だった。人も多い。そして様々な人種がいる。

「うふふ、リン。そんな風にキョロキョロしていたら、田舎者丸出しよ」

「ああ……いや、すごいな。高い建物が多いし、人も物も溢れている……」

 前世では、もっと高いビル街で生活していたが……転生してからはこんな都会と縁がなかっただけに新鮮だ。

「ま、帝都だしね。そうそう、向こうの広場から、帝城が見えるわよ。別名、白耀城(はくようじょう)と呼ばれる美しい城なの。驚くといいわ!」

 自慢そうに笑って、エルナが私の手を引く。

 辿り着いた噴水のある広場から───小高い丘の上にある白亜の帝城が見えた。

 街門は高いし、街の中の建物も高くて、なかなか帝城は見えなかったのだが……ほう、エルナの自慢も頷ける。

 幾つもの尖塔が並ぶ優美かつ巨大な城。美しい。

 つい、じっと見惚れてしまった。前世で見たことのあるどの城とも似ていない。まるでファンタジー映画に出てくるような城だ。

「すごいでしょう?夜は明かりが灯ってもっと幻想的なのよ」

「うん、そうだろうな。……ぜひ、見てみたいな」

「じゃあ、日が暮れてからまた来ましょう!私も夜の外出は滅多にないから、楽しみだわ」

 ……いいんだろうか。マイノに怒られそうな気がする。

 私独りでこっそり───行ったら、今度はエルナが怒るだろうなぁ。

 ま、守ればいいだけの話だし。こんなにウキウキしているエルナをがっかりさせるのも忍びない。一緒に夜間外出するか。

 そんなことを考えつつ、エルナに手を引かれて角を曲がったときだった。

 スッと前方を防ぐように3人の男が現れた。

 間を置かず、後ろにも3人。

 エルナが息を飲む。

「やあ、可愛いお嬢さん」

「おとなしくオレたちに付いてきてくれるかな?」

 おお!ようやく、私が仕事らしい仕事の出来る機会が巡ってきたぞ!

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