精霊の喚び出し中
地下への階段を下りる。
明かりが必要だと困るところだったが、一階の床がところどころ崩壊しており、案外明るい。助かった。
紙飛行機はさらに奥へと進む。
そろそろ目的地だろうと思った瞬間。
突き当たりの壁の前で紙飛行機はすっと下に消えた。慌てて駆け寄る。
床に───私の顔が入るかどうかという大きさの亀裂があった。ここを抜けたらしい。
まだ、下に空間があるということか。
階段はどこだ?すぐそばに下りられそうな階段は見当たらないんだが。
とりあえず亀裂を覗き込むと、魔法陣が見えた。直径2メートルほどありそうな大きな魔法陣。その中心には……手足を縛られたギル?!
魔法陣の横では、背の高い男がいた。どうも呪文を唱えている……ような。
私は急いで魔法陣を読んだ。
あれは……精霊を喚び出す魔法陣だ。炎霊。しかも高位の炎霊。恐らくギルを生贄に契約するつもりじゃないだろうか。
くそ、下への階段を探している暇はない。
私は背負っていた火竜のナイフを取り出した。狙いをつけて、下に向けて投げる。
ザンッ!
狙い通り、ギルの腕のそばに刺さった。ハッとギルがこちらを見る。同時に、呪文を唱えていた男も血相を変えてこちらを見た。
「ギル!早く縄を切って逃げろ!」
男は途中で呪文は止められない。自身の魔力による魔法ならば途中で止めても間違えても不発で終わるだけだが、精霊魔法は途中で止めたら反動が来る。
ギルがナイフに擦りつけて腕の縄を切り、次いで足を切った。
這うようにして魔法陣から抜け出そうとする───が。
ぶわっ!
魔法陣が光った。駄目だ、間に合わない……!
熱のない凄まじい炎が魔法陣から吹き上がる。
その炎から、ゆらりと人の影のようなものが浮き上がった。恐らく炎霊だろう。だが、初めて見る精霊魔法に感動している暇はない。逃げられないのなら……
「ギル!契約者は自分だと先に名乗りを上げろ!」
ギルは炎の魔法を使う。炎霊と相性は悪くないはず……!
「え?ええっ?!」
「ふ、ふざ……け、る、な……。け、契約者は……」
息も絶え絶えに呪文を唱えていた男が言葉を発する。喚び出しで魔力を限界近くまで使ってしまったようだ。
「け、契約者、は……お、おれ……エ、エン……ぐわっ!」
咄嗟に足首に仕込んでいた投げナイフを、男の太ももに投げる。上手く刺さって、男は蹲った。
その途端、ギルが男の元へ走り、手刀で男を昏倒させる。
あ、そうか。ギルを助ける前にさっさと男にナイフを投げておけば良かったか。精霊魔法を中断すれば男に向かって反動が……いや、魔法陣の中央にいたギルもやはりヤバかったかも知れない。
「リン!それで、オレはどうしたらいいんだ?」
ギルからの問い掛けに、私は我に返った。
まだ、魔法陣の上に炎が揺らめいている。精霊魔法は継続中だ。
「……その炎の精霊に向かって、契約者は自分だと名乗るんだ」
不安そうな顔で何度も私と炎霊を見比べ、ギルは恐る恐る名乗りを上げる。
「お、お前の契約者は、オレ、ギルだ」
「「「では……契約の証しにその肉体の一部を我に捧げよ」」」
んっ?!そ、そうか、悪魔だけでなく力の強い高位の精霊の場合でも、そういうのが要るのか。
その倒れている男の足は、代償にならないんだろうか?そもそもギルもその予定で縛られていたと思ったんだが。
「リ、リン!ど、どうしたら……」
「うーん……片方とはいえ、腕も足も目も困るよな……。あ、腎臓片方!」
「は?」
「腎臓、片方やるって言え」
「えーと……ジンゾウ片方やる」
「「「…………」」」
炎霊がこちらを見た気がした。はっきりした形ではないから、絶対とは言えないが。
仕方ない。私は下に向かって声を張り上げる。
「炎霊!腎臓は内臓の一つだ。そんなことも分からないのか?!」
「「「……よかろう」」」
なんだか不服そうな返事だな。自分の無知を棚に上げるなよ。
「「「それでは新たな主よ。我に名を授けよ」」」
「はあ?!名?名前??……リン!!」
いや、なんでも私に聞くなギル!名前くらい、自分で考えろ。太郎でも花子でも……って、さすがにそれは無いか。火だからファイヤーとか?ううーん、ダサいな、それ。
「リン~!」
「ああ、もう!……アグニだ、アグニ!」
確かインドの火の神さまがそんな名前だった。豪華な名前だが、悪くはないだろう。
「アグニ!お前はアグニだ」
「「「諾おう」」」
ボオッ!とさらに炎は激しくなり、やがて収斂してヒトガタになった。
「「「供物ももらい受ける」」」
ヒトガタの右手が上がり、倒れていた男が一瞬で燃え上がり、炭となって消えた。
…………あー、そう。供物ですか。まあ、ギルがそうなる運命だったから、男の結末は因果応報なのだろうけれど。ちょっと後味悪いな。
この辺りからこの章の山場なので、しばらく火・金の週2回更新を予定しております……。




