精霊魔法について色々と知る
初めて知ったのだが、精霊魔法は基本的に精霊の“好意”によって使える魔法なのだそうだ。つまり、精霊に好かれなければ、使えない。
しかし私はアスワドとの従魔契約によって、“魔”の気配を纏っている(らしい)。
なので、闇の精霊以外には嫌われてしまうのだとか。
たとえアスワドとの従魔契約を解いたとしても……一度結ばれた以上、痕が残って無理だろうと言われた。
仕方がないので、それなら闇の精霊の魔法を教えて欲しいと頼んだが、残念ながら闇の精霊は他の精霊と違い、魔族に属するらしく、アルマーザには分からないそうである。
「というか、闇の精霊魔法を使ったら、君、人間社会から追われますよ?」
「そうなのか?従魔契約は問題ないのに?」
「従魔契約は使役ですからね。魔物の主人になるため問題ないのです。でも闇の精霊魔法は、闇の精霊の力を借りて行う魔法。使えば闇の精霊の性質の影響を大きく受けます。端的に言えば残虐性・凶暴性が増すんですよ。そもそも、血を見るのが好き、人の憎悪が好き、そういう人間を闇の精霊は好みます。……ということで、君はあまり闇の精霊には好かれないと思いますねえ」
??
私は闇の精霊に好かれない?魔王の娘とも言われる私が?
「だって君、強く人を妬んだり憎んだりしないでしょう。腹が立っても、その瞬間だけでいつまでも根に持たない」
「まあ……そうかなあ。そんなことに時間を使うのは勿体ないし」
アルマーザはフッと笑った。
「でしょう。君は、闇から遠いんですよ。……恐らく従魔契約がなければ精霊魔法を使えたのではないですか。何より覇王の気を持っている。惹かれる精霊は多いでしょう。私も初めて見ました」
「はおう」
魔王ではなく。覇王。
なんだそりゃ。
「百年に1人、現れるかどうかの人間ですよ。そもそも、魔法なんか使えなくて構わないと思いますね。そんなものに頼らずとも君が本気を出せば人間の王など、簡単になれる」
「ハッ」
思わず吹き出した。
王様なんて。
「興味ないね」
前世で社長をやって、もう飽きた。人の上に立つ気はない。
今世でやりたいのは、この魔物が跋扈する世界で、自分の力で戦って勝つことだ。
社長をやっていたときは、大きな商談がまとまったときや、年商が上がったときに達成感を感じたものだが、狩人として大きな獲物を倒したときの直接的な達成感、充足感には遠く及ばない。明らかに、こっちの方が単純で楽しい。そのうえ、煩わしい人間関係の調整も必要ないし。
「人間は、権力が大好きだと思っていたのですが」
「そういう人間も勿論いるし、反対にまったく興味のない人間だっているさ。ちなみに、もし私が王になると決めたら、それは権力が欲しいからではなく、上に立つ人間が気に食わないから……になると思う」
気に食わない人間に従うのは嫌だからな。
「はあ。どっちにしろ、私には理解できないものですけれど」
それは、アルマーザがハーフでもエルフだからだろうか?
さて、結局精霊魔法は使えないという結論は出たが。
まだ納得がいかないので、しばらくアルマーザの元で仕事をしつつ、色々と調べてみることにした。アルマーザとしても、私に仕事部屋の模様替えはやって欲しいらしい。王宮職員からも、どうかアルマーザを見捨てないでくれと頼まれている。
……100才近いジジイの保護者にされるのは不本意だが、中途半端で放り出すのは性に合わない。まあ、しばらくは頑張ろう。
───ちなみに精霊魔法について、よく調べてみると私が思っていたほど強い魔法が使える訳ではなかった。あくまでも精霊の力を借りて行う魔法なので、一般的にはそよ風を起こしたり、小さな火を興したり、花が枯れにくくなる、という程度なのだそうだ。よほど精霊に愛された者だけが、大きな魔法を行使できる。
ただし。
例外として特定の精霊と“契約”をすれば、大きな魔法を使えるようになる。精霊魔法と区別して精霊術とも呼ばれている。
魔力と己の肉体の一部を代償に契約するのだそうだ。
昔、強力な精霊と契約して悪逆の限りを尽くした王がいたとかで、現在はどの国でも禁術扱いになっているらしい。
「ちなみに、魔族とも同じような方法で契約はできるらしいですよ。ただ、代償はもっと大きいけれど」
アルマーザがおぞましい……と呟きつつもそんなことを教えてくれた。
もっと大きな代償?
「ヒトの命」
なるほど。それは確かにおぞましい。




