キラキラ男の弟子――にはならないかも知れない
あちこち走り回り、様々な物を揃えた。
サイフィレスの力も必要だったので、何度も頭を下げ、協力を請う。
結局、ある程度の形を整えるのに1週間掛かってしまった。
……恐る恐るアルマーザの元へ行くと───キラキラは更に減っていた。もはや脱け殻だ。
「アルマーザ。遅くなって申し訳ない。あんたのための部屋を用意した。一緒に来てくれないか」
「…………」
生気のない虹色の目がこちらを見る。
うーん、仕方ないな。
私は説得を諦めてアルマーザを抱え上げた。こっちの方が早い。
「なっ?!な、何をするんですか!」
「動く元気もなさそうだから、連れて行ってやる」
「止めてください!君みたいな子供に抱きかかえられて行くなんて、ひどい屈辱だ!」
「はいはい。悪態をつく元気があって良かったよ」
これだけ走り回ったのに、精霊魔法を教えて貰えないままくたばられたら困る。さっさと元気になって欲しい。
石造りの塔の最上階。
アルマーザの寝室となる部屋は、板張りの床に木の壁になっていた。言ってみればログハウス風の内装だ。
アルマーザが目を丸くする。
「これは……」
私はにっこり笑ってアルマーザを抱えたまま奥へ行く。三十畳ほどの広い部屋には、鉢植えもたくさん置いている。その影に……
「ベッドが力作なんだ。気に入ってもらえると嬉しい」
───現れたのは、ラタン(に似た植物)で編んだ巨大な丸い物体。
中央付近は細長く口が開いており、中に入れる仕様である。そう、前世なら南国リゾート地に置いてあるようなアレだ。
中は柔らかい藁だの羽毛だのを駆使して寝心地の良いベッドを作った。
そこへアルマーザを寝かすと、アルマーザの虚ろだった瞳に力が入り始めた。
「ここがあんたの寝室。悪くないだろう?」
エルフの王国では、超巨大な木の中に城だの住居だのがあるらしい。エルフは金属を苦手とするが、それと同等に石造りの家も好まないのだとか。
アルマーザがエルフの王国で暮らした経験があるのか知らないが、エルフの性質を考慮し、似たような状況の方が彼の好みに合うのでは?と私は推理したのだ。どうやら間違いではなかったようだ。
「ここ……落ち着きます」
「そうか。向こうの仕事場も、いずれ板張りの床や木壁に変えてゆく予定をしている」
「そうなのですか?!」
「ああ。たぶん、嫌な感じはなくなるよ」
「…………」
アルマーザの瞳が潤み出した。
「ずっと……この王国で、私は居場所がないような気がしていたんです。……もう、そんなことはないんですね……」
エルサール国では石造り、レンガ造りの建物が基本だ。
エルフの血を引くアルマーザには、それらが合わなかったのだろう。まあ、それで汚部屋にしてどうする、とは思うが。
ただ、片付けた職員達の話によると、ゴミの最下層はカッサカサに乾いた草だの葉っぱだのの残骸だったと聞いている。
恐らく、アルマーザも居心地の悪い理由が分からないまま、最初はなんとかしようと工夫したに違いない。それが年月が経つうちにおかしな方向へと曲がった───のだと思いたい。ゴミ屋敷の方がより落ち着くと言われたら、もはやお手上げだ。
どっちにしろ、今のところこの部屋で満足できているなら、これで慣れてもらおう。というか、無理矢理でも慣らしてやる。
「いいですよ、君を私の一番弟子にしてあげましょう」
翌日。
すっかりキラキラを取り戻したアルマーザは、尊大な態度でそう言った。
私が「精霊魔法を教えて欲しい」と頼んだからなのだが。
……床の板を全部、剥がしてやろうか。
一瞬、そんな思いが胸のうちに湧く。
たった一晩で元に戻りすぎだろう、アルマーザ。もう少し、殊勝なままで居ればいいのに。
まあ、でも、短い付き合いだが分かったことはある。これで悪気はない男なのだ。
私より遥かに年上だが、たぶん、今までまともな対人関係を築いたことがないんだな。多少は大目に見るしかあるまい。ただし、目に余る部分は矯正させてもらうが。
「あ、でも」
ふいにアルマーザが私の目を覗き込んできた。目、というより、もっと奥を覗いている感じがする。
「君、精霊魔法は使えないよ?」
「は?!何故?!!」
「だって、あの魔物と従魔契約しているでしょう。普通の精霊は、君の魔の気配を嫌って近寄りもしませんよ。サイフィレスとあの温室は、エルサール王国と特別な精霊契約をしているから、王国職員に準じる君も利用できるけど、そうでなかったら入ることもできない」
…………嘘だろう?
じゃあ、なんのために私はこんなに頑張ったんだ……!
『王都散策』の後半部、少し加筆しました。マヨネーズの感想をもらったとき、気になっちゃったので……。




