デカい鳥に襲われる
あちこちの村や町に寄り、半年近くが過ぎた。
最初は異物扱いだった私とギルも、今やすっかりバルードの隊商の一員扱いである。
モーリーの好意で新しい(?)古着ももらった。ボロボロで明らかに浮浪児っぽかった私達も、小間使いくらいには見えそうだ。
「本格的にうちに入るか?」
とバルードからも言われた。私の計算能力などを高く買ってくれているようだ。だが、一般的に商人へ弟子入りすると魔法で契約が結ばれ、一定年数は絶対に他へ移れないらしい。それは嫌だ……。そもそも、私は他人の下につくことは好きじゃない。前世だって、人は使っても使われたことはない。
そんなわけで、断っている。
さて、険しい山越えの途中のことだった。
ギィヤァァァァァッ―――!
突然、耳をつんざく叫び声が辺りに響いた。
ベンとダールが即座に剣を抜き、バルード達は馬車の下に潜り込む。「こっちへ来い!」とバルードが怒鳴った。
???
何が起ころうとしているのかと周囲を見渡した途端、風が吹く。煽られて倒れそうになり―――眼前に黒い影が舞い降りた。
なんだ?!
それが何か認識するよりも前に、再びそれは宙へ。その下にギルの姿が見えた。
これ……デカい鳥か?!鳥が、ギルを攫おうとしている!
私は咄嗟にギルを掴んでいる方ではない脚にしがみついた。
バサリ。
大きな羽音と共に、私とギルは大空へ―――。
「阿呆か、お前!なんでついてきたんだ!」
「助けようとしたのに、阿呆とはなんだ!」
「助けになってねぇ!」
バッサバッサという大きな羽音と風の音に負けじとギルと私が怒鳴り合う。
あっという間に、バルード達の姿は見えなくなった。
下は、大きな岩がゴロゴロと転がる岩山だ。さほど高く飛んでいる訳ではないが、振り落とされたら死ぬ確率は高そうである。私は必死に気持ち悪い手触りの脚にしがみつく。……この半年で重い水運びもやっていたから筋肉はだいぶ付いているが、握力が持つだろうか。
やがて高度が落ちてきた。
うわ、地面にぶつかる……!
激突する前に飛び降りるべきか―――悩んだ瞬間、グラリと鳥が体勢を崩した。
「え?」
その瞬間、視界が暗転した。
「―――お、こっちも生きてるな」
「運がいいコ達ねぇ」
「おい、さっさとバラせ。血の匂いを嗅ぎつけて他のが来るぞ」
「ほいほーい」
騒がしい数人の声に意識が戻り、痛む体を堪えながら起き上る。
ごつい4人の男達が地面に転がる大きな人面鳥を解体していた。恐ろしく手際がいい。
「大丈夫か、リン」
「ギル。助かったんだな」
「ああ」
お互い擦り傷だらけだが、骨が折れている様子もない。考えもなく鳥に飛びついてしまったが、五体満足で助かって良かった。
「ちょっとぉ。気が付いたんなら手伝いなさい。このあと、人里まで連れていってあげるし」
禿頭の大男が振り返り、手を振る。
ギルと顔を見合わせ、私達は立ち上がって彼らの元へ近寄った。
……血の匂いがすごい。が、男達は返り血を浴びてはいないようだ。
前世ではろくに料理をしなかったが、今世ではドドと何度か鳥を捌いた。最初はさすがに拒否感を抱いたものの、貴重な肉が食べられるとなると遠慮もなくなる。こんなデカイ鳥で顔が人間っぽくても……うん、まあ、平気ではないだろうか。そう、だってこれは鳥。鳥だ。顔を見なければいい。
私は禿頭の男を見上げた。
「何を手伝ったらいい?ナイフや剣は持っていない」
「この首回りの綺麗な羽だけ毟ってちょうだい。高く売れるの」
「わかった」
ギルと2人でブチブチと羽を毟ってゆく。青緑色の光沢のある羽だ。それ以外は濃灰色である。
尾羽も同じく綺麗な青緑色だが、そちらはすでに男達によって採取済である。
私達が羽を毟り終わるのと、男達が必要な解体を終えるのは同時だった。
「さ、急いでここを離れるわよぉ。そろそろ面倒そうなのが近寄ってきたから」
促され、男達と駆けるように岩山を下ってゆく。大荷物を担ぐ男達は驚くほど身軽で速い。私とギルは必死に追いかけなければならなかった。
禿頭の男はザグというらしい。
「でも、ザイーナって呼んで欲しいナ」
シナを作って言われたが、180cmを超えそうな筋肉ムキムキの男にやられると、結構破壊力がある。
なお、リーダーは反対に160cmあるかないかといった小柄な男、グルドだ。小柄だが、がっしりと鍛え上げた体をしている。
彼らは“魔物狩人”だと言う。つまり魔物などを狩り、珍しい素材を持ち帰るという仕事をしているらしい。
残りは、シムとアラックと名乗った。
「お前たちは旅商人の子か?」
顔に大きな傷のある壮年のシムが、私とギルを検分する。私達は首を振った。
「いや、行く宛てのない孤児だよ。商人の隊商に混じらせてはもらっていたけど」
「そうか。……そこへ戻るのは、ちと難しいと思うが」
「いいよ、別に。向こうも私達は死んだと思ってるだろう。……それより、あんた達さえ良ければ、あんた達に付いて行きたい。雑用はなんでもする」
ふん!とアラックが鼻で笑った。4人の中では、まあまあ見れる顔立ちの男だ。弓を背負っている。
「オレ達は二級の狩人だゼ?ガキのお守りなんて冗談じゃない」
「守ってくれなんて言ってないけど?付いていけないようなら、そのまま放っておいてくれて構わない」
「言うねェ、ガキが。泣いても知らんぞ」
「ふうん。そういえば、私は泣いた記憶がないな。泣かせられるものなら、泣かして欲しい」
気に食わない、とアラックの目が言う。
私は別に媚びを売る必要もないので平然と見返す。シムとグルドが肩をすくめているのが見えた。
そこへ、ザグが私の頭をポンポンと叩く。
「いい根性してるわね~、アナタ。じゃあ、さっそくご飯の用意をしたいんだけど。手伝ってくれる?」
「わかった」
……リーダーはグルドだが、チームを円滑に動かしているのはザグらしい。ザグには、媚びを売っておいても良いかも知れない。
調子良く書き進められたので、予定より早めの更新をすることにしました。
次は金曜更新です。
活動報告にリンの落書き&小話を載せていますので、おヒマなら覗いてみてください~。