新たな二つ名を獲得
ルーアの言った通り、翌日には数人の狩人が馬に乗って現れ、あっという間に火竜は見る影もなく解体された。肉も使い道はあるのか、小分けにされている。鱗を剥がした皮も綺麗に剥がされていた。
そして数日かけて素材やグルド達をニアムまで運び、私達は大きな歓声で迎えられた。まるで英雄のような扱いである。
そして私は“魔王の娘”に加えて“竜殺し”の異名も賜ることとなった。
魔王の娘だと人外だが、竜殺しなら人間向け呼称じゃないだろうか?ちょっとマシになった……かも知れない。
グルドの右足には義足が付けられた。残った左足が治れば、杖が必要となるものの歩けるらしい。
ザグも少し足を引きずることになるが、日常生活には支障ない程度に歩けるようになるとのこと。
―――ただし、グルドもザグもシムも、狩人を引退する。
「リンのおかげで火竜討伐者扱いにはなったからな。最後にいい花道を作ってもらった」
グルドがにこやかに言う。
竜の討伐は狩人の腕を示す物差しだ(竜以外にも、何種か設定されている魔物がある)。
討伐した場合、近隣の村や街で認定してもらうらしい。人里遠く離れた場所で竜を狩った場合、本当に狩ったかどうかの判断はどうするんだろう?と思ったが、竜の心臓(魔石)や牙など、特定部位を採取しておいて提出すればOKらしい。
……狩人の手柄を横取りするような強盗がいたらどうするんだろうなーと考えてしまう私は、ロクでもない思考の持ち主だろうか?ま、竜を狩れるような人間なら、あっさり強盗にやられることもないか。
魔法で討伐者の名を刻んだ特別加工の火竜の牙を、それぞれ貰った。ニアムの評議長が刻んでくれたそうだ。人によっては、身体に特殊な印を入れてもらう場合もあると聞いた。刺青みたいなものだろうか?まあ、貰った牙がなくなれば証明するものがなくなるから、分からないでもない。でも、そういうのはかなり自己顕示欲が強い奴だろうと思う。
「アタシ達、倒したっていうよりリンちゃんに助けてもらったっていう方が正しいんだけどねぇ」
ザグが火竜の牙を空にかざしながら言う。
私は肩をすくめた。
「何言ってるんだ。グルドがいなかったら、火竜に気付く前に消し炭になっていたし、ザグがいなければ竜の背中に乗れていない。シムもアラックも、みんながいたから倒せた」
「オレは?なあ、オレは?」
「ギルはまあ……眉月刀を借りれて助かった」
「おいっ」
シムが苦笑し、私の頭をくしゃくしゃとかき混ぜた。
「無欲だな、リンは。一人で討伐したら、1級狩人だったぞ?」
「でも私は、まだ10才にもなっていないし」
「?……まあ、そうだな」
「今回、怪我もしなかった。……つまり、いずれ一人で竜くらい狩れるようになる。今、1級にこだわる必要はないだろ?」
「……かっけーな、リン」
アラックがあんぐりと口を開けて呟いた。
というか、別に狩人として名を上げるつもりもないしなー。1級でも2級でも、本音をいえばどっちでもいいんだ。
ガフに双剣の修理を依頼する。
ついでに、火竜の骨で刃渡り20~30cmほどのナイフ(サバイバルナイフ的なもの)を作って欲しいと言ったら、骨の加工は無理だと返された。
魔物の骨で刀剣を作る場合は砥ぎ師らしい。ガフは鍛冶師なので、出来ないそうだ。
「ガフも剣の最後の仕上げに砥ぐじゃないか」
「魔物の骨の砥ぎと鋼の砥ぎは全く違うもんだ。その上、バカみたいに時間が掛かる。超硬いからな。専門の砥ぎ師でないとムリだ」
「ふうん」
「オレの知り合いに、良い砥ぎ師がいる。依頼してやるよ。火竜の骨なんて、滅多にお目に掛かれないからな。大喜びで引き受けてくれるぜ。……ただし、1本出来上がるのに2~3ヶ月は掛かると思っておいてくれ。剣だったら、1年掛かる場合もあるくらいだ」
……1年も同じものを研磨し続けるなんて、私だったら気が狂いそうだ。
「あ、時間が掛かるのは了解したから、同じナイフを全部で6本作って欲しい」
「6本も?」
「記念品代わりに、グルド達にも渡したい」
「……カワイイところがあるじゃないか、リン」
ほっとけ。
ブロイの家での夕食に招かれた。ギルはおらず、私一人だ。
「リンのおかげでニアムも大きく変わったよ。一人の少女の出現で、まさかここまで街が変わるとは想像もしなかった」
「別に大したことはしてない」
「……これから、どうするつもりだ?」
ブロイの静かな瞳が私を真っ直ぐに見つめる。
街はまだ火竜討伐の件で大騒ぎだが、その裏でひそかに私の去就が噂になっていることは知っている。
その多くが、私がリーダーとなって新たな狩人の一味を作り上げるのではというものだ。もし募集があれば入りたいと思っている者が大勢いる……らしい。幼女がリーダーの狩人一味なんて、私だったら入りたくない。
「その件で、あなたかルーアにお願いしようと思っていることがあって」
「なんだろう?」
「どこかの魔術師に、弟子入りは無理でも使用人か何かで紹介して欲しい」
「………」
ブロイが思案する顔になった。
驚く風ではなかったので、私が狩人を続ける気がないことは薄々感じていたのではないだろうか。
「……君は魔法は使えない性質だと聞いた気がするんだが」
「ああ。でも、魔法の理論を知りたいんだ。それと、精霊や悪魔が使う魔法は人間のものとは違うと聞いた。その辺りも気になる。まあ、要するに自分の知らないことはそのままにしておけない性格をしているから」
「なるほど」
納得したように頷いて、彼は手元の酒を一口飲んだ。
「ずっと狩人をする人間ではないだろうと思っていたが……魔法に興味があるとはね。そうだな……私はエルサール王国で文官をしていたんだが、その国の魔術師になら伝手がある。紹介状を書こう。使用人で構わないのか?」
「隙間時間に魔法理論を勉強できる環境にあれば、それで構わない。生活費も稼ぎたいし」
「火竜の素材で数年はのんびり暮らせるぞ?」
「次にやりたいことのために取っておく」
もっとも、まだ何をやるかは決めていないが。
ただ、この年で悠々自適な生活をしたいとは思わないので(というより私は生涯現役で働きたい派だ)、せっかくだから色々な仕事の体験をしておきたい。バルードの下で一応は下働きをしていたが、本格的に人の下で仕事をするのは前世含めて初めてといえる。人に使われるのは真っ平だ!と思って生きてきたが、さて、どうなることだろう?全く向いていなくて、すぐ辞めてしまうだろうか?
いやぁ、楽しみだ。
次から新章に入ります。
都合により来週は金曜更新1回のみに……。




