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ゼロ転生 ~ 気ままなモブスタート ~  作者: もののめ明
成長期

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コンタクトレンズ、装着!

 その後、アインベルガー家で過ごす数日間は、かなり穏やかで平穏なものとなった。

 リーゼッテは精力的に商会の店舗準備に勤しみ、私はその間の護衛は不要だと言われたので、思う存分、コンタクトレンズやそれに付随する実験に時間を費やしたからだ。

 研究肌ではないため実験の学術的なデータをきちんと取っていないが、魔法の研究は……なかなか奥が深くて面白い。

 ―――さて魔石は、普通、内包する魔力が失われると、ただの石になる。

 なので、コンタクトレンズにコーティングした魔石も、一定時間が経つとやはり効力が失われる。その途端にコーティングが剥がれてポロポロ落ちる、ということはないが、隠蔽の魔法効果は綺麗に消える。

 ちなみに、最初に隠蔽の魔法を付与したものは、約1週間効果が持続した。

 しかし隠蔽だけでなく、他の魔法も一緒に付与すると、持続時間が短くなる。また、付与する魔法によっても持続時間は変わるし、数が多ければ多いほど加速度的に短くなった。

 ここまでは、学園にいるときに判明した研究結果である。

 アインベルガー家に来てからは、少し良い魔石も使ってみた。すると、持続時間はかなり長くなることが分かった。

 が、結局私は、くず魔石を二つ、混ぜて使う方法を採用した。

 コンタクトレンズは必要時に使用するだけなので、あまり長い日数は必要ないからだ。

 とはいえ、くず魔石を混ぜるのも、案外、難しい。

 何故なら、ひと口に魔石と言っても、どうやら石の性質が違うらしく……適当に合わせると真っ黒になって視界がきかなくなったり、魔法と反発して弾けたりするのだ。

 うーん、魔石単体でも奥が深い……。

 これを丁寧に研究したら、魔道具の使い勝手がかなり変わるかも知れない。

 が、今のところそこに興味はないので、魔石を手の上で光らせたときに、白く光るものを選んで使用することにした。理由は不明だが、その石を使うと不都合が起きなかったからだ。

 ちなみに。

 コンタクトレンズは基本的にワンデイの使い捨てにする予定である。

 今から質の良い洗浄液・保存液を新たに開発するのは大変だし、そもそも魔物の目玉が高くないのだ。どんどん使い捨てても勿体なくない。たぶん、あまり目玉は売れ筋商品ではないのだろう。

 ということで、同じ目玉に、再度魔法をかけ直すこともしない。

 ―――以上の結果、最終的に隠蔽魔法の効果持続時間は3日ほどになった。

 必要時だけ使う予定とはいえ、何かあって付け替えが出来ずに過ごす事態を考えての3日である。まさか1週間や1か月、拘束される羽目にはならない……はずだと思いたい。

 なお、付与した魔法は隠蔽、滅菌(この魔法は、本来は菌ではなく生物を死滅させる闇の魔法だ)、水をまとう魔法の三つだ。魔物の目玉の酸素透過性がよく分からないので、念のために周囲を涙成分で覆って、角膜への酸素供給をはかる計画である。

 さあ、あとは……実際に装着するのみ。

 そう。

 まだ、私は一度もこのコンタクトレンズを装着していないのだ。

 なにせ、元は魔物の目玉だからなぁ。なんとなく、逡巡してしまう。

 ま、コンタクトレンズの開発者も、結局は自分の目で試したと聞く。こればっかりは、覚悟を決めるしかあるまい。

 ……よし、腹は決まった。着けてみるか!


「え?そのコンタクトをつけたら、ま、魔力が見えるんですか?」

 夜。

 コンタクトレンズを装着した私は、リーゼッテとその効果について話をしていた。

「ああ。うっすらと霧のようなものが見える。集中しないと見えないが」

「へええ!」

「秘書子は……他より霧の色が濃いな。魔力量が多いと、濃く見えるようだ」

 最初は不具合かと思ったのだが、いろいろなものを見て回るうち、どうやら魔力らしいと気付いた。

 例えば魔道具などは、集中して見ると、魔力がどう流れているかが見え、作用の仕組みが分かる。面白い。

 リーゼッテは目を輝かせた。

「これはもう、ス、スカウターですね!」

「すかうたー?」

「あ、いえ、なんでもないです……。あの、それ、私も欲しいです。く、暗闇でも目が見えるようになるとか、他の効果もつけませんか?あると便利じゃないですか」

「まあ、構わないが……私は暗闇でも目が見えるしなぁ」

「え?」

 そういえば、リーゼッテに言ってなかったかな?

「アスラと契約したときから、暗闇でも目が見えるんだ」

「マ、マジですか?!いいなぁ、契約にそんなおまけまでついてくるなんて!」

 悪魔との契約に、「いいな」なんて言うなって。リーゼッテはこの頃、すっかりアスラがとんでもない悪魔だということを忘れている……。もっともこの頃のアスラは、悪魔感が薄れているけれども。

「まあ、せっかくだから、秘書子に合わせたものも作ろう。……コンタクトレンズとして売り出す訳にはいかないが、将来的に暗闇で見える眼鏡を作って売り出してみてもいいだろうし」

「そ、それ、いいですね。騎士団の人、欲しがりそうじゃないですか?」

 確かに!

 夜間の戦闘時には、重宝しそうだ。


 さて、その騎士団に、今年、アインベルガー家の長男ウィラードが入団した。

 もちろん、父親と同じ第2騎士団である。

 しかし父が騎士団長だろうと何だろうと、最初の2年ほどは、下っ端の従騎士としてこき使われるらしい。

 そんな彼が、今日も早朝に私の元へやって来た。南門にある第2騎士団本部の寮住まいだというのに、こんな朝早くからご苦労なことである。

「おはようございます、獣隊長殿!」

「……おはようございます、ウィラードさま」

「今日は、第2騎士団へ行くご気分でしょうか?」

「いいえ」

「残念です……」

 目に見えてシュンとして、彼は回れ右をした。

 ……まったく。

 早朝のランニング、コースを変えるか?

 ―――ウィラードが第2騎士団へ入団してから、私とウィラードの間では、頻繁にこのやり取りが行われるようになっていた。

 私がシュティル湖での訓練に参加しなくなって、第2騎士団の連中は何か物足りなさを感じているらしい。アインベルガー家へ気軽にお使いに行かせられるウィラードを使って、やたら「来い、来い」と言ってくるのだ。

 そしてウィラードは、私と実際に拳を合わせたことがないものの、"獣隊長"はすごいのだと言う先輩たちの話を素直に受け入れ、私に対して敬語の低姿勢で接してくる。正直、居心地が悪い。

 父親のバルドリックと比べて、ウィラードはかなりおっとりとした人の好さそうな好青年っぽい。

 先輩連中によるこの馬鹿げたお使いも、私の冷たい返答にも、一向に堪えることなく真面目な顔をして対応しているのは、驚くばかりである。リーゼッテは筋肉バカだと評していたが、どちらかといえば躾の良い大型犬といったところか。

 だがこんな調子では、将来、バルドリックの跡を継いでも大丈夫だろうかと余計な心配も抱いてしまう。たぶん、先輩たちがしっかりと鍛えることとは思うが。

『最近、主殿は筋肉集団と疎遠だのう。どうしたのじゃ?』

 去って行くウィラードを見送っていたら、いつの間にかアスラが足元にいた。

 私は彼女を抱き上げる。

「今日は、ハイノルトさまと秘書子を連れて、マイノの店へ行くからな。騎士団へ行ってる暇はない」

 というよりも、第1騎士団が合同で訓練するようになったので、前のように気軽に顔を出す訳にはいかないのだ。

 一部の第1騎士団の連中から、私は風当たりがかなり強い。平民で異国民で闇属性の人間など、信用ならないというのだから、仕方がない。

 もっとも第2騎士団はそれを分かっていて、私を引っ張り出そうとしている節が見える。私としては、あえて争いの種にはなりたくないのに。

『ふむ。外のあの店へ行くのか』

 私の答えに、アスラの赤い目がじっとこちらに注がれた。

『……妾も一緒に行きたい』

「そうなのか?」

 おや、珍しい。

「わかった、じゃあ、一緒に行こう。……何か欲しいものでもあるのか?」

 そういえばこの頃、アスラはリーゼッテにくっついていることが多いな。一体、どうしたというのだろう。

『うむ、実はの。今度、歌劇で貧しいお針子が裁縫の腕一本で成り上がってゆく話をするらしいのじゃ。最終的には、帝国一の店を持つようになるらしい。外の店には、お針子が多かったであろう?参考になりそうだと思ってな』

 なるほど。だから、リーゼッテやエルナの仕事も見物しているのか。

 アスラは意気揚々と胸を反らした。

『ちゃんとベンキョーしてから観ると、物語の深い部分にまで共感できるからのう!ヨシューは、しっかりせねばならん』

「うん、まあ、"あの男をぶっ殺さぬ理由が分からぬ"と言わなくなって、助かるよ」

 それどころか、今や私より弱者に対して親身だもんなぁ。悪魔廃業かも知れない。

 私は屋敷に向かって歩き出しながら、アスラに質問した。

「で、その歌劇は、贔屓の少女が主演するのか?」

『そうじゃ。……成り上がりの話ならば、あの子にピッタリだと思うぞえ。無垢な少女のように見せかけて、腹の底は真っ黒だからのー』

「え?」

『あの年で、あれだけ見事に腹黒い人間は珍しかろう。あの子は、何があっても性根を入れ替えることはなさそうじゃ』

「……そういう子なのか」

『うむ!大嫌いな先輩女優の前でも、必要とあらば"尊敬してます、憧れです!"と目をキラキラさせて言える、素晴らしい演技派女優じゃ。妾はいたく感心しておる』

 ……アスラが入れ込む子だから、どんな子かと思えば。

 ろくでもない子を推すもんだ。この辺りは、やはり悪魔なんだろうか。

 アスラの尻尾が、ぺしぺしと私の腕を叩いた。

『主殿も、あの子を少し見習った方が良いと思うぞ。主殿は腹黒さが足りぬ』

「ご意見、ありがとう。頑張ってみるようにする」

 おやおや。

 まさか腹黒さを見習えと言われるとはね。

 どんな子か、ちょっと気になってきたな……。

やや半端な感じになりましたが、これにて『成長期』編は終了、次から新章へ入ります。

そして新章準備のため、少しお休みします。12月から再開予定!

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― 新着の感想 ―
アスラ様一推しの腹黒とか見てみたいW
いつも楽しく読んでます! 了解です〜次回更新楽しみにしてます。 アスラ様が推しの少女のことを語ってくれたと思ったら腹黒属性でしたね(笑) 生きるための知恵と思えばそうなのかな〜とは思うけど、犯罪者…
偽善もまた善なり、ですね! 円滑なコミュニケーションは必要とあればリンちゃんもできるのですよ? 立場上媚をある必要がないだけで、媚び媚びリンちゃんをみたらアスラ様も惚れ直すことでしょう! お気に入りの…
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