表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゼロ転生 ~ 気ままなモブスタート ~  作者: もののめ明
成長期

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

145/146

いろいろと、開発や改良など

 侍女に案内されてアインベルガー家の応接室に入って来たエルナは、緊張しているのか硬い表情だった。

 だが、私の存在に気付くとホッとしたらしい。私に向かって頷いたあと、柔らかな笑顔を浮かべてハイノルトとリーゼッテの前に跪く。そして、スッと美しい礼をした。

 以前、一緒にマナー講義を受けていた頃とは比べものにならない。中街区で店をするようになって、動きがますます洗練されてきたようである。

 下手をすると、ときどき挙動不審になるリーゼッテより、貴族らしい雰囲気を放っているのではないだろうか。

 ハイノルトは感心したように頷いて、エルナと挨拶を交わした―――。


 エルナとハイノルトが軽く話をしたあとは、リーゼッテ、エルナ、眼鏡屋のイエルと共に新商会の店の商品配置などの相談だ。

 そしてそれが済むと、私はさっそく、新しい商品の作成をエルナに依頼した。

「この……眼鏡を入れる入れ物ですって?」

「そう。前にバッグを作っただろう?あのバッグの要領で、眼鏡に合うサイズのものを作って欲しい。眼鏡を使わないとき、鞄の中に入れて持ち運びたいんだ」

「ふうん……」

 エルナは眼鏡を取り上げて、形状を確認する。イエルが横から口を挟んだ。

「片眼鏡を仕舞う木の箱を改良していたのですが、どうせなら、もっとお洒落なものをとリンさんが言い出しまして」

「ええ、そうですね。……まあ、木箱の上から布を貼ることも出来るんですけど。当店のバッグの要領で作る方が軽くて良いと思います。……この眼鏡をお借りしてもいいですか」

「どうぞ!」

 イエルはホッとしたように頷いた。

 ―――実はオーディスの眼鏡を作り始めたときに、他の視力の良くない生徒からの眼鏡の受注も行った。学園で、リーゼッテとオーディスだけが眼鏡をしていると、まるで特別な関係のように見えるからである。

 すると生徒だけでなく、教師からも依頼が舞い込み、今、イエルは眼鏡作りに追われる日々となっていた。

 おかげで、以前は眼鏡ケースも自分のところで用意していたそうだが、そんな余裕がなくなったという。エルナが作ってくれるなら、彼としても有り難いのである。

 エルナは眼鏡を元々入っていた箱へ大事に仕舞いながら、私に向かってにやっと笑った。

「眼鏡を守るため、内側には綿を少し詰めてクッションを作った方がいいわね。……ねえ?眼鏡ケースと同じ布で、バッグも作りませんかっていう売り方をしてもいいかしら?」

「うん、いいと思うよ。……店にお揃いで作ったバッグと眼鏡ケースのセットを見本で置いておいて、好みの生地を選べます、としておくといいかな」

「そうね。……ふふ、若い学生向けに、華やかな布を仕入れてこなくちゃ!」

 エルナは、すっかりやる気満々だ。

 まったくもって、頼もしい。


 その日の夜は、いろいろと持って帰ってきた資料を整理しつつ、新たな付与魔法の研究に取り掛かった。

 とうとう隠蔽の魔法を付与したコンタクトレンズが完成したので、それにさらなるを改良を試みている最中なのだ。

 リーゼッテが私の横で魔石を手の上で転がしつつ、呟く。

「オーディスが、こ、このコンタクトの存在を知ったら、眼鏡よりそっちがいい!って絶対言うでしょうねー」

「そりゃ、言うだろな」

「はあ……。すっごい発明なのに……世の中に公表できないのは勿体ない~」

 何を言うやら。

 コンタクトレンズは、そもそも私の瞳の印を隠すために作ったものだから、世に知られる訳にはいかない。そのうえ、現状、作れるのが私一人なのである。一層、知られる訳にはいかなかった。

 何故なら、魔法が使えないはずの私が、魔法でこんなものを作っているからである。

「それにしても。な、何度くらいなんでしょう?社長の作る炎」

「鉄がすぐドロドロに溶けたから、最低でも1500度はあるかな」

「ふぇ~。わ、私も火の魔法は使えるけど、鉄は赤くなるくらいで、溶けたりしないですもんね。社長の炎とは、だ、だいぶ、温度が違うんでしょうね……」

 リーゼッテが目を丸くしながら感心した。

 さて、私がコンタクトレンズに魔法を付与するために使った方法だが……いわゆるメッキである。

 元々の方法のやり方を少し変えただけだ。

 つまり、魔石を水に溶かすのではなく、魔石単体をドロドロに溶かして、それに目玉片を浸けたのである。

 この方法だと、固着力が断然に強くなった。それに目玉片を触ったとき、ザラッとした感触もない。擦り潰したものでは、やはり粒感が残ってしまうものらしい。

 ただ、魔石をドロドロに溶かすのは、かなり高難度である。低い温度では、まったく溶けないのだ。悪魔の炎の力があるからこそ、魔石を溶かせたのだと思う。

 それと、浸けるのが魔物の目玉というのも良かったようだ。

 相当な高温なのに、目玉は溶ける様子がなかった。これがもしガラスで作ったものだったら、溶けてしまったのではないだろうか。

「私……メッキって、で、電気が必要と思ってました。溶かしたのに浸けるだけで、メッキって言うんですね」

 私がせっせと魔法陣を描く横で、リーゼッテが無知なことを言い出した。私は苦笑する。

「メッキの技術は、前世でも紀元前から行われていたよ。この世界でも、使われているんじゃないか?」

「そうなんですか?!」

「メソポタミアだったか……金属の腐食を防ぐために錫メッキを行っていた。溶かした錫を鉄器に塗るという溶融メッキだ。今、私が魔石でやっているのと同じやり方だな。そこから時代が下ると、アマルガム法という手法が生まれる」

「あまるがむ……?」

 リーゼッテが首を傾げる。

 私は手を止めて、リーゼッテを見た。

「奈良の大仏のメッキ法がそれだったはずだ」

「ええー!そ、そんなハイカラな名前なのに、奈良時代の日本でも?!」

 おいおい、ハイカラって……いつの時代の人間だ、リーゼッテは。

 前世で私よりかなり年下だったはずなのに、ときどき、妙に古い表現をする。

「ち、ちなみに、そのアマルガム法って、どーゆー方法なんですか?」

「水銀と金の混合液……まあ、これをアマルガムと呼ぶんだが、それをメッキしたい対象物に塗って、水銀だけ蒸発させ、金を固着させる方法だな」

「へえ~。……って、水銀?!あ、危ないですよね?!」

「うん。だから産業界では電気メッキが主流になったんだよ」

「ほへー……」

 間抜けな返事をしてから、リーゼッテは目を輝かせた。

「さすが社長です!ま、まさか、メッキのことも詳しいなんて!」

 詳しいといっても、ちょっと歴史を知っている程度である。大したことではない。

 私は肩をすくめた。

「スマホアプリの会社から始めたせいか……最初の頃は電子機器関係の会社と関わることが多かった。で、電子機器の半導体なんかは、メッキが使われているだろ?その関係でメッキのことを調べたんだ。―――秘書子はすぐ化粧品のことを言うが、うちはそれ以外の事業もたくさんある。幅広い知識を持っておかないと、困ることも多いんだよ」

「は、はい……先輩に、うちは多角経営なんだから、ぜ、全部の事業にもっと興味持ちなさいって言われたことあります……」

 ふうん、注意されたことがあったのか……。

 もっとも秘書子は、資料作成やスケジュール管理が上手かったから、私としてはその能力で充分だったが。

「ま、今世は秘書子が商会経営者だ。何が商売に繋がるか分からない。これからは、なんにでも興味を持って調べるのも良いと思うよ。強制はしないけれど」

「うう、そうですね。前世の社長に憧れてたので……が、がんばります……」

 うん、そういう前向きな姿勢を取るようになった辺り、だいぶ変わってきたよな。

 がんばれ、秘書子!

どうでもいい豆知識:

・鉄が赤くなる温度は600度~1000度、溶ける(融点)のは1538度

・メッキは、日本語(今回、初めて知りました…)

元々は「金を塗る」→「塗金」と呼んでいたが、アマルガム法で金が水銀に溶けて見えなくなるため、「滅金めっきん」と呼ぶように。で、この「めっきん」が変化して「めっき」となり、後に「鍍金めっき」という漢字が当てられるようになったらしいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
いつも楽しく読んでます! 社長の前世の秘書子さんへの豆知識講座(笑) やはりチート能力もありだけど、知識も無いと発展には行かないな〜! 貴族に生まれても追放とか国が滅びる恐れもあるし、生活知識は…
少なくとも鉄どころの融点ではないと、そうなると魔石の処理が気になりますね! 使用済みの魔石が障害を引き起こしたりしそうです 廃棄された魔石を巡り魔物が群がったり、魔物が強力になったりするのでしょうか…
更新お疲れ様です。 メッキってそういう由来だったんですなぁ…知らなかった! それはそうと水銀ですか…人体のみならず環境汚染もヤバいですからマジで取扱注意ですよね。リアルでもカカオが高騰してる理由は、…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ