新技術を形にするには手間と時間が掛かる
すみません。ハイスペだの、無双だの、タイトルにパワーワードを入れ過ぎかな?と思ったので、色々と考えた末、改題しました…。(旧題:ハイスペ女社長はモブ転生でも無双する)
あまり煽るタイトルは、たぶん良くない。いずれ主人公は強くなりますが、とりあえずシンプルな感じで…。
重魔鉄は手の平に乗るサイズでもずっしり重い。反対に軽魔鉄はその辺の石より軽い気がする。
「どう配分する?」
ガフがうっとりと魔鉄を撫でながら言う。美女を前にしているような目つきが怖い。
「その前に。色の違う魔鉄が並んでるけど、これは何が違うんだ?」
「産地によって少し特徴がある。ニアム近郊で採れる魔鉄は土属性が強くてな」
「つまり?」
「土属性の魔法を使う剣士に向いた剣が作れるってことだ。魔法の効果が1.2倍くらいになる」
「倍ではないのかぁ」
「ま、リンには関係ないだろ」
確かに関係ない。
「じゃ、どこ産でもいいんだから、こんなに並べる必要ないだろ」
「オレの秘蔵コレクションを出してきてやったのに、必要ないとはなんだ!」
あれ、怒られた。
頼んでないのに理不尽だ。
「……いや、だって、大事な秘蔵コレクションなら、使う訳にはいかないじゃないか」
「何を言う。未知の剣になる可能性があるなら、それこそ秘蔵魔鉄の出番じゃないか!輝かしいお披露目をさせてやることこそ、オレの役目だ!」
ギルとそっと目を合わせた。
まさかガフが魔鉄フェチとは。こんなに熱く語られるとは予想もしていなかった。
「あ~…でも、まだ試作段階だし。失敗する可能性だってある。一番安い魔鉄で試してみないか?」
「む?……ああ、そうか。そうだな」
え?失敗する可能性を考えてなかったのか?!
新しい製法を試すっていうのに、剛毅だなぁ。
―――ということで、最初はニアム産の普通の魔鉄と重魔鉄を組み合わせることにした。
作り方は……ホットドッグをイメージしてもらいたい。パンが魔鉄。間に魔鉄と重魔鉄を半分ずつ入れる。剣の持ち手側が魔鉄、先端側に重魔鉄が来るような塩梅だ。これを炉に入れては叩くのを繰り返す。
「これでくっつくのか?!」
ガフは半信半疑だ。
何故、硬度の違う鉄が叩いてくっつくのか科学的には解明していないと聞いた覚えがある。ましてや魔鉄。そもそもくっつくかどうかも分からない。
「まあ、くっつく鉄もあるんだ。とにかく、作ってみよう」
そして、そこから地獄の3徹が続くこととなった……。
ガフは鍛冶の鬼だった。一度、鎚を握ると人格が豹変する。軽い食事休憩は取らせてくれたが、それ以外はずっと働かされた。
というより、子供の私に3徹もさせるか?!しかも怪我人のギルさえ散々、扱き使ったし。
「リン……2度とガフに新しい武器を頼むな……」
汗と煤でドロドロの顔のギルが呻く。
私は声もなく頷いた。
さて、結論として。
最初の3本はまともな形にならず失敗だったが、炉の温度を落とせば形になることが分かった。日本刀は西洋剣と違って炉の温度が低い特徴があるのだが、やはり魔鉄も同じらしい。あとは最適温度を探る戦いだ。この戦いが長かった。
ちなみに、剣が完成した訳ではない。今回は刀身の“元”が完成しただけで、刀の形にもなっていない。ここから刀の形に打ち延ばしてゆく工程が必要だ。まあ、刀1本を作るのに何日も掛かるらしいしな。当然だろう。
でもってガフはこのまま刀身作りに取り掛かるとのこと。ただ、ここからはドワーフ仲間を呼ぶと言っていた。丁寧な打ちが必要なので、私では心許ないらしい。
いやあ、それにしてもガフの体力はすごいもんだ。3徹の疲れがまだ見えない。剣の直しは多いが、剣を1から作るのは久々だからと張り切っている。1から作るときは、1週間くらい寝ずに作業するのが当たり前だったと言うが、本当だろうか?
「むふん。違う硬度の魔鉄をこんな風に組み合わせられるとはなぁ。素晴らしい工法だ!こりゃ、一大革命が起きるぞ」
「そうか?……まあ、とにかく私の双剣を一番に仕上げてくれ……」
とりあえず、早く帰って風呂に入って寝たい……。
丸2日、寝倒した。
起きたら、猛烈にお腹が減っていたので、ギルと2人でいつもの食堂へ行った。通常の倍以上の量を注文する。
「お、お前ら、食料を食い尽くすつもりか?」
食堂の親父が目を剥く。
うん、それが出来そうなくらいペコペコだ。
さて、ガフの工房に籠り、更に爆眠していた間に街では一騒動あったようだった。イーロン商会のブンが、“ブロイが悪事を企んでいる!”と騒ぎ立てて何やら大変だったのだとか。恐らく自分の悪事がバレそうだと気付いて、誤魔化そうとしたのだろう。
結局、多くの従業員がブンの横暴さには腹を立てていたらしく、私が見つけたあの裏帳簿の件以外にもあれこれ暴露されて捕まったそうだ。
「外市にあんまりブロイさんは来ないんだけどな。混乱した商会を収めていく手腕はなかなかだったよ。あの人もなぁ、別の街で暮らしてたのに親父さんと兄貴さんが急に亡くなって跡を継ぐことになったからなぁ。そのうえ、評議員まで。さすがに全部に目は行き届かなかったんだろうなぁ」
おや、次男坊だったのか。
「別の街に住んでたのに、帰ってきてわりとすぐ評議員に選ばれたんだな」
「どっかの国の文官してたんだよ。頭いいんだよ、あの人。ぜひ評議員に入ってくれって街のお偉いさん皆が頭を下げたらしいよ」
「へえ!」
「兄貴さんが店を継ぐからと、10代くらいのときにニアムを出て行ってな。苦労して勉強して、王宮で働いてたらしい。でも、親父さんと兄貴さんが違う街の取引先へ行った帰りに魔物に襲われて死んじまって。イーロン商会が潰れるのは忍びないってんで戻ってきたんだ」
苦労して手に入れた職を捨てて戻ってきたのなら、大事な商会を汚すブンの行為は本当に腹が立ったことだろう。きっと文官だったから商売の細かいことが分からず、不正に気付かなかったんだろうな。
うっすらと目の下に隈のあった体格のいい壮年の男のことをぼんやり思い出していたら、食堂の入口がざわざわした。
振り返ると……ちょうど、思い浮かべていた男がそこに立っていた。
「リン。君に話がある。ちょっと商会の方まで来ていただこう」
イーロン商会のブロイだ。
ちなみに、タイトル付けは苦手です。
最近流行りのAIさんに、粗筋を書いてタイトルを考えてもらったら、どんな感じになるんでしょうね?私が付けるよりいいものが出来上がるかも。
でも、タイトルではなくストーリー本体―――粗筋を書いて、私よりも遥かに素晴らしい10万字超え作品を数分で仕上げられたら、もう絶対、泣く……!




