表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
132/138

信用の基準

更新、遅れました…

 部屋へ戻ると、ホッとした顔のリーゼッテが「お帰りなさい!」と迎えてくれた。

 食器を返しに行って、かなり遅い戻りになったが……じっと我慢して留守番していたようだ。

 とりあえず、今回の件はリーゼッテに話しておかなくてはならないだろう。

「話があるんだが、いいか?」

 そう切り出すと、リーゼッテはすぐに神妙な顔で頷いた。


「……な、なんで、私抜きでそんなことしたんですかぁ!」

 一通り、先ほどまでの件を説明したところ。

 リーゼッテが爆発した。

「だって、第二皇子とは関わりたくないと言っていたじゃないか」

「いや、言いましたよ、言いましたけどね?!で、で、でも、それとこれとは別です!こういうことは、事前に相談してくださいよぉ、だって私には、この世界の知識があるのに!」

 リーゼッテの言う知識は、前世の小説の知識のことだろう。

 でもそれは、本当に合っているかどうか、分からないからなぁ。

「第二皇子が悪魔つきということは、知っていたのか?」

「ええーと……そ、それは小説には書いていませんでした……」

「仮面の学園長の正体は?」

「が、学園長はそもそも、小説に出てきません」

「それじゃあ……どうやって小説の中のリーゼッテ……いや、リーゼロッテか?彼女は、悪魔を喚び出したんだ?悪魔を喚び出すには、それなりに手順がいるはずなんだが」

 リーゼッテは難しい顔になった。

 腕を組み、うーんと天井を見上げる。

「リーゼロッテって、しゅ、主人公じゃなく敵ですからねー。あんまり詳しく書かれてなかったんですよねー。どうやら禁書を読んで、知識をつけたみたいですけど」

「その禁書はどこに?」

「……すみません、分かりません」

 私は肩をすくめた。

「肝心な部分が全部不明だ」

「う、う、う……私、役立たず……」

 がっくりとリーゼッテは崩れ落ちた。

 ま、最初っから期待はしていない。しかしリーゼッテは崩れ落ちつつも、恨めしげな調子で言った。

「で、で、でも、社長はあまりに体当たりすぎます。前世の社長の武勇伝はいっぱい聞いていましたが……無茶をしすぎです。ぜ、前世と違って、今世は命の危険があるんですよ。もう少し慎重に動いてください」

 私の武勇伝ってなんだ?

 何かあっただろうか?

 どっちにしろ、私だって前世と今世の違いはよく分かっている。

「今世は平民の命の価値が軽いからこそ、早く動かないと駄目だろう。下準備をしっかりしてから、と考えていたら間に合わなくなる。思い立ったが吉日、だ。もっともビジネスだって、ベストコンディションじゃなくても、決断して勝負をしなければならないときもあるけどな」

「えええ~、そ、それで全部上手く行くのは、きっと社長が運の良い人だからですよ~。わ、私なんて、思い立ったが吉日を実行したら、全部、失敗ですもん……。ちゃんと下準備してからの方が上手く行きます。社長が特別すぎるんです……」

 リーゼッテが呆れたように首を振った。

 うーん。私だって失敗したことなんて、山ほどあるぞ。

 でも失敗を恐れていては、上手くいくものも上手くいかない。だから、何度失敗しても恐れずに前へ行く。

 とはいえ、これも性格の違いか。

 何より、リーゼッテは"秘書"だからな。下準備をきちんとしなければ落ち着かない性格の方が、助かる。

「ま、これで小説の筋とは完全に離れたってことだ。もう、悪魔の心配はしなくていいな?」

「そう……でしょうか……?」

「ということで、今後は秘書子も、もうちょっと積極的に他の生徒と関わっていこう。商会を立ち上げるなら、顧客を広げていかないと」

「えー!」

 途端にリーゼッテはピョン!と飛び上がったが、ここからは本当に社交は頑張ってもらいたい。


 アスラの姿が見えないと思っていたら、夕食どきに帰ってきた。

「おかえり、アスラ。……ああ、そういえば」

 アスラの分のスイーツを用意するために立ち上がり、私はふと、気になっていたことを思い出した。

 なお、私とリーゼッテの分はすでに配膳している。

「学園長に、アスラの正体はバレていると思うか?どうもあの人は得体が知れなくて、気にかかるんだが」

「うむ」

 当然のように人型になってテーブルの席についていたアスラは、首を軽く傾げた。

「妾が何者かは、まあ、見抜けぬと思うんじゃが。それに、妾はあの男を見たが、あの男は妾を見ておらぬであろ。一応、あの男の目には触れぬようにしておるぞ」

「だよな。従魔は連れて来るなと言われていたから、アスワドもミチルも見ていないはずだ。なのに、問題ないと言い切るのは腑に落ちない……」

 私が席に着くのを待っていたリーゼッテが、目を瞬かせる。

「学園長は社長の味方みたいですけど。そ、それなのに、気になるんですか?」

「えらくあっさり学園長を信じるな?」

「え、だって……ぜ、絶対、美形ですもん、学園長。仮面で隠されていても分かりました。ワケ有りで顔を隠す美形……!まあ、そりゃあ悪役の可能性もありますけど、第二皇子が悪役ですからね。その可能性は低いと思うんですよ~」

 思わず頭を抱えそうになった。

 根拠が酷い。どうして、小説ベースで考えるんだ。そのうえ、小説の中にも出てきていない謎の人物である。美形(推定)というだけで信じてないか?

 リーゼッテは無視し、アスラとの会話を続ける。

「学園長は何者か、分かるか?」

「そうさのー……仮面に何か魔法を掛けておるで、良く分からぬな。しかし主殿が気になるなら、調べてくるぞえ」

「いや、下手に近付かない方がいいだろうから、それはいいよ」

 学園長は、本当に不思議な空気感を放っている。

 助けてもらったのに信じることが出来ないのは、そのどことなく人とは隔絶した空気感のせいだ。

 まあ、考えても仕方ないか。

「アスラさまの正体……が、学園長にバレそうなんですか?」

 先ほどの発言をスルーされたことを気にする様子もなく、リーゼッテが口を挟んできた。

 アスラがムッとした顔になる。

「見抜けぬと言うたであろ」

 そして、ずいっとリーゼッテの方へ身を乗り出した。

「この、主殿の愛が籠もった形代!これはテネブラエの魔石混じりの特殊な土で出来ておってな。しかも、核に大きな魔石を入れておる。それらが妾の悪魔としての気を、隠すのじゃ」

「そうなんですか……!」

「ゆえに、どちらかといえば、妾を巧妙な魔道具と勘違いするのではないかえ」

「へええ……」

 私も「へえ」だ。

 悪魔としての気は、隠れているのか?知らなかった。

「ま、そもそも、妾ほどの悪魔が受肉せずに地上におるなど、誰も思うまい」

「そ、そうですね……喚び出せるワケがないと、み、みんな思ってますもん」

 リーゼッテが深く頷くと、アスラは満面の笑みになった。

「そうであろう!つまり、それだけ主殿が素晴らしいということじゃ!」

 はいはい。


 その夜。

 コルネリアが寮の消灯時間を過ぎているのに、部屋へ来た。

「リン……第二皇子のキーガンさまが、城から飛び降りて亡くなられたわ!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
コルネリアさんにどこまで情報を共有したものか 普通なら疑心暗鬼に陥りそうですが、社長の決断力を信じます! 自滅した可能性や過激派に葬られた可能性もありますが、偽装死からの聖なるマッチョに成って再登場…
いつも楽しく読んでます! 皇子の事件だしその後気にしてたらこれとは? 自身で決断したのか? まわりから圧力かけられた? 最後がリンちゃんのことを道連れにしようと足掻いてたから、まだまだ粘るかと思っ…
悪魔から生贄になることを迫られたか、単純に万事休すと自殺を図ったか、貴族のいわゆる「病死」と同じようなものなのか…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ