双剣をレベルアップさせてみたい
ファーロの件が片付いた翌日、ガフの工房へ行った。
行くなり、問答無用で剣の打ち直しの手伝いだ。ギルがいない分、倍、働かないといけない。ガフは本当に遠慮がない。
しかし、この頃は体力も増してきたので、私一人でももうヘロヘロにはならないのだ。
仕事が終わると、私は自分の双剣を机の上に出した。
「ガフ。双剣の先の方を重くして欲しいんだけど。出来るか?」
「重くする?扱いにくいだろう?」
「この間、怒った大爪灰色熊が切れなかった。スピードを足しても、まだ力が足りないみたいなんだ。改良があるとすれば、剣を重くして斬るときの力に加えることかと」
剣の材料は、魔鉄だ(鉄鉱魔石を精製して出来る)。
この魔鉄、実は幾つか種類がある。軽魔鉄、(通常の)魔鉄、重魔鉄。これに超レアな上魔鉄というものがあるらしい。
一般的に剣は普通の魔鉄で作られる。軽魔鉄は主に生活雑貨の使用が多いらしい。一応、軽魔鉄でも剣は作れるが、しなやかで軽いという利点と折れやすいという問題点が生じる。レイピアのような刺突用の剣ならば、軽魔鉄が使われることもある。
一方、重魔鉄は城の鉄門など防衛的な用途でよく使われている。また、斧やハンマーなど重さを主とする武器にも使われるそうだ。
「重魔鉄で作れってことか?そりゃ、できんワケじゃないが……それをずっと持ち歩くことになるんだぞ?狩りのときには疲れてロクに動けんじゃろ」
「大丈夫」
にやっと私は笑った。
両腕と両足に取り付けていた重りを外す。
「以前から重りは付けていたんだが、ここ数日は更に重くして身体強化を常時かけた状態で過ごしていた。もう5日経つけど、特に問題はない」
「お前さんが末恐ろしいわ」
ガフは頬を引き攣らせて呟いた。……褒め言葉だと思っておこう。
「しかし……双剣の先だけ重くするのか?」
「うん。その方が振り回したときに遠心力が強くなって良いだろう?」
「2種類の違う魔鉄を、最初に均一に混ぜるならともかく、根元と先端の濃度を変えるのはかなり難しいぞ。そもそも、種類が違うと混ざりにくいんだ」
「ガフなら出来る」
「根拠のない励ましは結構。オレは自分の腕を知っている。それはつまり、出来ることと出来ないことがちゃんと分かるってことだ」
出来ないのか……。
いや、まだ試してないことがある。
「えーと……造込みっていうんだったかな?その製法を試して欲しいんだけど」
おぼろげな知識を引っ張り出す。
そう、日本刀の作り方だ。あれは、硬さの違う鉄で出来ていたはず。
とはいえ日本刀はそもそもの材料が玉鋼という不純物の含有量が極めて少ない純粋な鉄らしいので、魔鉄で同じようになるかは分からない。分からないが……試す価値はあるはずだ。
「造込み?なんだ、それは」
ガフの目がキランと光った。
「お前、なんか最近、出歩きすぎじゃね?」
宿に帰ったら、開口一番にギルから文句を言われた。
……お前は妻の遊行を咎める夫か?私がどこで何をしようと勝手じゃないか。
「この間は夜中にこっそり出て行ってたしな。何してるんだよ」
ち、寝ていると思ったのに。
「どうして、いちいちギルに報告する必要があるんだ」
「えっ……いや、別に報告とか……オ、オレはお前を心配して……」
「ニアムの街の中で、危ないことなんか無い」
なんせブンが雇ったゴロツキだって相手にならなかったしな~。
しかし、ギルが分かりやすくシュンとしてしまったので、少し態度を改めることにした。
「今日も行ったが、明日も明後日もガフのところへ行く。ちょっと武器の改良をしているんだ」
「改良?」
「そ。熊を倒せなかったからからな。ギルも横で見るか?」
「ああ!」
誘ったら、すぐに満面の笑顔になった。
……うーん、骨折の後遺症だろうか?ギルが素直で不気味だ。
ちなみに昨日からグルド達は狩りへ行っている。付いて行こうかと思っていたが、留守番のギルが淋しそうな目をしていたし、双剣の改良もしたかったことから残った。この空白時間はしっかり有効活用したい。
ガフの工房へ行くと、床にずらりと種類の違う鉄が並んでいた。
「おう。ギルも来たのか。なんだ、腕を折ったのか?未熟なヤツだな」
「リンが失敗したせいだよ」
「ほう。そりゃ災難だ」
……え?ギルの骨折は私のせい?
うーん……まあ、確かに、そう言えなくもない。
「お前さんは身体強化ができないんだったか?」
「ああ。代わりに魔法は使えるけどさ。小さい火を起こすだけだ」
ギルの魔法属性は火。指先に小さな炎を点すことが出来る。マッチ代わりになるので、野営のときは便利である。だが、攻撃に利用できるほどではない。
「残念だなぁ。風か水なら、防御に使えるのに」
「そうなのか?」
「お前んとこのシムとアラックがそうだろ。シムは風、アラックが水だ。相手の攻撃を受けたときに間に発生させて衝撃を軽減させたり、吹っ飛ばされたときは背中を守るのに使うと聞いたことがある」
それは知らなかった。
ギルも初耳だったからだろう、目を丸くさせている。
「あいつら、あんまり魔法を使ってる風じゃなかったのに!」
「防具に魔法陣を描いておいて、自動起動させるのさ。戦いの最中にいちいち唱えてるようじゃ、間に合わん。で、そっちに魔力を回すから普段は魔法を使わないんだろ」
「へえ……」
なんだそれ。いいな!
魔法陣を描いて―――ということは、誰かに描いてもらえば、私にも付与できるんだろうか?
わくわくして聞いたら、それは無理だと返された。
「魔法陣を使う魔法は、魔法陣と描いた本人の魔力の2つが揃って発動する。しかも術者は陣に接してないとダメだ」
「他人の描いた魔法陣は使えない?」
「というか、魔法を使えないお前さんでは使えないって話だな」
くそ、やはり私は魔法に縁がないのか……。
ちなみに魔法陣を使う魔法は通常の魔法より高度らしい。そのため専門に習う学校もあるという。
「ああ、そういえば。精霊や悪魔が使う魔法は種類が違うからな。そっちの魔法陣が描かれた防具があれば、お前さんでも使用可能じゃないか?まあ、起動するかどうかはわからんが」
「そんな防具があるのか?」
「どっかの王族とかが持ってる。超高級品だな」
「じゃあ、目にする機会もないか……」
残念。
というか、悪魔がいるのか、この世界は。たまに私の親が悪魔だ魔王だと言われるが、比喩的表現として深く考えていなかった。
……悪魔。ちょっと見てみたいな。
出遭った途端に瞬殺でなければ。
 




