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目覚めれば、モブ

新作開始します!

主人公が重要人物と出会ったあとはかなりコミカルな展開になる予定ですが、それまではやや殺伐とした雰囲気で進むかも……。

 私はいわゆる“勝ち組”だ。

 まず、生まれたときから可愛かった。

 父は外資系の会社役員、母はネイルサロン経営。都内の一軒家で何不自由なく育ち、多くの人からちやほやされた。

 頭も良かった。勉強で苦労した覚えはない。

 そして高校のときに、ふと思い付きで作ったスマホアプリが大当たりし、起業する。

“キュートな女子高生社長”として有名になりTVにも出て、その後は美容や雑貨販売などにも手を出しトントン拍子に事業を拡大する。

 結婚には興味がなかったので山ほどの求婚は蹴散らしたが……恋人は常にいた。

 まあ、恵まれた人生だったと思う。それに見合う努力もしたけれど。


 ただ、死に方は少しいただけない。

 地方の工場でトラブルが発生したので、急いでヘリで向かう途中―――原因不明の機体異常によりヘリが落下、炎上。

 とはいえ人生の絶頂期に苦しむ暇もなく死んだのなら、これも幸せと言えるだろうか?


    *    *    *


「痛っ……」

 思いっきり腹を蹴られ、壁に頭を打ち付けて目の前に星が散った。

 その瞬間、一気に記憶が甦る。

(………!)

 混乱したが、再び薄汚れた足が向かってきたのを見て慌てて意識を切り替えた。現状把握は後だ、先にこいつを何とかしないと。

 飛び起きて、視線が予想以上に低いことに愕然とする。そして、体に力があまり入らない。

 ちらっと見た自分の手足は細くて汚れていて、頼りなかった。 

 どういうことだ。いや、それよりも。

 これで眼前の男を倒せるか?

 立ち上がるときに掴んだ土を男の目に向かって投げつける。相手がそれで怯んだ隙に、右手を硬く握って遠慮なく全力で股間を殴りつけた―――。


 声もなく地面に沈んだ男にホッとしながら、周囲を見渡す。

「こっちだ、チビ」

 物陰から薄汚い少年が私を招く。

 ……見ていたくせに、助けに来なかったな。

 ムッとしながら睨みつけたら、少年は肩をすくめた。

「お前がヘマをやってなぐられたんだ。オレがたすける義理はない」

 なるほど?一理あると言えば、あるか。

 私は軽く鼻を鳴らして、少年とは反対方向へ向かって歩き出した。

「おいおい!ムシするなよ」

「助けないようなヤツに付いていく意味がない」

「あー…まあ、たしかに そうだな」

 少年は頭をがしがし掻いた。

 それから私と倒れた男を見比べる。

「……今ならここを抜けだせる。いっしょに にげないか」

「その誘いなら、付いていってもいいかな」

「よし。コイツ、カギをもっていたはずだ。くびわを外してにげるぞ」

 私と少年は気を失っている男の懐を探す。

 目的の鍵を見つけ、それぞれの首輪を外して急いでその場を後にした。


 さあ、現状把握を始めよう。

“あたし”は貧しい移民の子として生まれた。半年ほど前まで両親とともに農場で働いていたが、ある日、夜盗が現れて農場の主人達は惨殺された。逃げればいいのに、両親は主人を庇おうとして共に殺された。

 一方の私はといえば、身一つで逃げ出したものの、数日後に別の盗賊団に捕まり、逃亡防止の首輪を着けられて下働きとして扱き使われることとなった。

 今日は皿を割ったとかいう理由で殴られた気がする。

 その途中。

“あたし”ではない“私”の記憶が脳内に炸裂した。

 あれは―――前世の記憶というやつじゃないだろうか?

“社長”と呼ばれた前世で、秘書があれこれ勧めてきた転生物と呼ばれる小説や漫画のことを憶えている。頭を打った拍子などに、前世の記憶を思い出す始まりが多かった。その状況そっくりだ。あんなもの、都合のいいファンタジーだと思っていたけど……まさか本当に自分の身に起こるとは。

 そして―――そういう転生物語では、大体、乙女ゲームとかいうやつの主人公またはライバルの悪役令嬢になっているというパターンだったが……

 川面に映る自分の顔を撫でる。

 凹凸の少ない平坦な顔。細い吊り目。凡庸で記憶に残らない顔。

 これはたぶん……いわゆる、モブというやつでは?

 ふ、ふふふ……。

 最高だ!

 正直、前世は“可愛い”や“美人”が先行しすぎてとても面倒だったのだ。やっかみも多かった。

 同時に、四十代も半ばになってくると“美人”を維持するのはかなりの努力を要した。食べたい物を我慢し、定期的にジムで体を絞る日々。どれだけ忙しくても睡眠はきっちり取らないとすぐ肌に表れる。前世で後悔があるとすれば、人生で一度くらい、暴飲暴食して徹夜で遊んだりしてみたかったことだ。

 ああ、もう、あの馬鹿馬鹿しい努力はしなくていいんだ!

 モブ転生万歳!


 一緒に盗賊団から逃げてきた少年はギルと言った。

 私は……“あたし”のときにあった名は可愛い花の名前で今の私にそぐわない気がし、前世の名の一部を取って“リン”と名乗った。

「リンは行くあてはあるのか?」

「ないよ。親は死んだ」

「じゃあ、とりあえず おたがいに助けあおうぜ」

「……そうだな」

 今の私は5才か6才。よく分からないこの世界で1人で生き抜くのは、さすがに難しいだろう。

 一方、ギルは4、5才上くらいか。こちらもまだまだ子供で頼りになるとは言えないが、盗賊団に捕まるという似た境遇同士、まったくの他人よりは親近感が持てる。細身だが筋肉もついており、私よりは強そうだ。

 肩より長い赤茶けた髪を一つにくくり、三白眼の鋭い目は深い緑色。男前―――というには、かなり野性味が強い感じだ。だが、あと数年もすれば、“ちょいワル”感に惹かれた女の子がいっぱい寄ってくる可能性はある。

 うーん、残念ながらコイツと私とでは、兄妹という設定は通らないな。

 私の髪は黒髪だ。目は細すぎて川面では何色か分かりにくかったが、たぶん、黒瞳だろう。まったく似ていない。たとえ同じ赤茶けた髪にしても無理だ。明らかに別人種。

 ―――寂れた街道から少し逸れ、小さな川の横で野営しながら今後の計画を2人で話し合った。

「盗みをしながら旅をするのは却下だ」

「なんでだよ。ほかに方法がないだろ。オレ達のようなガキは、どこもやとってくれない」

 私達がいるのはゾア王国という大陸の西端の国だそうだ。土地が痩せていて、特産もなく貧しい国らしい。

 なので、東にあるエルディーア国という大きな国へ行こうとギルは言う。そこは温暖で、物の溢れる豊かな大国なんだとか。

 今、そこへ行く手段で揉めている最中である。

 ギルは、食べ物や路銀をかっぱらいながら野宿で旅をするアイディアを出してきた。

「まあ、みつかったらぶたれるが、パン1コや銅貨1枚くらいなら大目にみてくれる。とくにお前、チビっこいからな。かわいそうにおもって、かえってめぐんでくれるかもしれないぞ」

「そうじゃない大人に見つかったらどうする?ボコボコにやられて、骨でも折れたら終わりだ」

「上手なやられ方をおしえてやる」

 話にならない。

「人の好さそうな旅商人を探す。賃金無しでタダ働きするから、途中まで連れて行ってくれと頼みこもう」

「えええ~!タダ働きなんて、じょうだんじゃねぇ!」

「隊商に紛れこめたら、安全に旅が出来るじゃないか。道中、獣に襲われたり、盗賊に遭ったりする可能性を考えろ。大人数なら、襲われたときに逃げやすいだろう?」

「なる…ほど……。お前、アタマいいな」

 ギルは教育の必要有りだな。

 そうそう、教育で気付いた。私も商人から文字を教えて貰おう。出来れば、地理や国と国の関係なども知りたい。知識はどれだけあっても困らないのだから。

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