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ちぇんじ・おん・ざ・すくーる!

作者: 穂村一彦

(高校の屋上)

     

増岡先生:いっちに、さんし! ごーろく、しちはち! ふぅー。やっぱ屋上でする体操は気持ちいいなー。身も心も軽くなるようだー。

町田カエデ:あ……増岡先生……

増岡先生:おお、町田! どうした。お前もラジオ体操か? よし、先生と一緒にやるか! ラジオ体操第一からでいいか? 第二か?

町田カエデ:……どいて。

増岡先生:え?

町田カエデ:私は……こっから飛び降りるんだから!

増岡先生:えっ、えっ? なに? それは、ラジオ体操、第なに?

町田カエデ:第一でも第二でもないわよ! しいていうなら……ダイブよ。

増岡先生:…………いや、先生は体育の先生だから、英語使われてもよく分からないんだけど……

増岡先生:えっと、町田はここから地面に向かって飛びおりたいのか?

町田カエデ:……そうよ

増岡先生:やめとけ。……あのなぁ、お前の気持ちも分かる。先生も若いころはそうだった。自分の筋肉はどこまで頑丈か試したくてしょうがなかった。

増岡先生:でも、お前にいきなり屋上は無茶だ。まずは3階にしとけ。

町田カエデ:先生、バカじゃないの?

増岡先生:え。

町田カエデ:なんで女子高生がわざわざ屋上まできて、自分の筋肉強度を確かめなきゃいけないのよ!

増岡先生:ええー? だってラジオ体操でもないんだろ? 他に屋上に来る用事なんてあるか……?

町田カエデ:もういいからさっさと出てって! 私は……これから、自殺するんだから。

増岡先生:そうか、すまん…………自殺!?

町田カエデ:……そうよ

増岡先生:や、やめろよ、自殺なんて! 自殺なんてしたら……死んじゃうぞ?

町田カエデ:当たり前でしょ! いいの! 私は死にたいんだから!

増岡先生:死にたいってなんで……? まさか、学校で……肉離れでも起こしたのか?

町田カエデ:死なないよ、そんなことで!

増岡先生:じゃあ何だ? 何でも相談してくれよ!

町田カエデ:……失恋したの。

増岡先生:そっちかー!

町田カエデ:なに?

増岡先生:不得意分野が来てしまった……

町田カエデ:筋肉以外で、先生の得意分野って何?

増岡先生:おいしいギョーザの作り方くらいしか……

町田カエデ:それだけ!? それでよく相談にのるとかいったね!

増岡先生:いちかばちか、ギョーザの相談が来ることに賭けてみたんだが、ダメだったか……

町田カエデ:いくらなんでもギョーザがまずかったくらいで自殺しないよ!

増岡先生:いや、しかし、大丈夫! 恋の悩みでも先生相談に乗るぞ!

町田カエデ:本当に? 頼りになるの?

増岡先生:ちょっと前の先生じゃ無理だったかもしれない。しかし先生もこの二カ月で勉強したんだ。その、実はな、先生も、二か月前に、ある女性に恋をしてな……

町田カエデ:ふーん

増岡先生:相手が誰か知りたいか?

町田カエデ:いや、どうでもいい

増岡先生:ええー。聞いてくれよ。ちょっと相談に乗ってほしいんだ。

町田カエデ:なんで私が逆に相談に乗ることになってるの?!

増岡先生:頼むよ! 他に相談できる人がいないんだ!

町田カエデ:友達いないの?

増岡先生:いるよ! いるけど、他の友達とは、おいしいプロテインとか塗り心地のいいオイルとか、そういう会話しかしないんだ!

町田カエデ:まぁ……いいわ。急ぐもんでもなし。死ぬのは三十分後にしてあげる。

増岡先生:そうか、よかった!

町田カエデ:あたし、三十分後に死ぬって言ってんだけど?!

増岡先生:大丈夫。先生の恋物語は、聞いてるだけでも胸踊る、楽しい恋物語だから。

町田カエデ:わかった。滑稽こっけいな恋物語なのね。

増岡先生:いやなふうに言い回し変えるなよ……

町田カエデ:で、始まりは?

増岡先生:あ、ああ……そのな、恋に落ちたのは二カ月前なんだけどな。

町田カエデ:はいはい

増岡先生:先生その頃生まれて初めて風邪をひいたんだ。

町田カエデ:生まれて初めて……

増岡先生:だから風邪の治し方なんて分かんなくってな。困ったから、もう全裸になって校庭でずっとカンプマサツしてた。

町田カエデ:あ! 二カ月前に校庭に不審者出たって校内放送流れた! あれ、先生だったの?

増岡先生:おお、誤解うむようなマネをしてすまん。

町田カエデ:誤解って言うか……普通に不審者だよ。

増岡先生:で、そのときに、保険室のミドリ先生がな、そんなことしてたら余計風邪が悪化しますよと、俺に毛布をかけ、バファリンをくれた。ありがとう、ミドリ先生……

町田カエデ:ミドリ先生は生徒にも甘いからね。

増岡先生:あと、事情を話して、警察も追い払ってくれた……

町田カエデ:そっちのほうを感謝しなさいよ!

増岡先生:ま、まぁ、そんな感じで……な、先生は、その……ミドリ先生を、す、す……す…………

町田カエデ:好きになったわけね

増岡先生:うおお! 言うなよ、恥ずかしい! もうっ!(背中を叩く)

町田カエデ:ちょっ! 押さないで……! きゃあああああ!(柵から落ちそうになる)

増岡先生:うわっ、町田!

町田カエデ:たすけて! いや! 死にたくない!

増岡先生:つかまれ! おお、危ない……! こら! まだ自殺しないって約束しただろ!

町田カエデ:他殺よ、これは!

増岡先生:ひっぱりあげるぞ! せーのっ……うおりゃああっ!

町田カエデ:ちょっ、ひっぱりすぎ……!

町田カエデ:(二人の頭がぶつかる)

町田カエデ:いたいっ!

増岡先生:いっだぁっ!

      

(二人、頭をぶつけて気絶。数分後)

      

町田カエデ:(中身、増岡先生)

町田カエデ:うぅ、いたたたた……えーと……ああ、そうだ、町田と頭をぶつけて気絶してたのか……

町田カエデ:町田、大丈夫か? ん? なんだ、俺が寝てやがる。こんなときにノンキに寝やがって。まったく、しょうがないなぁ、俺は。

町田カエデ:…………んっ!? 俺!? この目の前に倒れてるの、俺か!? 間違いない。大理石のような鍛え抜かれた筋肉。俺だ!

町田カエデ:じゃ、俺は誰だよ!? ……うおお!? 俺の上腕二頭筋じょうわんにとうきんがこんなにも貧弱になっている!

町田カエデ:俺はいったいどうなって……! ん? 俺がはいてる上履きの名前……ま、ち、だ……町田!? 町田の体か、これ!

町田カエデ:ということは、いま俺の体に入ってるの、町田!? おい、起きろ、町田! 大変だぞ!

町田カエデ:くそっ。起きない。とりあえず保健室のベッドにでもつれてくか……

町田カエデ:……重いっ! 重すぎるぞ、俺の体! 体脂肪率4%はだてじゃない!

町田カエデ:くそっ! いま人を呼んでくるからな。それまでおとなしくしてろよ! 町田! そして、愛しき俺の筋肉たちよ!

      

みどり先生:あら。増岡先生。こんなところで寝てるとまた風邪ひきますよ。

増岡先生:(中身、町田カエデ)

増岡先生:ん……?

みどり先生:目が覚めました?

増岡先生:ここは……痛たた……!

みどり先生:だ、大丈夫ですか? 頭でも打ったんですか?

増岡先生:う、うん、大丈夫。ミドリ先生……あれ? 屋上、他に誰もいなかった?

みどり先生:え? いませんでしたけど。

増岡先生:そう……ま、いいわ。だったら一人で続きをするだけだから。

みどり先生:続き?

増岡先生:近づかないで!

みどり先生:え?

増岡先生:近づいたら飛び降りるわよ!

みどり先生:ええーっ。ちょっと……また、そのトレーニングですか? それ危ないからって先週校長先生に禁止されたじゃないですか。

増岡先生:トレーニングじゃないわよ、ばか! 自殺よ、自殺! 死んでやるって言ってるの!

みどり先生:自殺……?

増岡先生:そうよ。この醜い世の中に悲しく汚れていくよりも、美しいツボミのまま死んでいきたいの。あたし何かおかしなこと言ってる?

みどり先生:おかしなことというか、おかしな言い方というか……前からそんなしゃべり方でしたっけ?

増岡先生:え? ん。そういえば、なんか、声が変ね……風邪かしら。

みどり先生:こんなとこで昼寝するからですよ。ほら、保健室に……

増岡先生:近づかないでよ! 本当に飛び降りるわよ!

みどり先生:ま、まってください。ほ、本気なんですか? 本気で自殺しようと……?

増岡先生:本気よ。

みどり先生:嘘です! あなたはそんな人じゃありません!

増岡先生:ふん。あなたが私の何を知ってるというのよ!

みどり先生:た……確かに、私はあなたのことをほとんど知りません……

増岡先生:でしょ?

みどり先生:趣味が全裸カンプマサツだということしか知りません。

増岡先生:……ちょっと待って。それどこ情報?

みどり先生:でも、まさか、そんな大きな悩みを抱えていたなんて……! お願いです、せめて、自殺の理由を、教えて下さい!

増岡先生:……わかった。どうせ最後だし教えてあげる。

みどり先生:はい。

増岡先生:……失恋したのよ

みどり先生:失恋……

増岡先生:信じていた彼氏に裏切られたの!

みどり先生:ちょっ、ちょっと待って下さい!

増岡先生:何よ。

みどり先生:か、彼氏、ですか……?

増岡先生:なに。私に彼氏がいたらおかしいって言うの?

みどり先生:あ、その…………いえ。おかしくありません。むしろ……ちょっと納得しました。

増岡先生:私は本気で愛してたのに……あいつ、他に女がいたのよ!

みどり先生:えっ? 浮気の相手は女性、なんですね?

増岡先生:当たり前でしょ。

みどり先生:あ、当たり前なんですか。すいません。そちらの業界に詳しくないもので……

増岡先生:あいつ、きっと私の体だけが目当てだったのよ!

みどり先生:ええぇ……

増岡先生:わたし、これから何を楽しみにいきていけばいいの?

みどり先生:ええっと……スクワットとか。

増岡先生:バカにしてんの?

みどり先生:す、すみません! 好きかと思いまして……

増岡先生:好きなわけないでしょ! わたしが好きなのは、タカシだけよ!

みどり先生:もう、そんな浮気男、忘れちゃいましょう。ね?

増岡先生:やだ! タカシよりいい男なんていないもん! わーん、タカシ、タカシー!

みどり先生:あ、あのー

増岡先生:わたし、どうすればいいの?!

みどり先生:それはちょっとこっちが聞きたいんですけど……

タカシ:すみませーん。人が倒れてるから運ぶの手伝ってほしいって言われてきたんですけど。

増岡先生:……タカシ!

みどり先生:えええええええええっ! ちょっ、ええええっ! それはアウトでしょう!

みどり先生:いや、もう禁断の恋と禁断の恋が重なって正直なにがどっからどこまでセーフでアウトなのかわからなくなってますけど!

みどり先生:ええええっ、あなた、タカシくん!?

タカシ:そうですけど……俺、何かしました?

増岡先生:よくもあたしの前にノコノコ姿をあらわせたもんね!

タカシ:あの、さっぱり話が見えないんですけど……

増岡先生:しらばくれちゃって! 証拠はあがってるのよ!

タカシ:いや、本当に意味が……っていうか、しゃべりかた、おかしくないですか?

増岡先生:怒ってるんだから当たり前でしょ!

タカシ:怒るとこんなふうになるんだ……

増岡先生:タカシ!

タカシ:はい!

増岡先生:あんた……あたしというものがありながら浮気したでしょう!

タカシ:……ええええええっ!?

増岡先生:昨日あんたが他の女と楽しそうに町でデートするのを見たのよ!

タカシ:いや、あれはデートじゃなくて……っていうか、えええっ、な、なに?

みどり先生:浮気したの、タカシ君!?

タカシ:してませんよ!

みどり先生:つまり増岡先生一筋なのね?

タカシ:え、そういう結論になるんですか? じゃ、じゃあ、浮気しました!

みどり先生:つまり……増岡先生のことは、遊び!

タカシ:えええ、逃げ場ねえぇー!

増岡先生:タカシのばか! もう知らない! ばいばい、さよなら!(退場)

タカシ:あっ、ちょっと待って……! ええー……? 一体何がどうなってるんだ……?

みどり先生:何やってるの! とにかく早く増岡先生を追いかけて! きちんと話し合うのよ!

タカシ:そ、そうですね。よくわかんないけど謝ってきます。内申書の点数下げられたら困るし。

みどり先生:それは大丈夫よ。増岡先生は評価に私情を挟むような、ケツの穴の小さな男じゃない。

みどり先生:その大きさは……あなたが、一番よく知ってるでしょう?

タカシ:……なんでしょう。軽々しく、はいとうなずけないニュアンスを感じます。

タカシ:じゃ、俺、増岡先生探してくるんで!(退場)

みどり先生:大丈夫かしら……

町田カエデ:あれ、ミドリ先生! どうしたんですか、なぜ屋上に? あ、もしかしてラジオ体操ですか! でしたら、ぜひご一緒に!

みどり先生:町田さん。いえ、今はそれどころじゃ……待って。あなた、増岡先生のクラスの子よね。

町田カエデ:え、あー、まあ、そうですね、一応。今は。

みどり先生:ちょっと……増岡先生のことで大切なお話があるの……

町田カエデ:え。

みどり先生:本当は先生の私がこんなこと言っちゃいけないのかもしれないけど、でも、せめてあなたたちクラスの子たちには先に知っておいてほしくて。

町田カエデ:み、みみみ、みどり先生から増岡先生について大切なオハオハオハお話ですかぁあー、なななななんでしょうか?

みどり先生:増岡先生ね……

町田カエデ:はい……!

みどり先生:クビになるかもしれない

町田カエデ:…………はい?

みどり先生:もしPTAや教育委員会が知って、問題視したら……

町田カエデ:ちょっ、ちょっと待ってください! クビになるようなことなんてしてませんよ! 絶対!

みどり先生:うん、あのね……まだ若いあなたに、こういうことは言いたくないんだけど、増岡先生はね……

町田カエデ:な、なんでしょう!

みどり先生:男子生徒と付き合っていたのよ。

町田カエデ:……はいいいいいっ!?

みどり先生:私も驚いたわ。でも、本当にいい先生だと思うなら増岡先生を守ってあげてほしいの! がんばりましょうね!

みどり先生:じゃあ、私は二人の様子を見てくるから! また後でね!(退場)

町田カエデ:ちょっ、ちょっと待って……な、なんなんだ、これは……

タカシ:ふー、ダメです。増岡先生、見つからなくて……おお、カエデ。ん? おい、大丈夫か?

町田カエデ:お、おお、大山か……

タカシ:どうした? フラフラだぞ。

町田カエデ:おう……今までいろんなハードトレーニングを試してきたが、今日が一番の大ダメージだ……

タカシ:大丈夫かよ? 言ってる意味もわかんねえけど、しゃべりかたもいつもと違うぞ?

町田カエデ:え、あ、うん、喋り方ね。えっと、そ、そうかしら、あたしはいつも通りだわ。

町田カエデ:……って、うわああ、だめだぁ! こんな喋り方してたら、余計ゲイだと思われる!

タカシ:思わねえよ!

町田カエデ:それにしても、なぜみどり先生はあんな誤解を……? ナイスガイとナイスゲイを聞き間違えたのか……?

タカシ:なんか、すげー悩んでるみたいだな。しょうがねえな……おい、カエデ! これやるから元気出せよ。

町田カエデ:え?

タカシ:本当は来週のカエデの誕生日にやるつもりだったけど、なんか悩んでるみたいだし、今日やるよ。

町田カエデ:なんだこれ? プロテイン?

タカシ:なんでだよ。指輪だよ。大変だったんだぞー。俺だってこんなの買ったことないから、姉ちゃんに頼み込んでさ、

タカシ:女の子ならこの店のアクセサリーは絶対喜ぶって店を昨日案内してもらったんだよ。

町田カエデ:そんなとこあるのか!

タカシ:ああ、俺も昨日知った。

町田カエデ:俺にもその店の住所教えてくれ!

タカシ:住所聞いてどうすんだよ。

町田カエデ:俺もそこで指輪買う!

タカシ:なんでだよ! お前のぶんは俺が買ってきたって言ったろ!

町田カエデ:それは、いいよ、ちゃんと本人にプレゼントしろ。

タカシ:誰だよ、本人って。

町田カエデ:今は、増岡先生だよ。

タカシ:なんで俺が学校の体育教師に指輪プレゼントしなきゃいけないんだ!

みどり先生:みんな! 逃げて!

町田カエデ:みどり先生! どうしました?

みどり先生:大変! 増岡先生が、洗面所で鏡を見た直後、狂ったように校内を走り回り始めたの!

町田カエデ:あいつ……理想の筋肉を手に入れたからって、はしゃぎすぎだろ。

増岡先生:ああああああ! み、みつけた!

町田カエデ:おお、町田。廊下は走るなって先生いつも言ってるだろ。

増岡先生:わたしの体ああああっ!

町田カエデ:うおお、お、おちつけ!

増岡先生:あんた、増岡先生なの!? あたしになにしたの?

町田カエデ:先生だってわからないよ! 俺、体育の先生だし! ここは、生物の吉川先生にでも聞きにいこう!

増岡先生:無理に決まってるでしょ! 高校の生物の範囲、とっくにオーバーしてるわよ! いいから早く元に戻るわよ!

町田カエデ:戻るって、だから、どうやって……

増岡先生:うりゃあ!(頭突きしようとするが、かわされる)

町田カエデ:うわ、あぶない! なにすんだ、おまえ!

増岡先生:頭ぶつけて入れ替わったんだから、もう一回ぶつければ治るわよ!

町田カエデ:で、でも、先生のパワーで頭突きしたら、たぶん町田の頭蓋骨砕けるぞ!?

増岡先生:いいわよ! こんな体で生きていくくらいなら死んだほうがましよ!

町田カエデ:それじゃうまく戻れても、残された先生、殺人犯じゃないか!

増岡先生:いくわよ!

町田カエデ:まて! 落ち着け!

タカシ:やめろよ、増岡先生!

増岡先生:タカシ……!

タカシ:さっぱり事情がわからないけど……カエデを傷つけるつもりなら、俺が許さないぞ!

町田カエデ:いや、あのな、話せば長くなるんだけど、俺はカエデじゃなくてな……

タカシ:安心しろ、カエデ。俺がお前を守る。俺は……俺は世界で一番お前を愛しているから!

増岡先生:あああああっ!! それ! 本当なら、あたしが言われるセリフだったのにっ!

タカシ:いや、そんな可能性はないよ!?

みどり先生:タカシくん……同性愛はいいけど、二股はダメよ!

タカシ:してませんよ!

増岡先生:もういい……死ぬ。死んでやるわ!

町田カエデ:ちょっ、待てよ! 先生の体だぞ、それ!

増岡先生:うるさい! 先生は、タカシとずっとラブラブしてりゃいいでしょ!

町田カエデ:いやだよ! いいから、一度落ち着け……!

増岡先生:ちょっ、そんなひっぱらないで、あぶなぃ……きゃああっ!

町田カエデ:うわあ!

      

(二人もつれて転び、頭をぶつける)

        

タカシ:おい、カエデ! 大丈夫か、おきろ! おーい!

町田カエデ:(精神が戻っている)

町田カエデ:ん、うーん……

タカシ:カエデ!

町田カエデ:えっと、私は……?

タカシ:覚えてるか? 増岡先生ともつれあって頭ぶつけて気絶してたんだよ。大丈夫か、カエデ?

町田カエデ:うん……カエデ!? カエデって言った? いま、わたしのこと!

タカシ:お、おう。だってカエデだろ?

町田カエデ:やった! 戻ってる! よかったー! 戻ったよ、タカシ!

タカシ:お、おう、よかったな。よくわかんないけど。

町田カエデ:って、ああ! 忘れてたけど、それとこれとは別! あんた、浮気したでしょう! 

タカシ:え?

町田カエデ:昨日、女とデートしてるの見たのよ!

タカシ:昨日って……だからそれは買い物に行った姉ちゃんだろ。

町田カエデ:姉ちゃん!?

タカシ:一緒に指輪選ぶの手伝ってもらったってさっき言ったろ。

町田カエデ:指輪!?

タカシ:さっきあげた誕生日プレゼントの。

町田カエデ:プレゼント!?

タカシ:お前、頭打って記憶喪失になっちゃったのか?

みどり先生:あなたたち、何してるの、早く逃げなさい。増岡先生が目を覚ましたら、また暴れ出すかもしれないわ。

町田カエデ:い、いえ、それは私が……あの話せば長いんですけど……

タカシ:それもそうだな。よし、カエデ、早く行こう。

町田カエデ:ああぁー、待って……!(タカシにひっぱられて退場)

増岡先生:いたた……うーん……はっ! この全身にみなぎるパワーは! おお、俺の筋肉たちよ! 戻ってきてくれたか!

みどり先生:増岡先生。

増岡先生:あっ、みどり先生!

みどり先生:あまり気を落とさないでくださいね。

増岡先生:えっ? いえ、私は元気ですよ。今日もムキムキです。

みどり先生:気分転換に、こんどの休日に遊びに行きませんか?

増岡先生:えっ!? えええっ! ミドリ先生とですか!?

みどり先生:私の友達に筋肉質な男性が好きだって言う男性がいるんです!

増岡先生:そ……その話が今何の関係が?

みどり先生:その人も連れてきます。

増岡先生:なんでっ!?

みどり先生:きっとその人、増岡先生を気にいると思います。筋肉とか触りたがると思います。

増岡先生:ま、まぁ触らせるのはいいですけど、あの、三人で遊ぶんですか……?

みどり先生:ですよね。二人きりのほうがいいですよね。

増岡先生:ま、まあ、無理にとは言いませんが、できれば……

みどり先生:安心して下さい。途中からちゃんと二人きりになれるようにしますから!

増岡先生:本当ですか! いやあ、無理言ったようで申し訳ないなあ!

みどり先生:いいんです。それじゃ、週末よろしくお願いしますね!

増岡先生:はい!

増岡先生:いやぁ、なんかいろいろあったけど、ま! 終わり良ければすべてよしだな!

増岡先生:よし! それじゃみどり先生とのデートに備えて、ラジオ体操でもするか! いっち、に! さん、し! いっち、に! さん、し!

     

(終わり)

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