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ぼっち魔女、看取ります  作者: 人藤 左
7/23

礼讃・賞賛・次は三

 ギズ村に戻ると、祝勝会が開かれました。


 俺は空気を悪くしてはいけないからと、今晩の宿として提供していただいた村長の家の客室で、今日見たステラの魔法の研究です。


「どうしても……魔力の反応がなかったのがわかりませんね……」

 考えうる理論を紙に書いては、それを塗りつぶすばかりです。……こんなに楽しいことがあってよいのでしょうか!


「魔力で空間のものを()()()()()()? 超スピードでやれば反応がないのもわかりますが……違いますね。あのとき、内にも外にも向いていなかった……」


 宴会は教会跡地で行われているので、ここにいても楽しげな声が聞こえてきます。


 ここに戻ってきたあとステラは、迷い込んだ子ども二人を助けたとして、確固たる信頼と尊敬を向けられることになりました。教会新築のあかつきには、そこにステラ像も置こうというような話も上がっているそうです。


「…………」


 ――待ってるからね。

 ステラはもう忘れてしまっているでしょうが、いまの俺は、10年前彼女と交わした約束でできています。

 ……少し遅くなってしまったのは確かですし、ステラのみんなに認められたいという気持ちも大切にしたいです。


 しかし。なんというか。


「俺が最初だったんですけど」


 不意に、そんな言葉が口をつきました。


「最初ってなんのことだい?」

「……ステラ」


 『本日の主役』タスキをかけたウカレステラが現れました。人見知りするきらいのあった彼女ですが、表情を見るに無事みんなと打ち解けたようです。


「いえ。ただ、ステラを一番近くで看取るのは俺です。それだけはわかっていてください」


「……キミ、そういうのは普通誤魔化して、ボクの追及に耐えかねてようやく出す答えじゃないのかい?」

 不満げな口調とは裏腹に、声音はとても嬉しそうです。よかった。


「誤魔化しても仕方ないですからね。それよりいいんですか、主役がこんなところに来て」


 お祭り騒ぎはまだ続いています。ここまで盛り上がれば、ステラ不在でも夜通し祝い倒すことでしょうが……。


「だからキミを呼びにきたんだよ。儀式? のこともそうだが、今回も自分を悪者にして話を進めただろう。あぁいうのは、ボクが寂しいからイヤだ。だから誤解は全部解いておいたよ。ホラ、誤魔化しても仕方ないからね」


 ……これは一本取られました。


「行こう。ボクたちの旅は、ボクとキミがいて、みんながいる旅だ。キミがいなくちゃ始まらないんだよ」


 春のような薄桃の髪のように、ステラはふんわりと微笑んで、俺の手を取ります。


「はい。わかりましたよ、ステラ。よろしくお願いします」


 ……。

 ………………。


 それから俺は宴の輪の中に入り、めいめいに歌ったり踊ったり好き放題する村人たちを眺めながら、夜の静かな冷たさを楽しみました。


◆◆◆


「それでは、失礼します」

「みんな、またね」


 翌朝。

 お祭りの跡を片付けて、俺たちは見送りにきた村人たちに頭を下げました。


「おうステラちゃん、また来てくれな!」


 これは本人には内緒ですが、ステラはこの見た目とこの感じなので、見た目相応の15歳くらいだと思われているようです。歳下ですね。


「おねーちゃん、またね!」「ステラちゃん、いつでも顔出してね?」

「あわ、あわわわ……」


 特に奥様方から囲まれるステラ。その中には杖をついた少女……農作業中にゴブリンに襲われ、怪我をしたというヴィレさんです……も静かに微笑んでいました。


「シオン!」「シオンー!」


 対して、男の子に囲まれる俺。森に迷い込んだヴィレさんの弟くんたちが俺の攻撃魔術の話をしたため、ごっこ遊びのネタにされてしまいました。


「おれ、ぜったいシオンみたいな強い魔術師になるからな!」

 ……。

「なれるよ。俺でもなれたんだ」


 思えば俺も、ステラの呪いを解くために魔術師になったのです。


 あのときは無謀だったとはいえ、お姉さんのためにゴブリンに立ち向かおうとした彼らもまた、同じ志の仲間なのです。


 期待を込めて頭を撫でてやると、あどけない笑みを浮かべてくれました。


「シオン、悪かったな……魔物みたいな扱いをしてしまって……」

 村の大人たちが申し訳なさそうに頭を掻きます。


「いえ。みなさんの……なんというか、正しい心、というべきか……とにかく、信じきれなかった俺が悪いのです」

 邪教徒の広めた儀式の件です。

「あれはとても危険なので、絶対にマネしないでください。昨日までのゴブリン騒ぎよりひどいことになって、俺もステラも間に合わないかもしれません」


「わかった。約束するよ、シオン」

「この村でできる魔術的対処法については、昨日お借りした村長の家の机の上のノートを見てください」


「結局信じてないじゃないか!」

「ははは! 違いない違いない!」「用心深いというかなんというか……なぁ?」「そうでもなきゃ、10歳で宮廷魔術師になんかなれねぇのよ!」「そうだなぁ。そういうヤツなのかもなぁ」「悪いヤツじゃないよなぁ」


 なんか、わからない方向で受け入れてもらったようです。


「日が暮れる前に次に着きたいので、この辺で……。できれば、今度はのんびり過ごしたいです」

「またね」


 もう一度礼をして、俺たちは次に近いサザン地区を目指します。

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