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ぼっち魔女、看取ります  作者: 人藤 左
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魔術・魔法・根絶

「こちらが魔女ステラ・エトワール。俺の新しい雇い主です」

「ども」


「…………」


 ステラの挨拶は教会跡地で行われることとなりました。

 直近の脅威(おれ)直近の脅威(ゴブリン)を天秤にかけた上で、村長が頭を下げて回ったおかげで、なんとかみんな集まってくれたところです。


「俺はまぁ、『ゴブリンに支配された村』をこの目で見たことがないので、せっかくなので……とも思いましたが」

「人でなしー!」


 ……、知らない人たちが暮らす知らない村がすでに占拠されたあととなれば、きっと興味の方が先に立つかもしれないので、あまり強くは反論できませんね……。


「こちらのステラがどうしても皆さんを助けたい! といって俺の頬を張り、目を覚ましてくれました。大いなる魔女ステラに拍手を」


「うおおお! 魔女ステラ!」「あのシオンを手懐けるとは! 本当に魔女なのか⁉︎」「赤くなってる、かわいー!」


 この村にとって俺は猛獣同然です。それに首輪を付けたとなれば、ステラの評価は絶対のものになるでしょう。


 喝采のなか、ステラはどうしたらいいのかわからず、あははと笑いながら小さく手を振ります。その謙虚さもまた『大いなる魔女ステラ』のイメージに拍車をかけました。


「俺たちは今からゴブリン討伐に向かいます。安全のため、皆さんはどうか、村から出ないようにしてください」


 俺が目配せをすると、ステラは小さく頷いて応えます。


「――界層断絶(アンディメンション)


 魔術……いや、魔法。

 (すべ)ではなく、(ルール)


 常軌を逸した結界が、村全体を不可侵の領域にしました。


◆◆◆


 いざ、ゴブリンの巣へ。


 特に隠されているわけでもなさそうで、《探査(サーチ)》を使うまでもなく辿り着けそうです。


 ……村をギリギリ目視できる距離。そこにはおぞましいほどのゴブリンの足跡が残っていました。丁寧にラインも引かれていて、攫って食べた家畜の骨が威嚇するように並べられています。


「人の骨は……ないようですね」

 これは安心していいでしょう。家畜の頭骨も、ほかに晒すものがないから渋々選んだようで、なんというか掲げ方がおざなりです。


 巣は林の奥の洞窟のようです。――それと、上!

「ギィヤァーッ!」

 木の上から、棍棒を手にしたゴブリンが襲いかかってきました。


「《爆破(エクスプロージョン)》」


 気味の悪い緑色の頭を鷲掴みにして、魔術で吹き飛ばします。爆発音と肉の焼ける臭いが気になりますが、返り血や肉片で汚れることと比べればマシでしょう。


「《空間削除(デリート)》」

 ステラもまた、魔法によってゴブリンを撃破していきます。


「それは……もしかして、空間そのものを無くしているんですか?」


 本来魔術は、魔力によって引き起こされる現象を指していいます。


 しかし、魔法にはそういった常識は通用しないようです。見る限り、ステラが空間を対象に取ったときも、その空間が消滅したときも、魔力の流れはありませんでした。どういう原理なのでしょう……。


「コレを説明して伝わるのは、魔法使いだけだよ。それだけ魔術を使えるシオンだと、逆に難しいんじゃないかな」

「そうですか……」


 逆に難しい、というのは何かのヒントになりそうです。


 襲ってくるゴブリンを蹴散らし、ついに巣穴前。


 叫び声と爆音で察知したのでしょう。ここのゴブリンたちの長ともいうべき、ゴブリンロードが待ち構えていました。


「大っきいですねぇ……」

 ゴブリンロードは、ほかの小柄な個体と比べ物にならないほど巨大でした。猫背なのでよくわかりませんが、その状態でもすでに3メートルはあります……。


「ウォォォオオオオォォッ‼︎」

 咆哮だけで木の葉が揺れます。

 手には石の大斧。これも非常に大きいですね。


「……、……………………ふぅ」


 もう一度確認。


 ゴブリンは生態からして人間と相容れません。

 一匹でも生かしておけば、無い頭で復讐してきます。

 命を嬲ることを覚えたら、その享楽に溺れるだけです。

 生かしておいては……いけないのです。


「ハ、ハハッ!」


 振りかぶられた大斧に向かって手を伸ばす。


「《空間圧壊(デリート)》!」


 ステラの真似をしてみましたが、やはり結界魔術の応用で、対象範囲内を魔力で圧し潰すしかできません。反作用で、魔術を受けた空間の中心から強い風が吹き戻してきます。


「これなら……」

 失敗。しかも座標が少しずれて、右のやけに尖った耳を狙ったはずが、肩口の肉を取ってしまいました。


「ダメですか……。《追尾術弾(ホーミング・シュート)》」


 六条の光が、ゴブリンロードとその取り巻きたちの心臓を貫く。

 後ろから、草木の揺れる音。


「スゲー! ホントに倒しちゃったよ!」

「おにいちゃん、危ないよ! 帰ろうよ……!」


 子ども⁉︎

「な……」


 なぜ、とは言いません。二人は気配を消し、魔術でも見つからない効果を与える木彫りのネックレスを首に下げていたのです。その効果も、二人が声を出したことで薄まりましたが。


 その頭上から、ゴブリンが降りかかり――ステラのシャボン玉のような結界が、二人を守りました。


「シオン!」

「ありがとうございます!」


 術弾で頭を撃ち抜く。

 ……危なかった。


「お、お姉さん、お兄さん、……ありがと」

「ありがとうございます……」

「大丈夫? 怪我はないかい?」

 今にも泣き出しそうな少年二人を抱きとめ、ステラはその頭を優しく撫でます。


「ぐす……ヴィレ姉ちゃんがこいつらに襲われて……」

「ぼくたちでやっつけようとしたんだけど……」

「よしよし。二人ともがんばったね。かっこいいぞ」


 その言葉で、二人は大声で泣き出してしまいました。


 子どもの声に反応するゴブリンもおらず、どうやら無事全滅させることができたようです。

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