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ぼっち魔女、看取ります  作者: 人藤 左
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獰猛・竜樹ドラドレイク討伐・グラップラー魔術師

「ははん。ボクの涙も全部キミのもの、だってね? 女の子の慰め方を知らないだけじゃないか」


 ようやく泣き止んだステラは、嗄れ気味の声で言いました。

 確かに俺は、なにもできずオロオロしていただけだ。しかし、だからといってそのような不当な評価を受けるのも癪です。


「では、次からは慰めますね」

「次などないよ。ボクは強いんだ」

 鼻水をすするステラ。ハンカチを差し出すと見事にかんでくれたので、俺も満足です。返されたので魔術で焼却。


「で、ステラはどういう風に死にたいですか?」

「言い方」


 ぽすん、と胸の辺りを叩かれました。痛くありません。


「もうすぐ死ぬっていうのに、遠慮されたいんですか?」

「物腰は丁寧なのに物言いはサイテーだな、キミは」


 二度目のぽすん。


「そうですか……。えーっと……、そうですね。ステラ、あなたはこれからどうしたいですか?」

「……別に。これから半年、キミがそばにいてくれるだけでボクは満足だよ」

「……そうですか。ではひとつ、提案なのですが」


◆◆◆


 ステラと俺は、旅に出ることにしました。


 ステラ自身は口に出さずとも、死に場所を求めて放浪するためのリュックがあったからです。別に俺がついでに外の魔術を勉強したかったからではありません。


「シオン様、おでかけですか?」


 門を守る衛兵に声をかけられました。


「はい、少し」


 ステラは自分の髪を隠すように、フードを目深に被り直します。早く切り上げましょう。


「よろしければ、人探しをお願いしたいのです。西の森に行くと言ったきり、姪が……アルの娘が帰ってきていないらしく……もう一晩が経ちました。シオン様、どうか……」

「わかりました。ステラ、いいかな?」

「構わないよ」


 ……。

 …………。


 元々当て所のない旅なのです。そもそも寄り道ではありません。

 衛兵さんは俺がクビになったことを知らなかったようですが……はて。


「アルは身体を悪くしていた。西の森に行ったというなら、薬草を採りにいったと考えていいでしょう」

「おや、探偵くんかな?」


 朝露と小鳥の(さえず)りが気持ちいい森を行きます。この辺はまだ道がありますが、こどもの行動は予測がつきません。


「探偵ではありません、元宮廷魔術師です。《探査(サーチ)》」


 対象は10歳くらいの女の子。範囲は森全域、時間は今から24時間前まで。波状に魔力を走らせると、続々と痕跡が浮かび上がってました。


「すごいな……。それだけできて、なんでクビになったんだい?」

「俺がステラのことしか考えてなかったからですかね」


 本日三度目のぽすん。当たりどころというか当てどころが悪かったのか、逆にステラがダメージを負う形です。


「じゃあ、魔術にしか興味がなかったからです。色々あって勉強しているうちにすっかりのめり込んでしまって……。責任、取ってくださいね」

「それ、わざとやってるだろ」


 娘さんの足跡を辿っていると、ステラが俺の足を踏もうと執拗に狙ってきます。フェイントをかけると転びかけたので、後頭部を鷲掴みにして支えました。


「助け方がよくないよ!」

「あ、すみません。つい」


 掴みやすい高さに掴みやすい頭があったもので。


 転ぶといえば、道も険しくなってきましたね。本当に人が通ったのか不安になるような、鬱蒼と茂る草木を分け入るルート。


「……失礼します」

「ぎゃあ、取れる取れる!」


 頭を把持したまま持ち上げ、ステラの矮躯を横抱きに。


「抱き方もよくない!」

 言いつつ胸板に側頭部を預けてきたので、これは『よい』なのでしょう。難しいものです。


「サーチの波紋の返りが早くなってきました。近いです」

「すんすん……。近いといったか?」

「はい、近いです」


 一際強く、甘い香りが漂ってきました。


 開けた場所に出る。見渡すほど広い、色とりどりの花畑です。

 その中央に一本、立派な木が佇んでいて――。


「竜樹ドラドレイク……」

 やられた、という風にステラが呟きました。


「図鑑では見た覚えがありますけど……なんでしたっけ?」

 魔生物図鑑第3巻200ページ……231くらいでしたか……にそんな記述があったような、なかったような。


「本来なら魔力の濃い地帯に生息する、えーと、とにかくヤバい植物だよ」


「引きこもりで語彙が死んでますけど、まぁ伝わりました」


「しまった! 先にそっちがお亡くなりに……ってアホ。この独特の誘い香、間違いない。この花畑一帯がヤツの縄張りで、根を張っている範囲だ。最大の特徴は、『その縄張り内での魔力をエサにすること』『花畑が撒き餌として機能すること』『開花すると竜になる』だ」


「はい。俺も図鑑で読んだことあります。稀にエサの生き物を生かさず殺さずの魔力炉にするんでしたよね」


 もうこんなのがこんなところまで……。


 ブライ院長が引き継ぎ不要といったから心配はしていませんが、ここで見つけたのも何かの縁。ひとしきり研究して枯らしておかなければ……いや。


「確認です、ステラ。開花に十分な魔力を得たドラドレイクは、捕まえていた魔力炉をどうします?」

「そりゃ、いらなくなるから生かす必要もないし、栄養にするかな。ボクは靴を溶かされたことあるよ」


 エサになるので魔術は使えない、と。


「アルの娘さんが取り込まれているかもしれません。向こうの木陰に隠れて、じっとしていてください」

「え」

 花畑の外めがけて、ステラを放り投げます。


 ドラドレイクの縄張りから抜けたところで風の魔術を使いキャッチ、優しく地面に下ろすと、非難の声が上がりました。

「次から投げるなら投げるって言えー!」

「投げるのはいいんですか……」


 ともあれ、これで巻き添えを心配する必要がなくなりました。貴重なドラドレイクの現物は惜しいですが、子どもの命がかかっているとなれば別。


 その子が、魔術界に新しい風を起こすかもしれない――若輩者の俺がいうのも変ですが、その可能性を無視できるほど若くはないのです。


「すぅ、はぁ……。ハハッ、魔術禁止ですか。ハ、ハハハッ!」


 《探査》はドラドレイクの根元あたりで途切れていました。単に吸収されただけかもしれませんが、娘さんが取り込まれているのがそこなのかもしれません。一度開いてみなければなんともわからないなら、


「まずはブチ開けます」


 花々を踏みつけながら駆け出すと、地中から土のようにしなる根が俺を狙ってきました。

 うち一本を手刀で切り、それを武器に雨のような根の鞭を払います。


 地中からでは間に合わないと見るや、今度は木の葉のカッター攻撃。


「器用なことをする!」


 一枚一枚落とすのは面倒ですね……。


 強く地面を殴りつけ、舞い上がった土や小石で葉っぱを打ち落とし、幹に肉薄。


 接近の勢いをそのまま乗せて殴打。抉れたところに手を突っ込み、繊維に沿って縦に裂く。


 蠢き、俺の背後を襲おうとした根が力尽きる。青々とした葉がたちまちに枯れ、――ドラドレイクは、活動を停止しました。


「『本体である幹を壊せば死ぬ』、これも図鑑通りですね。さてさて……」


 根本……地面と地下の境目あたりの深さに、女の子はいました。

 透明な球根のようなものに覆われていたので取り出し、呼吸を確認。少し衰弱しているだけのようです。


「もう出てきて大丈夫ですよ、ステラ」

「……」


 ……。


 木の陰に隠れてこちらを窺ったまま、出てきてくれません。どうして。

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